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ドローン迎撃ドローンはジェットエンジンを搭載した遅い迎撃ミサイル

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ陸軍よりコヨーテblock2。ミサイルのような形状のドローン迎撃ドローン

 ドローンを迎撃するカウンターUASとしてアメリカ軍が実戦投入済みの兵器に「コヨーテblock2」という迎撃兵器があります。ドローン迎撃ドローンという分類になるのですが、見た目はミサイルそっくりの形状をしています。

アメリカ陸軍よりコヨーテblock2。Global Force Symposium & Exposition 2018
アメリカ陸軍よりコヨーテblock2。Global Force Symposium & Exposition 2018

 コヨーテblock2が通常の地対空ミサイルと異なるのは、主推進装置にジェットエンジンを搭載している点です。射出用に4本の小さなブースターを使用した後はラジコン飛行機用サイズの小型ジェットエンジンを始動して飛行します。最後部のジェットエンジンの直前に空間があるのは空気吸入の為です。

 ジェットエンジンを搭載しているため、主推進装置に固体燃料ロケットを用いるミサイルよりも速度が遥かに遅い代わりに長い距離を飛べます。つまり迎撃目標のドローンが遅いので自分も遅くても構わないという発想です。

 かといって迎撃目標より遅ければ駄目ですし、同等程度の速度でも迎撃の多くが間に合わなくなるので、ある程度は優速でないといけません。想定する迎撃目標が時速200~300km程度の固定翼プロペラ推進ドローンならばカウンターUASは3倍程度の速度があれば十分で、ミサイルのような形状にジェットエンジンを付ければちょうどそのくらいの速度を発揮可能です。これにより高速のジェット戦闘機と交戦する能力を放棄する代わりに、小さな迎撃体で長い射程を得ることができます。

アメリカ陸軍よりコヨーテblock2。Global Force Symposium & Exposition 2018
アメリカ陸軍よりコヨーテblock2。Global Force Symposium & Exposition 2018

 コヨーテblock2について現在まで製造元のレイセオン社からは「射程10km以上」と説明がありますが、これは短距離SAM(短距離の地対空ミサイル)の射程と同等です。”以上”とあるのでもっと飛べるかもしれません。そしてコヨーテblock2のサイズは短距離SAMよりもずっと小さく、数値は公表されていませんが公開された映像から分かる大きさからおそらく重量は10~15kgくらいです。4連装ランチャーはコンパクトで、近距離SAM(歩兵携行地対空ミサイルの車載型)用の4連装ランチャーとほぼ同程度の大きさに収まっています。

 つまりコヨーテblock2は迎撃目標が固定翼ドローン(および同程度の速度のヘリコプター)に限れば、近距離SAMと同等の安い配備コストでワンランク上の短距離SAMと同等以上の迎撃範囲を確保できるので費用対効果が高いというわけです。対ドローン用のカウンターUASはこの意味で、安くて遅いが射程は長い迎撃ミサイルということが言えます。

 安いドローン相手に高価なSAMを使うのは勿体ない。カウンターUASという迎撃兵器の発想は、ドローンの迎撃にはそれに合った安いものでよいという考え方になります。

  • 長距離SAM 重量約1000kg、射程約80~160km
  • 中距離SAM 重量約300kg、射程約30~50km
  • 短距離SAM 重量約100kg、射程約10km
  • 近距離SAM 重量約10kg、射程約5km
  • コヨーテblock2 推定重量10~15kg、射程10km以上

※UAS: Unmanned Aircraft Systems、無人航空システム。

※SAM: Surface-to-air missile、地対空ミサイル。

※SAMの分類と数値は大まかなもの。もっと大きな長距離SAMも存在する。

※近距離SAMは日本自衛隊独自の分類名称で歩兵携行地対空ミサイルの車載型のことだが、各国に同種の兵器はある。

  • レイセオン社よりコヨーテblock2の宣伝動画。
  • イラクのアル=アサド空軍基地での防空戦闘で敵ドローンを撃墜したコヨーテblock2と推定される映像。

※C-RAMとはカウンターRAMのことでロケット弾迎撃兵器。

※C-UASとはカウンターUASのことでドローン迎撃兵器。

※コヨーテblock2はC-UASであって、C-RAMではない。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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