ユーロでは3バックシステムが大流行

 代表チームが採用する布陣(システム)は、その時代の戦術的流行を示す指標のひとつとされる。特にユーロは、サッカーの最先端を行くヨーロッパのクラブシーンで活躍する選手たちで編成される代表チーム同士の戦いだけに、その傾向は一層強くなる。

 その視点に立って見ると、今回のユーロ2020にもひとつのトレンドがはっきりと見て取れる。それは、3バック(5バック)のチームが急増している点だ。

 出場24チームのなかで、3バックをメインとして戦ったのは計12チーム。さらにラウンド16では、左サイドバック(SB)2人が負傷欠場したフランスのほか、イングランド、ウクライナが、それぞれ3バックを採用した(フランスは前半のみ)。

 それらを含めると、3バックを使ったチームは24チーム中15チームにもおよぶ。その割合は、実に6割を超える。

 ちなみに、2016年にフランスで開催された前回大会で3バックを基本としたチームは、イタリアとウェールズのみ。この5年間で、いかに3バックシステムがヨーロッパで流行しているかがわかる。

 とはいえ、同じ3バックでも、それぞれのチームによってその目的や運用方法は異なっている。そういう意味では、単純に3バックを採用するチームが増えたというよりも、3バックのバリエーションが豊富になったと言ったほうがいいのかもしれない。

5バック前提の堅守速攻型スタイル

 今大会で見られた3バックを大きく分けると、守備重視型の5バック的3バック、選手のクオリティを大前提とした強豪国型の3バック、そして状況によって柔軟に変化する応用型の3バックと、おおよそ3つに分類できる。

 まず、守備重視型の3バックは、各グループのポット3~4のチームがメインで採用するケースが多かった。フィンランド、スコットランド、ハンガリー、ポーランド、北マケドニア(オランダ戦では4バック)、ロシアが、それにあてはまる。

 最大の特徴は、自陣深い位置でしっかり守り、ボールを奪ったら縦に速いカウンターで勝負をかける堅守速攻スタイル。当然、相手に押し込まれることを前提としているので、5バックで守る時間は長くなる。3バックシステムのデメリットの部分を受け入れたうえで、かなり割り切った戦い方に勝機を見出すのが目的だ。

 結局、これら6チームはいずれもグループステージで敗退したが、それでも、“死のグループF”でポルトガル、フランス、ドイツといった強豪と対戦したハンガリーは、このスタイルで勝ち点2を獲得するなど、一定の成果を収めたと言っていいだろう。

両WBのタレント性ありきの強豪型

 これに対し、ドイツ、ベルギー、オランダといった強豪チームが採用した3バックは、両ウイングバック(WB)のタレント性を前提とした攻撃型の布陣だ。

 そのなかでも、右WBにヨシュア・キミッヒ、左にロビン・ゴセンスを配置したドイツの場合は、3-4-2-1の立ち位置によってつくられるパスコースを有効に使いながらボール保持することを強く意識しており、両WBが敵陣高い位置でサイドアタッカー的な役割もこなした。その時の陣形は、3-2-5。かなり攻撃的だ。

 その運用方法が顕著に示されたのが、グループステージ第2節のポルトガル戦だった。この試合でドイツが記録した4ゴールは、いずれも相手ボックス内におけるキミッヒもしくはゴセンスのプレーによって生み出されている。

 ただし、この試合のポルトガルの先制点のように、両WBが高い位置をとる時は、カウンターからピンチを招きやすい傾向は否めない。確かに他チームの3バックに比べて5バックになる時間は短いが、ゴセンスとキミッヒのポジショニングによって試合の趨勢が大きく左右されるのが、良い意味でも悪い意味でも特徴になっていた。

 ベルギーとオランダも、WBを務める選手の攻撃的特性によって成立している攻撃型3バックだが、自陣で守る時には躊躇なく5バックを形成するのが特徴だ。どちらもグループステージでは対戦相手との力関係もあり、3バックを攻撃的に機能させることができていたが、両WBが高い位置をとろうとするドイツほど攻撃的とは言えない。

 オランダで言えば、右WBのデンゼル・ドゥムフリース、ベルギーでは左のトルガン・アザールがより攻撃的な役割をこなし、逆サイドのパトリック・ファン・アーンホルト(オランダ)、トマ・ムニエやティモティ・カスターニュ(ベルギー)は、4バック時にSBでプレーできる選手ゆえ、守備的な仕事が占める割合が多いからだ。

 とくに、もともと4バックを基本布陣としていたオランダは、フィルジル・ファン・ダイクの不在によって、守備重視のオプション戦術だった3-4-1-2を今大会の基本布陣とした経緯がある。その点で、3バックの完成度はそれほど高くなかった。

中堅3ヵ国が披露したそれぞれの応用型

 一方、興味深い例が、柔軟性を兼ね備えた応用型3バックに分類されるオーストリア、スイス、デンマークの3チームだ。

 北マケドニア戦とオランダ戦で3バックを採用したオーストリアは、来季からレアル・マドリードでプレーするダビド・アラバを3バックの中央に配置。通常はアラバを左SBか左MFに配置した4-4-2を採用するが、フランコ・フォーダ監督は、3バックの相手に対しては3バックで対抗する戦術を用いた。

 逆に、相手が4バックのグループ最終戦のウクライナ戦と、ラウンド16のイタリア戦では、4バックを採用している。要するに、相手の布陣によって自らの布陣を柔軟に変化させるのが、今大会のオーストリアだった。

 準々決勝で敗退したスイスでは、リカルド・ロドリゲスがキーマンだった。

 グループ初戦のウェールズ戦、2戦目のイタリア戦では、リカルド・ロドリゲスが3-4-1-2の左WBでプレー。ところが、3戦目のトルコ戦とラウンド16のフランス戦では3バックの左にリカルド・ロドリゲスを配置したことにより、守備的な3バックから攻撃的な3バックへと変貌を遂げている(準々決勝のスペイン戦では4バックを採用)。

 特徴は、マイボール時にリカルド・ロドリゲスが左サイドの高いポジションをとり、左WBのスティーブン・ツバーと絡みながら攻撃を仕掛ける点にある。その際、最終ラインは残り2人のDFがスライドするか、もしくはMFのグラニト・ジャカが、ロドリゲスが空けたスペースをカバー。3バックの一角が前に出てくるので、相手にとってはやっかいだ。

 準決勝で敗退したデンマークは、もっとも応用力が高かった。

 クリスティアン・エリクセンにトラブルが発生した初戦のフィンランド戦では通常の4バックだったが、2戦目のベルギー戦以降は3-4-2-1にシフトチェンジ。右WBのイェンス・ストリガー・ラーセン(またはダニエル・ヴァス)と左WBのヨアキム・メーレのどちらかが高い位置をとった際、逆サイドのWBが下がって"つるべ式"の4バックに可変させ、5バックになりにくい3バックを形成。攻撃性を保つことに成功した。

 もっとも、相手が優勝候補のイングランドとなった準決勝では、相手に中盤の数的優位を許して5バックで守る時間が長くなったが、それもある意味では応用力と見ることもできる。おそらく、キャスパー・ヒュルマン監督が断行した後半67分の3枚代えと3-5-2への布陣修正は、その問題を解消するための策だと思われる。

 実際、ラウンド16のウェールズ戦では、4-1-4-1の相手に対して中盤で数的不利に陥ったと見るや、すかさずヒュルマン監督は開始12分にシステム変更。3バックの右を務めたアンドレアス・クリステンセンをアンカーに配置した4-3-3に変化させると、これが試合の流れを大きく変えるきっかけとなった例もある。

4バックのチームに求められること

 このように、同じ3バックでもチームによって運用方法と使用目的が異なっているのが、今大会の3バックのトレンドと言える。「5レーン理論」が一般化したヨーロッパでは、非日常の活動である代表チームの戦術にも、3バックの多様性という現象が確実に生まれ始めている。

 かつて3バックが流行した90年代前半は、90年W杯で優勝したドイツのように、リベロを3バック中央に配置する3-5-2(5-3-2)が主流だった。しかし「3バック(5バック)は守備的」という固定観念が広がるなど、今でもサッカーが面白くなかった時代と揶揄される。

 しかし、現在トレンド化している3バックは、守備的とは言えないスタイルが増えているのが最大の特徴だ。明らかに「3バック(5バック)は守備的」という単純な構図ではなくなった。その目的と運用方法を含め、バリエーションも豊富だ。

 逆に、4バックを基本とするチームにも応用力が求められる時代になった。たとえば、ラウンド16で3-4-2-1のドイツと対戦したイングランドは、基本布陣の4バックから3バックに変更して勝利を収めている。

 ギャレス・サウスゲイト監督率いるイングランドはもともと3バックを多用してきた経緯が奏功したわけだが、ウクライナのように、短期間で3バック(5バック)を機能させる柔軟性を兼ね備えておくことは、短期決戦を勝ち上がるうえでは極めて重要なポイントになっている。

 W杯を含めた代表チームのコンペティションは、そういう時代に突入したと見ていいだろう。

(集英社 Web Sportiva 7月3日掲載・加筆訂正)