市街地すぐ傍に置く必要性が低いイージスアショア配備候補地問題

アメリカ軍よりカウアイ島イージスアショア実験施設

 防衛省が計画している弾道ミサイル防衛システム、イージスアショア(陸上型イージス)2基の配備について秋田県秋田市(陸上自衛隊・新屋演習場)と山口県萩市(陸上自衛隊・むつみ演習場)が候補地となっています。しかし秋田市の配備予定地は市街地に隣接しており、どうして此処が選ばれたのかと住民の反発は大きくなっています。レーダーの発する電磁波については健康上の大きな問題は生じないかもしれませんが、重要目標として敵の攻撃対象となることは避けようがないのです。

他国のイージスアショアの例

 アメリカ軍がハワイのカウアイ島に設置したイージスアショア実験施設は市街地から遠く離れていますが、レーダー塔の500m先に小さな住宅地帯があります。これは軍人や家族のための住宅ですが、レーダー波の人体への悪影響についてはアメリカ軍自身があまり気にしていないことが見て取れます。一方で発射機はレーダー塔から6km先の周囲に住宅の無い場所に離して設置されてあります。これは実験施設であり定期的に発射試験を行うためです。日本配備のイージスアショアは発射試験を行わないので、発射機に付いては直接比較はできません。

 欧州イージスアショアはルーマニアのデベセルに設置したものが運用されていますが、使わなくなった飛行場を丸ごと使用しているので敷地そのものが広大であり、周囲は農場でレーダー塔は近隣の市街地からは約3km離れた立地です。間もなく完成予定のポーランドのレジコボに設置されたイージスアショアも同様に飛行場の跡地を利用しており、周囲は森と農場や牧場で、レーダー塔から市街地までは2~3km離れています。

設置位置の運用上の要求は緩い

 イージスアショアで使用するSM-3迎撃ミサイルは射程1000km以上にも達する超長射程の宇宙空間迎撃兵器であり、迎撃ミサイルとしては射程が非常に長いことから設置場所には大きな自由度があります。多段式ミサイルなので切り離したブースターを海に落としたいという理由で海岸付近に設置したいのと、仮想敵を北朝鮮の弾道ミサイルとして2箇所のどちらからでも首都圏を守れる位置という緩い制約がある程度です。何処に設置しても大して変わりがないので、どうしても此処でなければならない最適地という条件はありません。

自衛隊の管轄上の都合

 イージスアショアの運用は陸上自衛隊が行いますが、これは「弾道ミサイル防衛は陸海空の全てが担当して行うべき」というのが表向きの理由です。つまり自衛隊内部での政治的な決定であり、技術的な理由ではありません。従来の自衛隊は航空自衛隊が市街地も守れる長射程の地対空ミサイルを担当し、陸上自衛隊は野戦防空用の移動可能な中射程の地対空ミサイルを担当する方針だったので、固定された長射程広域防空兵器であるイージスアショアを陸上自衛隊に担当させる決定は驚きでした。またアメリカ軍が欧州イージスアショアを「海軍のイージス・システムを陸上型にしたのだから運用に慣れた海軍に任せよう」としたのと比べても、あまり合理的とは言えません。

 

 当初はイージスアショアの候補地は航空自衛隊のレーダーサイト、秋田県の男鹿半島や新潟県の佐渡島の施設に併設する案が真っ先に報じられていましたが、後から陸上自衛隊の演習場に設置する方針になったのは「陸上自衛隊が担当する事になったから」という理由が大きいのではないでしょうか。他に技術的な理由もあります、既存の空自レーダーサイトは山奥にあり市街地は遠いという利点はあるものの、新たに施設を建設すると大規模な土木工事が必要になる点や広い敷地を用意できず周辺警備がし難い欠点があります。比較的広い面積を持つ陸自の演習場ならば建設もしやすく警備もしやすいでしょう。ですがそれは市街地に隣接した場所に設置するリスクを許容できるものなのでしょうか。運用が陸自であっても空自の敷地内に建設するという方向性について検討は為されたのか、特に秋田県では男鹿半島に設置する案では何故駄目なのか、地元住民へのしっかりとした説明が求められます。

施設の解体と再組み立て

 イージスアショアは陸上に建設する固定された施設ですが、期間を掛けてよいなら施設を一旦解体して別の場所で組み立て再構築することも可能です。つまり将来に第一仮想敵が変更された場合は、次の仮想敵に対する最適な位置への移設を行うことができます。単純にイージスアショアの数を増やすだけでなく移設という形で新たな設置問題が生じる可能性も有り得ます。

仮想敵は北朝鮮だけではない

 政府と防衛省はイージスアショアを対北朝鮮用とだけしか説明していませんが、施設の自衛用にSM-3以外の迎撃ミサイルを搭載し、巡航ミサイル迎撃も可能にする方針です。しかし北朝鮮は対地攻撃用の長距離巡航ミサイルを保有しておらず、この時点で北朝鮮以外の仮想敵も同時に想定していることが明白になっています。

巡航ミサイルは搭載しない

 イージスアショアのミサイル発射機は艦艇にも搭載されている汎用の垂直発射機なので各種ミサイルが装填可能で、巡航ミサイルも搭載するのではないかと一部に誤解されていますが、軍事的に巡航ミサイルを移動できない固定基地に搭載する意味は存在せずデメリットしかありません。ロシア政府がイージスアショアに対してトマホーク巡航ミサイルを搭載する可能性があると非難しているのは、ロシア自身は搭載など有り得ないことを全て承知した上で言い掛かりを付けているに過ぎないので、真面目に受け取る必要はありません。搭載する意味が無いので可能性は無視していいでしょう。

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