本当に太りにくい食品ってあるの?

(写真:アフロ)

 美味しいものをたくさん食べたいけど体重が気になって、でもこんにゃくやキノコばかりでは満足できない・・・。美味しくて満足感はあるのに太りにくい、そんな魔法のような食材があれば嬉しいですよね。

 野菜やキノコ、海藻など元々低「カロリー※1」(エネルギー)の食品はありますが、太りにくいのは水分が多かったり、脂質やタンパク質のように体のエネルギーになる成分があまり含まれていないためです。そういうのではなくて、多くの人が求めているのは、美味しくて栄養価も高く満足感があるのに太りにくい食品であると思います。

 理論的にそんな魔法のような食品は存在するのか、栄養学や食品学の知識を元に考察してみたいと思います。

■太りやすい食べものって?

 私たちがエネルギー源として利用できる食品成分はいくつかありますが、その代表的なものが、タンパク質、脂質、炭水化物(糖質)で3大栄養素と呼ばれています。それぞれ1gあたり約4kcal、9kcal、4kcalのエネルギーを体内で利用することができます。その他、お酒に含まれているアルコールやお酢の酢酸には、それぞれ1gあたり7.1kcal、3.5kcalと高いエネルギーを持っており、これらの食品成分をたくさん持っている食品が太りやすい食べものといえそうです。

 

一般的に太りやすいと思われている食べものの例と成分値

画像

 太りやすいと思われている食品といえば、揚げ物や霜降り肉、主食になる穀物や甘い食べものが思い浮かびますが、これらは脂質と炭水化物が多いという特徴があります。1gあたり9kcalと一番大きな「カロリー」を持つ脂質はもちろんそうですが、1gあたりの「カロリー」は同じであるタンパク質と炭水化物では、炭水化物のほうが太りやすいイメージが強いのですが、これらの違いはどこからきているのでしょうか。

■太りやすい食べもの(?)の条件

 その食べものが私たちにとって太りやすいのかどうかは、単純にその食品が持っている「カロリー」量だけで決まりません。いくら高カロリーの食品でも一度にたくさん食べなければ太ることもないからです。

・高カロリー

 これはいわずもがなですね。

・美味しい

 ついつい食べ過ぎてしまえば、特別高カロリーの食品でなくても太る元です。

・食べやすい

 あまり噛まないで飲み込める食品が該当します。みかけは高カロリーではない飲み物が太りやすいのはそのためです。

・消化に負担がかからない

 デンプンや砂糖などの炭水化物は消化吸収しやすいので、胃腸に負担がかかりにくい食べものです。胃もたれせずに食べられるので一度にたくさん食べやすい食品です。

・抑制を効かなくさせる

 アルコールは高エネルギーの食品成分というだけでなく、抑制系の神経の働きを鈍くします。お酒を飲むとついつい食べ過ぎてしまう理由の一つです。

 この条件では、タンパク質は消化に負担がかかる食品成分なので、炭水化物に比べると太りやすくない食べものとはいえそうです。

 

■カロリーの割に太らない食べものの条件

 さて、ここからが本番です。栄養価も高く満足感があるのに太りにくい食品はあるのかを考察しますが、このままでは定義が曖昧ですので、食品標準成分表に示されている「カロリー」よりも、実際には「低カロリー」であったり「カロリー」の割に体重増加に結びつきにくい食品はあるのか、あるとしたらそれはどんな食品なのかについて検証します。(回りくどい表現ですがここは大切です)

・消化吸収するときに「カロリー」消費が大きい

 食物を食べると、消化吸収のために血流が増え、消化管の活動が大きくなり体温も上昇します。食べた後に体が温まるのもこの作用によるもので、食事誘導性熱産生(Diet Induced Thermogenesis)と呼ばれています。食事をして消化吸収にどれぐらい「カロリー」を消費するのかは栄養素によって違う事が知られていて、タンパク質はおおよそ摂取した「カロリー」の30%、糖質では6%、脂質で4%です。日本人の平均的な食事のバランスでは約10%程と見積もられています。タンパク質の多い食事では「カロリー」の割に太りにくいと考えられます。

・熱になりやすい

 食事誘導性熱産生と似ていますが、消化に負担がかかるからではなく、脂肪や筋肉として蓄えられない(蓄えられにくい)ため、熱として発散されやすい栄養素です。中鎖脂肪酸やアルコールなどが該当します。ただし飲酒をすると体温維持のために使われていた分が節約されるなど、別の経路で中性脂肪の合成が進んでしまう仕組みがあるので、要注意です。

・食品標準成分表の「カロリー」より本当は低い食品がある

 食品成分表の「カロリー」はなるべく実際の体の中で発生する熱量に近づける努力をしていますが、食品によっては誤差が大きかったり、食習慣の少ない食品ではアトウォーターの係数をあてはめて単純計算で求めたものもあります。成分表の値よりも実際は「低カロリー」の食品があるかもしれません。

 

※参考 成分表のカロリーってどうやって決めているの?

・調理によって消化されやすさが変化する

 実は一番重要で、扱いが難しいのがこの調理による変化だと思ってます。次の項で詳しく見ていきます。

■消化吸収は調理の影響を無視できない

 極端な話をすると、消化吸収できなければ(※2)いくら食べても太ることはありませんが、それは食品の定義からは外れてしまいますので、太らない食べものとはいえません。では、普通の食品に消化吸収されない(されにくい)成分が含まれている場合はどうでしょうか。

 デンプンを例に考えてみましょう。加熱調理をしていない生のデンプンは、デンプンの分解酵素であるアミラーゼの作用を受けにくいため、お米やじゃが芋などを生のまま食べると消化不良を起こし、下痢をしたりします。食品成分表では生のお米やじゃが芋などにも「カロリー値」は載っていますが、実際に食べてもそれだけの「カロリー」はとれないはずです。生でお米や芋を食べる人は少ないと思いますが、ナガイモやバナナなど生で食べる機会の多い食品では影響があるはずです。ナガイモには元々アミラーゼが含まれているから消化吸収が良い、という説が広まっているようですが、それを支持する根拠というのは実はありません。生のナガイモよりも加熱したナガイモのほうがグリセミックインデックス(※3)が高値であることもそれを裏付けているといえそうです。生で食べられるデンプンを含んだ食品は成分表にでているよりも「低カロリー」食品であると筆者は考えます。

 デンプンは水がある状態で加熱をするとα-デンプンという消化しやすい状態になりますが、冷たい場所にそのまま放置すると、老化デンプンという、消化の悪い状態に変化します。老化デンプンになる前に水分を飛ばしたり、砂糖などの添加物を加えると、消化しやすいα-デンプンの状態を維持できます。お餅や寿司飯に砂糖を加えるのはこのためです。冷たいまま食べる機会も多い麺類(※4)でも、一部は老化デンプンになるため、暖かい麺よりも消化吸収されにくいことが知られています。スパゲティではアルデンテという歯ごたえを大切にした茹で方がありますが、加熱時間が少ないと十分にデンプンがα-化していない場合には成分値よりも「低カロリー」であるかもしれません。

 穀類などデンプンの多い食品以外でも、植物性食品は細胞の周りを硬い細胞壁や難消化成分が守っているため、そのまま食べても栄養素を上手く消化吸収できないことはよくあります。生野菜をそのままバリバリ食べたときと、加熱してミキサーにかけた野菜ジュースを飲む場合は同じ「カロリー」ではないと考えられます。

 料理するときに食べやすいよう煮込んだり、噛まなくても食べられるようにペースト状にするよりも、ざく切りでほどほどの加熱で歯ごたえを残したほうが太りにくいかもしれません。

■まとめ 「高カロリー」でも太りにくい食品はあるの?

・タンパク質は消化に負担がかかり、体温も上げて熱を発散するので成分値よりも太りにくい≒タンパク質の多い食品は太りにくい

・生デンプンや老化デンプンは消化吸収が悪い→含んでいても美味しく食べられる

・植物性食品はもともと消化しにくく太りにくい食べものだが、食べやすく調理すると栄養になりやすい

 先日、パスタを食べても太らない(?)というようなニュースが話題になりましたが、今回の考察が正しいとすれば太りにくい食品の条件(※5)を備えており、妥当性はありそうです。

 料理の例としては、少しかためにゆであげた麺を冷やして、ざく切りの野菜や砕いたナッツを和えて召し上がる、サラダうどんや冷製パスタなどが良さそうです。

 「カロリー」があるのに太りにくい食べものを突き詰めると、おそらく消化吸収が悪く、胃腸に負担がかかりやすい食べものになってしまいます。私たちが食事をするのは何のためでしょうか。基本である大切なことを忘れて極端に走ってしまえば健康を崩してしまいかねません。

 毎日のように特定の食べものの健康効果を示唆する健康情報が流れますが、それらに一喜一憂せず、日々の食事を大切にしてもらえたらと思います。

※1 人間が体内で利用可能なエネルギーのことを単にカロリーと呼ぶ慣習がある。記事中の「カロリー」は熱量の単位の一つではなく、生体内で利用可能なエネルギーという意味の名詞として用いている。

※2 例えば、アブラソコムツなど食用が禁止されている魚にはワックスエステルと呼ばれるヒトが消化吸収できない多量に含まれている。火をつけて燃やせるが人体内では熱を発生させる栄養源にはならない。消化不良により下痢を起こす。

※3 グリセミックインデックス(以下GI)は、食後の血糖値の変化を示す指標で、炭水化物を50g含む食品を摂取した場合の2時間の血糖上昇曲線下面積を、ブドウ糖摂取後2時間の血糖上昇曲線下面積(IAUC)を100とした場合の相対値で示したもの。炭水化物をあまり含まない食品に適用されないが、なぜかGIが示されていたりするケースも。食品が血糖として反映するまでの特徴を示すことに使えるが、2時間後の値までであるため、その後血糖としてどこまで反映するのかをあらわす指標としては役に立たない。GIが低い食品はエネルギー値が低い、というようなことはいえない。

※4 冷たいまま保存したり、冷たいまま食べることを想定した加工麺では、デンプンの老化を防ぐために様々な工夫をしているようだ。

※5 もちろん、低GI食品だからというのは相関であって、その中の要素が太りにくさに関係していると考えられる。