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「シングルマザーを採用したい企業、実は多い」 元リクルートの藤代聡社長がシングルママ支援を始めた理由

小川たまかライター
ママスクエア・藤代聡社長と龍円愛梨さん(4月22日)

「住む場所が見つからなかったり、就労の問題があったり。新しいスタートまでの期間にシングルママと、そのお子さんがとても苦労されている。設立趣旨は、この期間をなるべく短くして、次のスタートを苦労せずできるようにしたいという思い」(株式会社ママスクエア・藤代聡社長)

4月22日、東京・六本木で、「ママユナイテッド」の設立イベントが行われた。「ママユナイテッド」は、母親が子どものそばで働けるワーキングオフィス「mama square」を運営する株式会社ママスクエアが起ち上げた、シングルマザーとその子どもを支援する一般社団法人だ。イベントには、同社のスタッフや応援企業のほか、SNSでの告知で集まったシングルマザー約30人も参加した。

イベントの冒頭で藤代社長は、シングルマザーの実態を目の当たりにしたことが設立のきっかけと話した。同社では2004年から、キッズスペースにカフェを併設した「親子カフェ」を全国に約20店舗展開。2015年からは「mama square」をスタートし、14店舗まで拡大している。これまで2000人以上のワーキングマザーを採用する中で、面接時に「(扶養控除内である)103万円以内で働きたい」と話していた女性が、「もっと働きたい」と口にするケースにたびたび遭遇したという。

「もっと働きたいというご相談をいただくときは、自立を考えていらっしゃることが多かった。34カ所(ある事業所)で、年間に2人ずつくらい相談に来られる。多いなという印象でした」

厚生労働省の「平成23年度全国母子世帯等調査結果報告」によれば、母子家庭の世帯数は約123万8000世帯(2011年/推計/父子家庭は約22万3000世帯)。また、母子家庭の母親の平均年収は223万円で、貧困状態にある世帯も多い。参考:<非正規賃金>シングルマザー年収223万円の現実(毎日新聞)

一般社団法人シングルママこども支援会「ママユナイテッド」

藤代社長は、シングルマザーの現実について、いくつかのケースを挙げた。非正規雇用で複数の仕事を掛け持ち、大学生の息子2人を卒業させるために週7日働き続けている母。社員証や就労証明を出しても、シングルマザーの場合になかなか部屋を借りられない場合が多いこと。住まいが見つからないため実家に帰るしかなく、優秀なスタッフが仕事をやめなければいけなかったケース。DVについても「意外と多いんだとびっくりした」という。

「(DVを)警察へ相談したら『傷がないじゃない』『ビデオを撮っておいて』と言われ、行政に相談したら『それは弁護士に』、弁護士からは『うちは高いですよ』と言われてしまう、と」

こんな状況を見聞きし、「なんとかしなくてはならない」「力になれないか」と考えたことが、一般社団法人シングルママこども支援会「ママユナイテッド」設立のきっかけだった。

「新しい生活へのリスタートを最短期間でできるように。(リスタートまでの間に)子どもさんもとても苦労される。ママだけではなく、“子ども”という言葉を入れたのはそのため」

数年前からいろいろな人に相談をするうち、応援企業や、元テレビ朝日アナウンサーの龍円愛梨さんと縁ができたことで、実現に大きく前進したという。

龍円愛梨さん「就職支援、コミュニティ作りなど、どんな展開ができるか楽しみ」
龍円愛梨さん「就職支援、コミュニティ作りなど、どんな展開ができるか楽しみ」

龍円さんは2013年にアメリカで出産した長男がダウン症と診断された。その後帰国し、シングルマザーとして子どもを育てている。ママユナイテッドでは会長を務めることとなった龍円さんは、挨拶でこう話した。

「ダウン症のお子さんを育てて大変でしょう、偉いでしょうと声をかけてもらうこともあるのですが、私の中で、大変でもなく偉くもない。大変だなあと実のところ感じているのは、シングルで育てること。これについて触れる方はほとんどいないんです。シングルママの大変さは世間では知られていないのかなあという実感があります」(龍円さん)

ダウン症の親同士ではコミュニティが形成され、情報交換が比較的容易だが、シングルマザーの場合は必ずしもそうではないという。ママユナイテッドでは、就職支援などのハード面に加え、「mama square」が拠点となり母親同士のコミュニケーションの場を作ることができればと考えている。

支援の柱は「法律」「仕事」「住まい」

ママユナイテッドで、主に大きな柱として行っていくのは3つの支援だ。

(1)法律相談

(2)お仕事相談

(3)住まい相談

・法律相談

まずは法律。母親が独立を考えるにあたって、親権や養育費の問題がある。「その段階で弁護士さんとコネクションのあるお母さんはほとんどいない」(藤代社長)。たとえば、日本では養育費の支払い率は2割程度にとどまる。離婚時に口約束で養育費を決めても、「どう支払ってもらえばいいかわからない」というケースもあるという。ママユナイテッドでは各地域の「mama square」で無料の法律相談を行ったり、HP上で簡易相談を行っていく予定だ。

この日のイベントには離婚問題に詳しい立山大就弁護士(アイゼン法律事務所・台東区)も出席し、参加した母親たちからの相談を受け付けた。立山弁護士は藤代社長の大学の後輩で、SNS上での告知を見て「役に立てることがあれば」と名乗りを上げたという。立山弁護士自身も子どもの頃に両親が離婚し、シングルで子育てをする母を間近で見てきた。

「子どもの頃、母が『弁護士さんに相談に行ってくるね』とたびたび出かけていった。帰ってくると元気になっている母を見たことが、弁護士を目指した理由のひとつ。個別の事例にもっと向き合いたいという思いがあり、今年から独立した」(立山弁護士)

・お仕事相談

藤代社長はリクルートを経て独立。その経験もあり、「(就労に意欲的な)シングルマザーを採用したい企業、支援したいと考えている企業は実はとても多い」と話す。藤代社長がこう言うと、会場からは「えっ?」と驚きの声が漏れた。

「採用したい企業と働きたいシングルママがマッチしない理由の1つは、求人募集に『シングルマザー歓迎』とは書けないこと」(藤代社長)

「主婦歓迎」でも「明るい性格の人募集」でも、特定の人を集中して採用するような求人募集はかけられない。しかし実際にはシングルマザーの採用や、その子どものための支援を行っている企業もあり、届くべきところに情報が伝わっていないと感じるという。主婦を多く採用する企業の中には、「扶養控除内の103万円以内でしか働けないため、年度末になると働き手がいなくなる」という悩みを抱える企業もある。

「(ママユナイテッドでは)シングルマザーを積極的に採用したいと考えている企業からの仕事紹介を行っていく。シングルママの皆さんが、安心して応募できるのでは」(藤代社長)

・住まい相談

アメリカから帰国した当時、無職だった龍円さんは、日本で住まいが全く借りられなかったという。

「親から1年間分の家賃を前借して、1年分を先に払うと言って交渉しても借りられなかった」(龍円さん)

藤代社長は「本人のご両親が亡くなっていると保証人がいない。会社で保証人になったりしないと借りられない。おかしいなと思っている」と話す。

ママユナイテッドでは住まいに関する相談を受け付けるほか、将来的には保証人制度を作りたいと考えている。

「多様なかたちの家族が住みやすい社会になるように」(ライフネット生命・岩瀬社長)

ママユナイテッドでは、利用するシングルマザーから利用料は取らない。協賛企業を募り、一緒に支援を行っていく。

現在、“応援企業”として名乗りを上げている一社はライフネット生命。同社はインターネット上で保険販売を行い、営業コストを下げることで価格を安く設定する。このため、同社の契約者は業界平均と比べ20~40代が多い。

ライフネット生命・岩瀬社長「散らばっている情報を集め、課題解決を
ライフネット生命・岩瀬社長「散らばっている情報を集め、課題解決を

同社の岩瀬大輔社長は、「600~700円といった安い保険に入っている若い女性の中にシングルペアレントの方がいると気づいた」という。「法律・仕事・住まいという3つの支援の後ろにあるのが保険だと思う」(岩瀬社長)。インターネットやスマートフォンで相談ができる同社のサービスは、忙しいシングルママにとって利用しやすいのではと考える。

また、渋谷区が始めた同性パートナーシップ条例を受け、同社が同性パートナーを生命保険の受取人に指定できるようにしたことを例に挙げて、こう話した。

「この国の制度はすべてトラディショナルな家族形態、昔の一般的な家族形態を前提として設計されている。そうではない方はすごく不利な立場にある。数年前からLGBTについて大きな変化があって同性パートナーシップ条例ができたように、シングルペアレントについても(ママユナイテッド設立が)シンボルとなって、大きなうねりとなっていけば。

多様なかたちの家族が住みやすい社会になるように、弊社も本業でできること、周辺でできることを考えたい」(岩瀬社長)

設立イベントを取材し、ママスクエアが旗を掲げたことで、龍円さんや岩瀬社長、立山弁護士など思いを共にする人が集まったと感じた。「個人の問題」と見なされがちなことを社会がすくい上げていく取り組みのこれからに注目したい。

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ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)、共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)など

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