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「めちゃくちゃ緊張」しても3ポイントを連発 B1秋田を救う大学生シューター多田武史

大島和人スポーツライター
写真=B.LEAGUE

特別指定の活躍が目立つ今季のB1

バスケットボールのシーズンは秋開幕。最後のシーズンを終えた大学生(高校生)は中途退部をしない限り、シーズンの半ばから合流することになる。キャンプでじっくりチーム戦術を学ぶ余裕もなく、いわゆる「ぶっつけ」で実戦に投入されるのが通例だ。

2019-20シーズンのB1は、年が明けてから合流した特別指定選手が想像以上の活躍を見せている。河村勇輝(三遠ネオフェニックス/福岡第一高3年)の活躍はバスケ界を超えた話題になっている。大阪エヴェッサの中村浩陸(大東文化大4年)も直近の試合では30分を超えるプレータイムを得ていた。

他にも盛實海翔(サンロッカーズ渋谷)、寺嶋良(京都ハンナリーズ)、西田優大(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)らが「主力級」の存在感を見せている。

三遠、大阪はレギュラー級の負傷があった。ただバスケットがハードな競技である以上、負傷は一定の確率で起こる。空いたプレータイムを生かして自分を認めさせて、居場所を拡げていくーー。どんな競技でもルーキーはそうやって這い上がっていく。

秋田は多田が主力級の活躍

2月12日の横浜ビー・コルセアーズvs.秋田ノーザンハピネッツ戦も、特別指定組が大活躍を見せた一戦だった。横浜は青山学院大3年のSG赤穂雷太が17分4秒の出場で、チーム最多の16得点を挙げた。秋田もPG大浦颯太が5分43秒、SG多田武史が17分12秒のプレータイムを得た。

特に多田は4本の3ポイントシュートを決めた。185センチ・82キロの22歳は第4クォーターの勝負どころで2本の3ポイントを決め、横浜を突き放して93−75と勝利する立役者の一人になった。

試合後の多田はこう述べていた。

「試合にも使ってもらえていて、慣れてきた感じはあります。1ピリの1本目からシュートが入って、自分のリズムで打てた。確率的にもタイミング的にもいいシュートになったかなと思います」

彼自身は「そんなに期待して使ってもらっていないと思う」と口にするが、前田顯蔵ヘッドコーチはこう語っていた。

「保岡(龍斗)選手がケガをした中で、多田選手には明確な役割を与えている。彼が遂行しているので必要になっています」

強みは素早いシュート

多田の役割はシューターだ。自分の強みを彼はこう説明する。

「キャッチ&シュートをクイックで打てるのが一番。ある程度チェックが来てタフな状態でも決められるのが持ち味です」

2月8日の大阪戦は6本中3本、12日の横浜戦も7本中4本と高確率で決めた。ルーキーがプロの水に慣れ、乗ってきたことがよく分かる。

多田は拓殖大の4年生で、2019年秋のリーグ戦は関東大学2部で戦っていた。しかし彼には一定の自信があった。

「(B1は)身体の当たりとかが全く違います。でも自分の役割はシュートなので、B1の試合を見ていると『このタイミングだったら打てるな』とは思っていた。そこは通用すると感じていました」

彼は大学1年次、3年次に関東1部、4年次の2部「3ポイント王」に輝いている。シュート力については加入前から折り紙つきだった。

「練習よりいい状態で打てている」

秋田との契約発表は1月20日だったが、チームへの合流はそれに先んじた2020年の正月。1月中旬に一度大学へ戻ったが、チームに合流して1ヶ月強の時間は経った。

秋田はタイトな守備を武器とするチームで、特に同じSG中山拓哉はB1最強レベルのディフェンダーだ。多田は練習からその「洗礼」を浴び、それを糧にしている。

「練習からあの強度のディフェンスの中でプレーできている。本番になっても、なかなかあのレベルの対応を他のチームはしてこない。試合になったら練習よりいい状態でシュートを打てている」

試合になれば多田もそんな守備を一緒に遂行しなければいけない。そこは次の課題だ。

「簡単なシステムは理解しているんですけれど、要所要所のローテーションなどを完璧には理解していない。そこを改善しなければいけない」

同期の活躍も励みに

拓殖大、秋田の「同期」も多田の励みになっている。拓殖大のチームメイトだったPG平良彰吾はB2ライジングゼファー福岡でやはり主力級の活躍を見せている。彼は言う。

「平良の活躍がいい刺激になっている。『あいつも頑張っているな』と見て、自分も頑張ろうと思います」

2月8日、9日の大阪戦は8日に敗れたものの、9日はルーキーの活躍で星を戻した。多田はこう振り返る。

「1日目に(大阪の)中村くんがめちゃくちゃ活躍した。自分と大浦で『俺らもやってやろうぜ』と話して、その次の日にいいパフォーマンスができました」

「緊張を楽しもうと頑張っている」

シューターはどんな展開だろうと、冷静に打ち続けなければいけないポジション。いい意味でふんわりして周りをあまり気にしないタイプ、気持ちに波がなく常に平静なタイプが多い。

一方で多田は自らをこう分析する。

「自分はめちゃくちゃ緊張します。緊張するんですけれど緊張の中でどれだけ活躍して、緊張を楽しめるのか……。楽しもうと頑張っています」

秋田はブースターに「クレイジーピンク」の二つ名があるほど、熱狂的な応援で知られている。そんな雰囲気についても「あれも緊張です。あれだけの人数の前でプレーするのは普通に緊張しますね」と即答だった。

八王子高校3年のときは、ウィンターカップ準々決勝で八村塁を擁する明成と東京体育館のメインコートで対戦した。「そのときもすごい緊張しました」と振り返る彼だが、明成に冷や汗をかかせる大活躍を見せている。

多田はどうやら、緊張すればするほどいいプレーができるタイプ。だからファンも声援を躊躇する必要はない。

記事を書き終えた筆者は、主役の写真が見つからず困った。Bリーグのデータベースは試合ごとにそれなりの枚数が用意されている。しかし多田は「ボールを持っていない写真」ばかりでシュートの瞬間が何試合もさかのぼらないと見つからなかった。きっとピントが合う間もないほどの一瞬で、彼は仕事を終えているのだろう。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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