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ワグネルの武装蜂起は失敗、プリゴジンはベラルーシに亡命

JSF軍事/生き物ライター
ロストフ・ナ・ドヌ市から撤退するワグネルのT-90戦車(写真:ロイター/アフロ)

 6月24日に反乱を起こしたロシアの民間軍事会社「ワグネル」は首都モスクワまで200kmまで迫った時点で進撃を停止し、撤退して行きました。ワグネルが制圧したロストフ州の南部軍管区司令部など各施設からも撤退が開始されています。

 こうしてワグネルとロシア政府は交渉の末に全面衝突を避けましたが、その交渉結果はワグネル側の降伏に近いものでした。責任者のプリゴジン氏はベラルーシに亡命させられ国外追放となります。

  • 責任者プリゴジンの罪は問わないが、ベラルーシに亡命させる
  • ワグネル兵士の罪は問わない(衝突で正規軍に死者が出ている)
  • 反乱不参加のワグネル兵士で希望者は国防省との契約ができる
  • ショイグ国防相などの人事について交渉の題材に上らなかった ※TASS

 プーチン大統領が6月24日に行った緊急演説での「国家反逆罪として全員処罰する」という方針は全面撤回という形で譲歩したことになりますが、プリゴジン氏は失脚してワグネルは事実上消滅、国防省に吸収される方向です。プリゴジン氏が追い落としを狙ったショイグ国防相やゲラシモフ総司令官の役職はそのままで人事に変更は無く、ワグネルの武装蜂起は失敗に終わりました。

ワグネルは民間軍事会社としては異例の戦車などの重装備を保有していますが、それでもロシア正規軍が本気を出せばまともな勝負にはなりません。つまり本格交戦を避ける何らかの政治的な駆け引きがあり、それに失敗したら踏み潰される運命という、危険な綱渡りをしていることになります。

出典:ワグネルが武装蜂起、ロシア軍の南部軍管区司令部を制圧(2023年6月24日)

 プリゴジン氏があっさりと敗北を呑んだのは、ロシア正規軍との本格的な交戦に入ればワグネル単体の戦力では勝ち目が無いことが分かっていたからでしょう。正規軍や国家親衛軍から多くの離反が出てワグネルの味方をしてくれなければ、勝負にならないのです。そして有力な離反は出ませんでした。

 相手を脅して自分の要求を呑ませることが武装蜂起の目的ですが、今回の場合は相手を本気で怒らせてしまったら失敗となります。そしてプーチン大統領は本当に怒ってしまい、プリゴジン氏は主要な要求を全て取り下げて、自身とワグネル兵の安全のみを保証させて失脚し、反乱騒動は幕引きとなりました。

 しかしワグネルとロシア軍は地上での本格的な交戦には入りませんでしたが、対空戦闘はありました。ロシア軍のヘリコプター6機と固定翼輸送機1機がワグネルに撃墜され、搭乗員だけで10数名は死亡しています。これはワグネルが装備していたパンツィリ-S1防空システムによるものです。

 ウクライナでの戦争でもたった1日でこれほど大量に航空機を失ったことは過去に無く、ロシア軍の損失は甚大なものとなっています。しかも被害機には貴重な電子戦ヘリコプター「Mi-8MTPR-1」まで含まれています。そして大型固定翼機「Il-22M11」は空中指揮型で、多くの搭乗員が一挙に失われました。撃墜された7機のうち5機は非武装機で、自衛での戦闘とは言い難い状況です。

 地上戦での全面衝突は避けられたといっても対空戦闘での損害の規模があまりにも大きく、これで誰も処罰されないとなると軍の不満は燻ぶったままになるでしょう。

【参考記事】

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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