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代替案中間報告に記載されたイージスアショア導入経費が従来の説明と異なる疑問点

JSF軍事/生き物ライター
米ミサイル防衛局よりイージスアショアのCG図

 イージスアショア代替案の費用などをまとめた中間報告を11月13日に岸信夫防衛大臣が受け取り、11月25日に防衛省から与党に示されました。そして自民党国防議連事務局長の佐藤正久議員がその内容の一部をTwitterに投稿しています。

従来の説明と大幅に異なるイージスアショア導入コスト1基2000億円

 幾つか新しい事実が書かれてありますが、まずイージスアショア1基あたりの導入コストが2000億円(本体取得経費1260億円)と書かれている点が問題となるでしょう。というのも、防衛省はこれまでイージスアショアの導入コストはSPY-7レーダー想定で1基あたり本体取得経費の約1200億円の部分しか説明してこなかったからです。今回の中間報告で初めて1基2000億円だと説明したことになり、これまでの国民向けの説明は何だったのかという話になります。

(参考)イージス・アショア

導入コスト 約2000億円 ※1

(イージス・アショアの本体取得経費:約1260億円)

維持整備費

●イージス・アショア構成品 ※3

(約1000億円)

●その他、電力・燃料費等

※1 イージス・アショアの本体(SPY-7、イージス・ウェポン・システム、VLS)取得経費約1260億円に、洋上プラットフォームの船体建造費用等に相当し得る費用として、特定の配備地を前提としない形で試算した施設整備費や警備関連装備品(短SAM等)、通信機材等の取得に要する経費などを合算。

※3 イージス・アショアの維持整備費は、平成30年7月のレーダー選定時に米国政府等から提案された30年間の維持・運用経費であり、現時点で判明しているものに限る。

出典:陸上イージス代替、業者見積中間報告

 イージスアショア1基あたり導入コスト2000億円とは本体取得経費1260億円に740億円(施設整備費や警備関連装備品、通信機材等)が足されるという説明です。しかし警備関連装備品の短SAM(短距離地対空ミサイル)は既に陸上自衛隊が装備済みの機材を流用する予定だったでしょうし、仮に新品を購入したとしても1セット47億円(2019年度予算、11式短SAM)です。他に対ドローン装備や通信機材等を合わせても740億円には到底届くとは思えず、施設整備費だけで数百億円もするのか疑問があります。内訳の詳細を説明し公表して貰わないと、中間報告で突然出て来た導入コスト740億円の追加を理解できません。

 イージスアショア導入コスト1基2000億円が確かならば、SPY-6レーダー搭載のアメリカ海軍の新型イージス艦1隻分と導入コストが同じということになります。しかし2019年5月28日の防衛省資料では、イージスアショア導入コスト(導入経費)1基1202億円としていてアメリカ海軍のSPY-6搭載新型イージス艦1隻2000億円より安いとアピールしていました。この資料は一体どういうことだったのでしょうか?

イージスアショア2019年時点の見積もり

  • 導入経費1基1202億円(2基2404億円)
  • ライフサイクルコスト4389億円(2基分、30年運用)
防衛省よりイージスアショア配備について説明資料(2019年5月28日)
防衛省よりイージスアショア配備について説明資料(2019年5月28日)

[PDF資料]イージスアショア配備について説明資料:防衛省(2019年5月28日)

  • 導入経費イージス艦1隻2000億円はSPY-6搭載アメリカ海軍イージス駆逐艦「アーレイ・バーク級フライト3」。
  • ライフサイクルコスト2隻30年分7000億円はSPY-1搭載の海上自衛隊の「まや」型。

 また維持整備費に導入コストを足したものがライフサイクルコストだとすると、今回の中間報告で新たに判明した数字で計算すると30年運用ライフサイクルコストはイージスアショア1基3000億円となり、2基で6000億円です。従来の説明ではイージスアショアのライフサイクルコストは2基で4400~4600億円だったので、金額が大幅に違ってきます。

 陸上施設より艦船の方が燃料代や整備費用でライフサイクルコストは割高になるので、SPY-1搭載のイージス護衛艦「まや」型で30年運用想定だと2隻分7000億円、SPY-7搭載の「まや」型改で推定で8000億円近くになり、イージスアショアの新しいライフサイクルコスト試算の2基6000億円の方が安いままですが、従来の説明よりも差が小さくなっています。

 今回の代替案中間報告に記載されたイージスアショア導入経費が従来の説明と異なる疑問点について政府の説明責任が果たされているとは思えません。中間報告はまだ国民に向けては公表されていませんし、報道や一部議員のリークから流れて来る内容からも、試算の詳細な内訳はまだ伝わってきていません。

イージスアショア導入経費試算の変遷(1基あたり)

  • 800億円(イージスシステム+SPY-1レーダーの経費のみ)
  • 1000億円(上記の条件に加え建屋を含めた本体取得経費)
  • 1340億円(SPY-7レーダーに変更した場合の本体取得経費)
  • 1202億円(同上)
  • 1260億円(同上)
  • 2000億円(本体取得経費1260億円+施設整備費や警備関連装備品、通信機材等)

 政府が説明してきたイージスアショア導入経費試算は上のような順番で変遷してきました。従来型SPY-1レーダーで試算した金額が新型SPY-7レーダーで見積もり直した際に高額化したことまでは理解ができます。しかし代替案中間報告で740億円分も突然追加されたことは理解しがたく、内訳の詳細な説明の公表が必要だと思います。

 例えば在韓米軍のTHAAD迎撃ミサイルが民間ゴルフ場ロッテスカイヒル星州カントリークラブ(土地評価額は1000億ウォン=約100億円)を取得して配備したように、イージスアショア用に新たな用地取得の費用として数百億円掛かるという試算であるならば分からなくもないのですが、現在までにイージスアショア代替案中間報告にそのような内容が書かれているという話は伝えられていません。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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