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優男だけどタフ 宇都直輝がB1最長の「労働時間」で輝く理由

大島和人スポーツライター
17年5月のBリーグアウォーズでは「イケメン選手賞」を受賞(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

出場時間、アシストはB1トップ

富山グラウジーズの宇都直輝は、B1の誰よりも「長時間労働」をこなしているバスケットボール選手だ。2017-18シーズンの14試合を終えた時点で、平均プレータイムが34.6分とB1最長。11月11日の横浜ビー・コルセアーズ戦は通常の試合時間40分に5分のオーバータイム(延長戦)も加わって、彼は42分08秒もコートに立った。

ただ、11日の横浜戦で素晴らしかったのは何よりプレーの内容だ。宇都は30得点、9リバウンド、10アシストと主要スタッツですべてチーム最多を達成し、92-87の逆転勝利に貢献した。

宇都は17年3月19日の仙台89ERS戦で、Bリーグ史上初の「トリプルダブル」を達成したオールラウンダー。彼はスピードとしなやかな動きを活かしたドライブが強烈で、シュートとパスの上手さもあり、加えて跳躍力を活かしてリバウンドが取れる。11日の試合もリバウンドをあと1本取れていれば、彼としては2度目、Bリーグが開幕してからのべ4人目のトリプルダブルを達成できていた。

彼は昨季のアシスト王だが、今季のアシスト数も1試合平均「6.8」とやはりB1最多。1試合平均16.8得点はB1の6位で日本人最高。そんな記録を列挙するだけで、彼の凄味が伝わるだろう。また昨季の29.6分、4.2アシスト、9.4得点(すべて1試合平均)からも数字を伸ばしている。(※今季の記録は11月11日時点)

10アシストでターンオーバーは一つ

11日の前半は宇都が「僕が様子を見ちゃった部分がある」と振り返る展開で、富山は12点ビハインドで第2クォーターを終えた。しかし第3クォーター以降は「シュートタッチは良かったし、負けていたので得点が欲しい。だから自ら行った」という積極的なアタックを彼が見せる。後半の宇都は20分間のフル出場で、17得点を挙げた。

並外れたスタッツについて彼に問うと「試合に勝てたことが一番なので、スタッツは特に何でもいい」とクールに返しつつ、「ターンオーバーが1つだったので、それがすごい良かった」とプレーの『成功率』を喜ぶ。彼は「積極的に仕掛けつつミスはしない」という究極の両立に成功していた。

チームは第4クォーター「残り6秒」に大塚裕土が3ポイントシュートを決めて80-80と同点に追いついた。このアシストも宇都だったが、彼はタイムアウト後の指示と実際のプレーをこう振り返る。

「あれは僕が勝手にやりました。咄嗟の判断です。(大塚)裕土さんがコーナーでスリーを打つ予定だったんですけど、普通に考えて無理で、裕土さんがすぐ俺にパスバックした。それで自分がドライブすると見せかけてパスをしました」

「今は彼にとって幸せな時期」

今季から就任したミオドラグ・ライコビッチヘッドコーチは彼をポイントガードで起用し、富山を「宇都仕様」のチームに模様替えした。

セルビア出身の指揮官は宇都についてこう評する。「今は彼にとって幸せな時期だと思います。沢山試合に出て、代表にも選ばれている。そして彼は現時点で日本最高の選手の一人だと思います」

長時間出場について問うとこう説明する。「世界のリーグのスタッツを見れば分かると思いますが、(1試合に)35分プレーするのはあり得ることだと思っています。心配はしていません。コーチとしてはゲームの間の回復も大切だと思っていますが、彼にプレーをさせることは大切です」

リーグ戦と並行してW杯予選の準備も

指揮官も触れるように、宇都は11月24日から始まるワールドカップアジア1次予選に向けた代表チームへ招集されている。26才の彼はトヨタ自動車(現アルバルク東京)で出番に恵まれず、16-17シーズンから決してビッグクラブではない富山に移籍した選手。ブレイクは最近のことで、今夏にフリオ・ラマスヘッドコーチが就任するまで代表と縁がなかった。

宇都はリーグ戦の合間を縫って、直近なら10月30日(月)から11月1日(水)、11月6日(月)から11月8日(水)の短期合宿に参加している。13日(月)からも2泊3日の「第11次合宿」に参加する予定だ。彼の「労働」はBリーグの長時間出場だけではない。代表のハードなメニューをこなして試合の2日前、3日前にチームへ戻るという強行スケジュールをこなしている。

宇都について今まで「ひ弱」というイメージを持っていたファンがいるかもしれない。彼は16-17シーズンのBリーグアウォーズで「イケメン選手賞」を受賞したことでお馴染み。191センチ80キロというコンタクトスポーツらしからぬ華奢な体格で、見え方によっては女性的で色白な優男でもある。

ただ試合中のプレーやコミュニケーションを見れば、いい意味で「やんちゃ」な気が強いタイプであることも分かる。試合の後半やオーバータイムになっても繰り返し仕掛け続ける体力と闘志が示すように、彼はかなりの「タフガイ」「ハッスルマン」だ。

「いい意味でサボっている」の意味

ほとんどベンチに下がらず、オフェンスやリバウンドで強度の高い動きを繰り返す宇都を見て驚いたが、彼自身が戦術的な理由を説明してくれた。

「いい意味でサボっていいところがあって、そういうところでしっかり体力を回復しながらやれている。だから無駄なエネルギーを使わず、最後までいいプレーができているのかなと思います。例えばボール運びでプレッシャーを受けたら、僕でなく他の選手が運んでくれる。ディフェンスもチームのルールはしっかり守りつつ、川村(卓也/横浜)さんの特徴を把握しているので、それだけはしっかり意識してディフェンスした。でも全部守るのは無理という発想でやっている」

ボール運びは主にポイントガードの仕事だが、富山はドリュー・ヴァイニーのようなインサイドプレイヤーがその役目をシェアする。宇都が跳んでリバウンドを取るときは、デクスター・ピットマンのような屈強なセンターがボックスアウトの動きで彼を助ける。そういうサポートがあるからこそ、宇都も活躍できている。

代表での地位固めは「これから」だが、16人に絞られたサバイバルレースには残っている。最終登録の12人に入る可能性は決して小さくない。また宇都とポジションの被る田中大貴が11月4日の島根スサノオマジック戦で負傷。24日のフィリピン戦出場はおそらく「ギリギリ」になる。そんな事情を踏まえれば、宇都の出番もあるのではないだろうか?

今は宇都が富山の柱から「日本の柱」へと脱皮する前夜なのかもしれない。彼の成長と、代表も含めた活躍に期待したい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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