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アイタタタ・・・そんな時、救急車を呼ぶ? 医師の視点

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
救急車を呼ぶべきかどうかって、わかりませんよね(写真:アフロ)

 この記事の結論です。

 救急車を呼ぶか迷った時は、

1、 電話で「#7119」にかける(一部地域のみ)

2、 アプリ「Q助」を使う

です。

「本当に痛くなった時は、迷わず救急車を呼んで下さい」

 時々、救急外来でこんなことを患者さんに言う。そして言いながら、自らにツッコむ。「本当に痛くなった時」って、どんな時だよ・・・と。

 筆者は地方都市の病院で働く外科医だ。外科医はお腹や怪我が専門だから、お腹が痛くなった患者さんが救急外来に来た時に診察する。専門にしてはいるが、お腹が痛い患者さんの治療は、実はとても難しい。

 その理由は二つある。

 まず、お腹が痛くなる人はとても多い。多いどころか、「これまで一度もお腹が痛くなったことがない人」なんてこの世に存在しないだろう。お腹が痛いといって病院に来る人は、老若男女実に様々。たとえば2歳でまだあまり喋れないのに連れて来たお母さんが「お腹を痛がっています」なんてことや、100歳を超えて認知症でやはりほとんどコミュニケーションがとれないのにお腹だけを痛がるケースもある。そうでなくても、ティーンエイジャーの女の子と50歳の男性の腹痛は全く別の戦略で考えなければならない。患者さんのバックグラウンドの多様性は、腹痛の患者さんの診断を難しくさせている。しかし原因のほとんどは便秘や食あたりだから、そういう人を全て精密検査するのはナンセンスだ。

 

 もう一つの理由は、腹痛の原因は時に命に関わる病気のことがあるという点だ。これを見過ごしてしまうと患者さんは死んでしまう、そういう病気がいくつかある。たとえば若い女性の子宮外(しきゅうがい)妊娠。これは、もし破裂すると大出血して致命的になる。例えば高齢の男性患者さんの大動脈解離(だいどうみゃくかいり)という、大動脈が裂けてしまう病気。これも診断が遅れると(そしてしばしば遅れなくても)致命的だ。ほかにも腸がねじれて腐る、胃潰瘍に穴があいて起こる腹膜炎など、危険な病気は挙げるときりがない。

 おまけに、お腹の中には実に多くの内臓がある。ちょっと挙げると、胃や小腸、大腸。そして肝臓とか膵臓、胆のう。おしっこに関係する腎臓や膀胱(ぼうこう)。マイナーなところでいうと副腎(ふくじん)や脾臓(ひぞう)なんてものもある。そして女性なら赤ちゃんを育てる子宮とか卵巣がある。たくさんの内臓があるということは、それだけたくさんの痛みの原因があるということに他ならない。

 だから、お腹が痛い患者さんの治療はとても難しい。初めて会った患者さんのこの腹痛が、命に関わるものなのか、ただの食べ過ぎとか下痢で心配いらないのかの判断が難しいのだ。

 そこで、私は腹痛の患者さんを診察したら言うのだ。「本当に痛くなった時は、迷わず救急車を呼んで下さい」と。そしてこう続ける。「この意味は、いま私が診察しているのは致命的な病気のごく初期をみているだけなのかもしれません、だから痛くなって来たら危険な病気の可能性があるので、その時はまた来て下さい」と。

 医者でありお腹の専門家でさえ、こんな調子だ。だから、「こういう時は受診をしなくて大丈夫、こういう時は受診をして下さい」というアドバイスをすることは本来とても難しい。

 最近、「コンビニ受診」とか「過剰受診」という言葉を新聞やニュースでよく目にする。これは、病院にかかる必要がないくらい軽い症状なのに簡単に受診するせいで、病院が混み合ったり国全体では医療費が高くなったりして問題だという言葉だ。

 しかし、どれくらいが「軽い」症状で、どれくらいからが「重い」のか、医療知識に詳しくない一般の人に判断はつかないだろう。そこで紹介したいものが、2つある。

1、 「#7119」に電話をかけると相談できる

2、 アプリ「Q助」を使う

だ。これらを使うことで、病院に行くべきかどうかの判断がある程度できる。もちろんこれらは万能ではないが、かなりの助けになるだろう。これはおすすめしたい。

1、 「#7119」に電話をかけると相談できる

救急車を呼ぼうかどうしようかな、と迷ったとき「#7119」に電話をすると救急安心センターというところにつながり、医師や看護師、救急隊経験者などが相談に乗ってくれる。

平成29年4月1日現在、東京都、奈良県、大阪府、福岡県、札幌市とその周辺、横浜市、和歌山県田辺市とその周辺で現在使え、人口の27.3%をカバーしている(※1)。これからどんどん全国で使えるようにしていく予定だ。

2、 アプリ「Q助」

アプリ「Q助」は、質問に答えていくと救急車をすぐ呼ぶべきかどうかがわかるアプリだ。今年5月にリリースしたこのアプリは消防庁が作ったもので、安心して使うことができる。これはスマホ用アプリでもweb版でも使用できる。一応ダウンロードしておいて、自分や家族、友人などがいきなりピンチになった時に使えるようにしておくといいだろう。パソコンなどから見る方は、web版で。アプリはiPhoneの方はこちら、Androidの方はこちら

※1 救急安心センター事業(#7119)の全国展開

http://www.fdma.go.jp/ugoki/h2904/2904_20.pdf

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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