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練習自粛をチャンスに! Jリーグのフィジカルコーチが用意するユニークな無料遠隔サポート

大島和人スポーツライター
写真提供:株式会社ライフパフォーマンス

新型コロナでチーム練習が困難に

スポーツには絶好の季節だが、アスリートも「ステイホーム」の日々を送っている。サッカー界もプロ、育成年代ともチーム練習がストップ。各自が自宅など狭いスペースで取り組める練習メニューを模索している。

ただしピッチを使えない、仲間がいない、コーチングもない環境下でトレーニングの質を保つのは難しい。ランニング、体幹トレーニングは定番だが、自粛期間が伸びつつある中で新たな発想とメニューも必要だ。

育成年代向けの遠隔サポート

株式会社ライフパフォーマンス(東京都港区)が4月末に、サッカー少年・少女を対象とした無料の遠隔サポートサービスを立ち上げた。名付けて「はじめの一歩」。4月29日に第1回が配信され、5月末まで3日に一度のペースでコンテンツが追加されていく。グループコミュニケーションアプリ「BAND」を利用した情報発信だ。

大塚慶輔氏はJ2大宮アルディージャの現職フィジカルコーチで、加えてライフパフォーマンスの共同代表として酒井高徳、家長昭博、稲本潤一らトップ選手のコンディショニングサポートの監修を行っている。育成年代の指導経験もあり、部活に対するアドバイスも事業として手掛けている。

まず「生活」が重要

「ステイホーム」の日常が続く中で、アスリートにはどんな発想が必要なのかーー。大塚氏に育成年代の選手がいま気をつけるべきこと、遠隔サポートサービスの狙いについて語ってもらった。

彼はまず「生活」の重要性を強調する。育成年代のアスリートは学校の影響で起床や朝食、昼食の時間が一定する。だから意識的な取り組みがなくても、自然と生活が規則的になる。当然ながら通学が止まれば、食事や睡眠に狂いが生じやすい。

在宅時間の拡大で休養も増やせる

一方でサッカー少年は学校、塾、スポーツと意外に多忙な場合が多い。新型コロナウィルス問題による在宅時間の拡大は、成長に必要な休養を増やすチャンスでもある。大塚氏は説く。

「朝しっかりご飯を食べて寝る、起きる時間を決めましょうという話は出すつもりです。いまだからこそ睡眠時間を確保できて身長が伸びる可能性、身体が大きくなる可能性も上がる。実はここがチャンスです」

練習が1日2時間とすれば、練習以外は22時間ある。選手として一人の人間として、日常の過ごし方は大切だ。

アスリートチャレンジが刺激に

普段の練習では仲間の存在、指導者の目と言葉がいい刺激になる。在宅、個人の環境はどうしてもモチベーションの維持が難しい。「はじめの一歩」ではこんな仕掛けを用意している。

「『アスリートならできるけれど皆さんどうですか?』というチャレンジ企画を用意しています。すぐにできない選手が大半だけど、できるようになる方法を翌日、翌々日と出して、このエクササイズをやってみてください……と進めます。サプライズで選手が出てきて、やってもらう場合もあります」

既にリリースされている第1回のコンテンツでは大宮の黒川淳史選手が登場。目線を遠くに置いたボールタッチの実演を見せている。間接視野でボールを扱えればドリブルも上達するーー。一言で言えばそういう狙いを持ったメニューだ。大塚氏はこう述べる。

「視線を変えても焦点をなるべく早く合わせる、眼球トレーニングのアドバイスをしています。コンテンツの中では目の周りのストレッチという名前で出しています」

「5分以内に完結」で集中力に配慮

トッププロが取り組むビジョントレーニングに比べれば初歩的な内容で、育成年代に向けたアレンジがされている。彼は続ける。

「子どもなので5,6分が集中力を保つギリギリだと思っています、5分以内に完結する話、トレーニングで、ぱっと見て『やってみよう』と思えるメニュー構成になっています」

アスリートチャレンジ(アスチャレ)の内容には、ボールを用いない動作もある。まずやって見せて、さらにその動作をする上で必要になるメニューを提示する。そのような順番でコンテンツは進んでいく。

トッププロも取り組むストレッチ

練習は必ずレベル、環境に応じた調整が必要になる。激しい動き、負荷が強い動きはどうしてもフォームが乱れやすい。崩れたフォームでトレーニングをすれば効果は落ち、怪我などのリスクが出てくる。ただし自宅、遠隔という制約がある中でも「ゆっくりした動き」は安全に取り組める。静的なストレッチにも、アスリートにとって大切な要素が多く含まれている。

彼は強調する。

「股関節や肩甲骨周りの柔軟性は、アスリートがもっとも大事にしているところです。トッププロも、そこを上手く使えるようにする取り組みを1年間しています。(はじめの一歩で)そんなアスリートを身近に感じてほしいと考えています。アスリートがやったことを自分もできるようになった。家長と一緒だよ…と身近に感じる経験、小さな成功体験が次のモチベーションにつながります」

石垣島で開かれたサッカー教室 写真提供:株式会社ライフパフォーマンス
石垣島で開かれたサッカー教室 写真提供:株式会社ライフパフォーマンス

今後も残る遠隔サポートの意義

実は今回の遠隔サポートは、問題が発生するより前から用意が進められていた。大塚氏はキャンプ、自主トレーニングのアテンドなどで沖縄県の石垣島とつながりを持っている。企業の協賛を得て、当地のサッカー少年に対するサポートとして制作を始めていたものがベースだ。

日本にはJリーグのようなトップレベルの試合を見る機会がない、程よい対戦相手が少ない地域も多い。地理的に指導者がライセンスを取りに行きにくい場所や、人口減少により中高のサッカー部が人数を確保できていない地域もある。新型コロナ問題が収束したあとも、遠隔サポートの意義は残るはずだ。

大塚氏はこう口にする。

「石垣島が上手く行ったら、他のつながりのある市町村にも展開していきたいと思っていました。それを早めたのが正直なところです。このサービスはまずトレーニング以外の22時間をサポートしていくことを目指しています。そして他のコンテンツになくて、なおかつプロのアスリートが信頼している、エビデンスに基づく内容を出していきます」

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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