ドイツ書籍業界の今と未来・本は書店で買う 電子書籍は不人気 売上高はここ10年横ばい そして課題山積

2017年フランクフルト書籍見本市・米作家ダン・ブラウン記者会見場で(筆者撮影)

 今年のフランクフルト書籍見本市は10月11日から5日間開催された。この見本市をきっかけに、ドイツの書籍業界は今、どうなっているのかを探った。

 折しも、連邦統計局による書籍業界の最新統計を入手した。ここからいくつかピックアップし、見本市の様子やドイツ書籍業界の今と未来を紹介したい。

 要点は以下の通り。

1. フランクフルト書籍見本市2017

2. ドイツ書籍業界の実態

3. 電子書籍市場は停滞中 

4. 課題山積・欧州連盟との調整

5. 書籍業界の行く先は

 それでは、各項詳細を抜き出してみたい。

1.フランクフルト書籍見本市2017

 「ドイツ書籍総売上高はここ10年ほどわずかながらの増減はあるものの、良好な実績を達成している」 

ハインリッヒ・リートミュラー氏・記者会見にて(筆者撮影)
ハインリッヒ・リートミュラー氏・記者会見にて(筆者撮影)

 ドイツ図書流通連盟CEOハインリッヒ・リートミュラー氏は、10月10日の記者会見で現在おかれているドイツの書籍業界を報告した。

1989年に続く2度目のゲスト国フランスのパビリオンに向かう(筆者撮影)
1989年に続く2度目のゲスト国フランスのパビリオンに向かう(筆者撮影)

 69回目となる今年の書籍見本市のゲスト国はフランスだった。一般公開は10月14日(土)と15日(日)の2日間。5日間で150カ国からの28万人以上の入場者があった。102カ国からの展示者が7300の展示スタンド で販売・広告に対応し、前年比で3%プラスだった。

10月10日午後・フランスパビリオンの様子・夕方訪問予定のマクロン仏首相を迎える準備に場内は大わらわだった(筆者撮影)
10月10日午後・フランスパビリオンの様子・夕方訪問予定のマクロン仏首相を迎える準備に場内は大わらわだった(筆者撮影)
フランスの政治週刊誌「シャルリー・エブド」(風刺新聞)のドイツ語版発行は2016年末から・フランスパビリオンにて(筆者撮影)
フランスの政治週刊誌「シャルリー・エブド」(風刺新聞)のドイツ語版発行は2016年末から・フランスパビリオンにて(筆者撮影)

 業界関係者の活気ある討論の場となり、大成功を収めたというものの、見本市会場内で政治的衝突があり話題をさらった。

 10月14日(土)、ドイツのための選択肢・AfDの所属議員ビィヨン・ヘッケ氏が左派の出版社で行われた討論会に登場した時だ。しばらくすると、聴衆から「ナチは出て行け!」と罵声が上がり、ヘッケ氏支持者と反対派との衝突がエスカレートし抗争した。

 その後、会場の混乱を防ぐために警察が出動し、当日予定されていたいくつかのトークイベントは中止となった。これを受けて、左派出版社代表は「十分な警備がなされていない」と、書籍見本市CEOユルゲン・ボース氏およびドイツ図書流通連盟を批判した。

フランクフルト書籍見本市CEOユルゲン・ボース氏・記者会見にて(筆者撮影)
フランクフルト書籍見本市CEOユルゲン・ボース氏・記者会見にて(筆者撮影)

「展示者を制限してはいけない。言論の自由という観点上、右派でも左派でも出展の権利はある。意見の交換を大いに行ってほしい。しかし入場者の安全が脅かされることは許されない」と、ボース氏は力説した。

 また、今年のハイライトは、めったにインタビューに応じないといわれる米人気作家ダン・ブラウン(以下ダン)の記者会見が行われたことだ。一般公開日にはダンの朗読会も開催されて大好評を博した。

体格のよい男性陣に圧倒されつつも、筆者はダンを招いた出版社Bastei Luebbe社員と共にテーブルによじ登ってこの一枚を撮った(筆者撮影)
体格のよい男性陣に圧倒されつつも、筆者はダンを招いた出版社Bastei Luebbe社員と共にテーブルによじ登ってこの一枚を撮った(筆者撮影)

 ダンが会見場に足を踏み入れると、待ち構えていた報道陣のカメラの閃光がまるで稲妻のようにあたりを明るくした。「ダンこっち向いて、こちらへ来てください」など取材者からの叫び声が次から次へと飛び交った。

 これを受けてダンは、「処女作はわずか100冊あまりの上梓だった。果たして買う人がいるのだろうかと心配した僕の母は、こっそり50冊も買ってくれていたことを後で知った。それを思えば、こんなに歓迎してもらって嬉しい限り」と、異常なまでの出迎えにユーモアたっぷりの回答をした。

 最新作「オリジン」の執筆にあたり、準備期間は6ヶ月だったという。膨大な本や資料を読み、リサーチに耽ったと明かした。専門家にも説明を受け、スペインに何度も足を運んだと語った。

ベルギー・マティルデ王妃もフランスのパビリオンを訪問された(筆者撮影)
ベルギー・マティルデ王妃もフランスのパビリオンを訪問された(筆者撮影)
2015年末から続々と難民がドイツに流入した。学校教育でドイツ語を理解できない難民の子ども達をどのように受け入れていくかをテーマとした討論会にて(筆者撮影)
2015年末から続々と難民がドイツに流入した。学校教育でドイツ語を理解できない難民の子ども達をどのように受け入れていくかをテーマとした討論会にて(筆者撮影)

2.ドイツ書籍業界の実態

 さて、ドイツ書籍業界の実績を振り返ってみたい(特記以外はすべて2016年の実績および推定値)

 書籍業界総売上高は約92億8000万ユーロ(1兆2250億円・1ユーロ132円で換算)。前年比で総売上高は1%増加した。

 過去10年間売上高をみると、2010年の97億3400万ユーロをピークに、その後わずかながら減少し続けた。売上高95億ユーロを下回ったのは2014年から。その後2016年には持ち直して回復した。なお2020年の売上高は、87億ユーロと予測されている。

 書店数は、3716店だった。2006年は5049店だったことから10年前より約26%減少したことになる。業界従事者数は、約3万人。新書はおよそ7万3千冊。 

どの年代も紙媒体の書籍を読む比率が多い・(黄色・紙媒体 紫色・電子書籍)情報通信ビットコムのレポート・14才以上の2194人の回答まとめ)出典・連邦統計局
どの年代も紙媒体の書籍を読む比率が多い・(黄色・紙媒体 紫色・電子書籍)情報通信ビットコムのレポート・14才以上の2194人の回答まとめ)出典・連邦統計局

 全書店の売上高は、43億9200万ユーロ(5797億4400万円)だった。これに電子書籍の売上を加算すると、書店売上高は全体のおよそ半分を占める。

 電子書籍の売上高は、全体の5,4%にとどまった。2015年の4,6%より、わずかに伸びただけだ。   

3.電子書籍市場は停滞中

 電子書籍がドイツ市場に導入されてからおよそ10年。キンドルやトリノなど電子書籍リーダーを利用する読者は、2016年に380万人と2010年比で5倍に増えた。だが、390万人だった2015年と比べると減少している。

 電子書籍を利用する最大の理由は、何時でもどこでもアクセスでき好きな時にすぐ読める、携帯に便利だからというが、実際に活用しているかどうかは別問題。リーダーは部屋に置きっぱなしという読者が多く、今もって書籍は書店で買うが定着している。

 また、ドイツ人は誕生日プレゼントやちょっとしたお土産によく書籍を買う。しかし電子書籍リーダーを有しているかどうかまず確認しなければならないのが難点。だったら最初から紙媒体の本を買った方が手っ取り早く無難だ。

 ちなみにクリスマスプレゼントの人気商品第1位は紙媒体の書籍。書籍業界全売上の4分の1が11月と12月の収益といい、これからが書き入れ時だ。

 電子書籍に代わって人気を集めているのはオーディオブック。車で移動中に、あるいはスポーツをしながらと、何かをしながら併行して楽しむ「ながら読書」が多くの読者に支持されている。

 オーディオブックは、朗読者の声の温かみを感じ、すんなり本の世界に入っていける。なかには紙媒体の本よりも売れ行きが好調だというベストセラーもあるという。オーディオブックは今のところ総売り上げ高の3.3%を占めるのみだが、これからの成長が期待されている。

4.課題山積・欧州連盟との調整

 フランクフルト書籍見本市開会式でメルケル首相は、こう語った。

 「価格拘束法、売上税の軽減、(電子19%、紙7%)、書籍取引部門における様々な問題解決に取り組みたい。とくに著作権については過去8年間手をつけていなかったことを認め、欧州連盟国との調整を進めていく。

 書籍は知の文化財である点を考慮し、時流に見合った柔軟性のある解決策を見出し業界の活性化に注力する。まずはマクロン首相と議論を進める」

 「なかでも文化やアート、文学分野の著者にとっては、一定の対価を継続的に得ることが必須である。仕事を続けるためにも、生活していくためにも高い評価を受けるべきである。欧州連盟国とドイツ間で電子書籍の価格や著作権法について意見が異なり、解決すべき課題は山積する」

参考までに。ドイツ国内で販売される電子書籍の価格拘束法は紙媒体と同じく、知の財産として保護すべきという考えのもと、2016年2月独連邦議会で可決され、同年9月より施行された。ただし、外国語の電子本、資料や書籍の一部などは例外。

 この法案制定の狙いは、過当な価格競争を避ける、出版社と書店の経営存続、書籍販路をバランスよく保持することなどがあげられる。さらに、2010年に起きた違法ダウンロートも背景にあった。当時、電子書籍利用者数は80万人ほどだったが、1400万冊が違法ダウンロードされた。海賊版や違法ダウンロードで手をこまねいていた音楽業界の二の舞を踏まないように予防線を張って、電子書籍における価格拘束法を制定したのだ。

5.書籍業界の行く先は 

 書籍見本市開催中の10月13日、業界内部事情をよく知る出版者フィリップ・キール氏はフランクフルターアルゲマイネ紙で業界における現状と未来を吐露した。

 「毎年、書籍見本市になると、業界を肯定的にとらえる論調が目立つ。独書籍業界は安泰だというのはポジティブな見解で、実情はここ数年、厳しい局面を迎えている。現実を認めず、こうありたいと望んでいるにすぎない。業界のネガティブな批判を耳にするのは誰にとっても嫌なはず。世界の書籍売上は過去17年間で半減した。つまり、作家、出版社、取次業従事者は、報酬が以前の半分になったのが現実。

 なかでも米国書籍業界の事態は深刻だ。どのような対策を打ち活路を見出していくのか、改善策はあるのかなどに対して、誰も答えをもっていない。書籍の価格が上昇し、読者の手に届きにくくなる。というより読者はすでに本を買わない傾向にある。

 ドイツの4倍に値する人口を有する米国でさえ難航している。ドイツの書籍業界は自身を勇気付けているだけに見える」と、これからの行き先に不安を隠さない。

 紙媒体の本の信頼性の高さや、手にした時の感触そしてページをめくる楽しみを満喫しながら書籍を読むのが好きなドイツ人は、この先も紙媒体の本を手放すことはないだろう。今後の動向に注目したい。

参考・Buchmarkt