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BリーグU15大会は宇都宮が連覇も バスケ育成年代の争いは意外な展開へ

大島和人スポーツライター
連覇を飾った宇都宮U15 写真=B.LEAGUE

Bユースに有望選手が集結

(※新型コロナウイルス感染症の影響で、U15選手権は2月28日に開催中止が発表された)

Bリーグの発足、各クラブのユースチーム保有によって、日本バスケの強化は大きく変わろうとしている。ただし、どういう変化が起こるかは全く読めない。特に3月にプレ大会が開催されるU15選手権は相当な「カオス」が起こる雲行きだ。

既にB1、B2の36クラブのうち34クラブで、中学生年代の強化チームが整備されている。1月上旬にはそういったチームが出場し、愛知県豊田市でBリーグのU15チャンピオンシップ(U15 CHAMPIONSHIP 2020)が開催された。日本バスケットボール協会の「ナショナル育成センター」「ジュニアユースアカデミー」に参加していた選手も数多く参加した。

昨年11月末から開催された「2019年度U15ナショナル育成センター第1回キャンプ」に参加した30選手のうち、下記の10名が今回のチャンピオンシップに出場している。

八重樫ショーン龍 (180cm/岩手ビックブルズ)

三浦敦泰 (186cm/仙台89ERS)

内藤晴樹 (185cm/秋田ノーザンハピネッツ)

加藤律輝 (182cm/山形ワイヴァンズ)

星川開聖 (190cm/宇都宮ブレックス)

坂本康成 (191cm/アースフレンズ東京Z)

神戸辰郎 (192cm/横浜ビー・コルセアーズ)

大橋翔太 (198cm/シーホース三河)

波多野心優 (184cm/京都ハンナリーズ)

門川太一 (192cm/熊本ヴォルターズ)

大会が夏から冬に移ったこともあり、U15チャンピオンシップは明らかにレベルアップした。部活を引退した逸材が全国中学生大会を終えてから、Bユースに移籍する例もある。明成高1年生で「八村二世」とも評される山崎一渉は、中3夏以降は千葉ジェッツU15でプレーしていた。今のスケジュールは、そういう選手がチームに馴染んだ状態でプレーできる。

二強の強みは個でなくチーム力

ただし宇都宮ブレックスU15の優勝、横浜ビー・コルセアーズの準優勝は個でなく「チーム」の力だった。荒井尚光ヘッドコーチ(HC)はこう述べる。

「個々の能力はないですし、身体能力もそれほどない。頭を使って考えて、バスケットをやっている。3人の連動性はブレックスの強みとしているところです。あとはディフェンスのローテーション、コミュニケーションもずっと強みです」

もちろん選手の能力は相応に高かったが、決して突出していたわけではない。荒井HCは草創期のブレックスでもプレーしたキャリアの持ち主。トップと同じリバウンドやルーズボールへのこだわり、常に全力を尽くす姿勢をチームにしっかり浸透させていた。

大会のMVPに輝いた星川開聖は、日々の練習についてこう振り返る。

「最近だったらハリーバックのために、走る練習をやりました。しっかりと目指すものがあったので、きつくても頑張りました。決まっている動きがあるんですけど、空いていたら途中で(柔軟に状況を判断して)ドライブするのも練習でやっている。ディフェンスの力を上げないと、オフェンスも上手く行かない。ディフェンスは特に頑張るようにチームでしています」

大会MVPに輝いた星川開星選手(宇都宮) 写真=B.LEAGUE
大会MVPに輝いた星川開星選手(宇都宮) 写真=B.LEAGUE

星川は中3夏からブレックスに加わった選手で、県外への進学が決まっている。ただしアリーナで試合を見るのは日常で、「ブレックス愛」が加入前から備わっていた。

「トップチームが地域から愛されて、ファンも熱い人が多い。愛されているチームなので、そこでやりたい思いはすごくあります。今Bリーグの選手からも夢とか希望をもらっている。そういう存在に今度は自分がなりたい」

大型選手同士の対決が経験に

横浜ビー・コルセアーズU15も育成力で準決勝まで勝ち上がった。白澤卓HCを中心としてBリーグ随一のスクール組織を擁していて、体制の整備で先行しているクラブだ。

Bリーグ運営本部・強化育成部の塚本鋼平氏はこう評価する。

「横浜は全中(全国中学生大会)に出た子が誰もいないけれど、こうやって準優勝している。目立った選手が何人もいるわけでないし、星川開聖(宇都宮)、坂本康成(東京Z)のような選手はいない。育成力の凄さが(横浜の)組織文化になっている気がしました」

タレント性で随一だったのが3位に入ったアースフレンズ東京Z U15だ。エースの坂本は八千代松蔭中で全国中学生大会に参加した選手で、夏からユースに参加。192センチの長身ながら、スリーポイントシュートや1オン1のドライブに強みを持っている。

ただし横浜との準決勝ではベンチにしばらく下げられる時間帯があった。チームも残り2.7秒のスリーポイントシュートを決められ、横浜に破れてしまった。東京Zの岩井貞憲HCはこう説明する。

「彼(坂本)は大きいからスリーポイントが打てるんです。だけど神戸くんという(192センチの)大きい子が頑張っていたので、なかなか打ちにくい状況だった。それでちょっと一回ベンチに置いた。彼はシュートだけに頼ってはいけないし、もっと(他の)技術を身に着けないといけない」

中学生年代ではなかなか「190センチ台の選手がバチバチやりあう」試合が少ない。準決勝の坂本はシュートを上手く打てず、プレーのリズムを崩してしまう時間帯があった。

しかしプロになれば2メートル超の選手がスリーポイントシュートに対して競ってくる状況はザラにある。例えば金丸晃輔(シーホース三河)ならばそういう状況での「引き出し」をもっていて、守備の逆を突くプレーができる。中学生年代でもレベルの高い選手同士が競り合えば、早くからそういう有益な経験を積める。

東京Zは183センチの山口隼がPGを務め、坂本も含めて大型でスキルの高い選手が揃っている。それぞれの部活だと、180センチ超の大型選手はどうしてもインサイドを任される。そういう人材が「外」でプレーできるように導くのが、東京Zの育成だ。

岩井HCはこう説明する。

「ポジションを上げて、基本的にはセンターを置かないでやっています」

ベスト5にも選出された坂本康成(東京Z) 写真=B.LEAGUE
ベスト5にも選出された坂本康成(東京Z) 写真=B.LEAGUE

トップ3以外にも逸材

新勢力の底上げはあったものの、宇都宮、横浜、東京Zの「ワンツースリー」は18年夏の第2回大会と同じ並びだった。首都圏はBユース同士のリーグ戦も組まれ、高いレベルで競り合う環境が整いつつある。今はBリーグ発足前から普及・育成に力を入れていたチームが、先行者の強みを発揮している。

サプライズを起こしたのが4位に入った山形ワイヴァンズだ。高校受験で3選手が欠場する中でも、エースの加藤律輝を中心に勝ち進み、準決勝では優勝した宇都宮とも接戦を演じた。

田中慶HCは言う。

「加藤がリバウンドを取ってドリブルプッシュで、周りを走らせるが一つ武器だった。そこはうまく出せた」

山形は182センチの加藤がコート内の最長身で、上位に入ったチームの中ではもっとも小型だった。ただし運動能力の高い加藤はリバウンドを取り、速攻の先頭に立てる。使うところは周りを使うクレバーさ、しっかり指示を出すリーダーシップも見せていた。

4強の他にも逸材はいた。波多野心優(京都)は昨年3月に開催されたジュニアオールスター(第32回都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会)のMVPで、内藤晴樹(秋田)も昨年8月に開催されたBリーグU15オールスターのMVP。ベスト12に勝ち残ったチームを見ると、どこも楽しみなタレントがいた。

全中とU15の比較は?

また指導者を見ても元プロ選手はもちろん、海外留学経験者、中高のバスケ部で実績を挙げた名将と、多彩なバックグラウンドが見て取れた。例えば岩手ビッグブルズU15の金子力HCは盛岡南高で川村卓也(シーホース三河)や小野寺祥太(琉球ゴールデンキングス)の指導を手掛けたベテラン。そういう経験も育成年代の強化における貴重なファクターだ。

京都ハンナリーズU15の佐々木和子HCは京都市立加茂川中の現役教員で、全中出場を経験している指導者だ。波多野も含めて加茂川中を「引退」した選手が京都U15の主力を担っていた。府内には全中を制した京都精華学園中の存在があり、京都はU15選手権の出場を逃した。しかしチャンピオンシップではベスト8入りを果たした。

佐々木HCは全中とU15チャンピオンシップを比較して、こう述べる。

「個々の選手の素材的なものは、こちらの方が上だと思います。チームの機動力やディフェンス力は、全中がまだ上かなと感じます。こちらは個々でやっている感じがまだあります。ただ将来的に見るとこちらのほうが伸びしろ、将来性は感じます」

2020年からはバスケット界でもU15年代の全国大会が冬以降に開催される。今まで加茂川中の選手は夏で引退し、進路が決まっていても後輩の指導や手伝いでバスケに関わる程度だった。夏以降にビッグタイトルがあれば、高校入学前の半年がより充実したものになる。

U15選手権の行方は?

来る3月下旬には武蔵野の森スポーツプラザで全国U15バスケットボール選手権(U15選手権)のプレ大会が開催される。Bユース、街クラブ、中体連が一つのタイトルを争う「真の日本一決定戦」だ。サッカー界では既に高円宮杯として、中高年代で同種のタイトルが設けられている。Bリーグの育成組織がすんなり選手権のタイトルを獲るか?と言われると、答えは「ノー」だ。

各県の出場チームはほぼ出揃っていて、筆者が把握する範囲ではBリーグの育成組織ではレバンガ北海道、岩手、山形、宇都宮、東京Z、熊本ヴォルターズ、琉球ゴールデンキングスが選手権出場を決めている。これに加えて秋田など予選が残っているまだ県もある。北海道は活動2季目で、メンバー全員が2年生以下の編成で道大会を制した。

U15選手権はBクラブ、街クラブ、3年生が残る私立中がタイトルを争うことになる。大会で旋風を巻き起こしそうなのが「オールスター型」の街クラブだ。

福岡、新潟は中体連の強豪校を引退した3年生が連合チームを組み、クラブ登録をして県予選を突破した。全中上位レベルのチームに「補強選手」が入るのだから、それは間違いなく強い。神奈川県予選はLustyという街クラブが、横浜を下して出場権を得た。U15ナショナル育成センターのキャンプに招集された角野寛伍、石津光彩を擁する強力な陣容だ。

中体連の強豪やBクラブの馴染みがあるチームでなく、設立したての新興勢力が大会を賑わせそうな状況がある。

Bユースの現在地と針路は?

そんな中でBリーグの育成組織はどうあるべきか。塚本氏は言う。

「私達のU15が確実にやらなければいけないのは、目指すところを明確にして『私達のチームに所属するのはこういうことである』とより強くしっかりと打ち出すこと。プロになる、世界に行く思いの強い子が集まってこれるところが私達なのかなと思う」

Bリーグのアカデミーはリーグ戦への登録が1チーム最大15名。ただしセカンドチームを別に登録することは可能で、年1回5名の入れ替えも認められている。21年4月からは同時期に複数のチームでプレーする二重登録が禁止になる。各クラブとも現2年生以降は「部活との掛け持ちをしない体制」を採っている例が多い。第1回大会を制したFイーグルス名古屋U15は部活、街クラブも含めた「三重登録」の選手による促成チームだったが、今のU15チャンピオンシップは各クラブが大よそ自前で育てた選手による大会だ。

Bリーグが目指すのは「高い意識を持った子が集まる」「限られた人数の選手としっかり向き合い、大切にする」カルチャーだ。そういうチームがオールスター型のクラブチームと切磋琢磨して戦って苦しむ状況も、日本バスケの未来を考えればいい経験かもしれない。

既に先行して強化に取り組んでいるクラブもあるが、U18チームのスタートは2021年4月がメドになる。現在はU18発足に向けて、各クラブが水面下で準備を進めている。

塚本氏は述べる。

「昨シーズンのユーロリーグでは、18歳以下の選手が18人プロデビューしています。日本も飛び級にもっとチャレンジできる環境を作って第2、第3の久保建英を出していかないといけない。育成に取り組んでいるクラブがどんどん増えていて、レベルが高くなってきているのは一目瞭然です。でもここからです。この子たちが高校に消えるのでなく、U18からトップを目指す状態になってほしい」

U18年代、U15年代とも未知数な部分は多い。しかしそれは「何が起こるかわからない」「何が起こるか楽しみ」という前向きな不確定要素だ。もちろん一朝一夕で進化は完結しないし、中体連、街クラブが持つリソースも貴重だ。しかし日本サッカーではJユースが街クラブの広がりを促し、部活にもいい刺激を与えるサイクルが強化を加速させた。

選手の上を目指す意識が高まり、有望な人材が早いうちから高いレベルで競り合って能力を引き上げられるーー。日本バスケ界にそんな環境にするために、Bリーグは取り組みを続けている。

●U15チャンピオンシップ最終結果

優勝:宇都宮ブレックス

2位:横浜ビー・コルセアーズ

3位:アースフレンズ東京Z

4位:山形ワイヴァンズ

5位:秋田ノーザンハピネッツ

6位:京都ハンナリーズ

7位:新潟アルビレックスBB

8位:琉球ゴールデンキングス

●決勝トーナメント

<1回戦>

秋田 53-46 岩手

山形 69-60 熊本

京都 56-40 SR渋谷

琉球 75-59 名古屋D

<2回戦>

宇都宮 80-63 秋田

山形 82-58 新潟

東京Z 91-61 京都

横浜 63-52 琉球

<準決勝>

宇都宮 69-62 山形

横浜 42-41 東京Z

<決勝>

宇都宮57-39 横浜

★MVP

星川 開聖(宇都宮)

★ベスト5

菊田 準利(宇都宮)

星川 開聖(宇都宮)

菅野 汰樹(横浜)

神戸 辰郎(横浜)

坂本 康成(東京Z)

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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