Yahoo!ニュース

「あなた」 選曲の理由(TRP2003 Drag Queen ステージの振り返り)

肉乃小路ニクヨニューレディー/コラムニスト/動画クリエイター/ショウガール

私はこの10年くらい続けて、東京レインボープライドのステージに出させてもらっている。自らはニューレディーを名乗っているが、東京のDrag Queenの元締め的な存在となったバビ江さんは、私をまだDrag Queenの端くれくらいには思ってくれていて、毎年誘ってくれる。バビ江さんの頼みは断れない。という不思議な縁で、LGBTQのイベントにほとんど呼ばれない私が、何故か日本最大のLGBTQイベントのステージに毎年のように立たせてもらっている。だから、東京レインボープライドのステージに出る際はDrag Queenの端くれとして、ステージではQueenらしく、リップシンク(口パク)のショウをすることにしている。

Drag Queenと音楽は切り離せない。お立ち台に上がってお客を盛り上げる時も、ショウタイムをする時も、Queenは音楽とともにある。Drag Queenを名乗る人で音楽が好きでない人はいないのではないか。私はそう考える。特にショウタイムをする際、Drag QueenはDJのような役回りになる。Drag Queenは自らが選んだその曲を、その空間で、その場にいる人達と共有するアイコンとなるからだ。

そう考えると、私はNight Clubでは比較的ヘッポコDJだった。個人的な思いが強すぎて、ショウタイムの選曲を間違い続けた20年だった。Clubにあまり馴染まない歌謡曲を選びがちだったし、Clubで流行っている流行曲(洋楽)のショウというのも、おそらく一本もない。ただ、自分勝手を貫いたせいか、他のQueenと被らなかったからか、パフォーマンスのプレゼンテーション能力が高かったのか、珍種として生き残っていた。

Clubではあまり花開かなかった私の選曲能力は、ここ最近、違う所では重宝されると気が付いた。だから、私は最近それに磨きをかけていこうと思って「女装力強化シリーズ」というイベントを行っている。

「女装(Drag Queen)=DJ」というシンプルな真理を発見してから、比較的「場」に合った選曲をするようになってきた。私も大人になったのだ。珍種として試行錯誤をして、色々な曲にチャレンジをしてきたおかげでレパートリーも多い。いつもはそこから選んでやっていたのだ。東京レインボープライドのステージは非常に多くの人に観てもらえる。だから自信のあるショウをやるというのが鉄板なのだ。

だが、今年の私は久しぶりに若かった頃の強い思いが蘇ったのか、今までやったことのない初めての曲を選んでしまった。女装というのはショウの候補曲を貯めている人が多いと思う。その時にやるのはまだ「早過ぎる」と思ったりすると。いわゆる「寝かせておく」という状態にする。今年、私は選曲をする際にうっかり寝かせてあったプレイリストを聴いてしまった。その中に入っていた、いしだあゆみさんが歌う「あなた」を聴いて「どうしてもこれをやりたい」と思ってしまったのだ。

「あなた」という歌は小坂明子さんの大ヒット曲で、何故いしだあゆみさんバージョン?と思うかもしれないが、当時の歌手は流行歌のカバーというものをよくやっていた。私が今回選んだのは「ブルーライト・ヨコハマ~いしだあゆみリサイタル1974」というアルバムの9曲目に入っている「あなた」である。

正直、小坂明子さんの歌う「あなた」は「恋愛を夢見る少女の思い」というのが強い気がした。小坂さんの歌う「少女の強い思いが、狂気に近いテンションに昇り詰めていく」ようなバージョンも嫌いではないが、この歌の歌詞には「もっと普遍性があるのではないか?」というアプローチをしているのがいしだあゆみさんの歌う「あなた」である。

私の勝手な解釈になってしまうが、いしだあゆみさんの歌う「あなた」には、今は居なくなってしまった「あなた」に向かって「どうしてここにいないの?」という寂寥を伴う呼びかけとともに「あなたがいてほしい」という「あなた」に対する絶対的な「存在肯定」というものを感じた。

「あなた」という曲の歌詞は、一見すると古いジェンダー感があって、ウーマンリブの人や進歩的な考えを持っている人からは「古い価値観の歌」と一蹴されてしまうかもしれない。しかし、最近でも宮本浩次さんがカバーしたりするのは、この歌に「古い価値観」だけではない「あなた」に対する普遍的な「寂寥」と「存在肯定」があるからではないかと思う。

もしかしたら選曲時期に映画「エゴイスト」を観て、大切な人を失った寂寥感にシンパシーを持ったからかもしれない。コロナ禍では多くの大切な人を失った。さらに私はLGBTQとアライの集まりで「存在肯定」をしたかったのかもしれない。別に私が上からの立場で「存在肯定」をするというわけではなく、そこにいる10代の、20代の自分に言ってあげたかったのだ。

私の歴代ベストドラマである「すいか」という物語に出てくる、崎谷教授のセリフに「居てよし」というものがある。自分の道に迷っている主人公に語りかける言葉で、浅丘ルリ子さんが力強く言い放ったのが印象的なセリフだ。48歳になった私はもうそれを言ってあげる側になったのではないかと思った。

そう考えると渋過ぎてショウに向かない、とか、エンタメを期待しているお客も多いというのをそっちのけで、この曲を共有したくなった。だから、今はいない「あなた」を思うと同時に、そこにいる「あなた」に「居てよし」と語り掛けるために、涙は見せずに最後は笑って立ち去った。動きも見せ場も少ないショウであったが、私自身は最近やったショウの中で、けっこう満足度の高いショウとなった。

この記事は有料です。
肉乃小路ニクヨのニューレディー・ラボのバックナンバーをお申し込みください。

肉乃小路ニクヨのニューレディー・ラボのバックナンバー 2023年4月

税込1,100(記事6本)

※すでに購入済みの方はログインしてください。

購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。
ニューレディー/コラムニスト/動画クリエイター/ショウガール

慶應義塾大学在学中の1996年より女装を開始する。1999年ドラァグクイーンの全国大会DIVA JAPANにて初代Miss.DIVA JAPANの座に輝きショウガールとして活動。並行して会社員としても勤務。主に銀行と保険会社でキャリアを積む。2015年よりコラムニストとしてWEB MAGAZINEのAMにて連載を開始。2019年よりYahoo!JAPANクリエイターズプログラムとYouTubeにて動画配信を開始。セクシャルマイノリティーとしての葛藤で苦しんだ青少年期のルサンチマンとショウガール・ゲイバーのママ・一般企業の会社員の社会人期に鍛えた人間観察力を活かして、恋愛・ライフハック等を語る。

肉乃小路ニクヨの最近の記事