なぜタダで働くのか?「無給医」たちの現実 ~医師の視点~

無給医ー給料をもらわずに医者の仕事をする人々ー(写真:アフロ)

 先日、NHKのニュースウォッチ9で「無給医」(むきゅうい)についての放送があり、話題になりました。本記事では、実際にいる無給医の実態と、その実状を医師の立場から解説します。なお、筆者は外科医師で、部分的に無給だった勤務経験があります。

なぜ無給なのか?

 まず、「無給医」とは、無給で働く医者のことです。無給といっても意味が通じないかもしれませんが、色々な理由で本当に給料をもらわずに労働している医師が存在するのです。ほとんどは医師になって3~12年目くらいの若手・中堅医師です。私の知人医師にも経験者は何人もいます。

 無給医は大きく3タイプに分かれ、それぞれによって無給である理由が微妙に異なります。

無給医には3タイプ

 ここで3タイプの無給医を紹介しましょう。順に説明します。

1. 「勉強したいから無給」医

2. 「大学院生で無給」医

3. 「医局の都合で無給」医

1. 「勉強したいから無給」医

 「勉強したいから無給」医は、言葉のとおり「この病院で働きつつ高度なスキルを勉強したいから、無給で働かせて下さい」というもの。実は私も若い頃、月15日の給料のみという契約でしたが勉強したかったので月22日勤務していたことがあります。事務方からは、「その7日は趣味で来ているということにして下さい」と言われていました。私の先輩医師には、完全フルタイムで働きつつ無給で勤務した医師も数人います。

 この「勉強したいから無給」というスタイルは、医師の世界ではそれほど特殊なことではありません。なぜなら後述するように、医師は超長時間労働さえ覚悟すればアルバイトで生計を立てられるからです。

2. 「大学院生で無給」医

 次に、大学院生で無給というスタイルがあります。医局に入局した医師の多くは、だいたい卒業まで最短で4年かかる大学院に入学します。そこで大学院生として講義に出たり研究をしたりしながら、その4年のうち1、2年は大学病院で給与は出ないまま医師の仕事をするパターンが非常に多いのです。

 調査したわけではありませんが、耳に入ってくる医師の大学院生は8割以上がこれに当たります。下手をすると、「人手が足りないから」という理由で大学院に進学したが研究をする時間を与えてもらえず、ずっとタダ働きをしていたなんてこともあるのです。その結果研究が進まず論文が完成しないため、大学院には行ったが卒業できなかった、又は博士号が取得できなかったというケースも存在します。

3. 「医局の都合で無給」医

 最後は医局の都合で無給医をやっている医師です。このタイプが人数としては一番多いかもしれません。こちらは、医局が「大学病院に有給職として雇えるのは○人」と決まっており、しかしそれでは人手が足りないため無給医として大学病院に勤務させるというもの。

 そんなひどい話があるのか、それなら医局を辞めればいいのでは、という声も聞こえてきそうです。が、やはりアルバイトで生計がある程度立ってしまうのと、医局をやめることは大学病院医師としてのキャリアを失うことになります。さらには医局の人間のつながりがあり、「人助け」が信条の医師はついその立場に甘んじてしまうこともあるでしょう。また、大学病院でしかできない病気の治療や高度な治療、そして稀な病気の治療や研究に携わりたい人もいます。

 また、女性医師は妊娠・出産・子育てに関連して有給→無給医と命じられることがあります。実際にそれを言われた女性医師がNHKのニュースウォッチ9(2018/10/26放送)で出演していました。さらにjoy.netというサイトでも無給医のリアルな声が多数寄せられています。

勤務証明がないので認可保育園に入れない

 無給医は、その勤務実態を証明する勤務証明がなく、従って社会保障がありません。また、認可保育園に入園することもできないのです。joy.netにはこのような声が寄せられています。

無給の場合は実際に働いていても勤務証明を出してもらえないので、認可保育園に入園することができない。

出典:joy.net

 若い医師がタダ働きをしたあげく、社会保障がなく、保育園でも苦戦する。これが今の大学病院の現状です。

なぜいま無給医が取り上げられるのか

 この無給医、なぜ今まで問題にならなかったのでしょうか。重要なポイントは2つあります。

 1点目は「医師はアルバイトで食っていける」という点です。医師には、アルバイトというシステムがあります。医師がするアルバイトは、普通のアルバイトと同じで時給か日給で一日~数日間など病院で働いてアルバイト代をもらうもの。中には金曜日の朝から日曜日の夜までぶっ通しで働くものがあり、割がいいのです。これだけ毎週やっていれば、年収は800万円を超えます。詳しくは日経ビジネスオンラインの記事にも書きましたが、アルバイトだけで生計が立つのです。ですから、本業(フルタイムの仕事)は無給でもやっていけるという事情があります。もちろん、労働時間は超長時間にはなりますが。

 もちろん、「食っていけるからフルタイムは無給でいいだろう」という論理は誤りですが、場合によっては無給医みずからがそう考えていることもあります。

 2点目として、私は労働体制に文句が言えない業界体質を指摘します。医師の大多数は大学医学部の医局という組織に所属し、基本的にその医局の人事で動いています。医局とは教授をトップとするピラミッド型の構造で、多くの場合給与や階級(職位)はおおむね年功序列です。

 私は大学病院と無縁に働いているためこういった発言ができますが、大学病院勤務、あるいは医局に所属する医師にはまず不可能でしょう。大学病院を辞めても他の病院で働けばいい、という話はありますが、大学病院は多くの都道府県では1つしかなく、県内じゅうの大きな病院は医局が強い影響力を持っています。医局との関係が悪くなれば、そのエリアでは働きづらいという状況に陥る可能性もあるのです。

解決策は?

 では、この問題の解決策はあるのでしょうか。残念ながら現段階では、厚生労働省などから強い力で無給医問題に取り組んでもらうことくらいしかないと考えます。問題の根本には、大学病院にはそもそも多くの医師を有給で雇う経済的余裕がない点があります。大学病院は好き好んで無給医のシステムを取っているわけではありません。これが解決しないうちは、無給医はいなくならないでしょう。現在厚生労働省は「医師の働き方改革」を進めていますが、その中身であるタスクシフティングなどがすぐに解決に繋がるとは考えづらい状況です。

最後に

 無給医を取り上げたNHKの番組では、大学病院を所管する文部科学省が「無給医は存在しない」とコメントしたと紹介しています。しかし全国には、無給で、あるいは過酷な待遇で働く医師が存在しています。本問題の闇は深く、光を当てることさえままなりません。

 しかし、無給という待遇は当然ではありません。この記事では問題提起のため、無給医を取り上げました。