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【能登半島地震】石川で最大300万円の臨時特例給付金や利子助成はじまる 差押禁止特例法も成立

岡本正銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)
石川県地域福祉推進支援臨時特例給付金チラシ(第1弾)

石川県6市町の被災世帯へ「新たな交付金制度」

2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」。国による復興支援策「新たな交付金制度」(能登地域6市町向けの地域福祉推進支援臨時特例交付金)を財源として、対象世帯へ最大300万円「石川県地域福祉推進支援臨時特例給付金」が支給されることになりました。恒久的な法整備には至らず、能登半島地震限りの予算措置です。また、これらを差押禁止とする特例法も成立しました。

対象世帯には一定条件があり、被災地から要望されていた全世帯一律給付とはなりませんでした。地域は、石川県の「珠洲市」「能登町」「輪島市」「穴水町」「志賀町」「七尾市」の6市町に限られます。属性も高齢者・障害者のいる世帯や、資金借入・返済困難とされる類型に該当する世帯のみが対象です。政府は「高齢化が著しく進み、半島という地理的制約から住み慣れた地を離れて避難を余儀なくされている方も多いなど、地域コミュニティの再生が乗り越えるべき大きな課題となっている能登地域の実情・特徴」という説明により、地域や属性を限定したと説明しました。

なお、過去の災害との関係で特例支援それ自体が不公平だという声も時々耳にしますが、支援内容に差が出るのは、時代背景や被災態様に応じて施策を検討した結果ですので、批判は的外れです。先人たちが災害の都度、新たな支援制度を積み上げてきてくれたからこそ今があります。将来の大規模災害に備え、子供たちへ充実した支援の実績を繋ぐことが私たちの役割です。

対象は高齢者世帯や一部の現役世帯

石川県地域福祉推進支援臨時特例給付金による支援対象は、能登地域6市町で住宅半壊以上の被災をした世帯のうち、『高齢者・障害者のいる世帯』(高齢者等世帯)『資金の借入や返済が容易でないと見込まれる世帯』(現役世帯)に該当した場合です。この『資金の借入や返済が容易でない』とは、以下の場合をいいます。

(1) 住民税非課税世帯・住民税均等割のみ課税世帯(含む災害減免により住民税が全額免除になる者がいる世帯)
(2) 能登半島地震の影響を受けて家計が急変し(1)の世帯と同様の事情にあると認められる世帯(家計急変世帯)
(3) 児童扶養手当の受給世帯
(4) 能登半島地震の影響を受けて離職・廃業した者がいる世帯
(5) 一定のローン残高がある世帯
(6) その他の類似の事情があると認められた世帯

相当数の対象者については、すでに県や市町側が保有している情報から職権で把握できます。石川県が市町の支援のために構築した「被災者データベース」「被災者台帳」による市町間の情報共有システムをフル活用し、行政側から対象者へ漏れのないアウトリーチ支援やプッシュ型給付をすることが重要になってきます。

臨時特例給付金の内容は大きく分けて2段階で最大300万円の給付

支援内容は、大きく2段階に分かれています。

第1段階の支援は「家財等支援」です。

■家財等給付金  50万円
■自動車給付金  50万円

「家財等支援」で最大100万円の現金給付支援を受けられます。これらは、自宅や自動車が被害を受けたことに対する給付です。なお「自動車給付金」(自動車購入給付金)ですが、実際に新しい自動車を購入する必要はなく、被害を受けた自動車の廃車の確認で足ります。

第2段階の支援は「住宅再建支援」です。

■建設・購入・補修  最大200万円
■賃借        最大100万円

「住宅再建支援」で最大200万円の現金給付支援を受けられます。これは、住宅再建や次の住まいの確保が前提となりますので、多くの方にとっては、かなり時間が経過してからの申請になるでしょう。忘れることがないようにしなければなりません。特に県や市町からのアウトリーチによる給付漏れの防止が重要です。

石川県地域福祉推進支援臨時特例給付金チラシ(第1弾・2024年4月)
石川県地域福祉推進支援臨時特例給付金チラシ(第1弾・2024年4月)

申請手続を不要とするスキームに期待

支援漏れを防ぐべく、かねてより「申請主義の壁」を打破すべきことを国に提言してきました。通常、このような給付金は、窓口に個別の申請手続きをしない限り給付されないのが原則的運用だからです。そうしたところ、まず、定額の家財等給付金50万円は、被災者生活再建支援金の基礎支援金の受給世帯と重なるので、高齢者や障害者のいる世帯へは「支給通知」を送付することになり、個別申請手続きを不要としました。児童扶養手当受給世帯についても、行政が保有する情報を活用し申請手続不要で支給できるしくみとしました。プッシュ型支払いが実現したのは、石川県の構築した「被災者データベース」の効果もあったと言えるのではないでしょうか。このように、一部では「申請主義の壁」を取り払う取組みがうかがえ、画期的な実績になるのではないかと期待しています。なお、家計急変世帯など行政側で給付対象を特定できない場合や、自動車購入給付金などは、申請が必要ですので今後整備される窓口情報に留意してください。

借入ができる世帯では最大300万円の自宅再建利子助成事業給付金

石川県では独自に最大300万円の「自宅再建利子助成事業給付金」を予算措置しています。石川県全域が対象なので、先の6市町に限られません。

支援対象は、石川県内の「半壊以上」の世帯で、県内で住宅の「新築、購入、又は補修」を行う世帯です。収入要件があり、給与収入のみの世帯は原則年収600万円以内、それ以外の収入がある世帯は年収440万円以内が対象です。しかし、子育て世帯(=23歳未満を扶養する世帯)は所得制限をしない扱いです。

支援内容は、自宅の再建等のための住宅ローン等の利子分への助成です。最大300万円を一括前払給付で助成しますので、かなり使い勝手のよい助成金だと言えます。石川県の「若者・子育て世帯をはじめ、資金の借入により住宅を再建しようとする世帯についても、足下の物価・金利情勢を踏まえた、臨時特例交付金と遜色ない対応が必要である」との考えから予算措置されました。

現役世代では、ローンを組めない世帯では「臨時特例交付金」、実際にローンを組む世帯では「自宅再建利子助成事業」という支援のパターンになります。住宅再建を目指す子育て世帯にとっては、石川県内では地域による支援格差はかなり解消されていると評価できます。

石川県災害対策本部員会議(第45回・2024年4月2日)資料より
石川県災害対策本部員会議(第45回・2024年4月2日)資料より

自然災害債務整理ガイドライン(被災ローン減免制度)と組み合わせて

能登半島地震発生の影響で既存のローンが支払えなくなってしまった個人は、「自然災害債務整理ガイドライン」の利用の可否を必ず検討してください。条件を満たす場合、ローンの減免が可能となる手続きです。信用情報(ブラックリスト)登録がされない、連帯保証人に請求が行かない、登録支援専門家(弁護士)のサポートを無償で受けることができる、現預金500万円・保険金の一部・差押禁止財産などの財産を手元に残すことができる、など破産に比べて非常にメリットの大きい債務整理手続です。詳しくは金沢弁護士会などの無料相談窓口に是非ご相談をお願いします。後述のように、今回の新しい交付金による臨時特例給付金は、差押え禁止の立法措置が取られたので、安心して手元に残すことができます。

災害ケースマネジメントの実施にも十分な予算措置を

「新たな交付金制度」(能登地域6市町向けの地域福祉推進支援臨時特例交付金)は、これまで説明した現金給付支援のためだけではなく、石川県や市町による「地域の実情にあわせた福祉ニーズの高い被災者の支援」のための予算措置でもあります。具体的には、被災者の生活再建に向けた訪問・個別継続的な伴走支援などを想定しており、「災害ケースマネジメント」のための予算にも利用できます。

災害ケースマネジメントは「被災者一人ひとりの被災状況や生活状況の課題等を個別の相談等により把握した上で、必要に応じ専門的な能力をもつ関係者と連携しながら、当該課題等の解消に向けて継続的に支援することにより、被災者の自立・生活再建が進むようマネジメントする取組」をいい、被災者支援の切り札ともいうべき支援手法です。被災地自治体を離れて避難する広域避難者にも確実に支援を行き届かせなければならないということです。先述の石川県の「被災者データベース」や、市町の「被災者台帳」により官民の支援者らが一丸となって被災者へアウトリーチ支援をすることが強く求められます。

差押禁止の臨時特例法も超党派議員立法で成立

新たな交付金制度による「臨時特例給付金」と石川県独自の「自宅再建利子助成」を確実に被災者の手元に残せるよう、2024年4月5日、「令和六年能登半島地震災害に係る住宅再建支援等給付金に係る差押禁止等に関する法律」(法律案はこちら)が、超党派の議員立法により、全会一致で成立しました。総理が国会答弁で「新しい交付金」に言及してから、立法措置の必要性を各所へ提言してきたところでしたが、結果として短期間で成立に至りました。石川県からの時宜にかなった要望、国会議員の超党派での迅速な対応、所管する厚生労働省の後押しなどがかみ合ったことに由来します。臨時特例給付金等は、既存の法律上の根拠がないため、当然には差押え禁止財産とならず、こうして臨時の立法措置があってはじめて保護されます。今回は、国の臨時特例給付金のみならず、石川県独自の自宅再建利子助成も差押え禁止対象にしており、石川県の要望を酌んだ画期的な成果だと言えます。

衆議院法制局「令和六年能登半島地震災害に係る住宅再建支援等給付金に係る差押禁止等に関する法律案概要」
衆議院法制局「令和六年能登半島地震災害に係る住宅再建支援等給付金に係る差押禁止等に関する法律案概要」

参考リンク集・参考文献

石川県『地域福祉推進支援臨時特例給付金

石川県『自宅再建利子助成事業給付金

内閣府『被災者生活再建支援法

内閣府『災害ケースマネジメント

自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関『自然災害債務整理ガイドライン

岡本正『災害復興法学Ⅲ』慶應義塾大学出版会

岡本正『被災したあなたを助けるお金とくらしの話増補版』弘文堂

山崎・岡本・板倉『個別避難計画作成とチェックの8Step』ぎょうせい

銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)

「災害復興法学」創設者。鎌倉市出身。慶應義塾大学卒業。銀座パートナーズ法律事務所。弁護士。博士(法学)。気象予報士。岩手大学地域防災研究センター客員教授。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。医療経営士・マンション管理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)・防災士。内閣府上席政策調査員等の国家公務員出向経験。東日本大震災後に国や日弁連で復興政策に関与。中央大学大学院客員教授(2013-2017)、慶應義塾大学、青山学院大学、長岡技術科学大学、日本福祉大学講師。企業防災研修や教育活動に注力。主著『災害復興法学』『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』『図書館のための災害復興法学入門』。

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