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【インフル流行】鼻グリグリの検査、本当に必要? 医師の視点

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年もインフルエンザの流行の季節がやって来ました。今年は例年より少し流行が早いようです。

厚生労働省は1日、インフルエンザが全国的な流行期に入ったと発表した。(中略)例年よりもやや早めの流行期入りという。

出典:朝日新聞デジタル「インフルエンザ、全国的な流行期に 例年よりやや早め」福地慶太郎2017年12月1日

結構痛いインフルエンザの検査

熱が出てカラダがだるい、もしかしたらインフルエンザかもーーーそう思って病院を受診すると、多くの場合検査を受けることになります。

この検査は主に鼻の穴から細長い綿棒のようなものを入れ、鼻の奥でぐりぐりするもの。これは迅速(じんそく)検査と呼ばれるもので、私も何度か受けましたが、毎回ちょっと涙が出るくらい痛いんですよね。

でもこの検査、実はそこまで信頼できるものではない事実はあまり知られていません。

陰性と出てもインフルのことも

少し前の研究ですが、あの検査がどれくらいインフルエンザを当てるかという研究があります(1)。これによると、

「迅速検査の特異度は98.2%、感度は62.3%」

という結果でした。これを解説すると、

検査結果が陽性だった場合はほぼ間違いなくその患者さんはインフルエンザにかかっているが、検査結果が陰性だった人でもインフルエンザの可能性は結構ある

という意味になります。

ですので、検査をやって陰性でも、医者としては「陰性でした、よかったですねインフルエンザではありませんよ」と患者さんに言うのはちょっとためらわれるのです。

検査のタイミングでも検査結果は変わる

もう一つ、インフルエンザは検査するタイミングでも結果が変わることがあります。今お話ししている、鼻にグリグリするタイプの検査キットの場合、熱が出るなど症状がでてから12-24時間経たないと検査はアテにならないことがあるのです。

理由は、この検査はウイルスの数がある程度の数存在していないと検知できないため、体の中でインフルエンザウイルスが増えていないとたとえインフルエンザでも「陰性(=検査結果はインフルエンザではない)」と出てしまうのです。これは落とし穴です。

検査だけではない、症状などから判断

医師によっては、この迅速検査をやらずにインフルエンザと診断することがあります。

これは医師によって流儀が違うと思いますが、私は発熱や筋肉痛などの症状があり、その人の家族にインフルエンザにかかっている人がいるなど濃厚な接触がある場合、迅速検査はせずにインフルエンザと診断します。理由は、このような「かなりインフルエンザが疑わしい」人に検査をやり、例え検査結果が陰性でも「これは検査が間違っているな(偽陰性)」と考え、結局インフルエンザの診断をつけるからです。

実はインフルエンザの迅速検査をやらないとはっきり言っている病院もあるほどです。そしてこの迅速検査の説明文書(添付文書といいます)には必ずこう書かれています。

インフルエンザウイルスキット イムノエースFlu 添付文書より引用
インフルエンザウイルスキット イムノエースFlu 添付文書より引用

まとめると、インフルエンザを診断するとき、迅速検査はそこまでアテにはならないため、症状などから総合的に診断するとなります。ですから、例え「インフルエンザかも?」と思って病院を受診し、もしあの鼻グリグリの検査をされなくても、医師はこのように考えているのです。

(1)Accuracy of Rapid Influenza Diagnostic Tests: A Meta-analysis

(追記 2017/12/28)

ご指摘をいただいたので追記します。

本文中の「迅速検査の特異度は98.2%、感度は62.3%」の解釈として私が書いた「検査結果が陽性だった場合はほぼ間違いなくその患者さんはインフルエンザにかかっているが、検査結果が陰性だった人でもインフルエンザの可能性は結構ある」について。

本来、検査の感度・特異度の厳密な解釈をすれば、「特異度が高い」ことは、「インフルエンザにかかっていない人に検査をしたとき、検査が陰性である確率が高い」となります。そこからもう一歩発展させると、「特異度が高いこの検査で陽性が出た場合、インフルエンザにかかっている可能性が高い」と考えることができます。この検査のように特異度が高い検査は、「検査結果が陽性であった場合、その病気だと診断する」(rule in)ことができます。これを毎回考えるのは大変なので、SpPin(スピン)と暗記します。Sp(=specificity, 特異度の高い検査で)P(=positive, 陽性だった場合)in(=rule in, その疾患だと診断する)という意味です。

一方、この検査は「感度が低い」検査です。これはつまり、検査結果が陽性になったときにその人がインフルエンザである確率が低いということになり, 言い換えれば陰性のときでもインフルエンザでない確率が高くないということになります。つまり、この検査が陰性と出ても、その人はインフルエンザではないと判断できない、つまりインフルエンザの可能性は残るということになります。

こちらの覚え方はSnNout(スナウト)です。

Sn(=sensitivity, 感度が高い検査でN(=negative, 陰性だった場合)out(=rule out, その疾患を除外する=その疾患ではないと判断する)です。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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