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B1ライセンスはどうなる? 滋賀を取材して知った新アリーナ構想と産みの苦しみ

大島和人スポーツライター
びわ湖アリーナの建設予定地:筆者撮影

体育館とアリーナの違いは大きい

Bリーグは2016年9月に開幕し、3季目となる2018-19シーズンも各クラブは経営的な拡大を続けている。ただし、このリーグが本格的な成長局面を迎えるのはまだ少し先のことだろう。

人気クラブは徐々に「集客の限界」を迎えつつある。日本の各都市は大箱が乏しく、収容人員がすぐ限界に達してしまうからだ。

一方でBリーグ発足前後からまかれている種が、芽を出し実ろうとしている。琉球は2020年に沖縄市の新アリーナが完成する予定だし、三遠ネオフェニックスやシーホース三河が進めている構想も「主体」となる事業者が確定した。川崎ブレイブサンダースも新アリーナの建設を公言し、敷地の選定を行っている。

Bリーグ発足前から、日本のプロバスケは体育館でほぼすべての試合を行ってきた。しかし今から10年後には、おそらくB1クラブの半数が「アリーナ」で試合をしているはずだ。

体育館は基本的に「国民体育大会などの競技会を開催する公共施設」だ。国体ならばバスケやバレーを同時に3試合以上できるサイズのフロアが標準仕様となっている。プロバスケの試合に必要なフロアはもちろん1面で、3面分は大きすぎる。

出し入れ可能の仮設席も進化しているとはいえ、フロアが大きいと1階席の「角度」は緩くなりやすい。2階席が遠く離れ、臨場感を欠いた状態となる。

アリーナは「客がエンターテイメントを楽しむための民間施設」で、設計思想や運営主体が根本的に違う。集客を目的とするため、可能な限り公共交通機関でのアクセスが容易な立地になる。

アリーナ計画の進捗が問われる滋賀

3月12日のBリーグライセンス一次発表で、大河正明チェアマンから滋賀レイクスターズに関して気になる発表があった。レイクスターズは2019-20シーズンのB1ライセンスが「継続審議」となり、最終決定が4月9日の二次発表へと持ち越しになった。その主因が新アリーナ計画の進捗状況だった。

大河チェアマンはこのように説明している。

「大津の商工会議所が主体となり、浜大津に新しいアリーナを作ることをもってB1ライセンスを交付していました。去年までは計画の進捗があったのですが、2022-23シーズン中までにできるのかと確認をしたところ、進展がほぼ見られていない。ということが判明したので、滋賀は4月までの継続審議となります。浜大津のアリーナを含めて、どういう展開があるのかクラブと真摯に向き合い、場合によっては行政や商工会議所と向き合いながら次の判定時に結果を出したい」

レイクスターズはウカルちゃんアリーナ(滋賀県立体育館)をホームとしている。1973年の竣工で老朽化も進み、移転が予定されている。Bリーグはびわ湖アリーナ(仮称)への移転を前提に、ライセンスを交付していた。

大津の新アリーナは運営主体が未定

2017年夏には大津商工会議所を中心として滋賀県や大津市、滋賀県スポーツ協会、京阪電気鉄道、クラブなどが「びわ湖アリーナ整備促進官民連携協議会」を発足させていた。新アリーナの調査や検討、報告も行ってきている。

坂井信介代表(会長CEO)は構想を巡る推移をこう述べる。

「Bリーグが開幕する前年の審査のときです。5千人の数字が出てきた段階で、浜大津の構想についてアイディアを出したら、そこに商工会議所が乗ってくれました。商工会議所はスポーツ庁に申し込んで、2期連続で調査費の助成を得ています。なので昨年、一昨年のライセンス審査は浜大津の計画をベースにして、リーグに対応していました。『委員会が設置された』『スポーツ庁に対する報告資料も出している』と普通にライセンスをもらっています。しかし今年は進捗が、運営主体の決定まで行けてないということで話が変わりました」

彼らが目指している構想は、体育館でなくアリーナだ。15年償却、20年償却で「元を取る」ことを目指す採算性を持った民間主導の施設だ。

スタジアムやアリーナを巡る議論になるとハコモノ行政に対する批判や、「1クラブのために税金を使う是非」が議論になる。ただ今回のアリーナ構想に対してそのような批判をするなら、完全な筋違いだ。

バスケ以上に大きな音楽産業の需要

びわ湖アリーナの予定地はその名の通り琵琶湖の湖畔で、県庁所在地・大津の中心地に位置する。京阪電鉄のびわ湖浜大津駅と直結し、JRの大津駅からは約1キロの県有地だ。滋賀は人口流入が続く平均人口の若い県だが、市街地の活性化は他府県と変わらぬ課題だ。商工会議所がこのプロジェクトに同意した理由も、そこにあるだろう。

坂井代表は強調する。

「レイクスターズは30試合のみ(※ポストシーズンで最大6試合の追加あり)ですけど、(新アリーナでは)100回から150回の興行ができます。5千人規模となった場合、推定で40万人~50万人の来場者を見込める。それは活性化の起爆剤となり得るし、周辺の再開発を促進する材料になる」

年に100回以上の興行を行う、採算性を伴った施設が見込める大きな理由は音楽産業の需要だ。無料動画共有サイトの広まりなどでソフトの売り上げが減少している一方、ライブイベントの市場は急成長を遂げつつある。商工会議所の当初案は「5千人~6千人」の規模を見込んでいたが、それが上方修正される可能性もあるようだ。

坂井代表は説明する。

「5千人の興行と1万人の興行では、興行コストが同じで1万人の方が圧倒的にペイすると音楽業界から聞いています。関西でいうと、1万人以上の箱は大阪城ホールしかない。神戸にワールド記念ホールがあるけれど、ここは6千~7千人(公称は8千人)で、三宮から15分くらいかかる。大阪の人は大津に来る方が楽だと思いますし、第二の大阪城ホールが可能な立地です」

新アリーナのフロアは広く細長い体育館タイプではなく、すり鉢状に4面が埋まった形状だ。音響や照明などの演出装置も用意されるはずで、臨場感は段違いとなるだろう。

割安で、使い勝手がいい施設に

日本の体育館はライブのための付帯施設が乏しい。特に上から物を吊り下げる「バトン」が不足していて、興行を難しくしている。Bリーグも多くのクラブでは多大な人手をかけて試合のたびに仮設スタンドの設営、撤去を行っている。コンサート、プロバスケを前提とした付帯設備を常設しておけば使い勝手は上がり、興行コストも下げられる。

民間の施設は仕様の設定が柔軟で、建設費が公共施設に比べて割安となることも確実だ。仙台89ERSが来季からホームとするゼビオアリーナ仙台は5千人規模の先進的な「アリーナ」だが、建設費は30~40億円ほどと聞いている。

説明をしていてもどかしいのが、日本に本格的な実例が乏しく、リアルなイメージを持ってもらい難いことだ。世界を見ればNBAとNHLのホームで、格闘技の殿堂としても知られるニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンを筆頭に、そのような施設が無数にある。

この国の行政は徹底的な「前例主義」だし、民間も含めてお手本がないものはなかなか実現し難い。大津の新アリーナはそんな日本社会のスタンダードとしても、期待が持てるプロジェクトだ。

ライセンス申請に向けた次善の策は?

坂井代表も今後の見込みについて、こう口にする。

「Bリーグ発足が一つのきっかけとなって、各地からアリーナ構想が出ています。その中で(びわ湖アリーナは)地元クラブが中心となって、高稼働の施設として先鞭をつけるチャンス。いい形で進んで欲しいと願っています。一方でライセンス申請の方針に関しては、浜大津以外も含めて検討中です」

民間企業がビジネスとして絡むならば、出資比率や人事などの調整がどうしてもシビアだ。商工会や連携協議会も、当事者となる性質の組織ではない。三河地区の新アリーナはアイシングループ、豊橋の新アリーナはゼビオグループが運営主体として確定しているが、レイクスターズはそこで手間取っている。

びわ湖アリーナ構想自体は実現性の高い、筋の良いプロジェクトだ。しかし最後の詰めで「産みの苦しみ」を味わっている。2019-20シーズンのライセンス審査は大詰めだが、アリーナ建設は先の長いテーマ。良い話だからこそ、焦って頓挫させることは禁物だ。

「浜大津以外の線」について坂井代表から具体的な言及は無かったが、大津市内では新アリーナと別に、2024年の滋賀国体に向けた新県立体育館の建設も予定されている。供用の開始予定は2022年末だ。こちらは瀬田駅、南草津駅からバスで15分ほどのやや不便な立地だが、観客席は5千人程度とB1基準を満たす見込み。建設工事費の概算は74億円で、浜大津の施設より「高級」な施設となる。

クラブが地域に根差し発展するため、びわ湖アリーナ構想の実現は決定的に重要だ。大津の街にとっても、いいインパクトを持つ事業だろう。Bリーグ側が建設の実現性をシビアに問うているのも、「一刻も早くいい計画を実現させたい」という前向きなプレッシャーに違いない。

ただし新アリーナ構想の詰めに時間がかかるなら、次善の策を取る必要がある。B1ライセンス申請における前提を新県立体育館に切り替え、びわ湖アリーナ完成までの「つなぎ」にできればそれがベターだろう。行政と商工会、リーグの絡む調整がスムーズに進むことを願いたい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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