月経のある女性の7割以上で症状があるPMS、診断も治療もあいまい

わけもないのに、イライラする。何をしていても眠くなる。そんな経験、ありませんか(写真:アフロ)

―わけもないのに、イライラする。何をしていても眠くなる―

皆さんは、PMS(ピーエムエス)を聞いたことがありますか。PMSとは、日本語では「月経前症候群」といい、女性の生理前に不機嫌やイライラなどの症状がでるものです。英語ではPremenstrual syndromeといい、頭文字を取ってPMSと呼ばれています。なんと女性の7割ほどがこのPMSであるという説もあります。

生理がある女性は、ご自身で「生理前に気持ちが落ち着かなくなる、イライラする」といった自覚がある人も多いかもしれません。男性にはあまり馴染みがないかもしれませんが、この記事でぜひ知って頂ければと思います。PMSを知ることは、夫婦間や職場の人間関係など、あらゆるコミュニケーションの助けになると筆者は考えています。

本記事の内容はこの通りです。

・PMSとは?

・月経ある女性の7割以上で症状がある

・原因は?

・PMSの診断は医者にも難しい

・PMSの治療は?

・PMSの体験談

そもそもPMSとは?

そもそもPMSとはどんなものでしょうか?

産婦人科の医師からなる学会のホームページによると、

「月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。」

とあります。つまり生理前に3~10日間続くもので、精神的なものと身体的なものがあるのです。

精神的なものには、「情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてのぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感」があります。

また、身体的なものには「腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張り」などがあるのです。

なるほど、毎月生理前に1週間イライラしたり眠かったり、むくんだりするのですね。程度は人によって様々でしょうが、大変です。

月経のある女性の7割以上で症状

では、PMSの人は多いのでしょうか。前出の学会のホームページでは

「日本では月経のある女性の約70~80%が月経前に何らかの症状」

「生活に困難を感じるほど強いPMSを示す女性の割合は5.4%程度」

とのこと。なんと、月経のある女性の7割以上で何らかの症状があるのですね。

そして、「思春期の女性ではPMSがより多い」との報告もあるそう。かなり多くの女性が月経前に不調で困っていると考えてよさそうです。

PMSの原因は?

これほど多いPMSですが、いったい原因は何なのでしょうか?

原因は、女性ホルモンにあります。月経のある女性では、2種類のホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)が上がる時期と下がる時期があります。

この上がり下がりがPMSに影響しているのではないかと言われています。しかし、実際のところはまだはっきりしていないそうです。

セルフチェックはできない?

では、PMSをセルフチェックすることはできないのでしょうか?お話を伺ったのは京都大学医学部附属病院の産婦人科の医師である、池田裕美枝医師です。

池田裕美枝医師(本人より許可を得て掲載)
池田裕美枝医師(本人より許可を得て掲載)

池田医師に聞いてみると、

「確かに『あなたは次のような症状が月経前に悪くなって月経開始後良くなるということがありますか?』という、記憶を尋ねる形のセルフチェックシートはいくつかあります。でも、本当はPMSなのにそんな風に自覚していない人も多いし、反対に『自分はPMSだ』と思っていても、実は月経後も良くなっていなくてPMSではなかった、という人も多いのです。日記やメモで、今日の気分を記録すれば、月経との関連を見てセルフチェックすることができます。」

という回答でした。

PMSの診断は医者にも難しい

では、お医者さんはどうやってPMSを診断しているのでしょうか。

前出の学会ページには

「症状が月経前に毎月現れ、月経開始後には和らぐことが特徴的」とありました。そこで実際に産婦人科のお医者さんはどうしているのか、池田医師に聞いて見ました。

「毎日の症状を記録してもらい、それを確認するのが良いのでしょう。しかし実際の診断は、患者さんが『私、PMSなんです』と言ったら、PMSと診断する医師が多いように思います」

それはずいぶんあいまいなように思いますが…なぜそうなるのでしょうか?「実は、PMSは診断のための症状記録の仕方や、記録シートの判断基準がはっきりと定まっていないこともあり、世界中の産婦人科医はバラバラに独自の診断をしているのです」(池田医師)とのこと。

普通、病気には「診断基準」というものがあり、これとこれを満たしたら初めてこの病気と診断します、というルールがあります。これがはっきりしていないと、医師もどう診断していいかわかりません。

そもそもPMSは治療が必要?

こういった状況のなかで、筆者は、「PMSは必ず治療しなければならないものなのか?」という疑問を持ちました。これも池田医師にぶつけてみますと、

「なんらかの症状をもっている人は月経を持つ女性の約8割ですが、この人達全員が治療を必要とするわけではありません。PMSが中等度以上で、日常生活に支障をきたす場合にはお薬での治療も提案しますが、軽症ならセルフケアで楽になる方も多いです」

とのお答えでした。症状がある人は全員治療が必要というわけではないのですね。

PMSの研究が進まない理由

そして困ったことには、このPMS、実は研究している人も少ないのだそうです。女性の7割以上が何らかの症状を持っているのに、です。これには筆者も衝撃でした。

その理由として、池田医師は「そもそもPMSは月経に関連していて、精神的な症状があるというもの。医師の専門でいえば、産婦人科医と精神科医のカバーする領域のちょうど間にあるため、どちらの科の医師からもメインテーマとして研究されにくいのではないか」と指摘します。

さらに、「産婦人科の短時間の外来では、ゆっくりとPMSの方の多彩な症状を伺うことが難しいという事情もあります」とも。そもそも診察時間は一人10分~15分くらいに設定されていることが多く、カルテを書く時間等も含めています。ですからお話を聞く時間は5分未満のことも。これではじっくりと症状を聞くことはできません。

PMSの治療法は?

診断がはっきりできない中で、治療法はどうなるのでしょうか。

「お薬での治療としては、ピル(経口避妊薬)、SSRIと呼ばれる抗うつ薬、漢方薬などが使われます。もちろん、これらのお薬も全員に効くわけではありません。PMSよりさらに激しい症状がある場合は月経前不快気分障害(PMDD)と呼ばれ、産婦人科ではなく精神科での治療になります。海外では新しいお薬の開発も少しずつ進んでいるようですが、ほかの婦人科の病気ほど、たくさんのお薬があるわけではありません。」(池田医師)

なるほど、まだ研究や治療開発も道半ばのようです。

PMSの体験談

それでも、日本でPMSについてのある研究が進んでいます。京都大学COI拠点(1)における京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学 江川美保 助教、万代昌紀 同教授らの研究グループと、コニカミノルタ株式会社の共同研究です。PMSを発見しやすくし、PMSの症状改善に向けたサポートを行うようなツールの開発です。

そこで、コニカミノルタ株式会社の方にインタビューを行いました。ご自身もPMSに悩まされましたが、長い間不調の原因がPMSであることに気が付かなかったのだそうです。コニカミノルタ社の江尻綾美さんです。

筆者「はじめはどんな状況だったのですか?」

江尻さん「頭がもやもやする感覚、眠気が強くて起きていられない、急に気分が落ちる、この世界にいらないんじゃないかと思うなどの波がありました。それで、気持ちを落ち着ける薬などを飲んでいました」

筆者「どんなきっかけでPMSに気づいたのですか?」

江尻さん「調子が悪く休職しがちだったため、会社の産業医と働き方の相談をしていました。ちょうどその頃、東日本大震災があったのです。実家の福島県いわき市も被害を受けたので、私は居ても立ってもいられず、レンタカーに物資を積んで現地へ赴きました。その時になり、いざとなれば動けることに気づきました。

そして、自分の状態をもっと知りたいと思い、excelで自分の体調や気分の記録を始めてみたのです。すると、調子の波には周期があり、しかも生理と関係があることがわかった。調べるとPMSかもしれない、と」

筆者「それで主治医に相談したのですか?」

江尻さん「はい。まず会社の産業医に尋ねると、精神科医へ相談せよと。精神科では産婦人科に行くように言われ、基礎体温をつけることになりました」

筆者「その後は楽になっていきましたか?」

江尻さん「そうですね、2年ほどかけてPMSは少しずつ良くなりました」

筆者「現在はいかがですか?」

江尻さん「今でも、まだ症状はあります。でも、『これはPMSである』と知ったことで、仕事を緩めるなど対処できるようになり、とても楽になりました」

なるほど、体調や気分の不調がPMSのせいであるとわかることで、対応することが可能になったのですね。全員がこうなるわけではありませんが、PMSというものの存在を知るだけでも、意味はありそうです。

企業×医師の開発、500万円集めたクラウドファンディング

そして、江尻さんはこの経験から、同じように困っている人たちをどうにかできないかと考えました。そして社内の新規事業開発として、PMSのサポートができるようなツールの制作を始め、さらに3年前から京都大学のPMSを研究している産婦人科医たちと一緒に開発研究をスタートしています。

そして開発費用を集めるために、クラウドファンディングを行い、すでに500万円という高額の目標額を遥かに超え、約600人の方に支援されています(現在は終了)。これだけの人数と額が集まるということは、かなりニーズがあるということでしょう。

研究の結果を待ちたいと思います。

最後に

PMSの現状として、

「PMSはとても困っている人が多そうだが、まだ良くわかっておらず、治療法もはっきりしていない」

ということが明らかになりました。

PMSの研究はまだこれから。今後に期待したいところですね。

(謝辞)

取材に応じて下さった京都大学医学部附属病院産婦人科の池田裕美枝医師、コニカミノルタ社の江尻綾美氏に感謝申し上げます。

(医療関係者・専門家の皆さんへ)

PMSの診断基準は、ICD-10には次のように掲載されています。

「・中等度の心理的症状

・ 腹部膨満,胸部圧痛,体重増加,腫脹,疼痛,集中困難, 睡眠障害,食欲の変化

・ この症状のうち 1 項目が黄体期に該当し,月経開始時に消失する」

(大坪 天平. 精神科からみたPMS/PMDの病態と治療 女性心身医学J Jp Soc Psychosom Obstet Gynecol Vol. 22, No. 3, pp. 258-265, 2018)

また、診断基準ではありませんが、日本産科婦人科学会用語解説集には

「月経前 3~10 日の間続く精神的あるいは身体的症状で,月経発来とともに減退ないし消失するもの」と掲載されています。

この他にもいくつかの定義はあるものの、専門家間でも、世界での標準的な診断基準は未だ定まっていません。そしてそもそもPMSの専門家自体が精神科医と産婦人科医の双方にまたがっており、意見の統一が難しいという問題があります。

(注釈)

(1) 京大COI拠点:文部科学省、科学技術振興機構がH25年度から行っている「革新的イノベーション創出プログラム(Center of Innovation Stream/COI)」の研究拠点の一つ(URLはこちら) 

(参考文献)

大坪天平. 精神科からみたPMS/PMDの病態と治療 女性心身医学J Jp Soc Psychosom Obstet Gynecol Vol. 22, No. 3, pp. 258-265, 2018

公益社団法人 日本産婦人科学会ホームページ

BMJ Best Practice Premenstrual syndrome and dysphoric disorder