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「刑法性犯罪の改正審議を後回しにしないで」 弁護士らが8000人の署名提出

小川たまかライター
左から太田さん、東さん、水井さん、戒能さん(4月27日/衆議院議員会館)

「性犯罪刑法の改正審議を、共謀罪の後回しにしないで」

4月27日、性犯罪刑法の早期審議を求める署名(刑法性犯罪規定改正を望む有志一同)が自民党・公明党議員宛に提出された。性犯罪刑法の改正は3月7日に閣議決定。共謀罪の閣議決定(3月21日)よりも早かったが、与党は共謀罪の成立要件を改め、テロ等準備罪を新設する審議を優先。性犯罪刑法改正案の審議を後回しにしている。公明党は当初、審議の入れ替えに反発していたが、4月3日に合意した。

署名をまとめたのは弁護士の太田啓子さんら。「なぜ、法案提出順に従って審議順を決めるという慣例にあえて反してまで、性犯罪規定改正案をテロ等準備罪の審議よりも後にしたのか、自民公明党両党に対し、誠実な説明を求めます」と訴える署名には開始から2週間で8000人以上の賛同が集まった。

署名提出にあたって衆議院議員会館で行われた記者会見で太田さんは、「テロ等準備罪の審議は難航が予想される。(刑法性犯罪改正の審議が)その後だと今国会での成立は絶望的ではないか」と訴えた。

また、刑法性犯罪は改正されれば110年ぶりとなり、今回の改正が被害当事者や支援者の強い希望であることを挙げ、「(審議が入れ替えられた今の状況では)早く刑法性犯罪の改正をと訴えると、それならテロ等準備罪を早くと言われてしまう。刑法性犯罪を他の法案を早期に作るための取引材料にしようとしているのではないかということについて、憤りを感じている」と語った。

この審議の後回しについては、法学者の南部義典氏もウェブ上の記事で「性犯罪厳罰化法案が、ある意味“人質化”している」と指摘している。

■監護者の性行為処罰規定、非親告罪化……今国会で

今回の性犯罪刑法改正案が可決されれば、被害者が女性に限られていた強姦罪が強制性交等罪に変わることで被害対象が広がるほか、監護者(親権を持つ者など)による性的行為に関する規定の創設、親告罪だった強姦罪などが非親告罪化される。記者会見では、この改正の意味について、被害当事者である東小雪さん、水井真希さんがそれぞれの思いを語った。

・東小雪さん(元宝塚歌劇団所属/LGBTアクティビスト)

東小雪さん
東小雪さん

東さんは3歳から中学2年生の秋まで、実父から風呂場で性虐待を受けたことを著書『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(講談社)で綴っている。小学校3年生の頃からは性器を挿入されていた可能性があるが、精神的なショックから乖離を起こし、当時の記憶が曖昧。「同居していた家族は被害に気付いていたはず」という。

今回の改正法案では、監護者が性的行為を行った場合、暴行脅迫要件がなくても被害を訴えることが可能になる。現行法では、13歳以上の場合、家族など近しい人から性虐待を受ける場合であっても、暴行脅迫要件が必要とされることについて、東さんは「こんなことをそのままにしておいてはいけない」と訴える。

「(性虐待を行ったり、それを見ないふりをしていたが)子どもの私にとってはそれが父、母だった。被害が私の家庭だった。いわゆる暴行や脅迫がない中で、どうやって抵抗すれば良かったのか。今も被害を受けている子どもがいる。共謀罪が先に審議されることについて本当に落胆しているし、残念に思っています。子どもへの性虐待に関して、関心を持ってください」(東さん)

・水井真希さん(映画監督/女優)

水井真希さん
水井真希さん

水井さんは、拉致され性的被害に遭った経験を映画化。この映画『ら』の予告編には「現行法の生易しさもみんな性犯罪者の味方だ」という言葉が使われている。

水井さんは、痴漢なども含め10年間で40回以上性被害経験に遭っている自身の経験を挙げ、「日本は安全な国、性犯罪なんてそうそう起こるわけないと言う人もいるが、そんなことはない」と話した。

「家の近くで襲われたとき、悲鳴を上げたので近所の人が警察を呼んでくれました。でも犯人は逃げて物的証拠もない。警察は『被害届出します?』『書きたいなら明日警察に来て』と言って帰ってしまった。通報件数としてはカウントされていても、被害件数にはなっていない被害がたくさんあるのではないか。親告罪が非親告罪化したら事件数も増えるし、(性犯罪が少ないと思っている人にも)気付いてもらえると思う。警察批判だけをしたいのではなく、被害に遭う人を減らしたい」(水井さん)

平成27年の強姦の認知件数は1167件、強制わいせつ罪は男女合計で6755件(平成28年版犯罪白書)。しかし、内閣府の「男女間における暴力に関する調査」によれば、「異性から無理矢理に性交された経験がある」と回答した女性のうち、「警察に相談した」のはわずか4.3%。性犯罪における暗数の多さは、以前から指摘されている。

■支援を進めるためにも、刑法改正を

会見には、お茶の水女子大学名誉教授(ジェンダー法学専攻)の戒能民江さんも出席。「性暴力が彼女あるいは彼の一生にどんな影響を持つのか。そのことに社会があまりにも関心を払っていない。被害者の支援の根拠となる法律がなく、(被害者支援は)財政的な困難、充分な活動ができない状態がある。(こういった状況を変えていくためにも)前提として刑法が改正される必要がある」と話し、性犯罪被害者支援や理解が進まない状況について触れた。

同日、「刑法性犯罪規定改正を望む有志一同」とは別の団体も、霞が関の記者クラブで「刑法性犯罪改正案の今国会成立と十分な審議を求める意見表明」を行っている。(※詳細は別記事を予定)

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ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)、共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)など

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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