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森保ジャパンが加えた新戦術オプション「プランC」とは? 日本の攻撃に見られる変化【ミャンマー戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:松尾/アフロスポーツ)

特殊な背景で行われたミャンマー戦

 森保ジャパンにとって、2022年カタールW杯アジア2次予選の6試合目となったフクダ電子アリーナでのミャンマー戦は、大方の予想どおり、一方的な展開で日本が10-0で大勝。2試合を残して日本のグループF首位通過が確定した。

 もっとも、コロナ禍によって延期されていたグループFの未消化試合がすべて日本で集中開催されることになった影響は、明らかに日本に有利に働き、相手チームには精神的にも環境的にも、大きなハンデとなっていることは間違いない。

 しかも、今回対戦したミャンマーの国内情勢とコロナ感染状況を考えれば、この内容と結果は予測できたこと。そういう意味では、この試合を通常の試合と同じ基準で評価することは難しく、特殊なケースと位置づけるべきだろう。

 そこで今回のミャンマー戦は、同じような特殊なシチュエーションで行われた、3月のモンゴル戦と比較しながら掘り下げてみる。

 その試合も、モンゴル国内のコロナ感染拡大が影響し、モンゴル側からホーム戦の開催地変更の申し出を受け、同じスタジアムで行われている。加えて、相手のコンディション、日本と相手チームの実力差、そしてどちらも二桁得点で圧勝した点などが、共通しているからだ。

怪我の冨安に代わって板倉が先発

 この試合が行われた5月28日は、インターナショナルマッチデイにあたらないため、リーグ戦の日程が重なったJリーグでプレーする国内組が招集外。すでにシーズンを終えたヨーロッパ組のみで、チームを編成した。

 また、このミャンマー戦を終えると東京五輪代表候補に選出されている24歳以下の選手と、OA枠に選ばれた吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航の3人は、五輪代表の活動のためにチームを離脱。代わりに、週末のリーグ戦を終えた国内組を加えたチームで、6月の予選2試合と親善試合2試合を戦うことになる。

 そんな条件下で行われたこの試合で、森保監督が選んだスタメンは、冨安健洋の負傷欠場により、モンゴル戦からDFライン4人のうち吉田以外の3人を変更。予選では常にベストメンバーを編成する従来のスタンスに従い、GKに川島永嗣、DFは酒井、板倉滉、吉田、長友佑都。ボランチは遠藤、守田英正の2人で、2列目が伊東純也、鎌田大地、南野拓実、そして1トップには大迫勇也が配置された。布陣はいつもの4-2-3-1だ。

 対するミャンマーは、前回対戦時(2019年9月10日)にチームを率いていたミオドラグ・ラドゥロビッチ監督が、2次予選3連敗後に解任され、2018年に指揮を執ったドイツ人アントワーヌ・ジョン・パウル・ヘイ監督が復帰。国内情勢を鑑みて招集を拒否した選手が出たため、ヤンゴンでの日本戦からGKを含む9人を変更し、スタメンを編成した。

相手チームが考えていた日本対策

 まず、3月のモンゴル戦との比較で確認しておくべきは、相手の守備方法だ。

 モンゴルの布陣は4-1-4-1で、日本の両SBのオーバーラップに対しては2列目両ワイドMFがついて行くことにより、日本のサイド攻撃を封じようとした。時折6バックに見えたのは、そのためだ。また、日本のビルドアップを封じる策はとらずに自陣での守備を受け入れ、特に深いゾーンでは人を意識した守備(マンマーク)が目立っていた。

 一方、ミャンマーは、モンゴルと同じ4-1-4-1の布陣だったが、守備方法は少し異なっていた。共通点は、日本のビルドアップ時にプレスをかけず、自陣で網を張って待ち構えたこと。ただし、人を意識したモンゴルと違い、ミャンマーはスペースを意識したゾーンディフェンスを基本とした。

 たとえば、長友のオーバーラップに対しては、右ワイドMFの23番と右SBの4番がお互いに声を掛け合い、その都度、マークの受け渡しを行う。ただ、その運用が曖昧だったため、早い時間帯で綻びを見せた。逆に言えば、日本のスピーディかつ多彩な攻撃が、ミャンマーの守備プランを崩壊させた、ということになる。

日本のサイド攻撃に見られた変化

 では、日本の攻撃に変化は見られたのか? モンゴル戦との違いを挙げるとすれば、右サイドからの攻撃だ。

 モンゴル戦では、右SBの松原健が積極的に攻撃参加し、右ウイングの伊東とともに多数のクロスを供給。松原は前半と後半でそれぞれ5本、伊東は前半に7本、後半には13本のクロスを記録した。

 しかしこの試合では、右SB酒井が攻撃参加を自重し、クロスを1本も供給せずに前半で退いている。唯一の攻撃参加は、前半30分に相手ボックス内でファールをもらってPKを獲得したシーン。攻撃参加は酒井の得意分野ゆえ、過去にこのような例は見られなかったが、おそらく左サイドの長友が高い位置をとることが多かったため、全体のバランスを見て判断したのだろう。

 後半から出場した右SB室屋成が4本のクロスを供給し、そのうち2本をゴールにつなげていることを考えても、特にチームとして右SBの攻撃参加を控えさせた、とは考えにくい。

 もうひとつ、右ウイングの伊東が前半の立ち上がりから相手の左CBの背後を狙うべく、斜めに走ってボールをもらうシーンが目立っていた。ゴールには結びつかなかったものの、11分、14分、20分、22分、34分(オフサイド)と、前半だけで5回も試みている。これはモンゴル戦を含め、これまでにあまり見られなかったパターンだ。

 ただし、この攻撃パターンが相手に読まれるようになった後は、いつものように右サイドからクロスを供給するプレーに切り替え、30分以降に4本を記録。それ以前の2本も含め、前半は6本のクロスを供給している(後半は2本)。

 逆に、左サイドは左ウイングの南野が内側にポジションをとり、大外から左SBの長友が攻撃参加するパターンが目立った。とはいえ、長友が前半に記録したクロスは意外と少なく、2点目のアシストになった22分のクロスと、27分の計2本のみ。後半もクロス3本に終わっている。

 ちなみに、これをモンゴル戦の左SB小川諒也と比較してみると、小川はその試合の前半で7本、後半に2本の計9本を供給。数字は上回っているが、アシストを含めて試合に与えた影響という点では、まだ長友には及んでいないとするのが妥当な評価だろう。

 結局、この試合で日本が記録したクロスは、前半13本、後半16本の計29本。モンゴル戦が計58本だっただけに、物足りなく感じるかもしれない。しかしこの数字は、アウェーでミャンマーと対戦した試合の30本とほぼ同数。通常は10~15本の試合が多いので、クロス30本は一方的な試合の中身を証明する数字とも言える。

相手の守備方法に応じた日本の攻撃

 一方、クロス本数とは対照的に、敵陣での縦パスは増加し、モンゴル戦では計41本を記録したが、今回の試合では前半23本、後半26本の計49本。その主な要因として考えられるのは、ゾーンディフェンスの相手に対し、ワンボランチ(7番)の両脇に空いたスペースで、南野、鎌田、大迫が入れ替わりでポジションをとり、味方からの縦パスを受けたことにある。

 実際、この3人が縦パスを受けた回数は、失敗に終わったケースも含めると、南野が14回(前半4回、後半10回)、鎌田が12回(前半6回、後半6回)、大迫が13回(前半7回、後半6回)と、49本中39回。全体の約8割を占めた。

 これらのデータから見えてくるのは、日本が相手の守備方法に応じて、サイド攻撃と中央攻撃をうまく使い分けていることだ。

 相手が人についてくるモンゴル戦では、中央のスペースが見つけにくいため、サイド攻撃の回数を増やす。逆に、相手がゾーンを守るミャンマー戦では、サイドのスペースを埋められているため、相手と相手の間に空いたスペースを使って縦パスを打ち込み、クロスよりも中央攻撃の回数を増やす。伊東が前半に見せた斜めのランニングも、その一環だったと見ていいだろう。

 それこそが、この2試合で日本が二桁ゴールを記録できた最大のポイントになる。

 とはいえ、これがアジア最終予選に向けた蓄積になるかと言えば、残念ながらそうとは言えない。とりわけ今回対戦したミャンマー戦は、コロナ禍と国内情勢により、ミャンマー国民の生活が脅かされる中で、いわば強行開催された試合だ。招集メンバー、試合に向けた準備、精神的ストレスなど、様々な点において異例中の異例だったため、森保ジャパンを評価するうえでは対象外とするのが妥当だろう。

森保ジャパンのプランC

 最後に、この試合ではもうひとつ抑えておきたいポイントがあった。それは、後半の62分に守田に代えて原口元気を起用し、4―2-3-1から4-3-3(4-1-4-1)にシステム変更した森保監督の采配である。4-3-3は、モンゴル戦の後半に森保ジャパンになって初めて試したシステムであり、これで2試合連続のテストとなった。

 ただし、前回は後半途中に再び4-2-3-1に戻し、新システムの採用はわずか19分で終了。単に新しい選手をテストするためのシステム変更と解釈することもできた。しかし今回の使い方を見ると、今後も4-3-3を使う可能性は高まったと見ていい。

 この選手交代の2分前、ミャンマーは右ワイドMFの23番を下げて5番を投入し、システムを5-4-1に修正していた。当初は橋本拳人が交代の準備をしていたが、相手のシステム変更を確認した森保監督は急きょ原口の投入を決め、システムを変更。5バック(3バック)の相手に対し、ボランチ1枚を削って南野と鎌田をインサイドハーフに配置する攻撃的布陣で対応した。

「大迫の1トップに、2人のシャドー(鎌田と南野)が入るかたちを試せて、新たなオプションができた。今後の引き出しにしたい」とは、前回のモンゴル戦後の森保監督のコメントだ。

 そしてこの試合後にも、森保監督は「今日は途中から4-1-4-1(4-3-3)にした。少し相手の守備が突破できなくなった時間帯はあったが、常にゴールに向かう姿勢は見せてくれたと思う」と発言している。

 現在、森保ジャパンの基本システムとなっている「4-2-3-1(守備時は4-4-2)」をプランAとすれば、プランBは、過去にオプションとして何度か試してきた「3-4-2-1(3-4-3)」。そしてここにきて、森保監督は新たに「4-3-3(4-1-4-1)」というプランCをオプションに加えようとしている。

 果たして、森保ジャパンにとって3つ目のオプションとなりそうなプランCは、鎌田と南野のシャドー起用が条件なのか。それとも、他の選手がプレーする場合でも、相手が3バック(5バック)の時に使おうと考えているのか。

 アジア最終予選に向け、今後はそこも注目ポイントになりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 5月31日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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