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医師が一番少ない県、埼玉から「患者たらい回し」問題の原因を話そう

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
(写真:アフロ)

厚生労働省は12月17日、「平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」を発表した。

その結果、都道府県別の医師の人数を調べると埼玉県は医師数152.8人(人口10万人対)と全国最少。対する京都府は307.9人(同じ)とおよそ倍の結果であることがわかった。

以前より埼玉県の医師不足は問題視されており、2年前の同様の調査結果でも今回と同様に京都府(296.7人)が最も多く埼玉県(148.2人)が最も少ない結果であった。

平成26年度 都道府県別の医師数
平成26年度 都道府県別の医師数

医師である筆者は埼玉県の病院でしばしば診療を行っているが、夜間の救急外来などはかなり混み合う。そして専門施設が少ないため、どうしても専門外の疾患まで診療を行わざるを得ない状況にある。埼玉県の病院群はそれぞれ連携し「救急患者を断らない」方針などを打ち出してたらい回しを防いでいるが、時に東京都内への転送を依頼しなければならない場合もある。現場としてもかなり厳しい状況が続いている。

救急患者のたらい回し問題は、医師が救急搬送の受け入れを断ることがその根本にあるとする議論を散見するが、それは真実ではない。

当直中の医師の専門外の患者を、「断らない方針」といって無理やり受け入れたところで、重大な見逃しや過誤が起きる。臨床研修制度のトレーニングのみでその能力が全医師に備わっていると考えるのは無理がある。

筆者自身で考えても、専門は消化器外科であり心臓や脳は専門外だ。症状のない心筋梗塞や、微小な脳出血などは手に負えないだろう。同様に脳外科医や皮膚科医に腹痛の適切な診断は難しいのである。

ここでよくある反論として、「救急の現場では『専門家に転送するか否か』の判断ができれば十分だ、だから誰でもできる」というものがあるが、埼玉では送るべき専門家もかなり少なく、重症患者を目の前に転送先探しの電話をかけ続けることもあるのだ。

また、前日の朝から日中に勤務をし、そのまま夜間も朝まで救急外来で当直をし、翌朝もそのまま働き続けるという「36時間連続労働」が常態化している事実も医師が夜間に積極的に重症患者を受け入れたがらない遠因である。

翌日に6時間の大手術がある時、その前夜くらいはしっかり睡眠をとってコンディションを整えたいというのは医師の傲慢だろうか。

解決策は、まず少ないエリアの医師を増やすこと。医師不足問題は、医師総数が不足しているのではなく医師偏在が問題なのだ。そう思っていて新しい医学部は埼玉県だろうな、と思っていたら国家戦略特別区域という理由で千葉県であった(国際医療福祉大学、成田市で医学部新設が認可)。

次に、医師の労働条件をもっとマシなものにすること。月の超過勤務時間がせめて監督省庁である厚生労働省の過労死基準の倍を超えないようにすること。

などである。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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