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Bリーグ各クラブが進めるユースチーム整備の現在地

大島和人スポーツライター
岡SR渋谷社長(左)、坂口國學院大理事長(中)、長谷部渋谷区長(右)=筆者撮影

水泳、体操、サッカーの強化はクラブ主導

育成年代のスポーツをエンターテイメントとして捉えた場合、どうしても部活に焦点が当たる。「学校vs学校」「県vs県」という構図は感情移入をしやすいし、高校野球や高校サッカーといったフォーマットが定着しているからだ。

ただ甲子園があれだけ盛り上がる高校野球でさえ、中学生年代まではクラブチームでプレーする選手が多い。また日本がオリンピックでメダルを量産する「お家芸種目」の水泳、体操は1970年代から育成のメインを民間スポーツクラブが担っている。

サッカー界でユース年代のクラブチームが盛んに活動していることは皆さんもご存じだろう。2017年10月にインドで開催された17歳以下の世界選手権に登録された21選手は、全員がクラブチーム所属だった。11月10日のブラジル戦に先発した11名を見ると、7名が高校生年代をクラブチームで過ごしている。

B1はユースチーム保有が義務化

2016年9月に開幕した男子プロバスケのBリーグも、日本バスケが世界レベルに到達する手段として、当初から各クラブのユースチーム保有を構想していた。当初の計画よりも多少の遅れはあるが、18-19シーズンのB1ライセンスの取得条件に「U-15年代のクラブチームを持つ」「月に最低6日以上活動する」という項目が新しく加わった。

Bリーグの各クラブを見ると、U-15年代の活動は横浜ビー・コルセアーズ、栃木ブレックスが先行していた。ただし横浜は週3回、栃木が週5回の活動を行いつつ「部活と掛け持ちをする」という前提もあった。練習や試合の日時が重なったら、原則として部活が優先となる。

一方で千葉ジェッツのU-15チームは2017年6月に翌年度の新1年生から「クラブチームのみに所属する」という方針をはっきり打ち出した。

10月にはアルバルク東京がU-15チームの発足を発表。こちらは週5日の活動を行う予定で、やはり中体連との二重登録を禁止している。栃木も11月に「疲労過多・怪我・コンディション不良等のリスク軽減」「文武両道を推進する上での勉強・睡眠時間の確保」などを理由に、新1年生からの掛け持ち禁止を発表した。

つまりBリーグを代表するビッグクラブが「ユースチームへの一本化」に動き、Jリーグのような本気の強化チームへと移行しつつある。

SR渋谷ユースは区、大学と連携

12月4日にはサンロッカーズ渋谷がU-15チームの発足を発表し、記者会見を行った。新たに発足するユースチームは区内にある國學院大學、國學院高校の施設を使って週2回程度の活動を行う予定だ。SR渋谷は青山学院記念館を利用してホームゲームを行っているが、ユースの活動でも学校法人とのアライアンスを組むことになった。

ただし活動は週末限定で栃木、A東京などに比べると日数が少ない。部活をやりながら「バスケットの塾みたいなイメージ」(岡博章社長)でユースを掛け持ちする形態となり、強化チームとしては1周遅れのスタートになる。

立ち上げに当たって最大の難問は活動場所の確保だった。A東京はトップチームも使用する親会社の体育館が東京都の府中市にあり、ユースはそこで活動できる。横浜はスポンサーであるバディスポーツクラブの施設を使っている。栃木は数カ所の施設を使用しており、交通の便が悪い会場については選手の親が協力して送迎を行っていると聞く。

SR渋谷のトップチームは千葉県の「日立柏総合グラウンド」内にある体育館で普段の練習を行っている。親会社を同じくする柏レイソルのトップチーム、ユースチームとは「お隣さん」の関係だ。しかしSR渋谷は“シブヤ”にこだわった。

渋谷で活動するための苦労も

岡社長はこう説明する。「大河(正明・Bリーグ)チェアマンからは、レイソルのユースチームをぜひ参考モデルとしてやってほしいと話がありました。我々もそこを意識しながらやっていきたいと思っていますが、残念ながら今の我々はトップチームの練習会場と試合会場にまだ距離感がある。将来的には渋谷の街で完結できるようになれば、さらにいいものができる。我々はそういうモノをコツコツ目指していきたい」

渋谷区内は長谷部健区長が「区内のスポーツ施設は限られていて、使う人で一杯な状況」と説明する通りだ。オフィスや商店、住宅が密集する一等地に体育館を建設することは予算的にも容易でない。区立小は18校、区立中は8校あり、体育館が一般に開放される場合がある。しかしこの利用には「抽選」というプロセスが必要で、土日はどうしても競争率が高くなる。

クラブは区外も含めた高校バスケの指導者に対して「月1日でもご支援ご協力いただけませんか?」という連絡を行っていたという。要は「渡り鳥」の活動も覚悟していたということだが、今回は渋谷区側の紹介もあり、國學院との提携が決まった。

岡社長はこう振り返る。「高校と大学を上手く合わせれば、ひょっとしたら土日が埋まるんじゃないか?と(渋谷区に)検討して頂いた。日程、時間をクリアできそうということで今回の話になった」

学生(生徒)の使用に支障が出ない範囲で、土日の午後6時間に区切って施設を使えることになった。「山手線の内側」で練習できるアクセスは、他クラブに対する大きなアドバンテージだろう。

日本バスケが上昇するための環境とは?

「渋谷から世界で活躍する選手を育てていきたい」という理想を実現する環境が、十分に整ったということではない。トップとユースだけでなく、ファンや地域の住民も含めて「サンロッカーズファミリー」の集える場所が誕生することが最終的な理想だろう。ただそれをすぐ実現させることは不可能だし、渋谷という人口密集地にこだわって活動する以上は、相当な努力を重ねても当面は妥協が必要となる。

中学生にいい環境を用意しても、それがクラブの「稼ぎ」にすぐ結びつく話ではない。しかし今までの延長線上に日本バスケの上昇はない。世界レベルへ飛翔するためには、部活とクラブチームの二段エンジンが必要になる。指導者はもちろん施設の質もアメリカ、ヨーロッパの強豪国に近づける必要がある。

そういう未来に向けて、各クラブのユースチームが2018年から本格的に始動する。日本バスケにとって、長いストーリーの始まりだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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