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コロナ禍での2度目の年末年始 困窮者支援の現場から見えてきたこと

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
食料品配布に訪れる人(もやい提供)

■コロナ禍での2度目の年末年始

早いもので2021年もあと数日となりました。

コロナ禍での2度目の年末年始を迎えることになります。

年末年始は、仕事を失ったり、収入が減少してしまう人が多くうまれてしまうほか、公的機関の窓口も「閉庁」といってお休みに入ってしまうことも多く、支援を必要とする人が増加するといわれています。

私が所属する認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい(以下、〈もやい〉)でも、年末年始に支援活動をおこないます。

2021-22年末年始相談会のご案内(NPO法人もやい)

コロナ禍もオミクロン株など、先の見えない状況が続いていますが、生活困窮者支援の現場もそれは同様です。

■相談が増加する支援現場の状況

もともと、〈もやい〉には、都内を中心に首都圏から多く相談が寄せられ、その数は、面談、電話、メール等で約4000件にのぼります。(相談自体は全国から寄せられる)

しかし、コロナ禍での相談件数は、例年の1.5倍から2倍に増加しています。

コロナ禍での対応として2020年4月から毎週土曜日に実施している新宿都庁下での食料品配布と相談会の活動では、食料品を受け取りにくる方が例年にない規模で増加しています。

当初は100名程度の方に食料品を提供していたのが、2020年6月には180人に。2回目の緊急事態宣言が発出された年明けには200人をこえ、2021年3月からは300人、5月後半から350人、そして、11月20日にはついに408人を記録しました。

その後、人数の増減はあるものの、350人をこえる人数が常態化しています。

もやい新宿都庁下での食料品配布に来られるからの推移(もやい集計データより)
もやい新宿都庁下での食料品配布に来られるからの推移(もやい集計データより)

あくまで、いち支援現場のリアルでしかないものの、この数字からもコロナ禍での「貧困」の状況がみてとれるのではないかと思います。

感染者数の増加や緊急事態宣言の影響を如実に受けつつ、人数が減るわけでもなく、少しずつ増加しています。

毎週土曜日のこの活動だけでも、この20か月で90回近く実施し、実数ベースで23,000人に食料品を配布したことになります。

■相談に訪れる人の背景

毎週土曜日の食料品配布はあくまで「入口」で、その配布と同時に、生活相談、医療相談をおこなっています。所持金がない、住まいがないなどの緊急性の高い相談もあれば、利用できる支援制度を知りたい、というような情報提供で終わるものもあります。

相談に来る人の多くは、非正規労働で働いていた人たちです。

正社員の人からの相談もありますがあくまで一部。その大半は、派遣、契約、日雇いなどの不安定な雇用形態で働いていた人です。また、フリーランス、個人事業主の人も一定数います。(その多くはもともとワーキングプア状態の人たちです)

就いていた仕事の業種はさまざまで、コロナ禍で営業自粛を迫られている飲食店などで働いていた人もいれば、直接的には影響のなさそうな建設や清掃、警備などの仕事をしていた人もいます。コロナ禍での間接的な影響として、景気の悪化や、雇用の縮小の影響を受けていることが考えられます。

しかし、いずれも共通しているのは、もともと低収入だったり、不安定な雇用形態であった、ということです。これまでは好景気に支えられて、「ワーキングプア」とはいえ何とかギリギリで生活を成り立たせることができていた人が(これはこれで厳しい状況なのですが)、景気の悪化と雇用の縮小で仕事を失い、生活に困窮している。そういった状況が見えてきています。

コロナ禍が長引くなかで、先が見えず追いつめられたり、失業期間が長引いて貯蓄を減らして生活困窮状態におちいってしまったり、そういった厳しい状況に追い込まれている人が増加していることは間違いがないでしょう。そして、コロナ禍が長引けば長引くほど、そういった状況の人がもっと増加していくことが考えられます。

これが現場で支援に携わっている立場からの率直な現状認識です。

■コロナ禍での生活困窮者への支援施策

厚労省の統計によれば、「完全失業者数」こそ、200万人を下回っている(2021年10月)ものの、「雇用調整助成金」は、全国で、2020年2月14日~2021年12月24日までで、累計申請件数が553万2587件にのぼり、累計支給決定額が5兆1337.38億円にも達します。

同じく、経産省の発表によれば、「持続化給付金」は、すでに支給を終了していますが、約423万の中小企業、個人事業主に対して、総額で約5.5兆円支給しているといいます。いずれも、多くの事業者や企業、そしてそこで働く人を制度で守ってきました。

しかし、こういった支援制度の多くが「雇用を守る」ことに主眼を置いていることもあり、すでに失業した人や、非正規労働者などにはその恩恵が及びにくいという問題があることは、あらためて指摘するまでもないでしょう。

実際に「個人」に対しておこなった支援としては、2020年中では、1世帯に2枚布マスクを配布した「アベノマスク」と、一人に10万円の現金給付をおこなう定額給付金のみでした。

現在、子育て世帯や非課税世帯向けの10万円の現金給付の施策が始まっていますが、対象の絞り方など支援としては不十分なものであるのは明白です。(それについてはここでは書きませんが)

少なくとも、政府の支援策が、非正規で働く人や失業した人に対して十分なものであったとはいえないと思います。

■拡大した「特例貸付」

コロナ禍で最も活用されている生活困窮者への支援施策が「特例貸付」です。

厚労省の発表によれば、緊急小口資金等の特例貸付は2020年3月25日~2021年12月18日までで、全国での累計貸付決定件数が306万3342件にものぼり、累計支給決定額が1兆3251.96億円にのぼります

東日本大震災が起きた2011年度は1年間で約10万件であり、2019年度は1年間で約1万件であったことからも、この数字の異常な伸びがわかります。

緊急小口資金等の特例貸付は、緊急小口資金貸付と総合支援資金貸付の二つで構成され、最大で200万円の貸付を受けることができる制度です。もちろん、生活再建しない場合など返還免除等の規定はあるものの、最大で200万円の借金をさせてしまう制度でもあります。

両貸付の利用者数は、累計とはいえ300万件に達します。生活保護世帯数が163万世帯(生活保護利用者は約204万人)(いずれも厚労省被保護者調査2021年6月速報値)であることから考えても、「貸付」のウェートの重さがわかります。

2021年1月27日の参議院予算委員会において菅義偉総理大臣が「最終的には生活保護がある」と発言したことが話題となりましたが、実際には、生活保護の「その他世帯(稼働年齢層)」については、2020年3月から2021年9月の1年半で7460世帯しか増加していません。(厚労省「生活保護概数調査速報値」)

厳しい状況の人が生活保護ではなく「特例貸付」を多く利用している、そういった状況が予測できます。

「貸付」は果たしてセーフティネットと言えるのでしょうか。中長期的にみたときに、政府が「貸付」に頼って、給付型の支援をおこなわなかった「つけ」を払わされるのは政府ではなくコロナ禍で生活困窮したワーキングプアの人々になってしまうのは、何とか防がなければならないことです。

今からでも「特例貸付」の返済免除基準を大幅に引き下げたり、追加の給付措置について、対象を大きく拡大しておこなうなど、抜本的な公助の拡充をおこなっていくべきだと考えます。

公助の拡大なしに、支援の拡充がないことは声を大にして言いたいことです。

■「公助」があってはじめて「共助」が力を発揮する

コロナ禍は、多くの人の生活様式を一変させました。ステイホームが呼びかけられ、テレワークが推奨され、感染予防をしながらの生活を余儀なくされています。

感染者数自体は、2021年秋から減少傾向にありますが、変異株の存在もあり、油断はできない状況です。先の見えなさと言う意味では、この1年半、状況は大きく変わっていないでしょう。

生活が苦しくなっている人の状況や背景については先述しましたが、多くの人がすでに「自助」で限界まで奮闘していると言えます。

また、コロナ禍で、DV相談件数が前年度比1.6倍に増加したり(内閣府男女共同参画局)と、家庭内での暴力の問題も顕著になっています。家族の支えが必ずしも「あて」になるものではないことは、これまでも指摘されてきました。

「共助」について言えば、〈もやい〉だけでなく、全国のフードバンク等の民間支援団体や子ども食堂などの取り組み、女性への支援や自殺対策、ホームレス支援や生活困窮者支援の活動は、それぞれの団体が感染予防を徹底しつつも、その活動を維持、拡大して取り組んでいます。

年末年始も支援活動をおこなうところも多くあります。

NPOや社会福祉法人等によるコロナ禍での地域に根差した丁寧な取り組みの試行錯誤と継続は、特筆するべきことです。しかし、なかには、感染予防の観点から活動を縮小したり、停止している取り組みもあれば、担い手に高齢者や持病を持つ人も多く、活動自体をやめてしまった団体もあります。

それらの事情を含めて考えたときに、NPO等の民間の活動に頼りすぎることは決して良いことだとは言えません。そういったNPO等の民間の支援活動は、公的な補助金が入っている支援というよりは、民間の寄付や助成によって、その支援活動がまかなわれているところも多いのも実情です。

肝心の「公助」は、繰り返しになりますが、十分とはいえません。むしろ、セーフティネットの不在はコロナ禍であらためて「可視化された」とみるべきです。

「公助」があってはじめて「共助」がその役割を果たすことができます。その順番は決して逆にはなりません

■もともとあった「貧困」とこれから

そもそも、コロナ禍以前から、「貧困」はたしかに存在していました。日本の貧困率は2018年で15.4%、6人に1人が貧困です。子どもの貧困率は12.7%で8人に1人の子どもが貧困です。(いずれも厚労省「国民生活基礎調査」)

すでに「貧困」は存在し、拡大していて、その対策、取り組みが不十分ななか、コロナ禍に見舞われたのです。

短期の対策も必要ですが、長い目で考えたときに、この日本社会のセーフティネットをどのように構築していく必要があるのか。コロナ禍で突き付けられた宿題は、この年末年始も支援の現場に重くのしかかります。

以上

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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