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夏休みに考える「ホームレス」への差別や暴力のこと

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
渋谷区の某公園の様子(2014年時点)

夏休みに考える「ホームレス」への差別や暴力のこと

世間はお盆休みです。この時期はまとまったお休みをとれる人も多いことでしょう。

家族と一緒に時間を過ごしたり、ご実家に帰ったり、はたまた帰省してきたお子さんやお孫さんとのんびりされる方もいると思います。

今日は、そんな夏休みにこそ、みなさんと考えたい、「ホームレス」というテーマについて、そして、彼らを取り巻く差別や暴力の問題についてみていきたいと思います。

■野宿の人の約4割が経験している暴力被害

今から4年前、都内の支援団体等の協力により、全国で初であろう「野宿者への襲撃の実態に関する調査」をおこないました。

これは、野宿をしている人が暴力を受けたり、ケガをしてしまったりという事件が起こるなかで、その被害の内容、加害者の実態を明らかにするためのもので、都内で野宿をしている347名へアンケートをしました。

この調査からは、

・40%の人が襲撃を受けた経験あり。

・襲撃は夏季に多く、襲撃者(加害者)の38%は子ども・若者。

・襲撃者は75%が複数人で襲撃に及んでいる。

・襲撃の内容としては、なぐる、蹴るなどの「身体を使った暴力」やペットボトルやたばこ、花火などの「物を使った暴力」が62%を占めている。

・子ども・若者の襲撃は「物を使った暴力」が53.6%にのぼる。

などが明らかになりました。

野宿者への襲撃の実態に関する調査(概要編)

■子どもや若者が夏休みに集団で野宿の人に暴力をふるう

そして、特に、暴力被害の加害者は、子どもや若者が多く、彼らは集団で、そして、夏場(夏休み)に暴行に及んでいる、という事実でした。

都内だけでこの20年で10名以上の野宿の人が10代の若者に殺されている、という報告もありますが、野宿の人への暴力被害の実態は深刻なものなのです。

■野宿の人への暴力をなくしていくために始まった取り組み

こういった実態を受け、地域で野宿の人への暴力をなくしていくための取り組みも一部始まっています。

墨田区では、支援者や野宿をしている当事者が小中学校を訪れて「特別授業」をおこないました。こういった取り組みにより、「特別授業」の実施後には、野宿の人への暴力が10分の1にも減ったという報告もあります。

路上生活者の姿知ろう 東京・墨田、全区立小中で「特別授業」(共同通信配信)

■TBS『ビビット』での「ホームレス」の人への差別的な放送

一方で、昨年1月31日に放送されたTBS『白熱ライブ・ビビット』では、「ホームレス」をテーマにした悪意のある放送がありました。

番組の中で、多摩川の河川敷に住む「ホームレス」の人たちを「多摩川リバーサイドヒルズ族」と呼び、また、ある野宿の人をほかの野宿の人の発言を引用する形で「人間の皮を被った化け物」と呼称したり、「犬男爵」などとイラストやテロップを出したりと、問題の多いものでした。

僕もyahoo!ニュース個人で記事を書き批判をしましたが、その後、当該の放送から約1か月経った3月3日に生放送中に、また、ホームページでも、「取材した男性を傷つける不適切な表現や取材手法があった」と認め、謝罪しました。

TBS「ビビット」のHPに掲載された謝罪
TBS「ビビット」のHPに掲載された謝罪

TBS「ビビット」のみなさまへ 悪意のある放送はホームレスの人を危険にさらすので、やめてください(大西連) - Y!ニュース

■BPOで審議入りし放送倫理違反と判断

このTBS『白熱ライブ・ビビット』の放送内容は、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会によって審議入りしました。

昨年10月にこの放送についての最終的な報告書がまとめられましたが、以下のような記載がありました。

TBSテレビ 『白熱ライブ ビビット』「多摩川リバーサイドヒルズ族 エピソード7」に関する意見(放送倫理・番組向上機構〔BPO〕)

Aさんについて、揶揄していると受け取られかねない「犬男爵」と呼んだうえ、Bさんの発言を引用して、極端に誇張したイラストとともに「人間の皮を被った化け物」と決めつけた。Bさんの話の脈略にはまったく触れず、Aさんの人間性を否定するような強烈な言葉だけをピックアップした編集や表現方法には弁解の余地がない。

Aさんがカメラマンらに向かって怒鳴る「出会いのシーン」は、Xディレクターが意図したものなのか、それとも想定を超えた成り行きだったのか。事実経過を詳しく たどると、「過剰な演出」とまで言い切れるかどうかは微妙である。しかし、VTRでこのシーンを冒頭から計3回も使い、「すぐに怒鳴り散らす粗暴な人物」という印象を 視聴者に与えたことは、表現上の問題として看過できない。

Aさんの人格を傷つけるだけではなく、ホームレスの人々への偏見を助長する恐れもあるこれらの表現は不適切であり、放送倫理違反は明らかである。

そもそも、「人間の皮を被った化け物」などというBさんの話は断りもなく撮影され、放送された。委員会はテーマの重要度や取材目的、公共性・公益性との兼ね合いから、必ずしも「無断撮影」自体を否定するものではない。しかし、この場合は、TBSが報告書で「重大な信義則違反」と認めているように、Bさんとの信頼関係を損ねる行為であり、これも放送倫理違反と判断する。(「TBSテレビ『白熱ライブ ビビット』「多摩川リバーサイドヒルズ族 エピソード7」に関する意見」より)

野宿の人への暴力や、このような配慮のない(悪意のある)放送は、一体、なぜおこってしまったのでしょうか。

■BPOが指摘した「集団的無意識」

BPOの報告書はとても詳細な経緯や背景に踏み込んだものなのですが、こういった番組放送にいたった原因として「集団的無意識」という指摘をしています。

TBSの報告書は反省点のひとつとして、「ホームレスの人々とホームレス問題に対する私たちの無理解」を挙げている。

「多摩川リバーサイドヒルズ族」というネーミングやテーマソングのように流してきた「リバーサイドホテル」については当初、一部のスタッフから「ホームレスの人たちを茶化しているのではないか」という疑問も出た。しかし、大半のスタッフはそれほど違和感を持たなかったので、そのまま使われ続けた。ホームレス問題を取り上げるというよりは、新たな「迷惑モノ」「画モノ」の取材対象として見ていたのではないか。ホームレスが生まれる背景や社会に対する認識が希薄なスタッフたちは、次のようなナレーションやスーパーの表現も放置してきた。

Xディレクターが出会ったホームレスの1人を「俺たちの楽園に入ってくるな、とばかりにバイクで逃げ去った」とからかう。「不法占拠」を指摘するXディレクターに「基本的人権があるんだから、それを尊重してもらわないと…」と話す別のホームレスについて、「憲法を持ち出し、河川敷に住む権利を主張する」と皮肉る。ホームレスの暮らしぶりを紹介する際には、「インターフォン完備のゴージャスな家」「テレビ付きの巨大御殿」といった大仰な言葉が飛び交った。映された生活実態とかけ離れたナ レーションやスーパーなどは、「揶揄したり、面白がったりしている」と批判されても仕方がないだろう。

しかし、こうした表現方法はそれまで「体当たり的な取材も含め、いかにもXディレクターらしい」と内輪で受けていたようである。多くのスタッフの間に「多摩川のホームレスは違法行為をしているのだから、文句を言ってこないだろう」という先入観はなかっただろうか。

今回の問題は、こうした自覚や思慮を欠いたままシリーズを続けてきたスタッフたちの「集団的無意識」が根本から問われたと言えよう。(「TBSテレビ『白熱ライブ ビビット』「多摩川リバーサイドヒルズ族 エピソード7」に関する意見」より)

ここに記載されているように、こういった番組放送は必ずしも「無理解」だけによっておこるものではありません。「無理解」だけであれば、悪意のある内容にはならないでしょう。

揶揄したり面白がる内容にするのは、そこに無理解以上の感情、価値観があったからだと考えるのが妥当だと思います。

そして、「多摩川のホームレスは違法行為をしているのだから、文句を言ってこないだろう」という先入観があることにより、歯止めを失い、放送にいたったと考えることができます。

「ホームレス」の人へ集団で暴力をふるう子どもや若者について考える時も、こういった「集団的無意識」の問題を無視することはできません。この「集団的無意識」がなぜうまれるのか、社会が「ホームレス」の人たちをどのように眼差しているのかが問われていると言えるでしょう。

■見えにくくなる「ホームレス」

一方で、「ホームレス」の人たちを取り巻く状況は変化を続けています。

厚労省「ホームレス概数調査」によれば、2018年1月時点でいわゆる「ホームレス」は全国で4977人と初めて5000人を下回り、調査開始時(2003年)と比べて5分の1以下に減少しています。

厚労省「ホームレス概数調査」年次推移(筆者作成)
厚労省「ホームレス概数調査」年次推移(筆者作成)

しかし、この数字だけを見て、野宿の人、生活に困って住まいを失う人が減少している、と短絡的に考えることはできません。

たしかに、国の統計による「ホームレス」は減少しています。たとえば、上記調査によれば、2018年1月時点で都内の「ホームレス」は1242人ですが、一方で、東京都の調査によれば、いわゆる「ネットカフェ難民」は4000人と推計されています。

都内では、いわゆる野宿の人よりも「ネットカフェ難民」などの人のほうが多いなどとも言われています。時代とともに、生活困窮の在り方、住まいを失った人の状況というものも変化していると考えるのが自然です。

また、減少している野宿の人の状況を見ても、東京オリンピックに関わる再開発の影響で野宿をする場を失ったり、また、池袋での支援団体等の調査によれば、野宿の人の約7割に何らかの精神疾患や知的障害等の疑いがあることなどがわかってきたりと、困難さは増していると言えるかもしれません。

炊き出しにならぶ人々
炊き出しにならぶ人々

2014年12月に発表された東京都の「長期ビジョン」によれば、2024年までに都内の「全てのホームレスが地域生活へ移行(原文ママ)」を目指す、としています。

一部、取り組みはスタートしていますが、いわゆる「ホームレス」の人のみを対象としたものになるのか、「ネットカフェ難民」などの住まいがない「ホームレス状態」の人をも含む支援制度になるのかなど、時代や社会の変化にともなう対象の設定、具体的な支援のメニューなど、多くの課題を抱えています。

■「ホームレス」をとりまく課題をどうとらえるか

「ホームレス」の人を、地域の「迷惑な存在」と考えるか、それとも、「課題や困難さを抱えた同じ地域に住む住人」と考えるか、両者でアプローチは大きく変わってきます

「迷惑な存在」であるという前提でものごとをとらえていくと、それは差別や暴力へとつながっていく可能性があります。

子どもや若者が野宿の人を襲ったのはなぜか、TBS「ビビット」のスタッフが「集団的無意識」におちいってしまったのはなぜか。

また、そうならない社会にするためには何が必要か。

この夏休みに、家族や友人、地域の人たちと考える時間を作っていただけたら幸いです。

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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