Yahoo!ニュース

森保ジャパンは10月の難敵2連戦で現在残されたままの課題を解決することができるのか?【中国戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

日本は2戦を終えてグループ4位

 0-1で敗れたホームでのオマーン戦から中4日。森保ジャパンがカタールのドーハで中国とのアジア最終予選第2戦に臨み、1-0で勝利を収めた。同じグループBでは、オーストラリアとサウジアラビアが連勝スタート。1勝1敗の日本は、勝ち点と得失点差で並ぶオマーンとの直接対決で敗れているため、2節を終えた段階の順位は4位となった。

 W杯予選は、何よりも結果が大事だ。その観点からみれば、スコアに物足りなさを感じるものの、この試合で勝ち点3を獲得したのは重要な成果であり、最低限のミッションは遂行できたと言える。

 その一方で、今後の森保ジャパンの行方を占う意味では、試合内容についても掘り下げる必要がある。果たして、攻守にわたって多くの問題点が露呈したオマーン戦から、日本の戦い方に変化は見られたのか。

 改めて、中国戦を振り返ってみる。

 まず、中国の厳格な感染予防政策により、本来ホームで日本を迎え撃つはずだった中国は、試合会場をカタールのドーハに変更。W杯最終予選のために国内リーグ戦を中断し、ドーハで事前ミニ合宿を行うなどして入念な準備を整えていた。

 さらに、オーストラリアも同じ事情でホームゲームの開催が不可能だったため、お互いが対戦した第1節はドーハで開催され、ホーム扱いのオーストラリアが3-0で勝利。総力を挙げて本大会出場を目指す中国は出鼻をくじかれた格好となり、捲土重来を期して日本に挑んだ。

 対する日本は、オマーン戦後の深夜にチャーター機でドーハ入り。到着日はPCR検査など入国に多くの時間を要したため、予定していた練習はできなかったが、試合までの3日間で最終調整を行い、勝利がノルマとなる中国戦を迎えた。

 そんな中で迎えたこの試合、森保監督が選んだスタメン11人は次の通り。

 GK権田修一、右SBは離脱した酒井宏樹に代わって室屋成、CBは吉田麻也と、移籍手続きのためにカタールで合流した冨安健洋がコンビを組み、左SBに2戦連続で長友佑都。ダブルボランチはオマーン戦と同じ柴崎岳と遠藤航のセット。2列目は右に伊東純也、左は原口元気に代わって古橋亨梧、トップ下には鎌田大地に代わって久保建英が配置され、1トップは引き続き大迫勇也。

 布陣は、いつもの4-2-3-1。ちなみに、オマーン戦でベンチ登録されていた負傷中の南野拓実は、この試合を前にチームから離脱している。

前半は中国の古典的守備に救われた

 この試合で最大のポイントとなったのは、中国のリー・ティエ監督が準備した布陣を含めたゲームプランだった。

 通常は4バックを基本とする中国がこの試合で採用したのは、前線に帰化選手のエウケソン(9番)とエスパニョールに所属するウー・レイ(7番)を2トップに配置した5-3-2。

 しかも、最終ラインの5人が立ち位置を均等にしてピッチの横幅全域をカバーするのではなく、あくまでも4バック時と同じ横幅をキープしながらラインを形成する、中央密集型の特殊な陣形で日本の攻撃に対抗した。

 その狙いが見え始めたのは、お互いの探り合いを終えた前半10分以降。日本が中国陣内で一方的にボールをにぎり始めると、中国は最終ライン5人、中盤3人、前線2人の3列がコンパクトさを保ちながら、自陣深い位置でブロックを作った。

 その際、最終ライン5人は、ちょうどペナルティーエリアに収まるような横幅を維持。つまり、10人全員を中央に密集させた状態をスタートポジションにして、どんなに押し込まれてもゴールだけは割らせないという、かなり割り切った守備方法をとった。

 しかも、両サイドバック(ウイングバック)が中央に絞るうえ、2トップも自陣深いエリアで守備ブロックに参加しているため、中国のカウンター攻撃のチャンスは皆無。ただひたすら、ゴール前もしくは自陣ペナルティーエリア付近で、日本のクロスやシュートをブロックしてはクリアで逃げる、ある種の古典的守備を続けた。

 日本にとっては、アジア2次予選のような試合の状況だ。しかも、両サイドの大外レーンにはぽっかりとスペースが空いているため、日本の両サイドバックの室屋と長友が高い位置をキープしながら、一方的に押し込むことができた。

 その結果、日本は前半だけで16本ものクロスボールをゴール前に供給。日本がサイドで起点を作った時に相手の守備対応が遅れ気味だった右サイド(中国の左サイド)からは、それぞれ3本を供給した伊東と室屋を中心に計10本を記録した。

 ただし、ゴール前には中国の選手が密集しているため、その多くが跳ね返されている。日本がクロスからヘディングシュートに持ち込めたのは、1本のみ。前半19分に、吉田のフィードを相手ペナルティーエリア内で受けた伊東が、直接ボレー気味に折り返したクロスを、古橋がヘッドで合わせたシーンだけだった(シュートは浮いてしまい、ゴールの上に外れた)。

 日本にとっての救いは、先制ゴールを奪えたことだった(前半40分に伊東が右サイドをスピードで突破し、中国の最終ラインが背走する状態で速いクロスを供給。それを大迫が合わせた)。ちなみに、中国のDF陣が前向きで構える前に供給したクロスは、これが前半唯一のものだった。

 また、日本が前半で記録した敵陣でのくさびの縦パスは11本。5本だったオマーン戦の前半よりも、倍以上の数字を記録した。これは、中国がボールを奪うよりも、シュートを自由に打たせないことを重視した守備をしていた点にも関係する。実際、相手が中央に密集するなかでも、日本はその縦パス11本のうち8本を成功させた。

 なぜリー・ティエ監督がここまで日本を恐れたのかは理解に苦しむが、少なくとも日本にとっては、相手の圧力を感じることなく、攻撃に集中しやすい環境が整っていたのは間違いなかった。

 シュート数は日本の16本(枠内2本)に対して、中国は1本(枠内なし)。ボール支配率も、77%対23%で日本が圧倒。願ってもないような、理想的な前半だったと言えるだろう。

後半に垣間見られた守備面の変化

 後半に入ると、さすがに中国も自陣に引きこもるようなことはせず、反撃の構えを見せ始めた。54分には、コーナーキックの流れから、2番のクロスをファーで15番がヘディングシュートを狙うなど、試合は前半とは異なるリズムに変化した。

 そして、リー・ティエ監督のプランが明確に示されたのが、後半62分。アロイージオ(21番)とアラン(11番)という2人の帰化選手を含めた3人を、一気にピッチに送り出した選手交代策だ。布陣も、特殊な5-3-2から、ノーマルな4-4-2に変化した。

「(中国は)もっとスタートからアグレッシブに戦ってくると思いましたが、中国のゲームプランはできるだけ長い時間を0-0で進めて、後半に勝負に出ることでした。(後半の)選手交代を見た時に改めて感じました」とは、試合後の森保一監督の見解だ。実際、前半の特殊な守り方と、後半途中の3人交代および布陣変更からは、そのコメントどおりの狙いが見て取れた。

 結果的に、中国はその後も決定機を作れずに終わったが、面を食らった日本が、それ以降にリズムを失ったのは確かだった。

 すると、中国が日本陣内でプレーする時間が増えたために日本のボール支配率が低下し、攻撃は一気にトーンダウン。唯一のチャンスは74分。久保が伊東とのコンビネーションから相手ペナルティーエリア内に進入し、落としたボールをフリーの遠藤が直接狙ったシーンのみ。

 それも含めて、後半のシュート数はわずか3本に終わっている(72分の大迫のヘディングシュートと87分の柴崎のミドルシュート)。

 そんな中、オマーン戦からの守備面の修正も、わずかに見て取れた。その鍵を握っていたのが、ボランチの柴崎だ。

 相手が3人同時交代を断行した直後、柴崎は吉田と冨安の間に落ちて、3バックを形成しながら相手の陣形を確認。そのうえで、追加点を狙うために室屋と長友が高い位置をとった際は、オマーン戦のように自ら前線に顔を出して攻撃に参加することはせず、吉田の右側に空いたスペースを埋めるポジションをとって、相手の逆襲を警戒。

 仮に相手のカウンターを受けても、最終ラインを3枚にした状態で食い止められるような工夫が見られた。

 とはいえ、実際に中国がカウンター攻撃を発動したシーンはなかったため、それが効果を示すまでには至らなかったのも事実。そういう意味でも、今回の中国戦は、相手のゲームプランがあまりにも特殊だったため、オマーン戦で露呈した攻守の問題点の改善を、確認するための参考にはならなかった。

 仮に、0-0の状態で中国の戦術変更が行なわれた時、果たして日本は安定した守備を保ちながら攻撃を活性化させ、ゴールを奪うことができたのか。

 まだ残されたままとなっているそれらの課題は、10月に予定されているアウェーでのサウジアラビア戦と、ホームでのオーストラリア戦で、改めてチェックする必要がある。

(集英社 Web Sportiva 9月10日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事