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Bリーグで活躍が目立つ「130キロ超級」のビッグマンたち

大島和人スポーツライター
昨季はB1の得点ランク2位に入ったダバンテ・ガードナー(新潟)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

B1でも珍しい130キロ超の純ビッグマン

男子レスリングのグレコローマンスタイルには「130キロ級」という階級がある。「超級」「無差別級」がないため、それを超える体重の選手は五輪に参加できない。もっともそんなに重いアスリートは相撲、柔道、アメフトなどの限られた種目でしか見かけない。

ただバスケットボールは2メートルを超す大男たちが15メートル×28メートルのコート狭しと走り回る種目だ。Bリーグを見るとほんの数人だが「130キロ超級」のビッグマンがいる。

Bリーグの2017-18シーズンは9月末に開幕した。今季はファストブレイク(速攻)を強調するチームが多い。センター、パワーフォワードといったインサイドでプレーする選手は主に外国籍だが機動力のある、外からシュートを打てるタイプが目立っている。

日本人選手を見ても純ビッグマンは太田敦也(三遠ネオフェニックス)くらい。竹内譲次(アルバルク東京)や永吉佑也(京都ハンナリーズ)といった2メートル級の選手たちもオールラウンドなプレーを見せている。そもそも日本バスケが世界で戦っていく上で、機動力で勝負するバスケを目指すことはおそらく正解だ。

しかしサッカーやラグビーといった他球技と同様に、バスケットの戦術的な「正解」は状況によって変化する。機動力で勝負をするチームは、得てしてパワー系との対峙で苦労しやすい。どんな球技も攻撃は相手を上回る強みがあって初めて機能するし、相手が同タイプだとアドバンテージを得にくい。今季のB1が速さに振れた結果として、少数派のパワー系はおそらくより目立つようになる。

150キロのスミスは千葉撃破に貢献

10月8日の千葉×京都戦では、京都が強豪・千葉を下している。京都のジョシュア・スミスは登録が208センチ・138キロ。本人が開幕戦後に告白したところでは150キロいう巨漢だ。見るからにオーバーウエイトで、8日のプレータイムは3名いる外国籍選手の中で最短の15分42秒だった。ただ、彼はそれでもチーム最多の15得点を記録して勝利の立役者になっている。千葉のギャビン・エドワーズ(206センチ・110キロ)、トニー・ガフニー(203センチ・97キロ)といった「走れて跳べる」インサイドプレイヤーに対して、ゴリゴリの突進が効いていた。

バスケットボールには3ポイントラインの内側、ゴール下に「ペイントエリア」と言われる制限区域がある。攻撃側は区域内に3秒以上は居続けられない規制がある一方で、チャージングの反則が適応されない。それ以外のファウル、バイオレーションは認められないが「背中や腰、胸で相手を押し込む」というような突進は認められる。

新潟のガードナーは2日で75得点

アルビレックス新潟BBのダバンテ・ガードナーも、9日、10日のA東京戦でペイントエリアの支配者となっていた。彼も203センチ・132キロというヘビー級で、しかも筋骨隆々の「ムキムキ」だ。彼は15年にNBLの西宮ストークスへ加入し、Bリーグ初年度の16-17シーズンから新潟でプレーしている。昨季は1試合平均で21.9ポイントを記録し、得点ランキングはニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)に次ぐ2位だった。

新潟の庄司和広ヘッドコーチ(HC)が「ボールを預けられる選手。細かいことをやるより、預けられてからのプレーが得意」と彼の強みを説明するように、ペイントエリア内でボールを預かってからのプレーが彼の真骨頂だ。

ガードナーは9日の緒戦で35得点を記録すると、10日の第2戦は40得点を決めた。なお10日の試合でガードナーは第4クォーター残り1分43秒に、この試合2度目のテクニカルファウルで退場している。プレー以外の「つまらないこと」さえなければ、B1最多記録の「1試合44得点」を更新する可能性があった。

決めた得点の多くが相手を背負ってパスを受け、3秒を使って相手を押し込み、フックシュートを沈めるという形。その迫力は試合の途中からは彼がペイント内でボールを持つとすぐ場内がどよめくほどだった。

新潟は10日の試合を延長戦の末に97-95とモノにしたが、そのうち52得点がペイント内から挙げたもの。相手のA東京は同エリア内からの得点が28得点だ。新潟がどれだけペイントの攻めに特化していたかが分かる。

ビッグマンの活用でミス、相手の速攻が減少

また新潟はガードナーに預けてじっくり攻めた結果として、オフェンスのミスを減らすことにも成功した。走りながらでなく止まっている選手にパスを出すのだから相対的に容易で、ガードナーは身体が強いから相手に付かれてシュートミス以外でボールを失うことがない。

試合を通したチームのターンオーバー数は5個という少なさで、不用意な失い方が少なければ相手の速攻も減る。A東京が10日の試合でファストブレイクから挙げた得点は何とゼロ。確実にプレーすることで不用意なボールロストが減り、速攻を受けるリスクを抑えることに成功している。

ガードナーの驚異的なスコアには、A東京が彼にダブルチームで対応しなかったという背景がある。A東京のルカ・パヴィチェヴィッチHCは「ガードナー選手についてある程度の失点は仕方ないと計算していた。ただ今日の試合については他の選手にも二桁得点がかなり出ていて、そこはもっと止められたと思う」と振り返る。つまりガードナー「だけ」が試合を決めたわけではない。ただし優勝候補の一角であるA東京に対して、ガードナーが最大の脅威となっていたことも確かだ。

B1の18チームを見ると数こそ少ないが重量級の魅力的な選手がいる。アイザック・バッツ(208センチ・133キロ)はシーホース三河の4強入りに貢献したBリーグ屈指のリバウンダーだ。富山グラウジーズのデクスター・ピットマンは208センチ・128キロとやや「軽量」だが、マイアミ・ヒートでNBAチャンピオンを経験した。学生時代は一時200キロ以上の体重があり、鶏肉やブロッコリーでダイエットした苦労人でもある。

バスケットボールには戦術や技術の魅力も当然あるのだが、130キロを超す大男たちがフルパワーで動き回る姿は他競技でなかなか味わえない醍醐味だ。そんなBリーグの「大物」に注目してみるのも、面白いのではないだろうか。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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