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日本のスポーツビジネスが新たな段階へ。アビームとマンチェスター・シティがパートナーシップ契約を締結

上野直彦AGI Creative Labo株式会社 CEO
左からCFJ日本法人代表・利重孝夫氏、アビーム・鴨居達哉社長、久保田圭一執行役員

日本のスポーツ&エンタメビジネス、新たなフェーズへ

 2021年8月8日、1年間の延期の末に開催された東京オリンピック(以下、五輪)が閉幕した。

 前例のない環境の中でも、日本代表のアスリートらの活躍や関係者の尽力でメダルラッシュとなり、大会前の想定をはるかに越えた盛り上がりとなったのは間違いない。

 そんな盛り上がりをみせるなか、日本のスポーツ界にひとつのBig Newsが届いた。アビームコンサルティング株式会社(以下、アビーム)が、マンチェスター・シティ・フットボール・クラブ(以下、マンチェスター・シティ)の日本における「オフィシャル・マネジメントコンサルティングサービス・パートナー契約」を締結したのだ。

 マンチェスター・シティといえば、UEFAカップウィナーズ優勝、5回のプレミアリーグ制覇を含む7回の優勝、FAカップの6回の優勝など、多くの輝かしい戦勝を積み重ねてきた英国プレミアリーグの強豪クラブだ。その人気は英国のみならず、中国や東南アジア、アフリカ大陸などでも近年人気が上昇しており、ミレニアル世代やZ世代など新しい世代へのファン層の拡大や、デジタル事業での成功など成長戦略を進めている。

 いまや世界のサッカークラブのなかで 「最もイノベーティブなクラブ」と評価されており、この10年間の世界で最も成功したクラブといえる。

 一方でアビームは、ほぼすべての業界に戦略・マーケティング・業務改革・システム導入の支援を行う一流の総合コンサルティングファームだ。事業内容は国内にとどまらず、アジアを中心にグローバルへの進出を果たし、日本発・アジア発のグローバルコンサルティングファームとして急成長を続けている。

 多くの業界へ貢献を重ねてきたアビームが、いままで培ってきたノウハウやソリューションを活かす次のチャレンジの場として目をつけたのが、スポーツ市場だ。

「発展途上の日本のスポーツ界に、新たな価値を創出したい」

 アビームの執行役員である久保田氏は、そう語る。

 躍進を続けるマンチェスター・シティ、現在は世界的なコンサルティングファームとなったアビーム。両者が手を組むことは、日本のスポーツ界やスポーツビジネスにおける次世代への大きなビジネスチャンスともいえる。今回、アビームコンサルティング株式会社執行役員である久保田圭一氏と、シティ・フットボール・ジャパン株式会社(*注)代表の利重孝夫氏に、契約締結にいたった理由や今後の展開、日本のスポーツ&エンターテイメントビジネスへの展望を語ってもらった。

(*注) マンチェスター・シティをはじめニューヨーク・シティFC(米国MLS)やメルボルン・シティFC(豪Aリーグ)など11のサッカークラブで構成されるシティ・フットボール・グループ(以下、CFG)の日本オフィスを表す

アビームコンサルティング株式会社コンシューマービジネスユニット執行役員プリンシパル の久保田 圭一氏。スポーツやエンターテイメントビジネスでの経験も深く、今回の締結のキーマンである。(提供 アビーム)
アビームコンサルティング株式会社コンシューマービジネスユニット執行役員プリンシパル の久保田 圭一氏。スポーツやエンターテイメントビジネスでの経験も深く、今回の締結のキーマンである。(提供 アビーム)

「スポーツ+ビジネス」でパートナーシップの新たな形を目指す

ー まず、今回の契約にいたった経緯を教えてください。

久保田 2年ほど前でした。CFGのセールスとして働いている知人から「マンチェスター・シティのパートナーにならないか?」と提案を受けたことがきっかけなんです。

 彼自身、以前からアビームのスポーツエンターテイメントの取り組みに興味を持ってくれていて、なにか一緒にできないかと定期的に話していたんですね。それで、今から1年半ほど前から実際に検討しはじめたのです。

ー 実際にパートナーシップ契約をするにあたって、決定にいたった理由はなんですか。

久保田 検討を始めたのはちょうどマンチェスター・シティが世界のクラブチームのなかで「最もイノベーティブなクラブチーム」だと海外のビジネス誌などでも言われはじめた頃でした。実際にピッチでは数々の成功をおさめ、ビジネスブランドとしても急成長と遂げている。マンチェスター・シティさんなら、我々が長年培ってきたコンサルティングのノウハウを生かして、パートナーシップを組むのは非常に意味のあることなのではないか、と考えたのです。

 従来のスポンサーシップといえば、企業ロゴを出すなどどちらかというと「BtoC」向けの企業が活用しやすい形でした。その点でいえばアビームは「BtoB」の企業ですから活用が難しいのではと考えた時もありました。しかし、我々のような企業だからこそ出来るパートナーシップなど新たな取り組みを進めていかなければ今後の日本のスポーツの発展はかなり難しいという判断があったわけです。これは東京五輪など国際大会の成功の可否に関わらずです。我々がパートナーシップ契約をすることで、そういった新しい歴史をつくっていかなければならないという使命感も非常に強くありました。

 もう一点あります。

 マンチェスター・シティの持つテクノロジーを重視した先進的なファンエンゲージメントやDXのノウハウが、アビームのコンサルティングサービス強化にも活用できるはずだと。我々は日本発・アジア発のグローバルコンサルティングファームとして海外クライアントへのサービス展開や海外でビジネスを伸ばしたいと考える日本企業への支援が成長しています。ですから、マンチェスター・シティが有するノウハウや様々なパートナー企業のネットワークは、アビームの海外展開という戦略や視点からも非常に魅力的に映りました。

 そういった意味では従来のスポンサーシップでは成し得なかった「BtoB」の企業と「グローバルクラブ」だからこそできる、新しいパートナーシップの形を実現できるのではないかと考えています。

ー お話を受けて、マンチェスター・シティ側として利重さんはいかがお考えですか。

利重 アビームさんが以前からスポーツビジネス分野に積極的に取り組まれていたことは良く存じ上げていましたので、今回パートナーシップを組めたことを大変嬉しく思っております。

 我々がグローバルなフットボールビジネスの最前線で培ってきた知見は、アビームさんのスポーツマーケティングやスポーツビジネスに大いにお役に立てると考えていますし、協力し合うことで生まれるであろう新たなノウハウやソリューションを今後の日本のスポーツ界に反映していきたい。今後の展開への期待もあって、正直、武者震いしていますね。

シティ・フットボール・ジャパン代表 利重孝夫氏。ヴェルディユースから東大サッカー部へと根っからの「サッカー人」だ。フットボールへの愛情を言葉の端々に感じる。日本と世界の差を埋めることがミッションだ。
シティ・フットボール・ジャパン代表 利重孝夫氏。ヴェルディユースから東大サッカー部へと根っからの「サッカー人」だ。フットボールへの愛情を言葉の端々に感じる。日本と世界の差を埋めることがミッションだ。

アビームが注目する、マンチェスター・シティのファンエンゲージメントの手法

ーパートナーシップ契約にあたり、今後はどのような活動をされる予定ですか。可能な限り具体的に教えていただけますでしょうか。

久保田 今回のパートナーシップ締結に至るまでに、マンチェスター・シティさんが今まで手掛けてきた様々な取り組みについて調べてきました。

 注目したのは、やはり「ファンエンゲージメント」の取組みです。ビジネスにおける「カスタマーエクスペリエンス」にあたります。マンチェスター・シティさんが世界で展開しているファンエンゲージメントやパートナーシップビジネスに関する知見やインサイトとコラボレーションし、我々のコンサルティングビジネスや今後つくっていくソリューションに転化していきたいです。

 また、マンチェスター・シティさんのパートナーネットワークを通じて、パートナー企業が抱える課題を把握する機会を生み出し、質の高い提案活動をしていきます。

 先ほども申し上げましたが、我々は日本発のグローバルコンサルティングファームとして、海外クライアントへのサービス提供もおこなっており、特に東南アジアに多くの現地法人を持っています。東南アジアでのプレミアリーグ、マンチェスター・シティの人気は絶大です。我々としては東南アジアのマーケットで我々のビジネスを拡大していきたいですし、シティのファンを増やすこともご一緒にできると考えています。

 今回のパートナーシップ契約は日本のスポーツ市場が中心となりますが、将来的には東南アジアにおいて共同でビジネスに取り組んでいくことも想定しています。

ーマンチェスター・シティとしては今後の展開や戦略をどうお考えですか。

利重 マンチェスター・シティが今後、日本やグローバル市場において直面する課題に対してコンサルティング会社として提案していただける機会が出てくるかと思います。アビームさんがスポーツ領域やその他のエンターテイメント、コンシューマービジネスで積み重ねてきた実績や経験を、我々のクラブでも活用させていただければと考えています。

 マンチェスター・シティがここ10年で大幅に成長できた理由の1つに、先ほど久保田さんにもおっしゃっていただきましたが、テクノロジーを生かしたファンエンゲージメントの強化があります。新しいファン層を獲得するため、まだロイヤリティの対象となるクラブが定まっていないミレニアム世代やZ世代などの若い年齢層に向けて、魅力的なフットボールと合わせて訴求に努めてきました。戦略的なファン層の拡大やマネタイズのノウハウは、アビームさんにも吸収していただける部分なのではないかと考えます。

 また、マンチェスター・シティとしてファンベース、パートナーシップ、リテールなどの観点から日本市場は大きなマーケットの一つと捉えています。事業開発を加速していくためにも、日本におけるアビームさんの専門性のあるノウハウやソリューションを活用させていただきたいと考えています。

ーアビームさんが手がけられているソリューションのなかで、今後マンチェスター・シティに活用できるものの例としてどのようなものがありますか。

久保田 今、考えているのは我々がコンサルティングとして培ってきたノウハウやソリューションを、マンチェスター・シティさんを通じて世界中のパートナーに展開することです。

 なかでもご提供できるソリューションとしては経営基盤の構築があげられます。グローバル企業における経営状況の可視化、経営基盤統合などのノウハウやソリューションは、マンチェスター・シティだけでなく、将来的にはCFGのグローバル展開においてもお役に立てるのではと考えています。

 また、スポーツ文脈では、、マンチェスター・シティのパートナー企業同士を繋いで、ファンエンゲージメントやDXの領域で新たな価値を生みだす取り組みもできれば面白いと思います。

*マンチェスター・シティは動画やSNS発信の上手さから、Z世代やミレニアル世代への訴求も世界トップレベル。市場でも価値の高いイングランド代表グリーリッシュ選手のスタイリッシュな新加入動画は、あっという間に世界へ拡散された。

東京五輪が突きつけた、大きな課題

ー今回のパートナーシップ契約が日本のスポーツ界に与える影響は大きなものとなります。今後日本のスポーツビジネスへどういった貢献ができるとお考えでしょうか。

久保田 冒頭で申し上げたとおり、国内のスポーツビジネスのマーケットにはまだまだ成長の余地があると思っています。

 私自身は2013年から日本のスポーツビジネスに関わっていますが、7〜8年前から計画され「盛り上げていこう」と話していた東京オリンピックも難しい状況での開催となり、マーケットの拡大も進んでいないのが現実なのです。

 その状況を変えるためには、企業のスポンサーが増えなければどうしようもないと考えています。スポンサーを増やすためには、多くの企業にスポーツの価値を感じてもらわなければならないという課題感を強く感じています。その課題を解決するためにも、我々が自らマンチェスター・シティとパートナーシップを組むことで前例をつくっていきたいのです。

 我々がマンチェスター・シティさんと創出できる価値は、スポーツ界から他業界のビジネスにノウハウを展開していくこと、逆に他業界のビジネスからスポーツ界にノウハウを展開していくこと、この両方なのです。スポーツと他業界のビジネスはもっともっと繋がれる。そう伝えることが、我々がスポーツ界に対してできる最大の貢献だと考えます。

利重 東京五輪では、トム・ホーバスHCが女子バスケット大躍進の立役者として注目されましたよね。過去にもサッカー日本代表のオフト監督、オシム監督や、ラグビー代表のエディー・ジョーンズ監督などがもたらした日本での功績が示すように、世界のレベルや潮流を把握する外国人指導者が、自らが持つネットワークに基づく優れた情報収集力を駆使しながらベンチマーキングして、日本の立ち位置、強みや弱みを正確に把握し、明確な差別化戦略を立て、強い意志を貫いて遂行していくこと。これこそがグローバルチームスポーツにおける日本チームを成功に導く必勝パターンであることが改めて再認識された部分があるかと思います。

 アビームさんとマンチェスター・シティのパートナーシップに基づく取り組みは、このような競技面での成功モデルをスポーツビジネス、あるいはスポーツを発端に広範なビジネス領域に体系的に応用していく最適で最強な組み合わせになれると確信しています。

2020-21シーズンで英プレミアリーグ優勝を果たしたマンチェスター・シティ。率いるJ・グラウディオラ監督(中央)。世界最高の監督という評価が与えられている。欧州チャンピオンズリーグの初優勝を目指す。
2020-21シーズンで英プレミアリーグ優勝を果たしたマンチェスター・シティ。率いるJ・グラウディオラ監督(中央)。世界最高の監督という評価が与えられている。欧州チャンピオンズリーグの初優勝を目指す。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

スポーツの持つポジティブなパワーを、アジアや世界へ展開

ー最後に一言ずつ、ファンやサポーターに対してのメッセージ、今後のビジョンを教えて下さい。

久保田 スポーツには、その言葉自体にポジティブなパワーがあると思い今までスポーツ&エンターテイメントに取り組んできました。

 コロナ禍であっても、やはりスポーツやエンターテイメントが私たちの生活にとって不可欠なものだということを、皆さんが再認識されたと思います。希望、夢、憧れ、そういったスポーツが持つポジティブな力を、日本や世界の方々にもっと届けていくことが我々のミッションです。今回のパートナーシップが、そのミッションを実現するために必ず生きてくると信じています。

利重 久保田さんがお話になったとおり、スポーツとは本質的に素晴らしいものです。しかし、そのスポーツを今後も持続可能にするためには、仕組みが必要です。今回のパートナーシップが、その仕組みづくりが強化される一助となればと思います。

久保田 圭一

アビームコンサルティング株式会社 コンシューマービジネスユニット 執行役員プリンシパル

外資系コンサルファームを経て、アビームコンサルティングに入社。2013年よりスポーツ&エンターテインメントの領域におけるビジネス開拓に着手。

コンテンツホルダー、スポーツ行政、スタジアム・アリーナ、スポーツに関わるプロダクト・サービスを提供する企業をターゲットとして、スポーツ界の課題解決や新たな価値創出を推進。

FリーグCOO代行として、フットサルの価値向上にも取り組む。

利重 孝夫

シティ・フットボール・ジャパン株式会社 代表

読売サッカークラブユース出身。東京大学教養学部卒。日本興業銀行(現みずほファイナンシャルグループ)を経て、コロンビア経営大学院(MBA)修了。その後加わった楽天では東京ヴェルディへのスポンサード、FCバルセロナとの提携案件をリード。東京大学ア式蹴球部総監督。footballistaを発行するソル・メディア代表取締役も務める。

*写真提供はアビームコンサルティング株式会社。契約締結の発表会見から撮ったものである

(了)

AGI Creative Labo株式会社 CEO

兵庫県生まれ スポーツジャーナリスト/早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員/江戸川大学・追手門学院大学で非常勤講師/トヨタブロックチェーンラボ所属/ブロックチェーン企業ALiSアンバサダー,Gaudiyクリエイティブディレクター/NFTコンテンツ開発会社AGICL CEO/CBDC/漫画『アオアシ』取材・原案協力/『スポーツビジネスの未来 2021ー2030』(日経BP)など重版/ NewsPicksで「ビジネスはJリーグを救えるか?」連載/趣味はサッカー、ゴルフ、マラソン、トライアスロン / Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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