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B1復帰なる! “秋田のペップ”とクレイジーピンクが起こす衝撃

大島和人スポーツライター
「クレイジーピンク」と称される秋田ブースター 写真=B.LEAGUE

1年前の悲劇的敗戦から復活

愛称はペップ。出身はスペインのカタルーニャ州。知的で静かな語り口を持ち、スタイル抜群でスキンヘッドがセクシーに映える――。秋田のペップと2歳下の“本家ペップ”はどうしても重なる。

“ペップ”の愛称で知られるジョゼップ・グアルディオラは、世界のサッカー界に革命を巻き起こした名将だ。魅力的なスタイルと結果を両立し、世界3大リーグすべてを制した実績は圧巻の一言に尽きる。

“秋田のペップ”ことジョゼップ・クラロス・カナルスもヨーロッパ、北米、中南米、アフリカ、中東、アジアでコーチング経験を持つ国際的な指導者だ。今季からはBリーグ秋田ノーザンハピネッツの指揮を執っている。彼は降格を喫したチームを劇的に変え、秋田をB1に復帰させた。

ちょうど1年前、チームは絶望の淵にいた。秋田はB1の全体16位で残留プレーオフに臨み、1回戦で横浜ビー・コルセアーズに敗れた。第3戦(10分ゲーム)は16-14とリードし、「残留まであと1秒」までこぎつけたが、相手の劇的なスリーポイントシュートに屈した。

しかし2017-18シーズンの秋田はB2で強烈な戦果を残す。9月30日の開幕戦から12連勝を飾り、さらに12月29日の金沢武士団戦からは年をまたいで20連勝を記録。54勝6敗、勝率9割という文句なしの結果でB2東地区を制し、熊本ヴォルターズとのプレーオフ準決勝に漕ぎつけた。

結果以上に魅力的だった秋田の戦い

第1戦は終盤まで熊本にリードを許す苦しい展開だったが、85-81で接戦を制した。第2戦は試合の出だしから速攻、3ポイントがよく決まり、今季を象徴するような内容で99-65と快勝。2連勝でB2プレーオフ決勝への進出を決めるとともに、B1復帰を決めた。

今季の秋田は結果以上に「スタイル」が魅力的だった。彼らは高い位置から相手にプレスをかけ、ミスを誘う。レギュラーシーズンでは1試合平均11.9個のスティールを記録しているが、これは一般的なチームの約2倍だ。バスケは手でボールを扱う競技だから、サッカーやラグビーに比べればボール奪取の難易度は高い。しかし秋田は鋭いボールアプローチと連動でボールにチャレンジし、相手を混乱に陥れてしまう。

ターンオーバーからの速攻が最大の持ち味だが、秋田はセットオフェンスも見事だった。ボールが目まぐるしく動き、気づくとフリーマンが生まれている。相手へのスクリーンはもちろんボールから離れる、寄る、外を回るといった動きのタイミングが抜群で、上手くズレを作った瞬間にパスが出てくる。そういうプレーが連続するから、ボールの動きも滞らない。特定のプレイメイカー、スコアラーがいるのでなく、みんながボールをシェアしてアシストや得点に絡む。それが秋田のオフェンスだ。

プレーオフ準決勝は第1戦、第2戦とも外国籍選手の得点が30%以下だった。中山拓哉のドライブなど要所で「個」の打開力を活かした攻めも見せていたが、「エースに頼らない」「全員が関わる」ところは徹底している。

12人で戦う「自分たちのスタイル」を徹底

秋田の守備は選手への体力的な負荷が高く、ファウルトラブルも起きやすい。しかし秋田は「12人で戦う」ことにより問題を解決した。ペップHCはこう語る。

「シーズンを通して常に12人のロースター全員に出場時間を与えました。自分の役割が大切だと感じさせて、モチベーションを保つのが最大のキーポイントです。この試合も全員が勝利に貢献できたことは大きかった。相手チームから見ると、一人二人止めればいいというわけにはいかないので、難しい相手だったと思います」

しかも誰が入ってもプレーの強度と質、連係は落ちなかった。プレーオフの大一番も登録全選手がコートに立ち、第1戦は9人、第2戦は10人が10分以上プレーしている。逆に秋田のキャプテンにして日本を代表する名シューター田口成浩は、昨季と比較して1試合平均のプレータイムが約7分減った。

田口はペップHCをこう評する。「厳しい人ですね。何事も徹底しているんです。自分が“こうさせる”と思ったとき、常に考えを曲げない。心の芯がしっかり通っていて、全くぶれずに自分の考えや思いを伝える。もし結果が出ていなかったら『え?何なの?』となるでしょうが、結果を残しているので」

どんな相手に対しても“自分たちのスタイル”を貫く。それは秋田の必勝法だ。ペップHCは静かな口調で、ただし毅然とこう述べていた。

「自分たちがスタイルを曲げない方が相手の脅威になる。私は色んなチームのヘッドコーチを務めて、これで16回目か17回目のファイナルになると思いますが、常にこのスタイルでやってきました。日本でやるからといって変えることは無かった。(貫いたからこそ)今シーズンもいい成績を残せたと思います」

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ペップHC(左)と田口主将(右) 写真=B.LEAGUE

厳しさだけではない指導の特徴

13日の第2戦で22得点を挙げた谷口大智は、ペップHCの指導をこう振り返る。

「(教わったことは)ボールに対する執着心、プレッシャーのかけ方ですね。僕みたいなビッグマンは前から当たる、プレスに参加するということが少なかったので、そこは新鮮でした。B2だと3番(SF)のような4番(PF)が多いけれど、そこでスコ抜かれするのをペップが我慢強く使ってくれた」

201センチの大型選手である谷口にとって、小柄で俊敏な選手とマッチアップすることは容易でない。ましてプレスには機動力、アジリティが必要で、ビッグマンはどうしても苦労する。しかし谷口はペップHCの粘り強い指導で適応し、プレーの幅を広げていった。

谷口はペップHCの単なる厳しさにとどまらない、メリハリも指摘する。「去年と違うなと思うのは“回復”の部分です。身体の回復、リラックスにもすごい力を入れている。常にハードにやるけれど、オフのときは100%オフにする。(居残り個人練習の)シューティングを許さない日もあります」

13日の試合後もペップHCは2日のオフを宣言し、こう語っていた。「まず選手は昇格を喜んで、身体を休めて頭を空にして、水曜日に練習を再開するまで決勝戦を考えずにしてもらいたい。長いシーズンでしたし、昇格のプレッシャーが相当あったと思う。まずリラックスしてほしい」

熱狂と「ほのぼの」が両立する夢のアリーナ

秋田の凄さは監督に限った話でない。筆者がCNAアリーナ☆秋田を訪れるのは二度目だったが、昨年1月の取材時には女性広報に少し悲しそうな顔でこう言われた。「今日は平日なのでお客さんが少なくて、今シーズンで一番お客の少ない試合かもしれません。いつもはこんなものじゃないのですが……」

そんな記憶から「一番盛り上がりそうな試合を見たい」という思いがあり、筆者は究極の大一番に足を運んだ。秋田のブースターには「クレイジーピンク」という二つ名があるほど、その熱気は広く知られている。ただそれを理解する私にとっても、5月13日のアリーナは想像以上だった。

アリーナは1階席から2階自由席の通路まで満杯で、入場客数はクラブ史上最多の4909名。そのサイズの箱さえあれば、5千人6千人が入るクラブは他にもある。また秋田は音声や照明、映像といった「演出」の部分に限れば、そこまで手が込んでいるわけでない。ただ秋田はブースターの創り出す熱気や昂奮が、どんな演出にも勝る最高のコンテンツになっている。

360度が全てピンク色で染まっていて、360度が熱狂する。それが秋田のクレイジーピンクだ。サッカーや野球なら「静かに見る席」「応援する席」に分かれるが、秋田は全席が「ゴール裏」「外野席」の状態だった。何の誇張もなく、自分が今まで経験した中で最高のスタンドだった。

しかも秋田は熱狂の「純度」が高く、濁りを感じない。怒り、憎しみといった負の感情をぶつける姿が見当たらない。強いられて声を出している様子も全くなかった。老人、小さなお子さんもスタンドには沢山いて、「熱気」と「ほのぼの」が両立している。Bリーグの提唱する「夢のアリーナ」が具現化していた。

熱狂的だが節度もあり親切。それが秋田のブースターだ。ペップHCに秋田ブースターについて尋ねると、彼はこう返してきた。

「今まで経験が無いほど、素晴らしい観客だった。ゲームだけではありません。街を歩いていても、レストランに入っても、みんな親切だし、ハピネッツが土地に根付いていることを感じます。秋田はそう遠くない未来に、日本で最高のバスケどころになると思っています」。

秋田はアルバルク東京に期限付き移籍中のPG安藤誓哉も含め、B1レベルの人材が少なくない。何よりあのスタイルにはB1でセンセーションを巻き起こす魅力がある。

ペップHCに「B1で戦う自信はあるか?」と問うと、彼は微笑とともに“Yes,sure.”と口にした。「はい、間違いなくそう感じます」と訳せばいいのだろうか。

そして彼はこう続けた。「5対5、2つのゴール、1つのボールという条件は変わりません。すべては可能です」。彼ははにかんだ笑顔で両手を広げ、「ゴ・タイ・ゴ」と日本語でつぶやいた。

秋田はコート内の5人でなくベンチも含めた12人を、いやアリーナにいる全員を「戦力」にできる。彼らが見せるスタイルと熱狂は、日本バスケの誇るべき財産だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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