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マタハラ・パタハラ・ケアハラのオールハラスメントを受けた男性が働く職場とは

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
落ち込む男性のイメージ(写真:アフロ)

●ダブルケアでパタハラ&ケアハラを受けることに

青木さん(仮名・男性)は正職員として夜勤のある職場で働いていた。実母が認知症を発症し、当時2歳になる子の育児もあり、ダブルケア(育児と介護の同時進行)の状況になった。直ぐに勤務先に報告し「保育園の送迎と介護の都合上、日勤(9〜18時の勤務)と週末に1回の夜勤で勤務させて欲しい」と申し出た。当初は渋々受け入れてくれたが、2ヶ月後に「他の職員に示しが付かないので、正職員で働くには早番遅番もやり、夜勤も月4回以上してもらわなければ困る。それが出来ないならパートになってもらうしかない。他の職員からも苦情がきている」と言われてしまった。現場の職員からは「早番遅番をやらなくても、日勤だけでも来てくれれば助かる」と言われていたし、月の夜勤の回数も他の職員と同じだった。にもかかわらず、何度交渉しても施設長からは「他の職員に示しが付かない。シフトが組みづらい」の一点張りだった。その後も交渉を続けなんとか正職員では留まっているが、勤務配慮が理由でボーナスは減額されてしまった。

●奥さんは同じ職場でマタハラを受ける

青木さんの奥さんは同じ職場に勤めていた。育休明けの復帰の際に、「育児があり当面夜勤が出来ない。できれば家庭の事情により土日に休みたい」と相談すると「パートでしか復帰はない」と言われ渋々パートになった。今なら「マタハラ」と認識できるが、その時(2014年)は「夜勤ができなければパート」というのは当然の流れで、他の育児を抱える女性は皆パートになっていた。二人目の子どもは欲しいけれど出産前後の生活は大丈夫なのか、とパートになり収入が大きく減ったことで奥さんの不安は募っていったという。

●オールハラスメントが起こっている職場とは

青木さんと奥さんが勤務する職場は” 特別養護老人ホーム”で、タイムカードは無く残業手当もついたことがない。深夜勤務に休憩時間も取れない。残業手当と深夜勤務については、2年以上前から職員会議等で職員全員の意見として増員等を要望してきたが、「運営基準は満たしている」として聞いてもらえることはなかった。慢性的な人手不足にもかかわらず、職員の仕事と生活の両立に対する配慮はなく離職者が後を絶たない。今年3月のニュースでは職員不足が理由で特別養護老人ホームの4分の1で空床が生じていると報じられているが、そもそも職員が働き続けることができない劣悪な環境の職場があることを今一度見つめ直していただきたい。

3月6日配信ニュース:特養の25%超に空床 人手不足で受け入れに支障 待機者が減少している地域も

●弁護士に聞いてみた!ボーナスの減額やパートへの降格は合法なのか?

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(photo倉持麟太郎弁護士)

東京圏雇用労働相談センター(TECC)の相談員である倉持麟太郎弁護士に聞いてみた。

施設との労働契約では「正職員は深夜勤務もある」と明記されているが、これを根拠にパートへの降格は合法なのか?育児の為の勤務配慮を理由に、給与、ボーナス等の減額は妥当なのか?

以下、倉持弁護士の見解----

そもそも「降格」という処分は、従業員と会社との雇用契約を前提に、その雇用契約に内在する「人事権」「懲戒権」として発動されるものです。つまり、今回であれば、あくまで「正社員」という雇用契約の範囲の中で、何らかの労働条件が人事権等に基づいて変更することがあったとしても、その前提たる「正社員」という契約自体を変更することは、もはや「正社員」契約に基づく人事権または懲戒権としての「降格」の枠を完全に超えており、違法です。(より法的に記述すれば、正社員は「期間の定めのない契約」であり、パートは基本的に「期間の定めのある契約」であるので、期間の定めの有無という契約の核心において性質が変更されております。)

また、育児の為の勤務配慮についても、改正男女雇用機会均等法の趣旨(男女雇用機会均等法11条の2)からしても、育児に関する勤務配慮を理由に減給等の労働条件を不利益に変更することは、許されないものといえます。

これらの場合、「当事者の合意」を重く見られることが多くあります。誰にも相談できない状態では、現状の職場で継続的に勤務するために、「どうしようもない」と従業員は考え、会社からの提案を飲んでしまいがちです。しかし、上記のように多くの場合、会社からの提案や処分は、違法である可能性が高いです。

泣き寝入りしたり、自分だけで判断することなく、すぐに専門家に相談してください。

----以上、倉持弁護士による見解。

相談窓口:東京圏雇用労働相談センター/TECC03-3582-8354月曜~土曜9:00~21:30

●優良企業はココが違う!シフトに人を合わすのではなく、人に合わせてシフトを組む!

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ポテトチップスやかっぱえびせんでお馴染みのカルビー(株)さんに取材させてもらったことがある。お菓子を作る工場では契約社員(準社員)も含め女性が半数を占める。工場勤務をする女性が育休から復帰し時短勤務をする場合、以前は日勤の短時間でも働ける事務所や品質管理のポジションに配置転換していた。育休復帰する人が少なかったときはこれが可能だったが、復帰後の時短勤務取得者が増えると配置転換先のポストがなくなり困った。

ところが、ある製造課長が新しいシフトを作り、育児で時短勤務している女性もラインに入れるように仕組みを変えた。時短勤務者全員と面談をして、どんな風に働きたいのかを聞き、それに合わせてシフトを組み替えたのだ。今までは育児勤務をする時の選択肢は、「休日は出ない」「何時間以上は働けない」というものだった。しかし、そういう申請をしていた人達に詳しくヒアリングすると「休日もたまにだったら」「この日なら残業できる」「週に1日くらいなら」と日によっては働けることが判明したそうだ。

上記の特別養護老人ホームのように「シフトに合わない勤務形態はシフトが組みづらいから認めない。だからパートになれ」ではなく、これからはオーダーメイドのシフト対応で、条件のある制約社員も働き続けられるようするべきだ。シフト作りに手間がかかったとしても、シフトさえ変えれば働ける人材を失う方が損失は大きいのは明白だ。

出典:先進企業の事例紹介

出典:小酒部さやか著書「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」

【補足】

●ファミリーハラスメント、オールハラスメントとは

「パタハラ」とはパタニティハラスメントの略で、男性が育児参加を通じて自らの父性(Paternity)を発揮する権利や機会を侵害されることをいう。「ケアハラ」とはケアハラスメントの略で、家族の介護をしている介護者に対して仕事と介護を両立しようとする状況を侵害されることをいう。「ファミハラ」とはファミリーハラスメントの略で、仕事と家庭の両立を認めないマタハラ・パタハラ・ケアハラの総称をいう。1つのハラスメントがある職場は、オールハラスメント=その他のあらゆるハラスメントが起こる可能性が高い。

参考資料:パタハラ・ケアハラとは/マタハラと周辺ハラスメントの関係

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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