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目指すは、日本一従業員満足度が高い飲食店をつくること/すずや 鈴木義和さん

岡沼美樹恵フリーランスライター/編集者/翻訳者
「すずや」オーナーの鈴木義和さん

仙台市中心部。昭和レトロな雰囲気を今に残す「文化横丁」に暖簾を構える人気の甘味処があります。それが、「甘味処すずや」です。2019年にテイクアウト専門店としてオープンし、2020年10月に現在の店舗にイートインも可能な甘味処として移転オープンしました。

セレクトショップスタッフから、

飲食の道へ―

今回紹介するのは、この店のオーナーである鈴木義和さん。

生まれも育ちも仙台で、高校卒業後、有名セレクトショップの店員として働き始めます。

「もともと洋服の販売をしていたから、洋服屋をやるつもりでいたんです。人と一緒に組織を作りたかったから。でも、どんどん洋服が売れなくなっていって、ファストファッションも出てきて。洋服だと、趣味の世界になっちゃうなって思ってね。飲食にも興味があったから、知り合いの店を手伝わせてもらって。洋服屋を辞めて、2年準備して、ここが見つかったんですよ」。

現在ECサイトで販売中の「もなかキット」
現在ECサイトで販売中の「もなかキット」

その「ここ」というのが、現在「すずや」になっている場所。かつて鈴木さんが経営していた、人気店「ワイン食堂 enji」があった場所です。「街なかで遊んできた人間として、人が会える場所を作りたかったんですよね」。こうしてオープンした「enji」は、仙台屈指の人気店として、夜な夜な東北中のエッジィな人々が集まり賑わいを見せていました。さらには仙台市中心部の別の場所に「居酒屋エンジ」「つばめの巣」と多店舗展開を行うまでに。しかしながら、多忙を極めた鈴木さんは「仕事が楽しくない」と思うようになってしまったといいます。

「仕事が楽しくない」

そんなときに舞い込んだテイクアウト専門店のハナシ

そんな折に知人から持ち掛けられたのが、あるイベントスペースの活用についての話でした。

「知り合いから、テイクアウト専門のフードサービスができないかって相談されたんですよ。飲食の経営を始めて10年のタイミングだったんですけど、当時、忙しすぎたせいで、仕事が楽しいと思えなくなってたから。もう、つぶれちゃってもいいから、とにかく、好きなこと、楽しいことだけやろうって思って」。

大の甘党だという鈴木さん。あんこは季節によって炊き方を変えるのだとか
大の甘党だという鈴木さん。あんこは季節によって炊き方を変えるのだとか

そう決意した鈴木さんは、自分が大の甘党であることから、enjiの看板スイーツ「ずんだカタラーナ」を使用したもなかのテイクアウト専門店を考案。餡をもなかの皮で包まず、“見せるもなか”で勝負することにしました。最初はなかなか認知してもらえませんでしたが、イチゴの季節に大きなイチゴを乗せたもなかをつくったところ、これが若い女性を中心に大変な評判に。店は連日の大行列の超人気店となりますが、ご近所への配慮と「イートインスペースをつくりたい」という鈴木さんの思いもあって、移転を決意。場所は、鈴木さんが営んでいた「ワイン食堂 enji」でした。

じっくり時間をかけて味わう

極上スイーツをオンラインで

こうしてテイクアウト専門店だった「すずや」は、イートインもできる甘味処として生まれ変わりました。この夏には、ECサイトもオープンし、全国のお客さまにこだわりのお菓子を届けることができるようになりました。「ECサイトをつくったのは、たくさん売れることが目的ではないんです。みんなが飛びつく商品ではなく、じっくり家族とかで楽しんでもらえるものを届けたかった。長年続いていくものをやろう、そういう思いでつくったんです」。

鈴木さんのその言葉通り、ECサイトには、お客さま自身の手で完成させることができる「もなかキット」や、丁寧に丁寧に仕込んだ自慢のあんこ、enjiのシグニチャーメニューでもあった「ずんだカタラーナ」など、ゆっくり味わってほしい逸品たちが並びます。

「あずきのカタラーナ」(左)とenji時代からのシグニチャーメニュー「ずんだカタラーナ」。どちらもECサイトで購入可能です
「あずきのカタラーナ」(左)とenji時代からのシグニチャーメニュー「ずんだカタラーナ」。どちらもECサイトで購入可能です

さらに、この「すずや」の実店舗での成功を受け、大型ショッピングモールから出店のオファーも受けているのだそう。

「僕、捨て身になったのが初めてなんですよ。これまでは、バランスとってギリギリつぶれない線でやってきたから。でも、初めて自分を素直に表現できたのが『すずや』で。だから、楽しいことを追求していけばいいんだと思うんですよね」。

今、鈴木さんが目指しているのは、日本一従業員満足度が高い飲食店をつくること。「一緒にやってくれてる人がワクワクしてくれるのが一番。社員やスタッフになってくれた人たちが、満足するような現場を作りたい。休みたいときに『じゃ、今日は休もっか』っていえる店」。

和テイストのマカロン。ギフトやお遣い物にもぴったりです
和テイストのマカロン。ギフトやお遣い物にもぴったりです

「自分にはゴールがないんですよ。決めたほうがいいのかなとは思っているんだけど」と軽快に笑う鈴木さん。「やりたいことはいっぱいあって、『次これ、その次これ』って。だから、一向にお金は貯まらないですね。すぐ次のコトに使っちゃうから(笑)」。

全てを辞めてしまおうと思った時期を経て、今また新たな景色を見ている鈴木さん。

「次に楽しくないって思ったら、全部やめようって思ってるんです。だから、楽しいと思うことだけする。スタッフにも『楽しくないって思ったら、逃げなさい』って言ってるから。目的があって頑張るのはいいけど、意味のない辛さはいらないです」。

軽やかに、真剣に―。

鈴木さんは、この仙台から、飲食の常識を変えていくかもしれません。

すずや

仙台市青葉区一番町2-3-37

022-748-5877

enji.sendai@gmail.com

写真:すべて「すずや」提供

フリーランスライター/編集者/翻訳者

大学卒業後、株式会社東京ニュース通信社に入社。編集局でテレビ誌の制作に携わり、その後仙台でフリーランスに。雑誌、新聞、ウェブでエンターテインメント、スポーツ、広告、ビジネスなど幅広いジャンルの執筆活動を行う。2016年よりウェブメディア「暮らす仙台」で東北のよいもの・よいことを発信。ローカルビジネスの発展に注力している。好きなものは、旅、おいしいものを食べること、筋トレ、お酒、こけし、猫と犬。夢は、クリスマスのニューヨーク・セントラルパークでスケートをすること。妄想は、そのスケートのお相手がジム・カヴィーゼルだということ。

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