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米粉麺「う米めん」が、会社と社会のピンチを救う!?/アルファ電子株式会社 樽川千香子さん

岡沼美樹恵フリーランスライター/編集者/翻訳者
アルファ電子株式会社の専務を務める樽川千香子さん

三姉妹の真ん中で、継ぐ気なし!

そんな彼女を変えたのは、震災だった

福島県天栄村。ここに本社を構えるアルファ電子株式会社。2023年に事業を継承し、3代目として辣腕をふるうことになるのが、今回のものがたりの主役・樽川千香子さん。

電子部品製造の3代目ということは、バリバリの“リケジョ”なのかと思いきや、「全然です!私、前職は介護のお仕事してたんです。3人姉妹の真ん中だし、継ぐ気なんて全然なかったんです」と、樽川さんは、はじけるような笑顔で話します。

創業家に生まれた樽川さんは、福祉系の短大を卒業した後、介護の道へ。「結婚して、なかなか子どもができなくて不妊治療しながら仕事を続けてきました。それで、子どもがやっとできて産んだと思ったら、その3カ月後に東日本大震災が起こりました。あの時は、まだ何が正しくて間違いなのかわからないし、テレビでは毎日放射能のことばかり報道するし、でも放射能は目に見えないし…で、精神的に参ってしまって。それで、乳飲み子を連れて、新潟に母子避難することになりました。そして、そこで全部が変わったんです」。

守るべき娘の存在が、

彼女を福島へ、会社へと戻した

樽川さんの留守中、次期後継者としてお父様の右腕となっていたのは、夫でした。

「会社を守ってくれていたけれど、避難生活を送る中で、いろいろと考えることがあって。会社のことに向き合ってみると、『逃げていちゃダメだ』と思うようになりました。新潟で出会った方たちといろいろな話をするうちに、『私が継ぐ』という選択肢が出てきたんですね。それで2015年に福島に戻り、父と話しをして、『私が継ぎたい。そして夫との離婚を許してほしい』と告げました」。

こうして、父の会社に入社した樽川さん。当時は、震災の影響もあって、会社に明るい兆しは皆無でした。「電子部品関係であっても、『福島で製品を作ってほしくない』と言われました。それが現実だったんです。それもあって、父は栃木に事業所を出したのですが、3か月後には全ての仕事を引き上げられてしまって。もしかしかたら、タイミングを見計らっていたのかもしれないですけれどね。東電からの保証金もなくなり、『これはまずい。今の業態の事業だけでは、頭打ちになってしまう』と、新規事業の必要性を感じました」。

郡山にあるラボでお話を伺いました。実は、「う米めん」以外に、アルファ電子ではきくらげの栽培もおこなっています
郡山にあるラボでお話を伺いました。実は、「う米めん」以外に、アルファ電子ではきくらげの栽培もおこなっています

クライアントの計画に左右されない仕事を!

自社製品の開発に取り組むも…

電子部品の製造は、クライアントの事業計画に大きく左右されるだけではなく、人の手作業でものづくりを行うため「収入のほとんどが、労務費に消えていくんです。これはもう、業態を変えないといけないと考え、自社商品づくりに取り組むことにしたんです」。

最初に挑戦したのは、電子機器でした。しかし、大きな壁が立ちはだかります。「超音波で体を温める機械を大学との共同研究で作ろうとしました。クラファンで600万円ほど集まったのですが、製造に必要なのは3000万だったんです。電子機器は、資金、人、技術、設備も必要で、本当に難しい。そこで、これまでの自分のご縁や努力でできる商品づくりに切り替えたんです。私は、食べることが好きだし、女性、そして母であることを生かせないかと考えました」。

大学教授の力も借りながら完成させた「う米めん」
大学教授の力も借りながら完成させた「う米めん」

そのとき、樽川さんがアドバイスを仰いだのは、新潟でお世話になった方だったといいます。

「『佐渡で、電子部品の会社が米粉の生産に取り組んでいるよ』と教えてくださって。すぐに現地に伺って、米粉の可能性に驚きました。米粉のパン、麺、スイーツなどを食べさせていただいて、まずそのおいしさに感動したんです。それで、すぐに福島に持ち帰って、父に相談しました。理不尽すぎることが立て続けに起こっていて、父も疲れちゃってたんでしょうね。ましてや、育てていた後継者を娘の離婚で失うことになったし(笑)。きっと、ダメでもともとくらいの感じなのか、やぶれかぶれだったのか(笑)。でも、ここから点と点が繋がっていくんです」。

福島の米を使った米粉の麺「う米めん」を完成させ、新東北みやげコンテスト(仙台市産業振興事業団)でアイデア特別賞を受賞。また、異業種への参入、挑戦というアクションに対し、ふくしまベンチャーアワード2021特別賞、第6回ふくしま産業賞・福島民報社奨励賞を受賞。

「う米めん」が会社と、地域の光明に

「会社も本当にどうしようもないときで、この『う米めん』がひとつの光になったんです。そして、これを本気でやったときに、日本が抱えている『コメ余り』の課題も解決できるかもしれない。私たちが麺を作るためにお米を仕入れると、『新規需要米』として、農家さんは国から助成金がもらえるんです。その分、私たちは農家さんからお米を安価に購入でき、また、『今年は何トン作ってくださいね』と契約するので、お米が余らない。そういう風な農家さんを増やしていければ、農家さんはお米が余ってしまうのではないか…という不安を持たずにお米を栽培できます。農商工の連携で、社会課題の解決にも役立てたらうれしいですよね。みんなが、それぞれの立場で、得意なことをするのがいいんだと思うんです。この問題は、どこかだけが頑張ってもうまくいかないから」。

会社の業績に貢献し、社会課題の解決も目指す―。樽川さんは「大きなことはできないけど、着々とやることで、福島の復興にも寄与できるのではないかと思っています。短大卒業して介護の仕事をして、ずっと自分のよさがどこにあるのかわからなかったけれど、娘が生まれて守るべきものができたときに、スイッチが入ったんだと思うんです。やっとできたこの子を、何が何でも守るって。母子避難をしたことは、私の決断だったけれど、それが正解だったのかどうかはわかりません。でも、そこにいかなかったら、私の人生を変える人、言葉、米粉にも出合えなかったし、会社もつぶれてたと思うんです」と話します。

幼子を抱えての離婚に不安がなかったか―そう聞くと樽川さんは「だって、笑顔でいたいじゃないですか。いつも喧嘩したり、泣いたりするお母さんを見て育ったら、この子がどうなるかを考えたんです」。

自慢の一品「う米めん」。活用の幅が広く、アレルギーのあるお子さんも安心して食べられます
自慢の一品「う米めん」。活用の幅が広く、アレルギーのあるお子さんも安心して食べられます

また、米粉の麺をつくるきっかけになったのも、娘さんの存在が大きかったといいます。

「離乳食を始めたときに、小麦と大豆のアレルギーあって、何も食べさせられなかったんです。3歳くらいで全部クリアできたのですが、『小麦って、こんないろんなものに入ってるんだ!』ってびっくりしたんですよね。この『う米めん』を出したら、『そうめんやうどん食べたことない子が初めて食べられた』とおっしゃっていただいて。実際の声を聞くと、やってよかった! って心から思います。8月に稼働する自社工場では麺帯から作るので、ピザシートや餃子の皮などそこから波及する製品もつくれると思うんです」。

「う米めん」でつくった品々。麺がもちもちでおいしいので、どんなアレンジでもGOOD!
「う米めん」でつくった品々。麺がもちもちでおいしいので、どんなアレンジでもGOOD!

来年の事業承継に向けて、キャリアコンサルタントの資格も取得。従業員のみなさんとのコミュニケーションも欠かしません。

「介護で心理学も学んでいましたが、資格をもって話しをするのとでは違うかなと思いまして。ここで働く人たちの人生が豊かになればいいなと思いながら、仕事をしています。私、昔、マザーテレサに憧れたんですね。世の中に困っている人が多ければ多いほど、私、がんばれるんです!」。

新たなリーダーのもとで、アルファ電子がどのような成長を遂げるのか、楽しみです。

樽川さんが科学的根拠に基づいて開発した、絶品の米粉麺「う米めん」の誕生のものがたりは、ウェブメディア「暮らす仙台」で読むことができます。こちらも、ぜひご覧ください。

アルファ電子株式会社(う米めん)

福島県岩瀬郡天栄村大字飯豊字向原60-2

0120-400-106

う米めんは、Amazonでも購入できます。

撮影:堀田祐介

フリーランスライター/編集者/翻訳者

大学卒業後、株式会社東京ニュース通信社に入社。編集局でテレビ誌の制作に携わり、その後仙台でフリーランスに。雑誌、新聞、ウェブでエンターテインメント、スポーツ、広告、ビジネスなど幅広いジャンルの執筆活動を行う。2016年よりウェブメディア「暮らす仙台」で東北のよいもの・よいことを発信。ローカルビジネスの発展に注力している。好きなものは、旅、おいしいものを食べること、筋トレ、お酒、こけし、猫と犬。夢は、クリスマスのニューヨーク・セントラルパークでスケートをすること。妄想は、そのスケートのお相手がジム・カヴィーゼルだということ。

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