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忖度と卓袱台返し

太田康広慶應義塾大学ビジネス・スクール教授
(写真:アフロ)

森友学園問題で「忖度」という言葉が流行っている。

「忖度」を「そんたく」と読めるかどうかというのは、難読漢字クイズの一例だったのだが、これほどメジャーになってしまってはもう使えない。

「忖度する」のと「空気読む」のとは本質的に同じことである。相手の気持ちを慮って、相手の意に沿うように行動する。

営業であれば、顧客の意に沿った行動を取ることで、売上げが増えるかもしれない。相手の気持ちを推し量るのは大事である。

実際、客として、営業のかたと接していると、いろいろ細部を観察されているなという感じがする。

客の気分を忖度できる営業が、成績のいい「できる」営業なのだろう。

しかし、マネジメント・サイドに立った場合、忖度のしすぎは時代に合わなくなってきている。

忖度するということは、上層部の意向に沿うということ。上層部の意向がマーケットのニーズに合っているかぎり、それで何の問題もない。

ただ、マーケットのニーズの変化が速い時代には、上層部の意向がマーケットのニーズに合わなくなることが多い。

年功序列の階層の深い組織が、市場動向に機敏に反応できないというのはよく知られた事実。

マーケットのニーズと違うなと現場の社員が感じていながら、空気を読んで忖度したせいで、その情報が上層部に上がらなければ、経営陣の意思決定が現場感覚とズレたものとなる。

そういう組織は、早晩、傾く可能性が高い。

だから、ここぞというときには、会議で空気を読まないで卓袱台(ちゃぶだい)返しができることが重要である。卓袱台返しというのは、食事の準備が整った食卓を、頑固オヤジがひっくり返すイメージである。昔の野球アニメ『巨人の星』で、頑固な父親、星一徹が、食事の整った卓袱台を怒ってひっくり返す感じ。

それができなければ、ミクロでは出世できるかもしれないけれど、マクロでは組織の衰退につながって、大規模リストラにつながるかもしれない。

卓袱台返しをする臨界点が低すぎれば問題児だし、高すぎれば低能だろう。その加減が難しい。

ただ、卓袱台返しをしがちな人には事前に根回しが来るので、その段階でギリギリと折衝できる可能性がある。結果として、卓袱台返しをしなくてよくなる。

会議で、卓袱台返しが起きるというのは根回し側がイマイチだったということでもある。

本当は、自分で卓袱台をセッティングするのが理想だろう。適切なアジェンダ・セッティングができるのが一番有能かもしれない。

今の日本は空気を読みすぎるので、多少、卓袱台返しをしすぎくらいのほうが最適点に近いような気もする。造反有理。

慶應義塾大学ビジネス・スクール教授

1968年生まれ、慶應義塾大学経済学部卒業、東京大学より修士(経済学)、ニューヨーク州立大学経営学博士。カナダ・ヨーク大学ジョゼフ・E・アトキンソン教養・専門研究学部管理研究学科アシスタント・プロフェッサーを経て、2011年より現職。行政刷新会議事業仕分け仕分け人、行政改革推進会議歳出改革ワーキンググループ構成員(行政事業レビュー外部評価者)等を歴任。2012年から2014年まで会計検査院特別研究官。2012年から2018年までヨーロッパ会計学会アジア地区代表。日本経済会計学会常任理事。

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