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トナカイさんへ伝える話(100)【平成の事件】横山ノック元府知事・強制わいせつ事件を振り返る(後編)

小川たまかライター
(写真:築田純/アフロスポーツ)

前編から続く)

 1999年4月の選挙期間中、選挙カーの後ろを走っていたワゴン車の中で、選挙運動員だった女子学生に強制わいせつを行った横山ノック知事(当時)。

 女子学生は翌日には刑事告訴し記者会見でも弁護士と共に被害を訴えたが、これを選挙前に報じたのは朝日新聞と時事通信のみだった。

 横山ノックは選挙最終日の演説でもライバル候補による陰湿な選挙妨害だと訴え、当選後の会見でも「そういうことは一切ありません」などと全面的に否定した。また、女子学生を虚偽告訴で訴える。

 8月には女子学生が民事でも提訴し、刑事事件としての捜査と民事訴訟が同時並行で進むこととなる。

 圧倒的な支持を集めて当選した現職知事の性暴力“疑惑”についてマスコミは及び腰だったようで、たとえば熊本日日新聞はコラムで「このほど正式に告訴された横山ノック・大阪府知事の扱いは各誌とも小さい。本人が否定しているせいもあるのだろう」(1999年8月9日付夕刊)と書いている。

 当時の空気感が伝わるのが、8月5日付朝刊の中日新聞記事「セクハラ問題で再び提訴されたノック知事 「真相どうなんや」浪速っ子注目 「事実なら辞任もの」本人は出廷にも前向き」

 特報面での1600文字にわたる記事の中で事件の経緯を双方の言い分とともに書き、府民の声を伝えている。当然、横山ノックに厳しい声も拾っているが、あくまでも両論併記であり、その書き振りはどこか軽い。

「府民は同知事の“ドタバタ”には慣れっこのはずなのだが、さて、その表情は。」

「ところで、この“騒動”、双方の感情はヒートアップ気味だが真相は今後の解明を待つとして、事が事なうえ府のトップ、しかも人気者の知事だけに府職員や府民らの関心は強い。」

「とはいえ、事実は一つ。正しいのはどちらか。人気知事のスキャンダルに当分、浪速っ子は目を離せそうにない。」

 67歳の権力者が、成人したばかりの女性に性暴力を行ったかもしれないというのに、まるで不倫スキャンダルのようなノリで扱ってしまう。一部マスコミの姿勢がここに表れているように思う。

 この時点では出廷に前向き、全面的に争う意向と報じられていた横山ノックだったが、民事訴訟が始まると一転して法廷回避戦術を取り始める。

 静観を決め込むかのようだったマスコミがノック批判に傾いたのは、この法廷回避があってから。しかしノックは法廷の外では「でっち上げ」という主張を変えることなく、世論や著名文化人による被害者バッシングは続いた。

 被害者へのデマの中で最も多く流布されたのは、「被害者の女子学生は対立する共産党候補の姪で、共産党が送り込んだ」というもの。もちろん、事実ではない。

目次

【前編】

(1)投票日前々日の被害者記者会見

(2)絶大な支持の裏で、女子高生に激昂

(3)「真っ赤なウソ」と逆告訴

【後編】

(4)民事訴訟は「公務優先」で反論せず

(5)入院、辞職、起訴

(6)刑事事件で示唆された「余罪」と計画性

(7)2年後の手紙

(8)まとめ

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ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)、共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)など

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