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新型コロナでシーズン中止のBリーグ ベスト5、各賞の投票で推せる選手は?

大島和人スポーツライター
昨季のMVPを受賞した富樫勇樹(右/千葉ジェッツ)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

19試合を残してシーズン中止

Bリーグの2019-20シーズンは3月27日に打ち切りが決定した。B1は60試合中19試合を残しており、晴れ舞台のチャンピオンシップもその後に控えていた。

中止の理由はもちろん新型コロナウイルス問題で、選手やスタッフの健康を考えれば仕方のないことだろう。しかし今季のB1は上位争いが僅差で、ポストシーズンの組分けを決める詰めはこれからが本番だった。さらに言えば上位チームはチャンピオンシップに焦点を合わせ、「切り札」も残していたはずだ。

過去3シーズンのベスト5、MVPは?

現実は受け入れざるを得ない。選手、メディアによるB.LEAGUE AWARD(アウォード)の投票も始まっている。なお例年は著名人、他競技のアスリートをプレゼンターに集めて盛大に行われる表彰式だが、今季は静かな発表となるようだ。

投票で決まる個人表彰は下記の4種類だ。

(1)レギュラーシーズンベストファイブ

(2)ベスト6thマン

(3)ベストディフェンダー賞

(4)新人賞

2016-17シーズン、2017-18シーズンのベスト5は同じ顔ぶれだった。

ニック・ファジーカス(川崎)

金丸 晃輔(三河)

比江島 慎(宇都宮/当時は三河)

田中 大貴(A東京)

富樫 勇樹(千葉)

2018-19シーズンは二人が入れ替わり、この5名だった。

ダバンテ・ガードナー(三河/当時は新潟)

金丸 晃輔(三河)

遠藤 祐亮(宇都宮)

田中 大貴(A東京)

富樫 勇樹(千葉)

MVPは16-17シーズンがファジーカス、17-18シーズンは比江島慎、18-19シーズンが富樫勇樹と続いている。

得点王は3季連続でガードナー

2019-20シーズンのリーダーズは既に確定し、発表された。

★得点王 

ダバンテ・ガードナー(三河) 23.4得点

★アシスト王

富樫 勇樹(千葉) 6.5アシスト

★リバウンド王

ジャック・クーリー(琉球) 13.3リバウンド

★スティール王

ベンドラメ 礼生(渋谷) 1.8スティール

★ブロック王

ジョーダン・ヒース(川崎) 1.5ブロック

★ベスト3P成功率賞

松井 啓十郎(京都) 47.2%

★ベストFT成功率賞

金丸 晃輔(三河) 97.4%

有力選手が次々に日本国籍を取得

チームの勝率も個の評価と結びつく要素だ。ただA東京、宇都宮、川崎はいずれも9敗で並んでいる。千葉、渋谷、琉球と微差で追走しており、今季に限れば勝率は差別化の要素になりにくい。以下は完全に「個人の見解」だが、個人表彰にふさわしいと思った選手を挙げていく。

<1>ベストファイブ

★C/PF(センター/パワーフォワード)

ライアン・ロシター(宇都宮)が2019年12月、ギャビン・エドワーズ(千葉)が2020年1月に日本国籍を取得した。16歳以降に国籍を取った「帰化選手」は、代表に1名しか起用できないルールがある。18年4月に国籍を取得したファジーカスも含めた3名の中で、誰を東京オリンピックの日本代表に入れるべきか…という興味深い議論があった。

3選手はそれぞれの持ち味がある。川崎にとってはファジーカス、宇都宮はロシター、千葉ならエドワーズがベストチョイスだろうし、日本代表ならば八村塁や渡邊雄太と組みやすい人材を選ぶしかない。

ニック・ファジーカスは2018-19シーズンの開幕前に手術を行い、昨季はややパフォーマンスを落としていた。しかし今季は完全な復調を見せ、得点、リバウンドとも「全試合数の85%以上」という規定を満たした選手の中では、全体2位を記録している。34歳の彼は左足首の慢性的な故障があり、跳躍力や機動力はライバルに比べて見劣りする。しかし相手の動きを見極めて逆を突く冷静さ、反応の速さ、驚異的なシュートタッチは彼を特別な選手たらしめている。

川崎は新加入の外国籍選手も大活躍

川崎は佐藤賢次・新ヘッドコーチが就任し、過去2シーズンに比べて好調な戦いを見せていた。外国籍選手もジョーダン・ヒース、マティアス・カルファニの二人が「大当たり」で、ファジーカスに見劣りしない貢献を見せた。

カルファニは右膝の重傷により23試合の出場に留まった。一方でヒースはブロック王獲得が示すように守備で大きく貢献し、3ポイントの成功率も全体2位を記録している。ヒースはベスト5の有力候補だ。

ロシター、カークは今季も貢献大

日本初上陸で強烈なインパクトを残した選手といえば、琉球のジャック・クーリーも外せない。206センチだから決して大型ではなく、体型も「むっちり型」だ。アスリート性、スキルで際立つタイプでなく、3ポイントシュートも基本的にはない。ただし身体を張る、戦う部分はB1でも唯一無二で、ちょっとそれは無理だろう…というリバウンドを取ってしまう。23試合だけだがNBAの経験があり、28歳とまだ若い。

他に候補として挙げたい人材はロシターとアレックス・カーク(A東京)だ。ロシターは18.0ポイント、10.3リバウンドの数字もさることながら、「チームを勝たせる姿勢、パーソナリティ」が卓越している。練習、試合で小まめに発信し、自らコートで身体を張れるリーダーだ。

カークは211センチと大型で、跳躍力と機動力もB1のセンターで最高級レベル。毎試合30分以上の出場をしつつ常にハードワークを怠らず、過去3シーズンはフル出場を続けている。オフェンスでは田中大貴や安藤誓哉と「活かし活かされる関係」を築き、インサイドの得点力を発揮している。過去2シーズンのチャンピオンシップ制覇に大きく貢献し、今季もそのレベルを維持していた。

3季連続得点王のガードナーは?

ガードナーは3季連続で得点王を獲得しているが、所属する三河が18勝23敗と低迷しており、そこがマイナスポイント。エドワーズも言うまでもなく好プレイヤーだが、今季は負傷でシーズンの約4分の1を欠場している。

「登録3名、ベンチ入りと出場は2名」というオン・ザ・コートルールの影響で、外国籍の3人をローテーションで使うクラブが多かった。渋谷のライアン・ケリー、セバスチャン・サイズはどちらも高レベルだったが、出場が30試合を切っている。

ファジーカス、ヒース、クーリー、ロシター、カークとほぼ横一線の中から二人を選ばざるを得ない。ここは日本で長く実績を残し続ける二人に敬意を表し、ファジーカス、ロシターを推す。

遠藤は欠場がなければ…

★SF/SG (スモールフォワード/シューティングガード)

ウイングの有力選手を見ると、昨季は遠藤祐亮(宇都宮)が攻守で圧巻のプレーを見せていた。しかし今季は負傷で出場が27試合に留まっている。ただ遠藤が不在だった時期に勝ちあぐねた宇都宮を見れば、彼の重要性が証明されたとも言える。

金丸晃輔比江島慎田中大貴はいわゆる「定番」の顔ぶれ、いずれも質の高いプレーを見せていた。特に比江島、田中はいずれもまずチームがしっかり成績を出している。ふたりとも「シューター」ではなく、いわゆるクリエイトする仕事を担いながら得点も取るタイプだ。日本代表の中心でもあり、この二人は素直に評価していいと思う。

PGは若手の台頭あり

★PG(ポイントガード)

問題はポイントガードにベスト5候補が多くいることだ。富樫勇樹は負傷でワールドカップを欠場し、開幕直後はチームとともに苦しんだ。しかし気付くとアシスト王を獲得し、平均得点も日本人最多。1億円プレイヤーの価値を示している。

一方で今季はベンドラメ礼生が素晴らしかった。渋谷の激しく相手のボールに圧力をかけるDFの先頭に立ち、1.8スティールでスティール王を獲得。チーム戦術により出場時間は平均22.2分と短いが、平均10.4得点を決めている。ターンオーバーの多さは欠点だが、それはアグレッシブなスタイルが故。26歳らしい若々しいプレーが好ましい。

滋賀の齋藤拓実は1試合平均13.0得点、5.4アシストと素晴らしい攻撃力を見せた。172センチの小兵で、昨季はA東京の3番手ガードとしてなかなか出番を得られなかった。期限付きで滋賀に移籍し、ブレイクに成功している。特に3ポイントシュートの成功率はは42.9%と素晴らしく、彼も24歳と若い。

川崎は日本代表主将の篠山竜青が負傷で長期離脱を強いられたが、藤井祐眞はまったく遜色のないプレーを見せた。彼は1試合平均12.1得点、5.0アシストを記録し、加えてしつこい守備の貢献も大きい。

「比江島でなくベンドラメにすれば5クラブに分かれてバランスがいい」という思いも頭をかすめた。ただ3人に絞るとなると田中、比江島、富樫がオーソドックスな選択だろう。

★19-20シーズンBリーグベスト5案

・ニック・ファジーカス(川崎)

34歳 207センチ・114キロ C

・ライアン・ロシター(宇都宮)

29歳 206センチ・107キロ C/PF

・田中 大貴(A東京)

28歳 192センチ・93キロ SF/SG

・比江島 慎(宇都宮)

29歳 190 センチ・88キロ SG

・富樫 勇樹(千葉)

26歳 167センチ・65キロ PG

橋本拓哉がスコアラーとして開花

<2>ベスト6thマン

17-18シーズンの藤井祐眞、18-19シーズンの馬場雄大のような分かりやすい「シックスマン」がおらず、選考が悩ましい。例えば藤井は篠山の負傷もあって今季は39試合中19試合で先発起用されている。

大阪の橋本拓哉は42試合中37試合がベンチスタートで、1試合平均26.2分のプレータイムを獲得。「途中から出る主力」として1試合平均10.5得点を記録している。つまりシックスマンとしての純度が高い。188センチと大型ながらハンドラーとしてクリエイト能力も持つ彼だが、今季は外から得点を狙うシューターとして台頭。3ポイントの成功率も40%を越えている。なので、ここは橋本を推したい。

ベストDFは東海大OBで迷う

<3>ベストディフェンダー賞

昨季のスティール王だった“怪盗”中山拓哉(秋田)は、試合出場がやや少なく個人表彰の対象外だった。ただし今季も1試合平均2.1スティールを記録している。ハードプレッシャー、スティールに加えて大型選手にも当たり負けないコンタクトの強さも持つ彼の守備はもっと評価されていい。ベンドラメと迷うところだが、東海大学の1年後輩・中山を推す。

<4>新人賞

新人賞については既に別の記事で取り上げたので詳細は割愛する。なお今回の投票にあたって、Bリーグからは下記の基準が新たに示されている。

(1)長期のリーグ戦を考慮し、突発的な活躍よりもシーズンを通した活躍を評価する

(2)突発的な調子による評価ではなく、安定的に高いレベルを発揮した選手を評価する

(3)代表の強化に寄与することを踏まえ、代表活動も判断要素とする

(4)オンコートだけではなく、メディア対応を含めたオフコートも重視する

(5)「圧倒的な”個”の力」も「チームの勝利に貢献する結果」も同一に評価する

前田悟(富山)とシェーファーアヴィ幸樹(滋賀)の選択で悩んだ。シューターとして安定的な活躍を見せた前田を選ぶ。

例年は楽しく進むこのような選考だが、今季はスッキリしない感覚が残った。可能ならシーズンの佳境、重要な試合で活躍した選手を高く評価したい。しかし「重要な試合」が開催されないまま、シーズンが終わってしまった。

とはいえ外国籍、若手と新顔が台頭しつつ、「いつもの顔ぶれ」をいいプレーを見せた2019-20シーズンだった。まだ2020-21シーズンについて安易に語れる社会情勢ではなく、今秋に2020-21シーズンを開幕できるかどうかも楽観視できない。今はまず選手、スタッフ、ファンの健康を願いたい。新型コロナの災厄が落ち着き、外国籍選手も含めて安心してプレーできる日が速やかに訪れることを願っている。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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