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B1ライセンス交付保留の背景にある 日本とBリーグのアリーナ事情

大島和人スポーツライター
さいたまスーパーアリーナは日本でも数少ない本格アリーナ(写真:アフロスポーツ)

体育館はあってもアリーナが少ない日本

2016年9月に開幕したBリーグの取材で、筆者はB1ほぼ全クラブのアリーナを回っている。しかし「これなら満足」という施設は一つもなかった。

日本はバスケットボール、バレーボールといった室内競技の興行を主に「公共の体育館」で開催する。こういった施設は国体や学生の大会を前提に設計されていて、「観客目線」が全くない。だから物販や飲食、語らいのスペースが無く、入口付近は極端に混雑する。試合の前後やハーフタイムにはトイレが混雑する。選手、審判、観客の導線が整理されておらず、セキュリティ上の問題もある。また「諸室」が不足していてボランティアスタッフ、チアリーダー、メディアの居場所を想定していない。

もちろん飲食禁止、土足禁止の施設でBリーグの公式戦が開催されることはほぼ無くなっている。夏の暑さや日射、雨や雪に晒されず快適に観戦できることはバスケの強みだ。とはいっても映画館、劇場に比べれば会場のアクセス、快適性は劣っている。

アリーナは体育館、文化会館などの用途を併せ持ち「人が集う」「非日常を客が楽しむ」ための施設だ。音響や照明、映像などの準備がされた、多彩な表現を可能とする空間だ。エンターテイメントに対応できる万能施設だが、もちろんそこで真面目な集会を開いてもいい。スポーツ以上にアリーナの需要があるのは音楽業界で、近年は首都圏の会場不足が言われている。2020年の東京オリンピックを前に、代々木第一体育館などの主要施設が改修に入ったことも一因だ。

アリーナはいわゆる「ハコモノ」だが、屋外スポーツの施設に比べて稼働日数が多く、採算性が高い。民間出資のみで立ち上がるプロジェクトもあるし、大学が「大講堂」の改築や新築を学務以外の用途を念頭に行うケースもある。

アリーナ要件の確認は徐々に厳しく

Bリーグは立ち上げから「夢のアリーナ実現」を強く訴えてきた。B1は5千人以上、B2は3千人以上の施設を参戦の条件としている。ただし計画策定や利害調整、建設には時間がかかるため、移行期間が用意されていた。

例えばB1のアルバルク東京がホームとしている代々木第二体育館、立川立飛アリーナは収容人数が5千人に満たない。こういったクラブは近い将来に5千人のアリーナが建設されることを前提に、カテゴリーの割り振りやライセンスの交付が行われている。

一方でアリーナ要件は段階的に厳格化されている。大河正明チェアマンはまず2015年夏に行った入会審査と1部、2部の割り振りについて「株主、首長の『アリーナを作る予定がある』という宣言で広く入会を認めた」と説明する。

2017年春に17-18シーズンのライセンスが交付されたが、その時点では「昨年の判定時の基準は予定地と、線表(スケジュール)をもって、判定の基準のベースとした」という。このときは東京エクセレンスが板橋区によるアリーナ建設方針の変更により、17-18シーズンのB2ライセンスを失っている。

18-19シーズンのライセンス判定は更に計画の進捗を詳密に確認している。大河チェアマンは「誰が収支を見る事業主体になってやるのか、公募がどうなっているのか。それから対外発表時期を明確化させる」と明言する。

アリーナ建設は得てして自治体、企業、近隣住民など複数の利害関係者が絡む。またアリーナ建設の方向性が定まっていても、予算などで議会のストップがかかることは当然ある。官庁や議会を巻き込むとなれば、関係各所の「顔」も立てねばならない。だから発表のタイミングや方法はかなり難しい。しかしファンやスポンサーにしっかり未来を見せることも大切だ。

3クラブのライセンス交付が保留となった理由

今回B1ライセンスが認められた20クラブのうち、茨城ロボッツ、栃木ブレックス、琉球ゴールデンキングスの3クラブは2015年以前から新アリーナ建設の話が動いていた。

一方でA東京、三遠ネオフェニックス、滋賀レイクスターズ、西宮ストークスは「入会審査のときの宣言」で5千人が確約された経緯がある。そのうちA東京、三遠、西宮の3クラブは、3月14日の段階でアリーナ問題を理由に18-19シーズンのB1ライセンス交付が保留された。しかし4月4日の次回理事会で交付されることについて、大きな問題はなさそうだ。大河チェアマンは3月14日の記者会見でこう説明している。

「アルバルク東京はアリーナを運営する事業主体と場所が確定し、スケジュールも分かっている。対外的に発表するということも、基本的には我々の方と見切れている。最終的にいくつか確認しなければいけないところがあるけれど、ほぼ合格点に近い。細部の詰めで4月に伸ばしている」

「三遠は豊橋公園にB1として利用できるアリーナを用意するという対外発表がされている。2月末くらいに事業公募をする予定だったのが、ずれている。豊橋市の問題かもしれないけれど、そちらを確認している。知っている限りにおいて公募に対して入札を予定しているところは複数確認できている。大きな問題では無いと考えているけれど、市の動向を4月の発表まで見たい」

「西宮も事業主体、スケジュールの概略をほぼほぼ確認している。事業主体からの計画に対する確認事項のようなものを、文章のようなもので提出してほしいということで、細部を詰めている」

スポーツ庁が17年12月に公表した「スタジアム・アリーナ改革推進に向けた取組」という文書では沖縄、栃木、水戸、豊橋、西宮も含めて全国18か所のアリーナ新設・建替構想が明示されている。計画が徐々に詰められ、形となっていくことだろう。10年後、20年後にはアリーナ後進国の現状も変わり、利用者はより魅力的な非日常空間を楽しめるようになっているはずだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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