『MGC』、東京五輪マラソン日本代表決定戦に込められた「お家芸復活」への秘策

日本陸連マラソン強化・戦略プロジェクト瀬古利彦リーダー(撮影:小野寺俊明)

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東京五輪のマラソン日本代表はどうやって決まる?

9月15日(日)に行われる、東京五輪の男女マラソン代表決定戦である『MGC』(マラソングランドチャンピオンシップ)。朝8時50分に男子が、9時10分には女子がスタートする。

このMGCで1・2位に入れば、東京五輪代表に内定する。コースは東京五輪の本番と同じ。但し、本番でスタート/フィニッシュとなる新国立競技場がまだ完成していないため、近くの明治神宮外苑の『いちょう並木』が発着となる。

『MGC』に出場できる条件

MGCに出場する選手、男子31名(出場辞退3名を除く)、女子12名(出場辞退3名を除く)は、以下の2つの方法で選ばれた。

◆『MGCシリーズ』で好成績

2017年夏~2019年春の2シーズンに行われた男子5大会(北海道、福岡国際、別府大分毎日、東京、びわ湖毎日)の合計10レース、女子4大会(北海道、さいたま国際、大阪国際女子、名古屋ウィメンズ)の合計8レースで、レース毎に設定された順位とタイムをクリアした選手。

◆ワイルドカードで好成績

2017年8月1日~2019年4月30日までの「国際陸上競技連盟が世界記録を公認する競技会」で男子が2時間08分30秒以内、女子が2時間24分00秒以内の記録を出した選手。もしくは、期間内の上位2つの記録の平均が、男子が2時間11分00秒以内、女子が2時間28分00秒以内の選手。

さらに以下の大会で条件を満たした選手もワイルドカードで出場となった。

・2017年世界陸上競技選手権大会(ロンドン)8位以上の入賞者

・2018年アジア競技大会(ジャカルタ)3位以上の入賞者

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『MGC』プロジェクトの狙い

今回の東京五輪代表を決めるMGCプロジェクトは、単に日本代表を選考する仕組みだけでなく、様々な狙いが込められたものだった。マラソン強化・戦略プロジェクト瀬古利彦リーダーが語ったポイントは大きく2つ。

1つは「東京五輪で活躍できる選手を選考する仕組み」、そしてもう1つが「選手たちがマラソンに取り組みやすい環境づくり」ということだった。

夏のマラソン、そしてプレッシャーのかかる本番で戦える選手を選ぶ

まず、1つ目の五輪で活躍できる選手を選ぶことについて、瀬古リーダーは「これまでの選考方法では、冬場のマラソンで1回だけ好記録を出した選手が選ばれることも多かった」。

そのため、今回はMGCに出場できる条件を決め、それをクリアした選手が集まる大会を作った。瀬古リーダーは「この人なら間違いないという仕組みを作りたかったので、予選をやって勝ち残るという形にした。何度もプレッシャーのかかる中で走らせて、実力を備えている人を選びたかった」。

そして、「最近の五輪や世界選手権は暑い時期にやることがほとんど。冬のマラソンと夏のマラソンは全然違うもの。冬に走れても、夏に走れるのかという疑問は残る。本番に近い時期に、本番と同じコースでMGCをやることは、それに対する答えでもある」と語った。

また、今までにない、夏に真剣勝負のレースを経験することは選手にとっても大きい。「夏のマラソンを経験する選手がいることが、2020年以降も日本選手が五輪や世界選手権で活躍するための財産になる」と瀬古リーダー。

そして、MGCで出場が決まった男女2名ずつの選手は、東京五輪まで1年間じっくり準備に取り組むことができる。これもMGCの大きな効果の1つだろう。

3人目の選考方法

東京五輪代表の男女2名ずつはMGCで決まるが、3人目の代表は『MGCファイナルチャレンジ』と呼ばれる、2019年冬から2020年春に行われる男女3大会で派遣設定記録を上回り、最も速いタイムを出した選手が選ばれる。派遣設定記録を上回る選手が出なければ、MGCで3位の選手が代表となる仕組みだ。

・男子:福岡国際、東京、びわ湖毎日(派遣設定記録:2時間05分49秒)

・女子:さいたま国際、大阪国際女子、名古屋ウィメンズ(派遣設定記録:2時間22分22秒)

この派遣設定記録は、男子が日本記録(大迫傑)を上回るタイム、女子が2017年8月以降で最も速かった、2時間22分23秒(松田瑞生)を上回るタイムで、日本歴代8位相当に設定されていて、非常に高いハードルと言える。

「MGCでダメだった人もこの後、ファイナルチャレンジに行ける。現場のコーチの話も参考にしてタイムを決めた。冬のレースとはいえ、大迫傑選手の日本記録や松田瑞生選手の記録を破ったら誰も文句を言わない」と瀬古リーダー。MGCで敗れた選手には敗者復活の機会、MGCに間に合わなかった新鋭にもラストチャンスを残す仕組みとなった。

選手たちがマラソンに取り組みやすい環境づくり

もう1つ、瀬古リーダーが考えたのが、このMGCを通じて、マラソンに挑戦する選手を増やす、育成の仕組みを作ることだった。特に男子は箱根駅伝があり、いい長距離ランナーがたくさんいるが、その選手たちが必ずしも本格的にマラソンに取り組んでいたわけではなかった。

「マラソン選手を作るには最低3年かかる。2017年にスタートしなければ、東京五輪に間に合わないので、急いでMGCの仕組みを作った」。東京五輪というビックイベントの選考レースが3年前から始まったことで、MGCは注目を集めた。それにより、駅伝を中心としていた選手や指導者が、マラソンに取り組むことをあと押しした。

「特に大迫選手と設楽悠太選手。トラック種目(10000mなど)でリオ五輪に行った2人がマラソン挑戦を始めて、さらに日本記録を出したことが大きかった。同じ箱根世代が刺激、影響を受けて、マラソンに取り組む選手が増えた」と瀬古リーダー。

さらにMGCの仕組みにもマラソンに挑戦しやすい条件がうまく入っている。それが『ワイルドカード』での出場枠で、「国際陸上競技連盟が世界記録を公認する競技会で、上位2つの記録の平均が、男子が2時間11分00秒以内、女子が2時間28分00秒以内の選手」。

この記録で世界と戦うのは厳しいが、瀬古リーダーは「男子の2時間10分台、女子の27分台が高いかどうかは別として、初マラソンでも狙えるタイムにして、『自分たちも』と思って、マラソンを始める1つのきっかけを与えたかった」。しかも2回の平均というのがポイントで、つまり最低2度のレースを経験して、MGCに挑む事になり、マラソンでの経験を積む事ができる。

日本のお家芸、復活に向けて

今回のプロジェクトをスタートさせた3年前、瀬古リーダーは不安だったという。「リオ五輪の時で、MGCのルールを当てはめたら男子15名、女子12名だった。今回のMGCに参加できる選手が20名出るかどうかを心配していた」と話す。

しかし、今回の出場者を見て、「3年前にMGCのプロジェクトを立ち上げて、最終的に、こういう選手がMGCに出れば強化はうまくいっているな、という選手が揃った。女子は人数が少し足りないが、トップ選手はみんな入った」。

最後に、今後も五輪代表選考ではこの方式で行くのかを尋ねたところ、「今後については何も決まっていないが、個人的にはいい方向で来ているので続けたい。期間中に男子で2度も日本記録が出るなど、想像以上の成果が出ているので次に繋がる」。

そして、「実業団のチームや指導者も、MGCでマラソンをやりやすい環境ができたと思っている。箱根で活躍した若い人たちも出てきてくれている。日本のお家芸が復活して、その火を消さないためにもがんばる。マラソンを応援してくれる環境を作るのが我々の仕事」と瀬古リーダー。

今回の『MGC』が目指したもの。それは東京五輪の代表選考だけではなく、日本のお家芸だったマラソン復活を目指す、環境や育成の仕組み作りだった。

★MGC公式サイト

※MGC ロゴ提供:公益財団法人 日本陸上競技連盟