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Bリーグのユースが高体連で活動 開志学園と福島ファイヤーボンズの挑戦

大島和人スポーツライター
試合後にU-18の選手を激励するトップの森山知広HC(右) 筆者撮影

B2福島のユースが高体連の公式戦に出場

5月11日(金)に、画期的なチームが公式戦デビューを果たした。大会にエントリーされたチーム名は「開志学園高等学校 国際アート&デザイン大学校高等課程」。高体連に登録した部活としての出場だった。このチームにはBリーグ2部(B2)を戦う福島ファイヤーボンズの育成組織(いわゆる下部組織)としての位置づけもある。

開志学園は「福島県高等学校体育大会 県南地区予選会」に登場し、白河旭高で行われた1回戦で県立安積高校を79-63で下した。メンバーは全員が高校1年生で、前半は33-34とリードを許す展開だった。しかし後半は高3のパワーやスピード感に慣れ、相手のマンツーマンDFとゾーンDFに対しても上手く適応。一気に突き放してみせた。同日午後に行われた県立須賀川桐陽高校戦も77-72と勝利し、3回戦に進んでいる。

Bリーグは2018-19からB1ライセンス取得の条件に「U-15年代のクラブチームを持つ」「月に最低6日以上活動する」という項目が新しく加えた。中学生をメインとするU-15年代は8月中旬に大田区内で全国大会も予定されており、ユースチーム同士の公式戦は徐々に整備されてきている。

ただし練習会場や指導者の確保など体制整備に手間取るクラブが多かったことも事実で、「中身」の充実にはまだ時間を要するだろう。また大学やプロにより近いカテゴリーであるU-18(高校生年代)の整備はほぼ手つかずで、U-15の一期生が高校に入るタイミングを待つことになりそうだ。

バスケは「二重登録」「いいとこ取り」が可能

そんな中で福島が学校法人の協力を得て、一足早くU-18カテゴリーを整備した。しかもユースと部活の「いいとこ取り」をした興味深い活動を行っている。

サッカーでは特別指定選手という例外こそあるが、選手の「二重登録」が禁止されている。しかしバスケ界は現時点で二重登録を禁止していない。中学生年代はBリーグのアカデミーに先行して「街クラブ」が活動していた。これらは学校の部活と掛け持ちをする塾のような位置づけで活動しており、原則的には部活が優先。クラブは「プライベートトーナメント」に出場する棲み分けがされていた。

現時点で部活との掛け持ちをしない、週5日週6日の活動ができているBリーグの育成組織はごく一部だ。もちろん各チームが十分な体制を整えれば、中長期的に二重登録が禁止される可能性はある。しかしBリーグのユースだけが固まって活動する必要はないし、デメリットが無いなら街クラブや学校と一緒にやる方が合理的だ。福島ファイヤーボンズの試みを聞いたとき「目からうろこ」の感覚になった。

ファイヤーボンズU-18の1期生10名は「FSG高等部」という高等専修学校に通学している。この学校には選手たちが所属するアスリートコースの他にも「イラストマンガコース」「ファッションビューティーコース」など特色のあるコースが用意され、専門性を身につける環境が用意されている。FSG高等部は通信制高校である開志学園高等部と教育連携を行っており、選手は金曜日にそのスクーリングで普通科目を学び、高卒の資格も取る。学業の面でもいわば「二重登録」の状態だ。

高体連は各種学校でなく一条校の組織で、大会への登録や名義はFSG高等部でなく開志学園になる。

既にJリーグのアルビレックス新潟が、U-18チームと開志学園高等部を一体化させたプログラムを取り入れていた。そこから日本代表の酒井高徳(ハンブルガーSV)も輩出されている。

FSG、開志学園、アルビレックス新潟は池田弘氏が創設した「NSGグループ」の傘下だ。池田氏はバスケの世界でも旧bjリーグのキーマンだった人物で、教育事業にとどまらない手腕を振るっている。福島の野心的なプロジェクトは広い意味で言えば「グループ内のつながり」「蓄積」から生まれたものといっていい。

一期生10名を迎える充実した体制

安藤太郎ヘッドコーチ(31歳)は2013年から福島の育成年代に関わっている。2014年の福島ファイヤーボンズの発足を前に、県内で「bjリーグ公認バスケットボールスクール」を開校し、運営や内容の充実に尽力した。当初はbjリーグサイドからの出向だったが、現在はファイヤーボンズに転籍し、クラブからこのチームに派遣されている。

瀬尾裕史監督(29歳)は昨年度まで茨城県の神栖三中で男子バスケ部の顧問を務め、7年間の教員生活で県大会を3度制した。今春からFSG高等部の教員に転じ、「福島に骨を埋める覚悟」で家族とともに引っ越してきた。二人は白鴎大バスケ部のOBでもある。

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瀬尾監督(左)と安藤ヘッドコーチ(右) 筆者撮影

10選手中6名がU-15からの「昇格」で、埼玉や千葉の強豪中学から加入した選手もいる。監督とヘッドコーチ、アシスタントコーチ、トレーナーの4名がつくなど指導体制は十分。今は公共の施設などを利用してトレーニングを行っているが、秋にはコート、ウエイト機材などの整った施設が完成する。戦術の学習やトレーニングは高等部の「授業」として、1日4,5時間を割いているという。瀬尾監督は「プロ選手を育てるためには最適な環境だと思っています」と胸を張る。

瀬尾監督は第一期生の能力、可能性についてこう述べる。「県内で一番いいメンバーが集まったとは全く言えないですけど、フィジカルコンタクトとスキルを鍛えれば、2年後は間違いなくやれる素材だと思っている」

10名いる選手の中には180センチ台の選手が2名おり、千葉県の葛飾中から入学した佐藤翔太は178センチの身長とスピード、高いスキルを併せ持つ有望なアウトサイドプレイヤー。「先を考えて早いうちからオールラウンドなプレーを身に着けさせる」「大型選手もスリーポイントシュートを打つ」ことは常識であり鉄則だが、ファイヤーボンズもそこは徹底していた。

「世界で活躍する選手を福島から育てていく」

瀬尾監督は今後のビジョンについて説明する。「安藤コーチと一緒にやっているのは、全員が全ポジションをできるようにということです。もちろん外から打ちますし、全員インサイドをやりますし、外からのドリブルもします。小さい子もポストアップを1対1でやるようにしています。世界で活躍する選手を福島から育てていくことが一番のコンセプト。個人能力を鍛えるところが一番で、次に2年後の全国につながればいいなというのが希望です。5年後10年後はどういう形になるか分かりませんが、ユースと協力して福島をバスケ王国にする一助を担いたい」

チームに長く関わる安藤ヘッドコーチもこう述べる。「U-15やスクールでも個人を徹底的に鍛えています。選抜に呼ばれたとしてもプロ選手になったとしても個が弱いまま、スペシャリストというだけだと、本当に需要が限られてしまう。全員がマルチプレイヤーで、全員がどこからでも攻められる――。それを中学生以下でもやってきたし、U-15で見ていた子たちが来てくれたので、さらに先を見て一個一個積み重ねていきたい。世界から逆算してトレーニングしていきたい」

ファイヤーボンズU-18の人数が増え、Bリーグ側の公式戦も整備された時代になれば、また次の展開もあり得る。高校の大会に登録できるのは1チームだが、もう1チームをクラブの大会に出す方法もある。安藤ヘッドコーチも「人数が増えて何チームもできる状況になったら、(声出しやボール拾いでなく)練習もさせて、出られる大会に参加させたい」と口にする。

試合を見ていて印象に残ったのは選手がノールックパス、背中の裏を通すパスなどトリッキーなプレーを多用することだった。ドリブルをしながら片手で握り直さずパスをする選択も多く、見方によっては「軽い」プレーで、ミスも実際に生じていた。しかし指導方針としてそこは「自由」とのこと。瀬尾監督は「練習でやらせています。使いどころはあるので、正しい場面であのプレーを選択できるようにさせたい」と説明していた。

チャレンジから得られる学びは大きいし、若者は失敗を通して身体で限界を覚える。それは目先の勝利より「世界から逆算した強化」を追うプロの育成組織だからこそできる指導なのだろう。開志学園、FSG高等部、福島ファイヤーボンズのチャレンジが実ること、そして他クラブが競って「これ以上」の体制を整備するような時代が来ることを願いたい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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