完璧な成績を収めたW杯アジア2次予選

 5月28日にスタートした約3週間におよぶ合宿と、その間に行われる5連戦のラストを飾ったキルギスとのW杯アジア2次予選最終節。森保ジャパンは、オナイウ阿道のハットトリックを含む5ゴールをマークし、5-1で有終の美を飾った。

 試合後、森保一監督はW杯アジア最終予選に向けて、「2次予選とは別次元の厳しい戦いになることを覚悟して臨まなければならない」と気を引き締めながらも、今年の7試合で「より強い日本代表になった」とコメント。ここまでのチームづくりに自信と手応えを感じている様子だった。

 確かに、今年3月の2試合と今回のシリーズ5連戦における森保ジャパンのパフォーマンスを見ると、7戦全勝で計40得点を叩き出し、相手に許したゴールはわずか2点と、申し分のないものだった。おそらく日本代表史を振り返っても、ここまで華々しい勝ち方を続けた時期はなかったと記憶する。

 しかし勝負ごとは、得てしてそこに落とし穴が潜んでいるケースが多い。だからこそ、指揮官は“勝って兜の緒を締める”発言をしたのだろう。

 そこで今回のキルギス戦は、2つのポイントに絞りながら、あえて厳しい視点で振り返る。ひとつは、前半に日本が決めた3ゴールに至るまでのプロセス。そしてもうひとつは、後半途中で見せた森保監督の采配である。

キルギスは前回同様5-4-1

 この試合の日本のスタメンは、森保監督が前日に予告した通り、約1週間前に行われたタジキスタン戦のメンバーを中心に編成された。

 GKに川島永嗣、DFは山根視来、中谷進之介、昌子源、小川諒也。川辺駿と守田英正が初めてスタメンとしてボランチコンビを形成し、2列目は右から坂元達裕、原口元気、浅野拓磨。そして1トップには、初スタメンのオナイウを抜てき。

 布陣はいつもの4-2-3-1で、タジキスタン戦のスタメンから4枚を変更した格好だ。

 対するキルギスは、未消化の2次予選を戦うために6月3日に来日するも、初日の検査で1人から陽性反応が確認され、GKの3人を含む選手5人とスタッフ14人が濃厚接触者と判断されて隔離措置。7日のモンゴル戦と11日のミャンマー戦では、フィールドプレーヤーがGKを務めるというハプニングも起こった。

 結局、日本戦までには本職GKを追加招集できたものの、とても万全の準備を整えていたとは言えない状況で、試合を迎えることとなった。

 そんなキルギスがこの試合で採用した布陣は、前回対戦時(2019年11月14日)と同じ5バック(3バック)だった。

 日本のアウェー戦となったその試合では、1トップの後方に1人を配置した5-3-1-1を基本としていたが、今回はほぼ自陣で守ったこともあり、本来1トップ下の7番が2列目に加わった5-4-1の布陣で、日本の攻撃を封じようとした。

PKにつながった場面は紙一重だった

 果たして、試合が始まると、日本が前半開始から積極的に攻撃を仕掛けた。とりわけ目立っていたのがサイドからのクロスボールで、前半だけで22本を記録。その内訳を見ると、左サイドからが12本、右サイドからが10本と、左右のバランスも悪くなかった。個人別では、小川が最多の8本を記録し、次に多かったのは6本の坂元だった。

 実際、日本が前半で決めた3ゴールすべてが、サイドからのクロスによるものだった。

 相手のハンドボールを誘ったPK判定のシーンを演出したのは、山根が右サイドから入れたクロス。2点目は、右サイドを突破した川辺のクロスから生まれた。さらに、オナイウのハットトリックが達成された3ゴール目のアシストも、左サイドからクロスを供給した小川だった。

 5バックの相手に対して、絵に描いたようなサイド攻撃でゴールを重ねた日本だったが、しかしその一方で、それぞれのゴールシーンをよく見てみると、その主な原因が相手にあったと見ることができる。

 たとえば、PK判定につながった26分のシーンでは、日本がボールを保持する中、敵陣で川辺が浅野に供給したパスが合わず、相手(右WBの18番)がボールを奪ったところで、攻守の切り替え。すると、18番は中央の7番にパスし、受けた7番は中盤に空いたスペースをドリブルで前進。

 その瞬間、川辺が素早くアプローチして一か八かのタックルをしかけたことが奏功し、ルーズボールを守田が回収すると、そこから4本のパスをつないで山根がオナイウ阿道にクロスを供給している。

 しかしそのシーンで、仮に川辺のタックルがかわされていた場合、7番を含めたキルギスの5人に対し、4人での守備対応を迫られ、ピンチを招いた可能性は高かった。つまり、日本がトランジションで相手を上回ったとも言えるが、相手の個人能力の低さに救われたとも言える、紙一重のシーンだったのだ。

 おそらく、最終予選で対戦するレバノン、ベトナム、オマーン、中国あたりであれば、同じような対応でもピンチを回避できるかもしれないが、イラン、韓国、オーストラリア、サウジアラビア、イラク、UAE、シリアなどであれば、失点を覚悟する必要があるだろう。

最終予選でギャップを埋められるか

 また、31分の2点目のシーンは、右サイドで3人に囲まれながら、川辺が強引に突破を図り、その後方の1人も含めて計4人をひとりで剥がしたことがゴールを生んだ最大の要因だった。

 しかし、このようなケースが発生することは稀と考えるのが妥当。互角以上の相手であれば、このゴールが生まれていなかった確率は高い。

 それは、3点目のシーンにも言える。小川のクロスに対し、かぶってしまったキルギスの20番、あるいはオナイウ阿道を視界に入れながら離れてしまった6番の対応を見るにつけ、最終予選レベルの試合で同じようなゴールが生まれるかは疑問が残る。

 もちろん、これら3ゴールはキルギスを相手に控えメンバー中心の日本が決めた正真正銘のゴールゆえ、それ自体は称賛に値する。

 ただ、厳しく見た場合、この試合で見せたパフォーマンスがそのまま最終予選で期待できるかと言えば、そうとは言えないことも頭に入れておく必要はあるだろう。

 とくに今年に入ってから代表でプレーするようになった選手にとっては、入門編の試合を終えただけで、対戦相手のレベルが高くなる上級編の舞台にはまだ立った経験がない、という点を忘れてはいけない。

 今後は、各選手がそのギャップをどれだけ埋められるかが問われることになる。

 一方、後半の日本は、コーナーキックから佐々木が、カウンターから浅野がそれぞれゴールを決めて2点を加えたものの、立ち上がりの15分は1本もシュートを打てず、すっかり攻撃が停滞した。

 その間にクロス6本を記録したが、前半と比べるとペースダウンは否めず、敵陣での縦パス供給も4本のみ。最終的に後半は8本の縦パスを記録したが、前半の12本からは減少し、クロスに至っては12本に激減している。

不発に終わった後半のシステム変更

 そんななかで見逃せなかったのが、68分に見せた森保監督の采配だった。

 1トップのオナイウを下げて佐々木を投入し、プランBの「3-4-2-1」へシステム変更したその策は、日本の攻撃にキルギスが順応できるようになっていた時間帯だけに、試合の流れを変えられるかどうかが注目された。

 しかしながら、その後にピッチで起こっていた現象を見ると、その采配は失敗に終わったと言わざるを得ない。

 5-4-1で構える相手に対し、同じように両ウイングバックを配置するシステムを当てたことにより、小川、山根、その後に右ウイングバックで起用された室屋成が前進しにくい状況が生まれた。

 そのため、後半の日本のボール支配率は、15分ごとに72.9%(46~60分)→70.1%(60~75分)→59.6%(75~試合終了)と、システム変更後に数字が低下。それは、クロスの本数にも如実に表われ、システム変更前の8本が、変更後には4本に減少した。

 ただ、この采配は攻撃の活性化ではなく、あくまでも選手の疲労を考えてのローテーションだった可能性はある。

 この試合で出場することがなかった攻撃の駒は、鎌田大地と伊東純也の2人。長いシーズンを終えた欧州組を休ませたかったと考えると、今回のシリーズで出場時間が少ない佐々木を起用することに主眼を置いたシステム変更だったと見ることもできる。

 いずれにしても、日本の攻撃の勢いを失わせた采配になってしまったことに違いはなく、そういう意味では、システムを変えずに小川と佐々木を交代させた方が、試合の流れを悪化させることはなかったと思われる。

 こうして、アジア最終予選前の5連戦を終えた森保ジャパンは、9月から予定されるアジア最終予選に挑む。昨年の欧州遠征4試合から一転、今年に入ってからの国内7試合を大勝したことによって、日本代表はすっかりポジティブな空気に包まれている。

 果たして、その雰囲気をそのまま継続できるのか。いよいよ、森保ジャパンの真価が問われる時がやってくる。

(集英社 Web Sportiva 6月18日掲載・加筆訂正)