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地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の戦果とドローン囮説の否定

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナのゲラシチェンコ内相顧問が4月18日に公開した沈没寸前のモスクワ

 4月14日に沈没したロシア海軍黒海艦隊旗艦の巡洋艦「モスクワ」は、ウクライナ海軍の地対艦ミサイル「ネプチューン」の攻撃によるものでした。

ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃(2022年4月15日)

 当初ウクライナ軍の攻撃方法は「ドローンを囮に使い、その隙に対艦ミサイルで攻撃した」という現地報道がありましたが、ウクライナ側の公式発表にそのような経緯は一切説明されておらず、事実かどうかは不明でした。

 それにも拘らず、一部のメディアでは対艦ミサイルを差し置いてまるでドローン(バイラクタルTB2無人機)の手柄であるかのように伝える報道が複数あります。しかし4月18日に公開された被弾後に暫く浮いていた巡洋艦の写真を見る限り、どうやらドローンを囮にした説は否定されそうです。

火器管制レーダー「3R41ヴォルナ」の向き

ウクライナのゲラシチェンコ内相顧問が4月18日に公開した沈没寸前のモスクワの拡大
ウクライナのゲラシチェンコ内相顧問が4月18日に公開した沈没寸前のモスクワの拡大

 巡洋艦モスクワの後部に1基のみ装備されている長距離艦対空ミサイルシステム「S-300Fフォールト」用の火器管制レーダー「3R41ヴォルナ」が真後ろの通常状態を向いており、戦闘状態に無かった可能性があります。

 つまり巡洋艦モスクワは単純に油断した状態で対艦ミサイル攻撃を受けて、防空システムの火器管制レーダーを目標に指向させることなく被弾したという状況が推定されます。つまりドローンで囮がどうこう以前の問題です。

 もしドローンが囮に使われていたなら、火器管制レーダーがドローンに気を取られて向いている方向とは逆方向から対艦ミサイルが奇襲攻撃を行い着弾している筈です。しかしそのような様子が写真からは見て取れません。

 ドローンは偵察の索敵で役割を果たしていた可能性はあります。しかし光学カメラで偵察を行うドローンが対艦索敵を行えば何らかの映像を残せる筈ですが、そのような発表はありません。索敵に成功していた上で機密情報なので公表していない可能性もありますが、憶測の話になります。巡洋艦の位置情報はアメリカからの情報提供によるものだという報道もありますが、公式発表ではないので確定した話ではありません。

 そもそも偵察も囮も補助的な任務です。索敵が成功しなければ攻撃はできないので偵察は重要な任務ですが、結局のところ攻撃が成功した戦果は対艦ミサイルが挙げたものです。囮については対艦ミサイルを多数発射して多方向から襲撃すれば同様の効果が見込めるので、無理に対艦ミサイルよりも高価なドローンを囮に使う理由がありません。

 バイラクタルTB2無人機はネプチューン対艦ミサイルの数倍も高価な機材です。使い捨ての囮としては高価すぎるので、もし囮役の機材を用意するなら、安い標的ドローンなどでも別に構わないでしょう。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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