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京大卒の若手医師の筆が止まった「陰謀論」 話題の新書どう生まれた?

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
医者自身が書く健康本、最近よく書店で見かけます(写真:アフロ)

2019年11月に出版された「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎、山本健人・著)が新書ランキングで上位に入るなど話題になっている。なぜ現役医師が本を出すのか、その狙いとはなにか。

自身も現役医師をしながら著作を続ける中山祐次郎が、著者の山本健人医師と対談を行った。

中山:本日は11月に『医者が教える正しい病院のかかり方』を上梓されたばかりの消化器外科医、山本健人先生(京都大学医学研究科博士課程在学中)をお招きしました。山本先生は、SNSで5万人を超えるフォロワーに向けて積極的に医療情報発信をされたり、各地でボランティア講演を熱心に行ったりしています。最初に自己紹介をしていただけますでしょうか。

山本:2010年に京都大学を卒業し、複数の関連病院で勤務したのち、今は大学院に所属していて、医師10年目です。

山本健人氏(右)と中山祐次郎(画像はm3.com撮影、転載許可済み)
山本健人氏(右)と中山祐次郎(画像はm3.com撮影、転載許可済み)

Twitter経由の出会い

中山:当時は実名を出されていなかったですが、連絡をしたら「京都大学の山本です」と。ちょうど僕が京都大学の公衆衛生大学院に通うために京都に住んでいる時だったので、京都の真夏のもつ鍋屋が初対面でした。

山本:Twitterなどを使って、軽く連絡が取れるのは良い時代ですよね。

中山:SNSからリアルに会うという経験はほとんどなかったので、びびりながら行ったのですが、そこで山本先生の熱量に「なんだ、この人は」となって、それからの関係ですね。

山本:いろいろ話す中で、中山先生がぜひ本を書くべきだと言ってくれました。それから、一緒に企画書作りを手伝ってくれ、出版社や編集者さんも紹介してくれて、それが、今回出た『医者が教える 正しい病院のかかり方』(幻冬舎新書)になりました。

中山:正直、なぜ京大卒で医局にも入って着々と努力を重ねて、普通にやっていけば医者としてちゃんとやっていける人が、こんな修羅の道というか、発信をしようとするのか不思議には思いながらもつ鍋屋に行ったんです。そしたら、20代の頃から何十本と新聞に投書していたという話をされて、これはもう“いってしまっている”、と思って。

山本先生は、恐ろしく自分への客観視ができていて、自分に酔うことを許さないんですよ。だから、実用に思いっ切り振り切って物が書ける。そして書き方が非常にうまいので、きちんと伝わるに違いないと会った時に思いました。

不安でググる前にこの一冊!の帯

中山:それで、僕の担当もしてくれている幻冬舎の新書編集長を紹介しました。編集長はかなりの強敵で、今まで7~8人紹介して、ほぼ全員アウトを食らっていました。厳しいのは嫌と言うほど分かっていたので、2人でLINEをたくさんしてこれでもかとアイデアを出し、企画書を作りました。それを編集者さんに送ったら、「面白そうですね。帯が今、浮かびました」と言われたんです。一発でOKが出るとは思わなかったので、驚きました。その言葉は実際に出版された本の帯に書かれましたね、「不安でググる前にこの一冊!」として。

山本:8月にお会いして、企画書ができたのが11月ぐらいでしたね。12月にはOKがでました。

 中山先生が「とにかく完璧な企画書を作ろう」と言ってくれました。当時の自分はすごく甘くて、ベストセラーを出している中山先生の紹介だし、すぐに依頼が来て、企画書も出版社が作ってくれると思っていたのですが、中山先生とのやり取りで「これを自分でやるのか」「ここまでやらないと駄目なのか」と実感しました。

中山:でも、僕はこの企画のネタ出しはすごく楽しかったです。自分で書かないから、気楽に言える(笑)。『医者の本音』の成功体験もあり、その経験をさらに実用に振ればもっといけるだろうとは考えていました。加えて言うと、僕には絶対書けないタイプの本です。山本先生にしか書けない本になったと思います。

ブラジャーの話は後ろに回す

山本:ありがとうございます。全部で60の章立てで、受診時の注意点から、医師との上手な付き合い方、がん治療に関する情報、薬の飲み方・選び方、風邪の治し方など、誰しも必要な医療の知識を広く紹介しました。

中山:編集者さんからはどんな指摘がありましたか。

山本:硬い言葉が多いと。例えば、「必要性が明らかになる」は「必要になる」、「非常に」は「とても」に直した方がいい、とか。

 特に冒頭の第1章は表現が軟らかいほうがよいと言われました。確かに改めて読み直すと、すごく入りやすくなっていましたね。

中山:目次の並びも素晴らしいですよね。

山本:これも編集者さんとかなり悩みました。最初は受診時の服装の話からと考えていたのですが、ブラジャーの話が生々し過ぎるから後ろに回した方が良いと言われたんです(笑)。それでお薬手帳から始めました。

中山:読者を想定する上で、苦労はありましたか。

山本:僕の中で、想定している読者は自分の両親なんです。医者家系ではないので。

中山:なるほど、そうなんですね。

山本:特に父が本や雑誌を見て、医療に関する疑問を僕に聞いてくるので、それがネタになりますね。

書きにくかったのは陰謀論への反論

中山:一番、書きにくかったのはどこでしょうか。

山本:書くのに勇気が必要だったのは、生活習慣病ですね。雑誌などに「高血圧の薬は飲まなくても良い」「高血圧の基準が下がるのは製薬会社の陰謀だ」とかよく載っていますけど、それに反論してくれと言われました。新書の読者層としては、中高年層が想定されて、みんな生活習慣病について知りたいし、雑誌などで偏った知識を得ている人がすごく多いと。

 自分の専門からは外れますし、ちょっと避けたいなとも思いましたが、よく考えると、高血圧や脂質異常症などはどの科の医師もある程度のことは言えないといけないですよね。

中山:必要な事項だったと思いますね。山本先生たちが全国各地でやっている、「SNS医療のカタチ」についてもご説明いただけますでしょうか。

山本:これは、京都大学の大塚篤司先生という皮膚科医が提案した一般市民公開講座で、SNSで活動している医師たちの啓発活動です。SNSを通じた情報発信も大切ですが、オフラインも大切にした方がいいという思いでやっています。順番に各都市でやろうとしていて、これまでに大阪、東京、札幌、京都で開催し、その後また東京での開催を予定しています。

中山:ボランティアでやっているんですよね。

山本:全部メンバーの持ち出しです。交通費も会場費も自腹で割り勘でやっていました。でも、それだと継続性がないので、今はできるだけ自腹を切らないようにしようと動いています。

 新しいことを始めるときは、多少は無理しないといけないですよね。少しだけ無理して仕組みをつくって、軌道に乗ればちょっとずつ無理もしなくて済むようになります。

中山:すごい取り組みだなと思って見ていました。実際やってみてどんな感じですか。

山本:来てくれる人は医療にもともと興味がある人ばかりですけど、そういう人たちがハブになって情報を伝えてくれると思うので、目標は一応達成できるのかなと感じています。

 あと、医師がこういうことに熱心に取り組んでいるということを知ってもらうだけでも意味があるかなと思っています。医療不信に陥っている人も多いと思うので。

中山:すごい活動、熱意ですね。今後はどうされるのでしょうか。

山本:今は少し時間的に余裕があるから大丈夫ですが、大学院生活が終われば今のペースは無理でしょうね。今のうちに仕組み作りをしておいて、省エネで回転していけるようにと考えています。

 外科医としては、診療業務に引き続き全力で取り組みたいと考えています。論文や学会発表にも引き続き意欲的に取り組んでいきます。

中山:ちょっと意地悪なことを聞きますけど、今やっている発信と本業が時間的にバッティングしたらどうしますか。うまいこと、両方やれます?

山本:やっぱり本業優先だと思います。情報発信のペースが落ちたとしても、目の前の患者さんが第一です。

中山:いや、まさに。

山本:でもこういう発信の活動をしていたら、万が一、本業で気持ちが行き詰ったとしても「俺はこれも頑張った」と思いながら死ねるかなという思いもあります。ある意味でリスクヘッジでもあります。

中山:今日はお会いできてうれしかったです。これからも、ご活躍を応援させていただきたいと思います。ありがとうございました。

※本記事は、医療情報サイトm3.comに掲載されたこちらの記事より部分転載しています(医師、医療従事者の会員サイト)。記事内の写真はすべてm3.comの許可を得て転載しています。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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