スローインほど美味しいプレーはない

(写真:Action Images/アフロ)

改めて脚光を浴びるスローイン

今冬の高校サッカーで、スローインの猛威を改めて思い知らされた。1月3日の3回戦では青森山田が、DF原山海里の“レーザービーム”を活かして後半ロスタイムに劇的な同点弾を挙げている。

敗れた桐光学園の鈴木勝大監督は「フットボールで劣っていたとは思わない」と述べつつも「ハンドボールの文化も踏まえて勝負の中でもっと活用していかなければいけない。勝負の厳しさを改めて教わった」と“手を使ったプレー”の重要性を認める。

31日の1回戦でも矢板中央がDF真下瑞都のロングスローから同点ゴールを決め、大分を下す大きな決め手になった。大分の朴英雄監督は半ば呆れた様子で「スローインは参りましたね。どこでもフリーキックじゃないですか?あんなにFKを与えて、1点しか失点しなかったってことは頑張ったのかも(笑)『こういうのもありかな』と思いました」とスローイン論を語っていた。

スローインはフリーキックやコーナーキック、ゴールキックよりも回数の多いセットプレーだ。ただキックに比べれば球速、飛距離が落ちることもあり、そこまで重要視されるプレーではなかった。何より「サッカーは手を使わないスポーツ」という感覚が我々には根強くある。そもそもスローインの練習を全くしない指導者さえいるほどだ。

弱者の戦術からフットボールのスタンダードへ?

一方でロングスローを活かしたプレーをするチームもあった。イングランド・プレミアリーグには人間発射台の異名をとったロリー・デラップという“投手”がおり、2010年前後のストーク・シティFCはスローインから逆算した戦術を採用していた。

Jリーグにも岩上祐三(松本→大宮)、藤田直之(鳥栖→神戸)、水野晃樹(千葉)といった“剛腕”がいる。岩上、藤田、水野はいずれもやや小柄な選手。今回の選手権で強肩ぶりを見せている原山、真下も170cm台中盤だ。もちろん筋力も必要だろうが、スローインの球威は身体の反りやバランスと言った要素で決まる部分が大きい。水野にかつて飛距離の秘訣を聞いたときには「肩の可動域あたりではないか」と口にしていた。

日本にサッカー界で伝統的にロングスローをもっとも活かしているチーム――。それはJリーグでも高校サッカーでもなく、新座片山FC少年団という埼玉の小学生チームだ。エリート軍団であるJリーグの育成組織に対して「他のチームがやらないことは逆に武器になる。足元の上手なチームが多いので、こっちはボールを(地面に)落とさないでやろう」(鈴木慎一監督)というスタイルで結果を出している。2012年夏の全日本少年サッカーではスローインをフル活用し、全国制覇を成し遂げた。

スローインには“弱者の戦術”の側面がある。ボールの保持、試合の支配で勝てないチームが、エリア内のコンビネーションと高さで相手に一矢を報いる。ロングスローはこれまで主にそういう狙いで活かされてきた。しかし強者の戦術に“昇格”する日が来るかもしれない。

小学生はピッチの幅が50mで、Jリーグや高校サッカーの68mに比べてかなり狭い。だからスローインが効きやすいという状況もあった。ただ今年度の高校サッカーでは原山、真下ともに軽く40mは飛ばしている。加えて手は足よりもコントロールをつけやすいし、スローインはオフサイドがない。敵陣に少し入ればもうそこは“射程距離圏内”だ。

スローインは新座片山の鈴木監督も説明するように“他がやらないプレー”で、やってみれば高確率で結果の出る美味しいプレーだ。もちろん育成年代であればボールを蹴る、周りを見て判断するという基礎の習得を疎かにするべきでない。しかし勝利のためにこの“飛び道具”を活かさない手はない。そしてしっかり探せば“埋もれた好投手”がもっと出てくるのではないだろうか。

今回の選手権で改めてスローインを研究する指導者が増えるだろう。それはこれからの日本サッカーにとっても、興味深い挑戦になるはずだ。