芥川賞ノミネートの『母影』と並んで世間の注目を浴びる、加藤シゲアキ『オルタネート』の直木賞ノミネート。

 クリープハイプ尾崎かNEWS加藤か、はたまた両方受賞、もしくは両方落選か。これを芥川賞・直木賞の紅白化と呼ぶ――かどうかは知りませんが、文芸出版業界の片隅にいる人間としては、小説がこれだけ大きな話題になるのは大いに喜ばしい。

 しかも、著者の知名度にあやかるために無理やり選んだというのではなく、両作の候補入りが当然の結果に見えるレベルに達しているのもうれしい。

 加藤シゲアキは、ジャニーズのアイドルグループ、NEWSのメンバー。昨年、手越祐也が脱退して、NEWSに残るのは3人だけになってしまったが(加藤シゲアキのほか、小山慶一郎と増田貴久)、そのメンバーの直木賞ノミネートは、ジャニーズ的にも久々に明るいニュースなんじゃないですか。

 作家としての加藤シゲアキは、2012年に『ピンクとグレー』でデビュー。『閃光スクランブル』『Burn. ―バーン―』と立て続けに出して、いわゆる《渋谷》三部作を完成させたあと、短編集『傘をもたない蟻たちは』で、作家としての幅の広さを見せつけた。

 その後、【AGE22】と【AGE32】の2巻本で出た『チュベローズで待ってる』は、ホスト業界青春小説かと思いきや、大胆すぎる仕掛けでミステリファンをぎゃっと言わせ(まさかこの小説でこんなトリックが炸裂するとは……)、ファンの後押しがあったとはいえ、2018年のTwitter文学賞でみごと国内篇1位に輝いている。

『オルタネート』は、その加藤シゲアキが、エンターテインメント小説誌のメインストリームのひとつ、〈小説新潮〉にはじめて連載した長編。

 高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」がものすごく普及していることを別にすれば、舞台はおおむね現代の東京。物語は3人の若者(高校生世代)が軸になり、それぞれの物語が最後に合流する。

 新見蓉(にいみ・いるる)は、円明学園高校3年生。調理部の部長を務め、全国でライブ配信される料理コンテスト「ワンポーション」での優勝を目指す。しかし、「ガイドブック通りの旅行」しかできない自分にコンプレックスを抱き、部員とも衝突を深めてゆく。

 伴凪津(ばん・なづ)は、円明学園高校1年生。母子家庭で育ち、奨学金制度で円明学園高校に入学。以来、絶対真実の愛を求めて、オルタネートにのめり込み、遺伝子サービスを利用したマッチングで「運命の相手」を見つけることに全精力を傾ける。

 楤丘尚志(たらおか・なおし)は、大阪の高校を中退したことでオルタネートの利用資格を失う。かつてのバンド仲間とどうしてももういちど音楽がやりたかくて、その彼を探して上京。ひょんなことから音楽家達が集うシェアハウスに入居し、貸しスタジオでバイトしはじめる。

 要するに、料理・恋愛・音楽の3分野で、3人の若者の試行錯誤と自分探しが描かれ、それぞれが試練を経て成長していく、典型的なビルドゥングスロマン(成長小説)になっている。

 三つの筋の中でエンタメ的にいちばん華があるのはやはり高校生料理対決だろう。試合ごとに出される課題をどうクリアするか、限られた時間の中でどう戦うか。「料理の鉄人」的なアイデアも大量に盛り込まれ、この部分だけとりだしても非常に面白い(そのため、全体のバランスが若干悪くなっている印象もある)。

 伴凪津のパートでは、理想の相手を決めるのは遺伝子なのか自由意志なのかという決定論的な問題(あるいは、氏か素性か問題)が浮上。出生前遺伝子診断まで視野に入れて、読者にも問題をつきつけてくる。

 尚志のパートは、なんとか再会を果たしたバンド仲間(円明学園高校2年の安辺豊)との友情と音楽が中心。

 三つのプロットをたんにクライマックスで合流させるだけでなく、リアルタイムで同時進行させる離れ業もきっちり成功させている。

 直木賞候補に選ばれたことも当然というか、(すくなくとも小説業界では)ようやくこれで、兼業作家としてではなく、プロの作家として認められたのではないか。

 学園もので直木賞を受賞するのはなかなか狭き門だが、『オルタネート』ならもしかして……という可能性を感じさせてくれる小説でもある。1月20日の選考会でどう評価されるか楽しみだ。