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片山選手が古巣・福井戦で見てもらいたかった全力プレー《阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
握手を交わす片山捕手(左)と牧投手(右)。“福井”ゆかりのバッテリーです。

 阪神ファームがルートインBCリーグとの練習試合で北陸に遠征するのは、10年くらい前から何度かありました。相手は富山サンダーバーズ(現在は富山GRNサンダーバーズ)、石川ミリオンスターズ、福井ミラクルエレファンツのいずれかです。最近では2015年4月にBCリーグの開幕カードとして富山、福井と2試合。2016年は5月末に富山、福井、9月末に石川と計3試合。2017年は8月に石川、福井。2018年も石川、福井と7月に試合をしています。※遠征での対戦のみ記載

 そして、ことしは5月21日に石川、22日に福井と1試合ずつ行いました。このところナイター開催が多く、今回も18時開始。昼間はかなり暑くなったものの湿度が低くて、冷たい風にスタンドのお客様は震えておられたようです。とはいえ毎年これを楽しみにされている方が多く、22日の福井戦は両チームの応援団が最初から最後まで盛り上げてくださっての3時間でした。きょうは、その福井戦の結果をご紹介します。21日の石川戦は、こちらからご覧ください。→<“岩貞-原口”の同級生バッテリー、次は甲子園で>

10年前を思い出す、片山選手の“凱旋”

試合開始前のセレモニーで花束を贈られた阪神・平田監督(左側)と、福井・田中監督(右側)。
試合開始前のセレモニーで花束を贈られた阪神・平田監督(左側)と、福井・田中監督(右側)。

 福井ミラクルエレファンツは、阪神のルーキー・片山雄哉選手が昨年まで所属していたチーム。入団前に阪神ファームとの試合は、2016年から昨年まで計4試合(2016年は鳴尾浜でもあり)に出場しています。途中で交代した試合も含めて、すべて先発マスクをかぶりました。盗塁阻止も、2点タイムリー二塁打も、3打席連続三振もあり。そんなふうに慣れ親しんだ福井フェニックススタジアムへ、阪神の選手として戻ってきた片山選手に、大きな拍手が送られたのは言うまでもありません。

 午後3時頃、バスで到着するとミラクルエレファンツや球場の方々、もちろん両チームのファンの皆さんに迎えられ、しばらくは挨拶回りで大忙し。そんな片山選手を見て、2009年の野原祐也選手(現在はOBC高島の監督)を思い出しました。育成選手として阪神に入った2009年の7月24日に支配下登録された野原選手。その4日後、となみチューリップスタジアムで古巣・富山サンダーバーズとの交流試合があったのです。

 それこそ地元の皆さんは大変な歓迎ぶりで、タイムリーを含む2安打でそれに応えた試合後も、延々とサイン会が続いていました。色紙やユニホームに野原選手が書き込む背番号『94』の文字。とても誇らしげに感じたのを覚えています。片山選手にもそんな時が早く訪れますように。もちろん“凱旋”することなく1軍へ行ってしまっても、それはそれで大歓迎!ですよね。

小野投手が5回パーフェクト!

次々と三振を奪って5回を完璧に抑えた小野投手。
次々と三振を奪って5回を完璧に抑えた小野投手。

 試合では6番・キャッチャーとしてフル出場だった片山選手。タイムリー二塁打など2安打を放ち、盗塁も決めました。守備では5回パーフェクトの小野投手をはじめ、石井投手、牧投手をリードして完封勝利。いい一日になったと思います。

 なお試合終了の瞬間は、福井・啓新高校出身の牧丈一郎投手とハイタッチ。牧投手はルーキーだった昨年も、ここで登板したんですよね。その時は1イニング8球だけでしたが、高校3年生の夏が終わった“思い出の球場”で、野球部の後輩たちや親御さん方に見てもらえたことは感慨深かったようです。ことしは3イニングを投げて無失点ながら、自分自身で納得できない内容だったらしく笑顔はありません。のちほどコメントをご紹介しますので、お待ちください。

 では試合結果からどうぞ。

《練習試合》5月22日

BCL・福井-阪神 (フェニスタ)

 阪神 000 102 001 = 4

 福井 000 000 000 = 0

4回2死一、二塁で片山選手がタイムリー二塁打!
4回2死一、二塁で片山選手がタイムリー二塁打!
6回も2死一、二塁で伊藤隼選手がタイムリー二塁打!
6回も2死一、二塁で伊藤隼選手がタイムリー二塁打!

◆バッテリー

【阪神】小野‐石井-牧 / 片山

【福井】濱田(2回)-三染(3回)-小澤(1回)-楊(1回)-原田(2回)-高橋(1回) / 坂本

◆二塁打 神:片山、伊藤隼

◆盗塁 神:小幡、島田

◆打撃   (打-安-点/振-球/盗/失)

1]遊:小幡  (5-2-0 / 0-0 / 1 / 0)

2]二:熊谷  (5-0-0 / 0-0 / 0 / 0)

3]中:荒木  (4-2-0 / 0-0 / 0 / 0)

4]左:陽川  (4-0-0 / 2-0 / 0 / 0)

5]一:原口  (3-0-0 / 0-1 / 0 / 0)

6]捕:片山  (3-2-1 / 0-1 / 0 / 0)

7]右:伊藤隼 (4-1-2 / 1-0 / 0 / 0)

8]三:藤谷  (3-0-0 / 1-1 / 0 / 0)

9]指:島田  (4-2-0 / 0-0 / 1 / 0)

   

◆投手 (安-振-球/失-自) 最速キロ

小野 5回 56球 (0-8-0 / 0-0) 149

石井 1回 20球 (0-2-1 / 0-0) 146

牧  3回 51球 (3-5-1 / 0-0) 148

《試合経過》※敬称略

この2試合とも1番で出場、ともにマルチの小幡選手。
この2試合とも1番で出場、ともにマルチの小幡選手。
島田選手はDHでの出場。右前打2本を放っています。
島田選手はDHでの出場。右前打2本を放っています。

 まず攻撃から。1回は荒木が四球を選んだだけ、2回は三者凡退で、3回に1死からチーム初ヒットとなる右前打を島田が放つも、併殺で無得点。しかし4回、荒木の左前打と原口の四球などで2死一、二塁として片山がライトへタイムリー二塁打!5回は2死から小幡の右前打のみでしたが、6回に先頭の荒木が中前打、2死後に片山が四球を選んで、続く伊藤隼は右翼線への2点タイムリー二塁打!3対0とします。

 7回は1死から小幡が中前打と二盗、8回は2死から片山が右前打と二盗を決めたものの追加点なし。9回に先頭の藤谷が死球、島田の右前打で無死一、三塁とし、島田が盗塁を成功させて二、三塁。1死後に熊谷の遊ゴロで藤谷がホームへ!しかしこれはショート・澤端の送球でアウトになっています。2死一、三塁に変わり、次の荒木への初球をキャッチャーが捕逸。島田が生還して4点目が入りました。

荒木選手もマルチヒットでした。
荒木選手もマルチヒットでした。
原口選手は5番ファーストで出場。守備位置への往復は全力疾走でした。ヒットはなかったものの「感じはいいので」と明るい表情です。
原口選手は5番ファーストで出場。守備位置への往復は全力疾走でした。ヒットはなかったものの「感じはいいので」と明るい表情です。

 さて、投手陣は最初にも書いた通り、完封リレーです。しかも先発の小野は内野ゴロ3つの三者凡退で立ち上がると、2回はすべて三振で3回の先頭にかけ4者連続三振!4回はまた3者連続三振、5回も三者凡退。つまり予定の5イニングをパーフェクトに抑えました。奪った三振は8個、それで56球というのもすごいですね。

 6回は石井が連続奪三振のあと9番・山根に四球を与え、初めての走者を出すも片山が盗塁阻止!6回まで打者18人で片付けました。7回からは牧が登板して1死から1四球のみで無失点。まだノーヒットです。しかし8回は先頭の5番・石井に、バットを折りながらライトへ運ばれる初ヒット。そこから連続三振を奪って2死としたあと暴投と8番・坂本のショート内野安打で2死一、三塁としますが、最後は山根を見逃し三振!9回は2番・工藤に中前打(牧のすぐ横を通過)されたものの、後続を断って試合終了。ラストバッターは3球三振でした。

「ここまでの実戦で一番よかった」

 試合後の平田監督は、小野投手について「この前の筑後が悪かったけど、きょうに関しては腕も振れていたし、ストライク先行でよく投げていた。まあこのくらいが当たり前といえば当たり前。筑後が悪すぎたから」と、前回登板だった15日のソフトバンク戦(3回2安打、2三振、2四球で1失点)と比較してコメント。

先発の小野投手は5回パーフェクト。
先発の小野投手は5回パーフェクト。
石井投手は6回に登板し、無安打を継続。
石井投手は6回に登板し、無安打を継続。

 「ただ球数が少なすぎたね。100球をメドにして、まあ5回なら80球くらいかなと思っていたら56球?少なすぎた。でも5回と決めていたので。そのへんが誤算というか」。いい方の誤算もあったようです。

 また「福井の応援団が、最後は片山にもエールを送ってくれていた。片山は若い選手たちにも、いい風を吹かせてくれているよ。NPBという環境でやれている選手たちは、BCリーグの選手たちの野球に対するひたむきな姿勢を勉強せなあかん。そのための対戦でもある」と平田監督は続けました。

 次に小野投手です。打者15人に対して56球を投げ、無安打無四球で5回パーフェクト!試合を振り返って「きょうはカウント負けしないことをテーマにしていました。ストライク先行で、いいリズムで投げられたんじゃないかなと思います。追い込まれるまでに関しては、ここまでの実戦の中で一番よかったです」と話しています。

着実にステップアップして、1軍へと歩を進める小野投手。
着実にステップアップして、1軍へと歩を進める小野投手。

 奪った三振は8個。「できるだけ早くストライクを、と考えていて、片山とも“3球勝負”という話をしていたので、それがうまくいったと思います」と、その要因を語りました。そして「三振は取れたけど、勝負球であったり、決め球を投げきるということが課題かなと。強いチームは、その一球をとらえてくるので。反省は、決め球を投げきれなかったことですね」と小野投手。

 今後に向けて「きょうはストレートで空振りが取れた。今後は変化球でカウントを取って、いい投球につなげていきたいです」と締めくくりました。

母校訪問で誓いを新たにした牧投手

 7回に登板した牧投手。去年は1イニングで8球、ことしは3イニングで51球でした。どうだった?と尋ねたら「うーん…」と浮かない表情。そういえば試合終了時もみんなと手を合わせながら笑顔はなかったですね。そこまでノーヒットで来ていたのは意識した?「それは全然。そういうことは気にならなかったです。見に来てくれてはる人も多いので、いいピッチングができればなと思っていました」

8回2死一、三塁の場面で三振を奪うところです。
8回2死一、三塁の場面で三振を奪うところです。

 でも、あまりよくなかった?「はい。やりたいことができなかったので」。課題を挙げるとしたら?「キャッチャーとのコミュニケーションをもっと取らないといけないなと思いました」。平田監督は「まだ2年目。いろんな経験をしながら力をつけつつあるところ」と今後の伸びしろに期待を込めています。そうそう、これからですね。「ボール自体はよくなってきていると思うので、それをつかみきれるように。レベルアップできるようにやっていきたい」

昨年7月の“凱旋試合”に比べると、雰囲気も大人になった牧投手。
昨年7月の“凱旋試合”に比べると、雰囲気も大人になった牧投手。

 1年経って、去年とは違う自分を出せた?「それは出せたと思います」。3安打と1四球はあったものの、5三振を奪って無失点。「でも三振は取りたいところに入らなかった。ダメです」。結果は三振になっていても?「はい。それじゃあダメなんです。意味がない」とキッパリ。「三振を取ろうとしているけど、取りたいところに入らなかった」のが問題のようです。それにしても本当に笑顔がなくて、牧投手も「ごめんなさい」と謝るほど。

 スタンドでは母校・啓新の教頭先生も観戦されたそうです。また球場入りの前には牧投手が学校を訪問したとか。懐かしい先生方に会って「やせたね~と言われましたよ。あとは、元気そうで何よりって」。甲子園で投げるのを楽しみにしていてくださいと言ってきた?「そうですね。投げられたら一番喜んでもらえると思うので、頑張ります!」。最後に少し笑顔が見えて安心しました。

片山選手は全力プレーで恩返し

 昨年までは福井ミラクルエレファンツの選手として、ことしは阪神タイガースの選手としてフェニックススタジアムのグラウンドに立った片山選手。試合後に「まだ数か月しか経っていないんですけど、懐かしさは感じました。ああ、ここで野球をやっていたんだなっていう、今終わって改めて色んなことを思い返しながら、初心に帰れる時間だったと思う」と話しています。

先制タイムリーのあと4回裏の守備に就いた時、スタンドの「片山」コールに応えて。
先制タイムリーのあと4回裏の守備に就いた時、スタンドの「片山」コールに応えて。

 タイムリーも出ましたね。「結果云々は、正直まあ…。もちろん結果が出たことは大事ですけど。それより自分のやれること、たとえば全力疾走にしても全力プレーにしても、そういうところを僕はきょう一日、大事にして取り組んだので。結果は二の次です」

 なるほど、そこを見てもらうことが大事だった?「ヒットを打って次の塁を狙う姿勢だとか、凡打でもフォアボールでも、また攻守交代の時も全力疾走することとか。結果だけじゃなく、そういうところも頑張らないといけないんだっていう自分への戒めも含めて、見ていただけたらと思ってやっていました」。戒め?と思わず聞き返したら「自分に対して、初心に帰れたという意味も含め、改めて大事にしなきゃいけないかと思ったので」とのこと。

ネクストでバットを振る片山選手。いろんな思いがよぎっていたかもしれませんね。
ネクストでバットを振る片山選手。いろんな思いがよぎっていたかもしれませんね。

 そして投手陣に対するリード面を聞くと「いやいやいや!僕はもう全然。ピッチャーのボールがよかったんで。僕の配球ではなく、ピッチャーの力量です」と即答した片山選手。

 「僕らがこうやってNPBのユニホームを着てやらせてもらっていて、彼らより練習はもちろんしていますし、結果として絶対抑えなくちゃいけないし、勝たなきゃいけないってのは僕らの使命でもあると思う。そういった意味で、きょうの投手陣のピッチングはすごく価値があったと思います。こうやって上の人間はやっているんだよ、っていうのを彼らに感じてほしかったので」

 そういえば北陸遠征の前に話をした時、片山選手は「いっぱい練習しているってのを見せたい」と言っていました。こういう意味だったんですね。「いろんな複雑な思いがありました。チームとしては勝ちたいし、個人としても結果を残したいけど、彼らにもこの世界を見てほしいという複雑な気持ちはあった」。そんな思いが詰まった全力プレーは、福井の選手たちだけでなく、お客様にも届いたはずです。

その節はお世話になりました!

 最後に。福井には毎年会うのを楽しみにしている木下裕揮(ゆうき)外野手がいます。昨年、もと阪神・一二三慎太選手の近況を書いた記事でもご覧いただいたでしょう。その自主トレに参加していた澤端侑(あつむ)内野手にも今回は挨拶できました。

福井の木下外野手(26)は6番ライトでの出場。メチャクチャ真顔ですね。
福井の木下外野手(26)は6番ライトでの出場。メチャクチャ真顔ですね。
同じく澤端内野手(21)。この日は1番・ショート。いい守備も見せてもらいました。
同じく澤端内野手(21)。この日は1番・ショート。いい守備も見せてもらいました。

 福井に入って2年目の澤端選手は、今季もう3本のホームランを打っているとか。木下選手が「この(細い)体で打つんですよ」と言っていたように、見た目で判断しちゃいけませんね。試合前に「狙いますよ、先頭打者ホームラン。しかも初球!見といてください」と宣言した澤端選手。しっかり初球からスイングしたけど空振り、2球目を打ってセカンドゴロでした。結局、木下選手も澤端選手もヒットはなかったですね。残念!

 ちなみに、こちらの記事→<もと阪神・一二三慎太選手の再挑戦 「もう一度、全力で投げてみたい」>のあと一二三選手はどうしているか尋ねてみたところ、今もしっかり練習しているそうですよ。シーズンが始まって木下選手も、石川の岡本選手も大阪を離れたため、1人だと何もできないのでは?と思ったけれど心配無用。ちゃんと相手もいるとのこと。「めっちゃバンバン投げていますよ」と木下選手は言っていました。ちょこっとご報告まで。

   <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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