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B1昇格を逃した広島ドラゴンフライズの再出発

大島和人スポーツライター
写真=B.LEAGUE

B1昇格を逃した広島ドラゴンフライズ

9月29日、Bリーグの2017-18シーズンが開幕した。B2広島ドラゴンフライズのホーム戦は他チームよりやや遅れて、10月2日(月)と3日(火)に入っていた。

広島は2014年のNBL初年度からチームの活動を開始。初年度は西地区3位に入るなど善戦し、15年のオールジャパンでは準優勝にも輝いた。当時のアシスタントコーチだった大野篤史氏は現在、千葉ジェッツのヘッドコーチ(HC)を務めている。

B1初年度はB2に振り分けられ、西地区2位からワイルドカードでプレーオフ進出を果たした。勝てばB1昇格が決まった島根スサノオマジックとの準決勝は1勝1敗のタイから、10分間の延長時限に9-11と敗れてトップリーグ復帰を逃している。チーム創設時から指揮を執っていた佐古賢一HCは辞任し、日本代表のアシスタントコーチに転じた。そんな広島の再出発を見ておきたかった。

福島が広島に先勝

対戦相手の福島ファイヤーボンズも気になっていた。新たに昨季のB2で猛威を振るった216センチの元NBAプレイヤー、ソロモン・アラビが加入した。昨季の直接対決は福島の2敗だったが、2日の第1戦は89-75で福島が勝利してる。昨季の福島は30勝30敗で東地区3位にとどまったが、今季は期待できそうだ。

単純に「ドラゴンフライズの会場を経験したい」「広島サンプラザホールで試合が見たい」という興味もある。そこで広島vs福島の第2戦を取材することに決めた。

広島駅で新幹線を降りてコンコースに出ると「祝広島カープ」のディスプレイで構内が赤く染まっている。サッカーファンの中には野球を敵視する人もいるが、自分の知るサンフレッチェ広島ファンにはカープ嫌いが一人もいない。地元愛、地元のチームを応援するメンタリティがこの土地にはある。

ホームは広島サンプラザホール

広島駅から山陽本線に乗り換えて13分。新井口駅を出ると、そのままペデストリアンデッキが広がっていた。見ると立派な商業施設、公共施設が立ち並んでいる。「ザ・再開発」という計画的な町並みで、デッキを5分ほど歩き進むと広島サンプラザホールが見えてきた。広島電鉄の駅も使えるため、交通の便はかなり良い。

サンプラザホールは築32年と多少古いが、いい意味で「体育館っぽくない」施設。ビジョンがあり照明やスピーカーも備え付けられているようで、お客さん目線の設計だ。なお広島市中心部には「広島県立総合体育館(グリーンアリーナ)」という1万人規模の施設もあり、アリーナ的には恵まれた自治体なのかもしれない。

福島がリバウンドで圧倒 広島はプレスで対抗

B2は外国籍選手のオン・ザ・コート数が「1-2-1-2」で統一されている。それぞれのスタートはこういう顔ぶれだった。

広島ドラゴンフライズ

C クリント・チャップマン

PF 山田大治

SF 朝山正悟

SG 仲摩匠平

PG 北川弘

福島ファイヤーボンズ

C ソロモン・アラビ

PF 武藤修平

SF 川満寿史

SG 菅野翔太

PG 村上慎也

広島は第1クォーターを10-20とビハインドで終えたが、第2クォーターに入ってクリント・チャップマンが反転から後ろに重心をかけて沈める“ターンアラウンド・フェイドアウェイ”が面白いように決まる。広島は35-33と2点リードで前半20分を終えた。

前半のスタッツを見るとリバウンドは広島が「11本 対 20本」と圧倒されている。しかし厳しいプレッシャーで相手のミスを誘い、前半だけで14回のターンオーバーを強いた。それにより攻撃機会を五分としたことがカムバックにつながった。

広島は第3クォーターにもリードを広げたが、第4クォーターに再逆転を許す。残り2分46秒には福島の友利健哉に3ポイントシュートを決められて60-63とビハインドの展開になった。

残り1分から試合は二転三転

広島は残り1分1秒にケビン・コッツアーが決めて62-63と1点差まで追い上げるが、直後にコッツァーがファウルを犯す。フリースロー2投のうち1本を決められ、62-64とリードを拡げられた。

広島ベンチはここでタイムアウトを取る。勝負所でシュートを任されたのが36才の大ベテラン朝山正悟だった。

画像

写真=B.LEAGUE

ジェイムズ・アンドリセビッチHCはこう説明する。「朝山は経験豊富で安定していて、このチーム最高のシューター。今までもクラッチタイムでのシュートを経験してきている。決める確率が一番高いと思って彼を選びました」

残り40秒という時間も考える必要があった。シュートが外れる場合の想定も必要で、24秒ルールを考えて自分たちがオフェンスに使う時間を残す必要がある。朝山はボールが入ってすぐシュートを放ち、勝負のシュートを見事成功。残り37秒の逆転シュート!1097人のブースターが総立ちになって感情を爆発させる、劇的な場面だった。

しかし残り28秒のディフェンスで、朝山がアンスポーツマンライクファウルを犯してしまう。普通のファウルならばシュートが決まってもマイボールになるが、「アンスポ」は相手ボールのまま。福島のディオン・ジョーンズが2投を成功させたことで、福島が66-65とリードを奪い返し、しかも相手ボールからの再開となった。

ここで広島のハードなプレスが川満のミスを誘う。広島が一気の速攻に持ち込みチャプマンがダンク。立て続けのどんでん返しから、広島が67-66とリードチェンジに成功する。

残り21秒。福島ベンチもタイムアウトを取った。福島は時間を使い、残り7秒からジョーンズがジャンプショットを狙った。しかしこれを決め切れず、直後のリバウンドを広島のテレンス・ドリスドムがキープする。

福島はたまらずファウルを犯す。これも「アンスポ」になり広島にフリースロー2投と、再開後のポゼッションが与えられた。広島はドリスドムが2投中1本を成功し、そのまま68-66で逃げ切った。「広島まで来て良かった」と心から思える、そんな激闘だった。

福島がつかんだ自信

まず1戦目で広島を下し、2戦目も追い込んだ福島の強さを印象付けられる展開だった。福島の森山知広HCは「広島さんのプレッシャーに対して、ターンオーバーを21個してしまっている。リバウンドは勝っていて、3ポイントも2ポイントの確率や本数は変わらない。ミスで落としてしまったというところに尽きる」と悔いる。その一方で「我々はこういうバスケットというのを出せた時間帯も沢山あった。二つ取れたゲームだと思いますがビッグクラブに対してやれるという自信を持てた」と収穫も口にしていた。

福島にはB1三遠ネオフェニックスから川満寿史が、B2のファイティングイーグルス名古屋からアラビと武藤修平が加わった。特にサイズ面でのバージョンアップに成功しているし、それがリバウンドの圧倒にもつながっていた。

森山HCは「ウチは速いガードがいますし、いいシューターもいて、ビックマンが走れる。ソロモン・アラビはオフェンスリバウンドにも絡んでくれるので、彼がいることでシューター陣が外を安心して打てる」と陣容の充実を口にする。

もちろん指揮官が目指す「速いオールコートの展開をどんどん狙っていく」というスタイルの実現まで時間は必要だ。秋田ノーザンハピネッツ、仙台89ERSといった昨季はB1にいたクラブとの争いも楽ではない。しかし福島はプレーオフを狙い得るポテンシャルを持つチームだ。

広島のポイントガード不在

広島も当然ながら昇格候補の一角だ。ただし司令塔を任されていたポイントガード(PG)の鵤誠司が栃木ブレックスに移籍したことによる穴はある。PGの人選と起用をどう考えるか、ジェイムズ・アンドリセビッチHCに尋ねると、このような説明だった。

「ヒロ(北川)はここ数週間で飛躍的な成長を成し遂げて、PGのポジションに入ろうとしてくれている。ただ彼は生粋のPGというよりはコンボガード(PGとSGの兼務)で、自分でシュートも狙いに行くタイプ。ハンター・コートにもチャンスを与えたが、なかなかうまく機能しなかった。これからも改善していかなければいけない。

(テレンス)ドリスドムは現段階のベストオプションで、彼はクリエイトができてパスもさばける選手。しかしオン・ザ・コート1のとき、相手にアラビ選手のようなビッグマンがいる中でコートに立たせることは難しい。

今日は出場しなかった村上もこのポジションをこなせる選手。あと山田はパスをさばけて視野の広い選手なので、彼を中心に組み立てていくことも一つのオプションとして考えている。色々と組合せながら、生粋のPGがいないという問題を改善していきたい」

決して歯切れのいい答えではなかった。しかし色んな選手にチャンスを与えて経験を積ませ、組み合わせを試して「ベターな選択」を探し求めるしかない。そんな現実もよく分かる。3日の福島戦は60試合続くレギュラーシーズンの2戦目。チームはどうしても未熟だし、逆に言うとバスケのような長丁場のチームスポーツには「シーズン中に変化する」という楽しみもある。

勝負の醍醐味にB1とB2の差はない

しかしこの試合は楽しめた。カープのレギュラーシーズンが1日に終了し、18日のクライマックスシリーズ開幕まで試合がないという事情もあり、地元のテレビ局も揃って取材に駆けつけていた。このような熱戦が広く伝えられることは、クラブにとって最高のプロモーションとなるだろう。

熱戦に呼応したお客さんの「リアクション」も抜群で、記者席にいる自分も自然に気持ちが乗れる。「人が幸せになった姿を見ると自分も幸せになる」という、スポーツならではの幸せな相乗効果を味わった。きっとそういう勝負の醍醐味にB1とB2の差はない。

大河正明チェアマンに今季のB2について問うと「B1を脅かすB2がいくつ出てくるかが勝負。もちろん(B1から降格した)秋田や仙台はそうだけど、広島、熊本といったチームには期待したい」と述べていた。

Bリーグの初年度を振り返ると、15-16シーズから大きく観客数を伸ばしたB1と違い、B2のクラブは非連続的な成長を達成できなかった。しかしBリーグの中長期的な発展のためにはB2の活性化、底上げが必要になる。そういう意味でも広島の地域への定着、そして躍進には期待したい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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