Yahoo!ニュース

知っているようで知らないドイツの街 欧州はここから始まった!(その2)ミュンスター

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
市庁舎「平和の間」は、カトリック派らしくきらびやかなつくりだ・画像筆者撮影

前回オスナブリュックに続き、ヴェストファリア条約の場となったミュンスターを紹介したい。ミュンスターがヴェストファリア条約の場となった背景はこちらを参考にしてほしい。

人口31万人のミュンスターは、ヴェストファーレン地方の中心都市で、ノルトライン・ヴェストファーレン州に属する。第二次世界大戦でほとんど全壊したが、旧市街は市民の手で昔どおりに復興された。大学都市としても知られ、大学生は人口の1割以上、4万人ほどの学生数を誇る、ドイツで最も美しい街のひとつだ。

街の景観・左より聖母教会、聖ランペルティ教会の高い塔、二つの塔聖パウロ大聖堂・画像Lena Stenge
街の景観・左より聖母教会、聖ランペルティ教会の高い塔、二つの塔聖パウロ大聖堂・画像Lena Stenge
自転車で挙式に出向く新郎新婦はミュンスターならではかも(c)Muensterview
自転車で挙式に出向く新郎新婦はミュンスターならではかも(c)Muensterview

平坦な地形のミュンスターは、国内一自転車に優しい街としてヨーロッパ気候保護都市に二度表彰された自転車都市。市内には300キロメートルほどのサイクリングロードが完備しており、大学生をはじめ、市民やビジネスパーソンも自転車を足として利用している。 

かって街の城壁があったところには、緑の境界線が置かれ、旧市街を囲む緑化ゾーンとなった。菩提樹の並木道が続くプロムナードは自動車乗り入れ禁止で、歩行者と自転車の主要な交通路だ。

また、ミュンスターは、世界で最も住みやすい街として2004年に国連リブコム賞を受賞した。450の候補都市から選出されたミュンスターは、ドイツ国内の大都市として初めてこの賞を獲得した。

リブコムアワードは、1997年から国際的表彰制度としてスタートし、「都市・街賞」、「環境配慮型プロジェクト賞」、「助成金賞」の三分野で優秀な国や街を毎年表彰する団体だ。

歩くたびに驚きの発見に出会う旧市街

見どころがたくさんあるミュンスターの旧市街を徒歩で巡ってみた。

旧市街中心部にある市庁舎前にて・画像HHoG/Rudek
旧市街中心部にある市庁舎前にて・画像HHoG/Rudek

市庁舎にある平和条約の締結された「平和の間」は前出のオスナブリュックと共に、是非足を運びたい場所だ。カトリック派らしく大変豪華なつくりは、プロテスタント派のオスナブリュック「平和の間」とは対照的だった。

市庁舎はプリンツィパル広場で最も目を引く美しい建築物。

そしてこの広場は、中世の裕福な商人の邸宅や独特なアーケードのある国内で最も美しいショッピング街のひとつと言われる。

旧市街で一番人気のあるプリンツィパル通りは切妻つくりの建造物が見事・画像HHoG/Rudek 
旧市街で一番人気のあるプリンツィパル通りは切妻つくりの建造物が見事・画像HHoG/Rudek 

また、プリンツィパル広場から北へ200メートルほど続くボーゲン通りは、北方ルネッサンスの優雅な建造物が軒を連ねるエリアで、歴史の重みを体感する景観に圧倒される。

毎週水・土にマーケットがたつパウロ大聖堂前のドーム広場は大賑わい・画像HHoG/Rudek
毎週水・土にマーケットがたつパウロ大聖堂前のドーム広場は大賑わい・画像HHoG/Rudek
多くの人にアートに触れて欲しいと工夫したオープンなLWLの入り口・画像筆者撮影
多くの人にアートに触れて欲しいと工夫したオープンなLWLの入り口・画像筆者撮影

この市庁舎から目と鼻の先にある聖パウロ大聖堂はほぼ13世紀当時のままの姿で、ドイツの代表的なゴシック様式の建造物だ。堂内で絶対に見逃してはならないのは天体時計。技術的にも美術的にも驚異の作品と賞賛されている。

ドーム広場で 特見に価するのは、LWL美術・美術史博物館。中世初期の絵画と彫像、ステンドガラス、後期ゴシックのウェストファリアの陶磁器など多岐に渡る作品が展示されている。

聖ランペルティ教会・時計の上部に見られる3つの鉄かごはオリジナル・画像Ralf Emmerich
聖ランペルティ教会・時計の上部に見られる3つの鉄かごはオリジナル・画像Ralf Emmerich

2014年から初めて塔の番人として女性が採用された・画像Pressamt Muenster
2014年から初めて塔の番人として女性が採用された・画像Pressamt Muenster
空から眺めるピカソ美術館・画像Bernhard Fischer
空から眺めるピカソ美術館・画像Bernhard Fischer

同博物館の入り口の吹き抜け通路は、博物館の入場者のみならず、一般客も行き来できる。

芸術にあまり関心のない人を館内に導き、興味を持ってもらいたいと考案されたオープンな入り口には、展示中の作品ポスターや広告がさりげなく飾られていて、「ちょっと入場してみよう」という気持ちを駆り立てる見事な演出がなされている。

プリンツィパル通り沿いにある聖ランベルティ教会は、14世紀から15世紀にかけて建てられた街のシンボルのひとつ。

この教会の観光ハイライトは、塔に吊り下げられている三つの鉄かごだ。

そこには16世紀の半ばに洗礼派扇動者三人の遺体が入れられていたそうで、オリジナルの鉄かごは今も街を見下ろしている。

この教会の塔にはなんと今でも塔の番人がいて、火曜日を除く毎晩21時から24時まで、30分毎に角笛を吹いている。

左の画像は、高さ75メートルの塔から角笛を吹く女性としては初の番人マルテェ・サリエさん。「勤務中、塔から火事を発見し、警告することもあります」という。

大学で音楽と歴史を専攻したサリエさんは、50年代から続く角笛で時を知らせる「番人」の仕事の様子を自身のブログとフェイスブックに綴っている。

市内には30以上の博物館があるが、なかでもお薦めは、国内で唯一この街にあるピカソの作品を多数収集したピカソ美術館。

800点を超えるリトグラフを所蔵しており、館内展示のコレクションは、世界でも高い評価を受けている。

黄金色のアルトビールは、ミュンスターならではの一品・画像筆者撮影
黄金色のアルトビールは、ミュンスターならではの一品・画像筆者撮影

昔ながらの居酒屋やミュンスター最古のビール醸造所があるク―(牛)界隈は、飲食店エリアとして知られている。

この界隈で是非味わってみたいのは、クロイツ通りにあるピンクス・ミュラー醸造所のアルトビール。

同じノルトライン・ヴェストファーレン州の州都デュッセルドルフは、コクのある赤褐色のアルトビールで有名だが、ピンクス・ミュラーのアルトは、黄金色。味は、やはり黄金色のケルン地ビール「ケルシュ」に似ていた。

かってこの街には、150社もアルトビールの醸造所があったそうだ。

だが、時代と共に消え去り、ピンクス・ミュラーは、ミュンスターでただひとつの老舗醸造所となった。

200年の歴史を誇る同店のコンセプトは、「大量生産より高品質ビールを維持」を掲げ、全国展開はせず、小規模ながらも味わいある14種類のビールをつくり続けている。

ピンクス・ミュラーのレストランでは、アルトビールと共にヴェストファーレン地方の名産「骨付きハム」も是非味わってみよう。塩味の効いた燻製ハムを口にすれば、ついついビールを飲むスピードも進んでしまう。

今年、ミュンスター市民が待ち焦がれているイベントがある。10年ごとに開催の野外にアートを展示する「彫刻プロジェクト」だ。

6月19日から10月1日の同イベント期間中は、公共スペースや市内にユニークな作品が展示されて街全体が一気に色づく。めったにお目にかかれないこのイベントに合わせて、ミュンスターを探訪したい。

取材協力

歴史古都連盟

ミュンスター観光局

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

シュピッツナーゲル典子の最近の記事