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「練習は週3日」「英会話」「先発はじゃんけん」 Bリーグの個性的なU15チーム

大島和人スポーツライター
U15チャンピオンシップの出場選手たち 写真=B.LEAGUE

B.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2020(U15チャンピオンシップ)が愛知県豊田市で開催され、1月8日に宇都宮ブレックスU15の優勝で幕を閉じた。B1、B2のほぼ全チームにU15年代の育成チームが設置され、同大会も世代を代表する選手が顔を揃えるものに進化している。

Bリーグは発足当初から、協会と一体になって育成年代の普及・強化に目を向けている。2018-19シーズンからはB1ライセンスに「ユースチーム(U15)の活動」を義務づける項目が入った。2021-22シーズンからはU18の整備も求められるようになる。当初はライセンスをクリアできるように「形を整えた」印象のクラブも多かった。しかし3回目の今大会は本気、工夫の見えるチームが増えていた。

体操、テニス、水泳などの個人種目はかなり以前から民間スポーツクラブが強化の主流だ。サッカーも代表選手の過半をJリーグの育成組織出身者が占める時代になっている。バスケもいわゆる「街クラブ」がBリーグ発足以前から活動していて、傘下のスクールを運営するプロチームも少なからずあった。

Bリーグの育成組織は普及から強化に舵を切ろうとしている。目先の勝利、技術的な上達に加えて「プロを生み出す」「世界で通用する選手を輩出する」という大目的を持っている。

どんなチャレンジをしようとOK

アルバルク東京U15は2018年春に活動をスタートし、今大会は中2以下のU14で出場していた。予選リーグは3チーム中3位で、大会通算も2勝2敗と「ほどほど」にとどまっている。しかし攻守ともにポジションレスのスタイルが未来を感じさせてくれた。

オフェンスはボール運び、ポストプレー、シュートといった役割を全員が均等に受け持ち、守備はオールスイッチでマークのズレが生まれないーー。小さい選手でも170センチ中盤というサイズがあったから可能な戦いかもしれないが、Bリーグにはないスタイルだ。

中村領介コーチは述べる。

「誰の身長が伸びて、誰は伸びないかってこの年代で分かりません。今の大きさだけで『君はこの役割』と決めたら可能性を狭めることになる。今の段階では誰が何をしようと、どんなチャレンジをしようとOK……。それがチームの共通認識です。選手たちがその場の自分たちの判断で、何がベストなのかを試しながら、たまたまオールスイッチという解を出して実行しました」

12名全員が同じプレータイム

中学や高校のバスケを見ると5人が40分ずつプレーして、ベンチメンバーに全く出番が無いチームもある。プロと違って個々のレベル差が大きいし、連携の構築を考えればそれも一つの手法だ。しかしA東京のアカデミーはベンチ入りの12名全員に出番がある。中村コーチは説明する。

「プレータイムは全員イコールです。ベンチに座っている子はどんどんチャンスが少なくなる。試す機会がないし、成長の余地も奪われる。全員がしっかり経験できるように、時間を均等にしています」

試合前には選手が先発を「じゃんけん」で決めていた。

「6人6人の2グループに分けて、その中で5人が順番にローテーションしていく形です。全員が同じ時間に出ます。じゃんけんで勝ったほうが初めに行きます。1分半で交代するショートシフトで、フレッシュな奴でいってアップテンポでどんどんやっていくのがウチのスタイルです」

バーンアウトしないことが大事

ハンドラーとスクリーナーが連動して守備を崩すピック&ロールはオフェンスの定石で、中学生からこれを駆使する選手もいる。しかしA東京はまだピック&ロールも使っていない。

「U-15、16となったときにやっていいと思うんですけど、優先順位的なものです。今学んだほうがいいことと、あとから身につけられることがあります。ピック&ロールを今やろうとしたら、1週間1ヶ月と細かいことから学んでいく必要がある。でも身体(の成長)も追いついて賢くなったら、もっとすぐ身につけられる」

A東京の練習日数はU13(中1)、U14(中2)とも週3日に抑えている。

「バーンアウトしない(燃え尽きない)ことを大事にしています。友人関係があったり、学校の勉強が大変だったり、それにプラスしてバスケットに全ての時間を使うとなったら心が疲弊してしまう。バスケット一筋で没頭しろ、それに全ての時間を費やせと固めるのはまだ早い」

シュートを放つA東京U15の杉田陽斗選手 写真=B.LEAGUE
シュートを放つA東京U15の杉田陽斗選手 写真=B.LEAGUE

「世界と戦えるスキル、マインド」

シーホース三河U15も予選リーグは3チーム中3位で、通算1勝3敗に終わったが、見るべき人材とスタイルがあった。エントリーメンバーの中で3年生は3人だけだが、197センチの大橋翔大、190センチの浦奏太ら大型選手を起用しつつ高さに頼らないスタイルだった。

2メートル超の大型選手だろうと3ポイントシュートを打つのが現代バスケ。A東京や三河に限らないが、「大型選手に外のプレーをさせる」ことは今や育成の定石だ。中学生年代の勝敗に限れば非効率な戦い方かもしれないが、選手育成はその先を考える必要がある。

三河U15の伊良部勝志HCは29歳で、17年までアースフレンズ東京Zでプレーしていた。2018年4月からこのチームの指導に関わっている。彼は育成、起用についてこう述べる。

「(大型選手に)アウトサイドのプレーをやらせて、彼らが日本代表とかプロに行ったときに世界と戦えるスキル、マインドを持てるようにと接しています。僕もBリーグでやっていたので『今のプレーは外国人がいたら止められるよ』といった説明もします。ノーマークのシュートでもボールをもっと高く上げようとか、今の中学生年代でスコア出来ているから満足ではなくて質、内容にフォーカスをします。たとえシュートが成功したとしても修正できるところはあります」

Bリーグや国際試合になれば、身長2メートル以上の外国籍選手がシュートコースを塞いでくる。単純なレイアップではなくフック、ジャンプショットと高い軌道で打たなければシュートがなかなか決まらない。そういう意識付けを早いタイミングですることは大切だ。

「毎日のプロセスを大事に」

中学生年代での勝利を追うなら今できるプレー、中学生相手に通用するプレーに絞ったほうがいい。しかしもっと上を目指すなら「急がば廻れ」の我慢が必要になる。

伊良部HCは勝利と育成のバランスについてこう述べる。

「勝ちを目的にしてしまうと、育成の観点からすると弊害が生まれてくる。大きな二人を中でプレーさせようとか、何人かのプレイヤーに絞って試合をするとか……」

選手にはこう伝えている。

「勝つことは大事です。勝つことが目的ではないんですけど、相手が強いから諦めてしまうとか、試合が拮抗している場面で自分の力を出せない選手にはしたくない。だけど勝ったことは大事じゃないと子どもたちに伝えています。彼らに日々伝えているのは大会だけで何かを掴みに行くのでなく、毎日のプロセスを大事にしてそこで勝負しよう。プロセスを大事にしてきたから勝者であると口酸っぱく言っています」

三河U15はトライアウトで加入の可否を決めているが、そこでも先を見た判断をしている。

「一つ見る観点としては早熟か早熟ではないかというところ。早生まれも当然見ます。中学生だと身長が伸び切って、身体もがっしりしている子が上手いだろうし、プレー的に通用する部分も多いと思います。三河は今上手いプレイヤーでなく、育てて行けば世界を目指せる、日本を代表するプレイヤーになれるかな?という目線が強い。お父さんお母さんの身長と(本人の)競技年数も見ています」

水曜日は英会話

琉球ゴールデンキングスは予選リーグを2勝0敗で勝ち上がり、最終的には8位で大会を終えた。Bリーグを見ても沖縄は上手い選手、楽しい選手を何人も輩出している土地柄だが、琉球U15もスタイルが魅力的なチームだった。

山城拓馬HCは現在34歳で、bjリーグなど複数のクラブでプレーしていた元プロ選手だ。彼は現在の体制をこう説明する。

「キングスアカデミーとして、スクールとユースチームがあるんですけど、スクールは県内5ヶ所で活動をしています。横浜(ビー・コルセアーズ)さんには及びませんが、400名から500名近い人数まで増えてきています。アカデミーに通っている子の中でU15のトライアウトをして入る選手がいて、小6からお声がけをして集まったメンバーも今の1年生に5人います。(沖縄本島の)北部は通うのが難しいので、中南部の子たちが対象にはなっています」

琉球U15の活動は週5回だが、バスケットの練習は火木土に2時間ずつ。残る2日は別の活動に時間を使っている。水曜日は英会話のレッスンを選手に提供している。

「語学力がどこまで成長するかわからないですけど、海外に行きたいという子もいます。ネイティブの先生がついて、アシスタントコーチの清水(レイ)も英語講師の資格を持っています。(清水コーチが)プログラムを作って、彼らに合ったところからやっています。学校で『正しいことを言わなければいけない』となると、発言できなくなったりしますよね。(キングスU15の)雰囲気としては発音してみて『ちょっと違うね』と直していきつつ、思っていることをどんどん言っていくーー。和気あいあいと面白そうに活動しています」

怪我をしないための取り組みも

金曜日は時間をかけて「身体の使い方」を学んでいる。

「バークレー整形外科と提携させてもらって、怪我をしないための身体の使い方をやっています。膝の怪我をしないようにするとか、まずは正しいフォーム、ポジションを子どもたちが理解して、バスケットボールに活かせる形をトレーナーさんとコミュニケーションを取りながらやっています」

中学生年代で特に大切なのは膝、腰などの痛みを持たない状態でプレーすること。仮に手術となればそれだけプレーから遠ざかるし、身体的な成長の妨げにもなる。琉球はオーバーユースを避け、更に医学の知恵を借りて、そこにアプローチをしている。

週3日の練習日数について、山城HCはこう述べる。

「週3日、2時間の練習で密度、強度を上げれば十分な時間だと僕は思っています」

琉球U15の宜保隼弥選手 写真=B.LEAGUE
琉球U15の宜保隼弥選手 写真=B.LEAGUE

大切なのは我慢と挑戦

説明するまでもなく、バスケットは身長が大きな武器になるスポーツ。過大な負荷をかけない、怪我をさせないことが身体をしっかり作る前提になる。

プレー面でも我慢は必要だ。スリーポイントシュートは打ち始めていきなり入るものでなく、練習や試合で試して、失敗して修正して積み重ねて覚えるべきものだ。もちろんプロの真剣勝負になればシュートの成功率が厳しく問われるし、苦手なプレーで不要なリスクを冒すべきでない。しかし中学生年代はまず可能性を広げるべき時期で、選手がミスを恐れて挑戦しないマインドに陥ったら最悪だ。

クラブ単位でも挑戦マインドは大切だ。前向きな挑戦、努力をするBリーグの育成組織は日本バスケの未来にとって明るい材料だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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