Yahoo!ニュース

2022年は元阪神の福間納監督と藤井宏政助監督で戦うカナフレックス

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
右から、カナフレックス野球部の吉本部長、福間監督、藤井助監督、大塩マネージャー。

 本格的に球春到来、選抜高校野球もプロ野球も盛り上がっています。社会人野球もしかり。ことしの社会人野球の全国大会は、東京五輪が終わったため従来通りの日程(7月・都市対抗野球、10月~11月・社会人日本選手権、8月・全日本クラブ選手権)に戻りました。

 ことしも引き続き阪神タイガースのOBたちがユニホームを着る社会人チームについて、ちょこちょこ記事を書かせていただきます。監督やコーチになった人も多いですが、ことしは久しぶりに現役選手もいますね。

 昨年まで阪神に在籍していた石井将希投手(26)がエイジェック、阪神とオリックスでプレーした金田和之投手(31)は三菱重工Westへ。また三菱重工Eastに入った元中日の武田健吾選手(27)も、オリックス時代によく話を聞かせてもらったので気になる存在です。

 そしてカナフレックスは今季、コーチだった阪神OBの福間納さん(70)が監督に、同じくコーチの藤井宏政さん(31)が助監督に就任しています。阪口哲也さん(29)がコーチを務めるパナソニックは、鳥谷敬さん(40)とコーチ契約を交わしたとニュースになっていましたね。ことしも2月に徳島でキャンプを行ったロキテクノ富山は元阪神・藤田太陽さん(42)が監督2年目です。

試合前のノックは、昨年までと変わらず藤井助監督の仕事です。
試合前のノックは、昨年までと変わらず藤井助監督の仕事です。

悲しみを乗り越えて

 きょうは、福間監督と藤井助監督という新体制で迎えたカナフレックスの“今季開幕戦”をご紹介しましょう。

 カナフレックスにとっては昨年と同じく、社会人日本選手権対象の『JABA東京スポニチ大会』(3月6日~9日)が初戦となるはずだったのですが、実は彼らが勤務する滋賀工場において新型コロナ感染者や濃厚接触者が出たことにより、やむなく出場を辞退しました。よって3月12日から行われた『JABA京都府春季大会』が、今季初の公式戦となったわけです。

 また、年が明けて間もない1月21日にカナフレックスの硬式野球部創設時からチームを支えてこられた高橋二三男コーチ(西鉄~ロッテなど)が、胆管がんのため73歳で亡くなられました。チーム関係者は以前から病気のことを知っていたそうですが、それでもやはり訃報に接してショックだったと思います。葬儀に参列した選手たちも辛かったでしょう。

 私も昨年6月、3年(2大会)ぶりの日本選手権大会出場を決めた際に、放り上げるのでなく“お姫様だっこ”で胴上げされた高橋コーチの姿が忘れられません。息子、というか孫のような選手たちをねぎらう優しい笑顔も脳裏に焼き付いています。

 そんな高橋コーチの恩に報いるため、監督もコーチも選手も一丸となって戦うシーズンです。悲願である都市対抗出場という目標を胸に。

昨年6月2日、日本選手権出場を決めた胴上げで、迫勇飛投手(22)に抱きかかえられる高橋コーチ。
昨年6月2日、日本選手権出場を決めた胴上げで、迫勇飛投手(22)に抱きかかえられる高橋コーチ。

◆今季初公式戦はコールド勝ち

 『第149回JABA社会人野球京都府春季大会』は3月12日と、19日から21日までの計4日間、わかさスタジアム京都で開催されました。カナフレックスは19日の2回戦から出場。まずクラブチームの京都城陽ファイアーバーズとの対戦です。

 先発は2年目の中田聖太郎投手(23)。公式戦の先発は自身初で、公式戦の登板自体が約1年ぶりだったにもかかわらず、任された5イニングを無安打無失点という快投!しかも1回に四球を与えたのが唯一の走者で、それ以外は完璧に抑えています。

公式戦初先発ながら落ち着いたマウンドさばきを見せた中田投手。
公式戦初先発ながら落ち着いたマウンドさばきを見せた中田投手。

<3月19日 2回戦>

カナフレックスー京都城陽ファイアーバーズ

 カナ 300 600 0 = 9

 城陽 000 000 0 = 0

   ※7回コールドゲーム

◆バッテリー

  [カナ]中田-東郷-青山/喜来-福田

  [城陽]佐野-磯崎-西田/吉田晏

◆二塁打 [カナ]森田

◆盗塁 [カナ]新宅、山崎、江頭

《試合経過》※敬称略

 まず打線。1回に新宅の四球と盗塁で1死二塁とし、3番・山崎の右前タイムリーで先制。さらに盗塁などで三塁へ進んだ山崎を5番・森田が左中間への二塁打で還し、続く喜来が右前タイムリー。3点を先取しました。

 4回には喜来、田中慧の連打でチャンスを作り8番・杉本の右前打で2人が生還。1死後に投手交代します。2番・米倉の右前打で満塁となり、山崎が左犠飛。続く江頭と森田は連続四球で2死満塁として、森田の打席で暴投があり1点追加。

4回、無死一、二塁で2点タイムリー!北川倫太郎選手の23番を受け継いだルーキー・杉本修太郎選手(22)です。
4回、無死一、二塁で2点タイムリー!北川倫太郎選手の23番を受け継いだルーキー・杉本修太郎選手(22)です。

 打者が一巡し、なおも2死満塁で喜来が中前タイムリー!もう2点加えました。喜来はここまでで既に3打席連続安打で3打点と大当たり。5回、6回はヒットが出たものの追加点なく、7回は三者凡退という攻撃内容です。

 投手陣は、先発の中田が1回1死から四球を与えますが後続を断って無失点。2回は三者凡退。3回はすべて三振で片付け、4回の先頭まで4者連続の空振り三振を奪いました!その4回も、続く5回も三者凡退で締めて交代。

 6回は東郷と福田のバッテリーで、1死から連打を許すも問題なく後続を断っています。7回は青山が、中前打された先頭の4番・中澤を自身の牽制で刺し、結局3人で抑えました。7回が終了した時点で9対0、コールド勝ちです。

田代選手の負傷交代や連打があったものの、しっかり後続を断って無失点だった新加入の東郷太亮投手(23)。
田代選手の負傷交代や連打があったものの、しっかり後続を断って無失点だった新加入の東郷太亮投手(23)。

いい形になったと福間監督

 では試合後のコメントをご紹介します。まずは福間監督。今季初公式戦について「あんまり実戦をしてないんだけど、それぞれに課題を持って取り組んだ結果がいい形になったと思う。コロナもあったし、この1か月いろんな意味で選手たちは苦労していて。それが、この1週間くらいは練習と仕事をうまく両立できて充実している感じだったから、いい形になるかなとは思っていたんだけどね」という言葉。

 また、こんな話もされました。「きょう冒頭のミーティングで話したんだけど、あすから高橋コーチの遺影とユニホームを(ベンチに)置くので、心の中でいいから『打たせてください』『お願いします』と言っていると、もしかしたら高橋さんが力をくれるかもしれんよって」

 福間監督にとって高橋コーチは奥様同士が姉妹という縁でしたから、余計に悲しみは深かったはず。今なお声を震わせておられました。翌日からベンチにかけられた背番号41のユニホームは、間違いなく選手の背中を押してくれたと思います。

 ところで昨年までとは仕事が違いますよね?「僕がサインを出すこともあるけど、助監督がやっています。投手起用は大西兼任コーチにある程度任せるという形。で、最後に俺がちょこっとだけ。あんまり出しゃばらないでね。スモールボスくらいで」

 先発した中田投手には「今までよくなかった分、慎重に入ったのがいい結果になったかな。これまでシートバッティングでもそんなによくなかったし、大学とのオープン戦でも初回に6連打されたこともあった。そういう面でも、きょうは非常にいい形だった」とのこと。

試合前なので、こんな笑顔も。福間監督です。
試合前なので、こんな笑顔も。福間監督です。

「選手の積極性に任せています」

 次に藤井助監督。昨年までは攻撃の際、サードコーチを務めていたのですが、ことしは攻守ともベンチにいます。もちろん、ただ見ているわけではなくサインや指示を出しながら。コーチから助監督に立場は変わったけれど、本人は「特に何も変わってないですねえ」と笑っていました。

 初回から盗塁を決めるなど果敢に走っていますね。これはサイン?「いや、自由に走ってOKと。好きな時に状況を見て走れという感じです。選手が積極的にやってくれて、任せています。ストップとかはかけますけど」

 そんな1回の攻撃で先制した3点は大きかった?「そうですね。やっぱり1、2、3回で点を取れたら、いい形で運べるので」。4回もつながりましたね。「積極的に打ちにいっているので、それがいい形で出ているのもありますし。追い込まれてからも、その前に振っているので勝負できているのかなと思います」

 3打数3安打3打点の喜来選手には「いつも通りです。ことしはスタメンマスクをかぶったり、キャッチャーとして成長している。バッティングはもう、チームでも申し分ないくらいですよ」。それは楽しみです。

 この日は朝まで雨が残り、試合前のシートノックもベンチ前のゴロ捕球しかできなかったのですが「そこを言い訳にせずやろうと言っていた。それでしっかり準備してくれたので、いい形で入れたと思います」と藤井助監督。「練習でやっていることが、そのまま出せた。それがよかったですね」

新兼任コーチも奮闘

 なおサードコーチは、ことしから兼任コーチになった武田勇樹選手(28)が務めています。サードに立つのは「まだ3、4試合目」だそうで「助監督に教わりながら頑張っています」とのこと。大変ですか?「コーチ業の方が大変です。忙しくて…」。なるほど。自分のことだけじゃないですもんね。

 しかも、この日は田代竜貴選手(23)が6回の守備で左手人差し指を脱臼。急きょセカンドの守備につくというアクシデントもあったので、より忙しかったでしょう。お疲れ様でした。

左から藤井助監督、大西投手兼任コーチ、武田選手兼任コーチ。いよいよ今季初公式戦の開始です。
左から藤井助監督、大西投手兼任コーチ、武田選手兼任コーチ。いよいよ今季初公式戦の開始です。

5回無安打無失点!

 続いて、先発の中田投手です。ナイスピッチング!と声をかけたら「そうですね、はい。テンポよく投げられました」という返事。ノーヒットは意識していた?「周りから言われて、わかってはいたんですけど、こだわっていなかったので。とりあえず0で抑えればいいかなと、あまり気にしないようにしていました」

 公式戦初先発?「はい。去年はずっとケガしていて…。ちょうど1年前のスポニチ大会で投げた時は中継ぎで2イニングくらい」。公式戦という緊張感は?「いい時も悪い時も、いつも通りと思っているので」

 自身の持ち味を聞くと「浅いカウントで打たせるのが得意です。真っすぐと速い系のカットボールやツーシームで打たせるのが。それと投げる以外のこと。牽制とかフィールディングとかも得意なので、自分なりに試合を作るのはわりに得意な方だなと思います」とのこと。

 試合を振り返って「味方がまず3点取ってくれていたし、ランナーを出したけど変に外れたフォアボールじゃなくて、ちゃんと決まってギリギリのボールだったので別に心配することもなく、変わりなく投げられました」と話す中田投手です。

 最後に、ことしの目標を。「ケガなく1年間投げきること。そして防御率よりも勝利にこだわってやること」。楽しみな右腕ですね。期待しましょう。

2回から5回まですべて三者凡退に切って取った中田投手(左から2人目)。喜来捕手(右)と言葉を交わしてベンチへ戻ります。
2回から5回まですべて三者凡退に切って取った中田投手(左から2人目)。喜来捕手(右)と言葉を交わしてベンチへ戻ります。

3-3-3で投手を援護

 喜来友貴選手(25)は「3打点ですか?3安打はしたけど、打点はわかんなかったです」と笑顔。打つことは申し分ないと藤井助監督が言っていましたよ。「いや、全然。そんなことないです。僕よりみんな打ちます」。思いきり謙遜されました。

 キャッチャーとしては、やはり守備が一番?「はい。そっちが、きょうは“どうしよう、どうしよう”と思っていたので、1打席目とか多分そんなに余裕はなかったはずなんですけど」。中田投手も見事な結果で。「本当に何も言うことがないくらい、いいピッチングしてくれました」

 ノーヒットだと気づいていたんですか?「はい、スコアが見えるので(笑)」。あ、確かに。「まだ打たれていないな、早く打たれてほしいなと思っていたんです。大事なとこで打たれるより、早く1本打ってくれたらと。でも、うまくポンポンポンと5回までいってくれた」

 最後に自身のセールスポイントを聞かせてください。「守備と言いたいんですけど、福田さんとかが見ていたら、まだまだだと思います。今バッティングが調子いいのでバッティング…ですかね。はい」

3安打3打点の喜来選手。写真は4回、この日2本目の右前打を放ったところです。
3安打3打点の喜来選手。写真は4回、この日2本目の右前打を放ったところです。

フレッシュに引っ張る主将

 初戦の締めくくりは、新キャプテンの森田皓介選手(23)にお願いしましょう。1回2死二塁で初球をとらえたタイムリー二塁打!よかったですね。「とにかく機動力のあるチーム、足でかき回せるチームを目指しているので、盗塁以外にも積極的に走っていこうと練習からやっています。そこをみんなが実践してくれて、こういう攻撃につながったのかなと」

 最初の公式戦だし、新人選手もいますが緊張感は?「緊張というより、こうやって公式戦のユニホームを着て今年初だったので、みんな楽しめているかなと思いますね」

 キャプテンという立場になって「去年の北川キャプテンがしっかりさせていたので、多少のプレッシャーはありますけど、でも2年目の自分だからこそできることもあると思う。そこはフレッシュさを持ってチームをまとめていければいいなと思います」という森田選手。

 もともと元気のあるチームですが「ただ、ちょっと去年も波があったので。常に元気よく、波のないチームにしていきたい。いい時はいいけど、よくない時にガーンといってくれる選手とか、そうやってチームをいい方向に持っていけるような、声とか雰囲気を作っていければ」とも話しています。

 今大会は「優勝を目指して、その前にOBC高島は去年の都市対抗予選で負けているので、まずはリベンジできるように」と、翌日の相手であるOBC高島戦へと目を向けた森田キャプテン。「一戦必勝で頑張ります!」と力強く締めてくれました。

1回にタイムリー二塁打を放った森田選手。円陣で選手を奮い立たせる声出しもキャプテンの仕事です。
1回にタイムリー二塁打を放った森田選手。円陣で選手を奮い立たせる声出しもキャプテンの仕事です。

◆昨年の都市対抗予選のリベンジ!

 3月20日の準決勝は、昨年9月に行われた都市対抗野球近畿2次予選の第4代表決定トーナメント3回戦で敗れたOBC高島との顔合わせでした。この時は終盤の追い上げも1点及ばず、予選敗退となった相手だけに気合十分で臨んだ一戦。先発はコーチ兼任の大西健太投手(29)です。

<3月20日 準決勝>

カナフレックスーOBC高島

 高島 120 000 101 = 5

 カナ 220 000 60X =10

◆バッテリー

  [高島]堀口-青山-杉下-永井/堀川

  [カナ]大西-青山-伊藤-秋川/福田

◆本塁打 [カナ]山崎2ラン(1回 堀口)

◆二塁打 [高島]戸倉、堀川

     [カナ]米倉2、森田

◆盗塁 [高島]佐藤

    [カナ]森田、新宅、山崎、古和田

序盤に失点したものの、さすがの粘りで逆転劇を呼び込んだ先発の大西投手。
序盤に失点したものの、さすがの粘りで逆転劇を呼び込んだ先発の大西投手。

《試合経過》※敬称略

 開始早々から点を取り合う展開。1回に大西は先頭・寺前の左前打、犠打などで2死二塁となって4番・森田慧の中前タイムリーで1点先制されます。しかしその裏、カナフレックスは1死から米倉が右前打し、続く山崎が初球を打ってセンターへの逆転2ラン!

 すると2回、先頭から連打と犠打で1死二、三塁とされ、9番・佐藤に右前タイムリーで同点。さらに1番・寺前の左犠飛もあって3対2とまた逆転されました。

 その裏は簡単に2死を取られた打線ですが、9番・田中慧が中前打を放ち、次の新宅はピッチャーのエラーで一、二塁。2番・米倉が左越えタイムリー二塁打で2人を還し、またまた逆転しています。

 3回は森田の二塁打、4回は新宅の中前打と盗塁、5回も山崎のショート内野安打と盗塁6回は8番・福田の左前打など毎回走者を出した打線ですが、追加点なし。大西も3回以降は1安打と1四球のみで5回、6回は三者凡退に抑えました。

打点はありませんが、3回の二塁打を含む2安打と1盗塁だった森田選手。
打点はありませんが、3回の二塁打を含む2安打と1盗塁だった森田選手。

 ところが4対3で迎えた7回、2死を取ったあと寺前の中前打と続く十倉の中越え二塁打で追いつかれます。が、その裏に先頭の山崎が四球を選び、2死後に喜来が敬遠で一、二塁。7番・古和田が左前タイムリーで勝ち越し、続く福田の右前タイムリーで6対4。

 さらに田中慧が四球を選んで2死一、二塁とし、新宅の中前タイムリー。続く米村が右越えの2点タイムリー二塁打で、この回6点を取って10対4と差を広げます。

 大西のあと8回は青山と伊藤で三者凡退。9回に登板した秋川は8番・堀川の中越え二塁打などで2死二塁として寺前の左前タイムリーで1点返されますが、最後は三振。8回終了、10対5でコールドゲームとなり、カナフレックスは決勝へ駒を進めました。

8回に登板した青山将大投手(25)。前日も翌日も投げ、3連投で無失点でした。
8回に登板した青山将大投手(25)。前日も翌日も投げ、3連投で無失点でした。

「打線が投手を育てる」

 福間監督は試合後に「去年とことしの中で、一番いいゲームだった」という第一声でした。「点を取られた後、すぐに取り返したでしょ?今までなかったことですよ。これが大西を立ち直らせた要因。逆転、同点としたから投げられた」

 そして「ベテランでも打たれることはある。点を取ってくれたから楽になった。打線が投手を育てるんですよ。その逆はない。投手が打線を育てることはできない」と続けました。なるほど、おっしゃる通りですね。

 続いて秋川優史投手(24)です。福間監督が、カーブのいいピッチャーだと言っていましたよ。「はい。カーブというより、縦スラですね」。なるほど。確かに球速を見るとそんな感じでした。でも、秋川投手はこう続けたのです。

 「相手が真っすぐを待っていても、その真っすぐでファウルが取れる。ことしはそこを課題にやっています。変化球はもともと得意なんですけど、それに頼らず真っすぐを磨こうと思って」

 去年3月のスポニチ大会が終わってケガをし、そのあと投げたのは9月の都市対抗予選だった秋川投手。去年の分も取り返すべく、「ことし絶対に勝ちますよ!」と力を込めました。

ことしは真っすぐを磨くことが課題という秋川投手です。
ことしは真っすぐを磨くことが課題という秋川投手です。

米倉、山崎で6安打6打点!

 次はタイムリー二塁打2本など、5打数4安打4打点と気を吐いた米倉凌平選手(23)に聞きました。「4安打は初めてです。できすぎですね。たまたまです。4打点は下位でチャンスを作ってくれたからで」

 また、この一戦は「去年の都市対抗予選で負けた相手だったので、やられっぱなしは嫌でしたね。2回は負けられない。意地ですかね」と気合十分。貢献できたことは嬉しかったようです。決勝も打ちましょう。「チームが勝てればいいです。優勝したい!」

4打数4安打の米倉選手は2回、再逆転された直後に2死一、二塁で再々逆転の2点タイムリー二塁打!
4打数4安打の米倉選手は2回、再逆転された直後に2死一、二塁で再々逆転の2点タイムリー二塁打!

 この日のラストは、1点先取された直後に逆転の2ランを放った山崎壱征選手(27)。「入ってくれ~と思っていました。感触はよかったんですけど。すぐ追いつきたいと思っていたから、追い越せてよかったです」。それもセンターバックスクリーンへの1発!「あそこまで飛んだのは人生初です」

 そして5回には山崎選手ならではのショート内野安打と盗塁。「そっちですね。ホームランより、どっちかと言ったら」。やはり、それが持ち味ですか?「はい。どっちかと言ったら、そっちです。どっちかと言ったら」と、何度も繰り返しました。

 盗塁はノーサインだとか?「そうですね。スタートが切れたら行こうと、タイミングはずっと計っています」。今後も“そっち”を大いに期待させていただきます!

1回に逆転の2ラン!三塁を回ったところでガッツポーズをする山崎選手。
1回に逆転の2ラン!三塁を回ったところでガッツポーズをする山崎選手。

◆タイブレークで敗れた決勝

 カナフレックスにとって、これが今季初の企業チームとの対戦で、しかも京都府春季大会では初めての決勝(秋季大会では準優勝あり)です。福間監督が「ここで優勝できないようなら都市対抗予選では勝てない」と言っていたように、選手たちも気合十分でした。

 中盤に逆転し、あと一歩で逃げ切り!という接戦。残念ながら9回に追いつかれ、延長10回タイブレークで勝ち越しを許して準優勝となっています。

<3月21日 決勝>

カナフレックスー日本新薬

 新薬 300 000 001 4 = 8

 カナ 001 120 000 0 = 4

   ※延長10回タイブレーク

◆バッテリー

  [新薬]小松-斎藤-山上-肥後/大橋-千葉

  [カナ]大石-青山-伊藤-秋川-中田-東郷/福田

◆三塁打 [カナ]福田

◆二塁打 [新薬]船曳 [カナ]新宅

◆盗塁 [新薬]松本、竹内 [カナ]古和田

《試合経過》※敬称略

 先発のルーキー・大石は1回、1安打2四球で2死満塁として6番・大石に左前の2点タイムリー。7番・竹内にも左前タイムリーを浴びて3点を先取されます。2回は三者凡退、3回は2死一、二塁で交代し、青山が後続を断ちました。

 2回まで無得点だった打線は3回、先頭の8番・福田が左中間三塁打を放ち、続く田中慧の遊ゴロで1点を返します。4回には右前打の山崎を4番・江頭が送り、2死後に6番・古和田が中前タイムリー!これで1点差です。

 そして5回、左前打した福田が田中慧の三ゴロで二塁へ進み、1番・新宅の左越えタイムリー二塁打で同点!米倉の二ゴロで2死三塁となって3番・山崎がピッチャーへのタイムリー内野安打!ついに逆転しました。ただ6回以降ノーヒットだった打線が悔しい結末へ…。

3回、先頭の福田が三塁打!続く田中慧の遊ゴロで1点を返し、ベンチ前でグータッチ(左が福田)。
3回、先頭の福田が三塁打!続く田中慧の遊ゴロで1点を返し、ベンチ前でグータッチ(左が福田)。

ルーキー・古和田仁選手(22)は4回、2死二塁で中前タイムリー!前日も7回に左前タイムリーで猛攻の口火を切りました。
ルーキー・古和田仁選手(22)は4回、2死二塁で中前タイムリー!前日も7回に左前タイムリーで猛攻の口火を切りました。

 投手陣は、4回途中から伊藤が登板して8回1死まで1安打無失点の好投!そのあとを2人で片付けた秋川が9回は先頭に四球、犠打とヒット、また四球で1死満塁のピンチを招き、なんと暴投で追いつかれてしまいます。

 この日、投手陣の抜ける球を何度も止めていた正捕手の福田が、この場面でワンバウンドを逸らしてしまう不運。土壇場で同点とされ、9回裏の攻撃は三者凡退。延長戦に突入です。しかも10回からもうタイブレークで無死一、二塁から。カナフレックスは中田が登板しました。

 先頭に犠打を許し、1死二、三塁となって6番・船曳に2点タイムリー二塁打、さらにヒットと盗塁で1死二、三塁となり、8番・千葉は遊ゴロ。これを田中慧がバックホームするもセーフ(野選)。もう1点追加され、なおも一、三塁で代わった東郷がタイムリーを浴び、結局4点を勝ち越されます。

 その裏、カナフレックスは9番・田中慧が遊ゴロ併殺打で2死三塁として、最後は新宅の二ゴロで試合終了。悔しい逆転負け、惜しい準優勝でした。

最後の打者になってしまった新宅優悟選手(24)ですが、5回にはタイムリー二塁打で同点にしています。
最後の打者になってしまった新宅優悟選手(24)ですが、5回にはタイムリー二塁打で同点にしています。

悔しさが上回る優秀選手賞

 試合後の表彰式で選ばれた今大会の優秀選手賞4人のうち、1人はカナフレックス・山崎選手だったのですが、本人は試合後すぐ足の治療に入ったため代理受賞となりました。山崎選手は4回に生還した際、左足を痛めたにもかかわらず試合に出続け、5回には内野安打で勝ち越し点を挙げる活躍。

 守備でも何度か素晴らしいプレーを見せ、負傷しても攻守でチームを支えたわけです。この日も3打数3安打1打点で、3試合の合計は9打数7安打5打点!打率.778、本塁打1、盗塁2という成績で受賞しましたが、本人は「悔しい!」のひとこと。優勝したかったんでしょうね。

決勝終了後の表彰式。左が優勝の日本新薬、右が準優勝のカナフレックスです。
決勝終了後の表彰式。左が優勝の日本新薬、右が準優勝のカナフレックスです。

いろいろ“初”の若い投手

 先発したルーキーの大石亮人投手(22)は「いい緊張感でした」と振り返り、それから「落ち着いて周りも見えたので、そこはよかったけど…初回がもったいなかったですね。四球がよくないのと、打たれた球は全部、打ちに来るカウントで打ちやすいところに投げてしまった。そこが今後の課題です」と言っています。

 また、今季初の企業チームとの対戦に「ボール自体はよかったんですけど、やっぱりバッターのレベルが高いですね。振ってほしいところを振ってくれない」と。そのあと「経験を積んでいきたいです」とひとこと付け加えました。これも大きな経験になったでしょう。

決勝で先発したルーキーの大石投手。この経験を次に生かしてください。
決勝で先発したルーキーの大石投手。この経験を次に生かしてください。

 前日は8回2死からワンポイントで5球だけ投げた伊藤秀樹投手(23)。この日は3回途中から4イニングを投げ、「いつも先頭を出すので、そこが引き続き課題です」と、まずは反省。確かに5回、6回、7回と先頭を出していますね。でも1安打無失点です。

 4イニングはことし初めて投げたそうで、ここまで「中継ぎで短いイニングが、ことしの役目だった」と伊藤投手。この日の最速は140キロでした。「去年と少し投げ方を変えて、肘を下げたので、自分の中でまだMAXは出ていないですね」

 7回は1死一塁の場面で投ゴロ併殺!落ち着いた二塁送球だったと告げたら「バッターを抑えることに集中していて、打球が来てすぐ反応できた。フィールディングの練習はいつもやっているので、ミスがなくてよかったです」と、笑顔が返ってきました。

躍動感のある伊藤投手のフォーム。右は併殺で0点に抑え、大喜びで戻ってきたところです。
躍動感のある伊藤投手のフォーム。右は併殺で0点に抑え、大喜びで戻ってきたところです。

「僕のせいで負けた」と猛省

 福田優人選手(29)は、とにかく「僕のせいです。僕が悪い」と繰り返すばかり。1点リードして迎えた9回に、暴投で追いつかれた場面を猛省しています。「僕が悪い。僕のせいで同点になった。止めたと思ったのに…ピッチャーに、秋川に申し訳ない。」と。そこまで何度も逸れた球を止めていただけに辛いでしょうね。

 でも攻撃では3回に反撃の口火を切る三塁打を放った福田選手。「走りました!めちゃくちゃ走って、(三塁では)ガッツポーズする余裕もなかった」。本当に激走でしたね。ガッツポーズを待っていたのに、それどころではなかったみたいで…と言うと少し思い出し笑い。

3回に先頭で三塁打を放った福田選手。三塁へ到達(左)して、そのあとはグッタリ(右)。
3回に先頭で三塁打を放った福田選手。三塁へ到達(左)して、そのあとはグッタリ(右)。

 それから「負けて言うのもなんですけど、いつもは先発投手が崩れたらガタガタとなるパターンなのに、きょうは他のピッチャーが踏ん張って0に抑えてくれたから逆転できた。去年まではなかったんですよ」と試合を振り返ったところまではよかったのですが…。

 「ほんと追いついて追い越したのに」「ピッチャーがよく抑えてくれた。粘ってくれたのに」と、今度は“のに”を連発。そして「それもこれも僕のせいですわ。心が痛いです。これがもし都市対抗予選やったら。きょうは僕のせいです。勝って反省したかった」と、また自分を責めます。

 終わったことは仕方がないので次へ向かいましょう。そう言ったら「練習では忘れずに。試合では心に刻んで、もうやらないように。都市対抗予選で借りを返せるように頑張ります!」と、何とか前向きに答えてくれました。

試合後のミーティングで、吉本部長の話を聞く福田選手のこの表情が、すべてを物語っていますね。
試合後のミーティングで、吉本部長の話を聞く福田選手のこの表情が、すべてを物語っていますね。

経験を積めばうまくなる

 福間監督には今大会の3試合を振り返ってもらいました。「形としてはよかった。いい形だったと思うよ。きのうは逆転したし、きょうも企業チーム相手に9回が始まるまでリードしていた。秋川にしても経験がないから反応できなかっただけで、これからうまくできるよう練習すればいいこと。タイブレークは仕方ない」

 また伊藤投手について「球も速くなっているし、四球を出しても結果的に抑えられた。自信になるね。他のピッチャーは四球から失点したけど、抑えたから。打たれるのはいいんだよ。経験を生かしてくれたら」と評価しています。最後に「山崎、いい守備してくれたねえ」という一言もありました。

 その山崎選手も、初戦でケガをした田代選手も5月のベーブルース杯までに戻る、と気合を入れています。やはり故障のため一塁コーチを務めていた澤田裕基選手(24)と、ケガの翌日は三塁コーチだった田代選手の声がとにかくすごい!競っているかのようでしたよ。もちろん2人はベンチにいても常に声を出しているし、他の選手がかける声も個性的で楽しいです。これもまたカナフレックスのパワーの源なんでしょうね。

19日の試合で2安打ながら守備で左手の指を脱臼してしまった田代選手。翌日は三塁コーチとして大きな声を出していました。
19日の試合で2安打ながら守備で左手の指を脱臼してしまった田代選手。翌日は三塁コーチとして大きな声を出していました。

ノーエラーの3試合を評価

 藤井助監督は「トータルで言うと、最初に3点取られて、1点ずつ返していこうと思って、それがうまいこといった」と、まず打線を振り返りました。続けて「そうなるとピッチャーの先頭への四球ですね」と5回、6回、9回に先頭へ四死球を与えた投手陣に言及。

 ただ与四死球10個のわりに失点したのは1回と9回だけなんですよね。でも藤井助監督は「チャンスを与えて、向こうが打てなかっただけ」と、そこは冷静に分析しています。

 また「野手目線で言うと、やることをやれてよかったと思います。練習でやっていることしか(試合で)やっていないので。つまり練習でやってきたことは、全部やれたということですから」という言葉。さらに「3試合ノーエラーなんですよ。そこは評価できますね」と。確かに、この3試合を見ていて牽制などの投内連係もうまくいっていた印象です。 

 5月1日からは日本選手権対象大会のJABAベーブルース杯があり、5月下旬には都市対抗の近畿2次予選を迎えます。ここが本番!それに向けての強化ポイントはありますか?と尋ねた藤井助監督はこんなふうに答えました。

 「練習でやっていることは全部出せたので、それが点にも絡んできていたし。悪いところは別にないですね。公式戦がことし初めてで、新人も入ってきて、この経験を生かしてくれたら。練習も変わってくると思います」

準決勝からベンチにかけられた故・高橋コーチの『41』のユニホーム。選手の背中を押してくれたに違いありません。
準決勝からベンチにかけられた故・高橋コーチの『41』のユニホーム。選手の背中を押してくれたに違いありません。

   <掲載写真はチーム提供>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

岡本育子の最近の記事