多くの人が音声SNS「ClubHouse」の新しい体験に興奮している。著名な起業家やYoutuberは勿論、TwitterやFacebookで遅れをとってしまったマスメディアも今回は遅れまいと、競うようにClubHouseについて報道し、率先してClubHouse内にルームを作り、「ClubHouseが如何にメディアシーンを変えるか?」と論じている。

 筆者も利用しているが、Twitter黎明期のような「新しい出会い」を楽しんでいる。文字によるコミュニケーション中心のTwitterやFacebookとは異なり、音声によるコミュニケーションだと「飲み会」をしているような感覚になり、ついつい深夜まで話し込んでしまうこともあるくらいだ。

 急速に広がりを見せる「ClubHouse」だが、社会に与える「負の側面」は無いのだろうか?筆者は、非常に危険な側面を持っていると感じている。警察組織等は「ClubHouse」が広く普及する前に、薬物の売買や援助交際に用いられた場合の捜査方法を確立する必要があるだろう。

■「犯罪捜査」を難航させるClubHouseの3つの特徴

 ClubHouseにはある種の犯罪を行われた時に「捜査」を難航される3つの特徴が存在する。

・平常時の音声が記録されない

 まず最初に挙げるのがClubHouse内で交わされた会話がどのように「記録」されるかだ。「犯罪を捜査」しようと思っても「証拠」が無ければ起訴するハードルが格段にあがってしまう。

 ClubHouseのプライバシーポリシーにはClubHouseが収集するデータのうち、音声録音に関して以下の記述がある。

Audio:インシデント調査をサポートする目的のためのみに、ルームが稼働している間、ルーム内の音声を一時的に録音します。ルームが稼働している間にユーザーが信頼と安全の違反を報告した場合、インシデントの調査のために音声を保持し、調査が完了した時点で削除します。インシデントが報告されなかった場合、ルームが終了した時点で一時的に録音された音声は削除されます。(i)ミュートされたスピーカーと(ii)聴衆の音声は決してキャプチャされず、すべての一時的な録音は暗号化されています。

 つまり、ClubHouse内での会話は何か問題が発生していない場合は「録音」されていないということだ。ユーザーから何らかのクレームが報告された時に、インシデント調査の一環で一時的に録音するが、調査終了後にはそのデータは削除するとしている。

 次に、ClubHouseで発生するデータはどこに送信されるのかを見てみよう。これについてもプライバシーポリシーの「INTERNATIONAL USERS」で触れられている。

INTERNATIONAL USERS:当社のサービスを利用することにより、お客様は、お客様の個人データがお客様の所在地から米国内の当社の施設およびサーバーに転送され、該当する場合には、当社がサービスを提供するために使用する技術パートナーのサーバーに転送されることを理解し、了承するものとします。

 つまり、米国以外のユーザがClubHouseを利用する場合には、データは一旦、米国内のClubHouse設備に転送されるとある。

 これらのプライバシーポリシーの記載から読み取れることは、音声データ等は一旦米国に送信され、インシデントが発生していない場合には「録音されず」、インシデントが発生したとしても「米国内のサーバーにデータが保管される」ということだ。

 プライバシーポリシー記載の通りであれば、ClubHouse内の通常の会話は録音されていないことになる。そして、もし「記録された」としてもそのデータは米国内に存在するため、データ提供を求めるためには、米国の法律に従って開示の手続きをとらなければならない。

・年齢制限はあるが、年齢確認はしない

 次に挙げるのが年齢確認についてだ。若年層へ利用が広がれば10代の好奇心旺盛な若者が犯罪に巻き込まれるリスクも高くなる。

 ClubHouseのコミュニテイガイドラインには「ユーザーは18歳以上」であることと記されている。しかし、ClubHouseのユーザー登録の際に年齢や生年月日を求められることは無い。「18歳以上は利用禁止です」と謳っているだけで、システム的には確認するための仕組みを準備しておらず、自己申告に委ねてしまっている。

・過去ログが存在しない

 最後に挙げるのが「証跡の確認方法」だ。

 ClubHouseの大きな特徴の一つだが「過去ログ」が存在しない。ClubHouseの空間には「今」しか存在しておらず、過去の会話などを遡って聞くことが出来ない。このため、何らかの犯罪の疑いがあったとしても、ClubHouseアプリを起動しただけでは、過去の会話などを知ることが出来ない。

■証拠を残さず、違法な会話が出来てしまうClubHouse

 音声が記録されず、過去の会話も参照することが出来ない。これは薬物の売買や、援助交際等の「違法な出会い」を求める人達には、とても好都合な環境に成り得てしまう。

 更に急激なサービス拡大を目指すスタートアップであるため、サービスに接続出来ない等、サービスが不安定なことも多い。このような状況を見ると、恐らくはサービス成長にリソースを割かなければならない時期であり、セキュリティやユーザー監視にそれほど多くのリソースを割いてるとも考えにくい。このような状況で日本の捜査機関が捜査協力を依頼したとして、十分な対応が期待出来るだろうか?

■SNSを利用した18歳未満に対する犯罪被害の増加

 警察庁の発表によれば、2019年にSNSを通じて犯罪被害に遭った18歳未満の子供は2095人(暫定値)で過去最高を記録した。

 内訳は淫行などの「青少年保護育成条例違反」が859人。自画撮り被害を含む「児童ポルノ」が671人、「児童買春」が428人。更に「重要犯罪」に巻き込まれた子供が合計109人。重要犯罪の内訳は「強制性交」48人、「略取誘拐」45人、「強制わいせつ」15人。「殺人未遂」が1人となっている。

 「宿泊場所を提供する」等と言葉巧みに家出中の少女を誘い出すような「Room」がClubHouseの中で作られたとしたら「誰が、いつ、どうやって連絡を取り合ったか」を警察は捜査することが出来るだろうか?

■若年層に拡がる大麻取締法違反

 犯罪白書によると薬物犯罪の傾向としては、覚せい剤取締法違反の検挙数は16年から減少傾向にあり、19年は8730人と44年ぶりに1万人を下回った。その一方で、大麻取締法違反は14年から6年連続で増加。そのうち20代は28.2%増の1950人、20歳未満は42.0%増の609人と、若年層の増加が顕著だった。

年々低年齢化の進む大麻検挙者の推移。出典:法務総合研究所「令和2年版 犯罪白書」
年々低年齢化の進む大麻検挙者の推移。出典:法務総合研究所「令和2年版 犯罪白書」

 こういった若者向け薬物の販売経路としてSNSが利用されている。Twitter等では「アイス」等の薬物を表す隠語を用いてテレグラムIDを併記した投稿が簡単に見つかる。

 「薬物売買の会話」がClubHouseで行われたとして、警察は「証拠を入手」することは出来るだろうか?

 またClubHouseで「薬物を売ります」と言って入金用の口座を伝えて姿を消すような「詐欺」の被害に遭うことも予想される。こういった詐欺に遭ったとして過去ログの残らないClubHouseの会話から「証拠を提出」することが出来るだろうか?

■現在のClubHouseはベータ版

 急速に拡がりを見せているClubHouseだが、現在はまだベータ版でありiPhoneユーザのみが利用できる。筆者が列挙したような懸念点は今後改善されることもあるかもしれない。ひょっとすると、今でも犯罪対策として「全ての音声データ」が記録されているのかもしれない。

 色々とリスクを挙げたが筆者自身は毎日ClubHouseで雑談することを楽しみにしている。普通の人が普通に会話を楽しむだけなら、最高のコミュニケーションツールの一つだろう。

 しかし、どのような素晴らしいツールも悪用しようとする人は現れる。くれぐれもClubHouseを違法なやりとりのために利用したり、あるいはそういった行為を発見した場合には、ClubHouseに通報しそういったユーザからは距離を置くことを推奨する。