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交代カードを使い切れないことの弊害とは? 中国戦における森保采配の問題【中国戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
写真提供;日本サッカー協会(Photo; JFA)

後味の悪い勝利になった原因

 初戦のオマーン戦を落としたことで、後がない状況で臨むことになった2戦目の中国戦。森保ジャパンは、前半40分に大迫が決めたゴールが決勝点となり、1-0で勝利を収めることに成功した。

 ただし、勝つには勝ったが、胸を張って勝ったとは言えない内容だったことも確かだった。勝因の多くは、日本側ではなく、前半に消極的な戦い方をした中国の方にあったと見るのが妥当だろう。

 最終ラインに5人をフラットに並べた中国の5-3-2は、アジア2次予選で対戦した相手を想起させるほど、超守備的だった。しかも、オマーンのようにカウンターを仕掛けるための準備もなく、ただゴール前を固めるのみ。その結果、確かに日本は一方的に敵陣内で攻撃を仕掛け続けることができた。

 しかしながら、中国のリー・ティエ監督の采配からは、明確なプランも見て取れた。前半は、とにかくゴール前を固めてゴールだけは割らせないような守備方法で、できれば0-0でしのぐ。そして、後半にタイミングを見計らって交代カードを切り、4-4-2に布陣を変更して攻撃に出る。

 恥も外聞もない古典的作戦と言えばそれまでだが、少なくとも、前半に1失点を喫した以外は、リー・ティエ監督のプラン通りに展開した部分もあった。実際、後半62分の3人同時交代とシステム変更によって、日本の攻撃はトーンダウン。その後はシュートを2本しか放てなかった。

 もちろん、日本が中国に決定機を与えることはなかったので、危なげない試合運びではあったが、日本が悪いリズムのまま試合を終えた印象は否めず、オマーン戦の悪い流れを断ち切ったとは言い切れない内容。後味の悪い勝利になったと言える。

 とりわけ、後半に相手が布陣を変更して流れを変えた後でも、日本ベンチにリズムを取り戻すための策が見られなかったことは、これまでと同じ展開。中国のような明確なゲームプランも見て取れず、またしても森保監督の課題が露呈した格好だ。

 この試合で森保監督が切ったカードは、5枚のうち3枚。負傷した古橋に代えて原口を起用。イエローカードをもらって次戦に出場停止になった伊東に代え、鎌田をトップ下に入れ、トップ下の久保が右ウイングに移動。オマーン戦のスタメンに回帰するような交代策だった。

 そして3枚目のカードは、試合終了間際の88分。負傷した長友に代えて佐々木を投入。長友に負傷がなければ、3枚の交代カードを残したまま試合を終える可能性さえあった。これでは、試合の流れは変えることはできない。

 しかも、親善試合が1試合もない今回の予選スケジュールを考えれば、10試合の中で、できるだけ多くの選手を起用しておかなければ、いざという時に起用しにくい状況に陥るのは必至だ。選手交代をフル活用することは、試合の流れを変えるのみならず、予選突破を見据えた中長期的プランのベースにもなるはず。

 いずれにしても、今回の中国戦は、勝利したことだけが収穫だった。残念ながら、これまで露呈した問題の改善確認という点では、参考外の試合になった。

 W杯ベスト8を目標とする森保ジャパンに、アジア最終予選を勝ち抜くだけの好材料が揃ったとは、まだ言えない状況に変わりはない。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一=6.0点

オマーン戦に続いてスタメン出場。相手のシュートが3本で、枠内シュートが1本もなく、見せ場は少なかった。後半に1度危ないシーンもあったが、その他は終始無難にプレー。

【右SB】室屋成=5.5点

前半は大外から攻撃に参加する場面が多く、3本のクロスを供給。後半は内側の高い位置をとる場面が増えたが、クロスはゼロ。守備でピンチを招くこともなく、及第点のプレー。

【右CB】吉田麻也=6.0点

押し込んでいる時間帯では、くさびの縦パスとDFの背後を突くフィードを織り交ぜて攻撃面で貢献。守備では、エウケソンとの競り合いも含めて終始安定した対処を見せていた。

【左CB】冨安健洋=6.0点

吉田とのコンビネーションも含めて、守備面ではほぼパーフェクト。ウー・レイとのスピード対決も制した。攻撃では持ち上がるシーンは少なかったが、効果的にパスを供給した。

【左SB】長友佑都(88分途中交代)=5.0点

前半に6本、後半に1本のクロスを供給したが、正確性を欠いた。内側にポジションをとるなど工夫も見られたが、古橋との連係もスムースさを欠き、効果的なプレーはなかった。

【右ボランチ】遠藤航=6.0点

前半は縦パスの供給以外にも、リンクマン的な役割もこなして多くの攻撃に絡んだが、後半はややトーンダウンした印象。74分の決定機でのシュートは最低でも枠に飛ばしたい。

【左ボランチ】柴崎岳=5.5点

オマーン戦に続くスタメン出場。後半に中国が布陣変更をした際は、最終ラインに落ちて冷静に対応。守備バランスを整えたが、ミドルシュート以外に攻撃面で見せ場がなかった。

【右ウイング】伊東純也(76分途中交代)=6.0点

決勝点となった大迫のゴールを見事な高速クロスでアシスト。ただ、クロスは前半3本のみで、いつもよりは少なかった。57分にイエローカードをもらい、次は出場停止となった。

【左ウイング】古橋亨梧(50分途中交代)=5.5点

試合序盤から自らシュートを狙うなど積極性を見せた。中央寄りでプレーすることが多かったこともあり、長友とのコンビで左サイドを攻略するシーンはほとんど見られなかった。

【トップ下】久保建英=6.0点

代表初得点はまたしてもお預けとなったが、これまでの代表戦では最も良いパフォーマンスで好調ぶりをアピール。23分には周囲と連携してシュートを狙ったが、ポストを直撃。

【CF】大迫勇也=6.0点

40分に伊東のクロスを難しい体勢で合わせて決勝ゴールをマーク。ただ、オフサイドになった38分のシュートミスを含め、全体的に決定的なプレーは少なめ。最後は足が止まった。

【MF】原口元気(50分途中出場)=5.0点

負傷した古橋に代わって後半途中から左ウイングでプレー。相変わらずハードワークを見せたが、攻撃のアクセントにはなれなかった。適正ポジションについても再考すべきか。

【MF】鎌田大地(76分途中出場)=5.5点

伊東に代わって後半途中からトップ下でプレー、久保が右ウイングへ。オマーン戦に続いてパフォーマンスが悪く、決定的な仕事はできなかった。次はコンディションを上げたい。

【DF】佐々木翔(88分途中出場)=採点なし

負傷した長友に代わって後半途中から左SBでプレー。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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